第73話 事実誤認と脅迫

「いや、だからそもそも犯人かわからない段階で、それはおかしいって言っているんですよ」


「ふむ、あなた……何か勘違いしていませんか? わたくしが確認できなくて残念だと言ったのは、あなたが虚偽の情報を我々に伝えているかもしれないという事を確認できないと言ったのですよ」



 そう言いながら、フッと鼻で笑うエロハゲメガネ。


 まさかあれだけで、ここまで疑われるとは想像できなかった。


 ましてやこいつはダークエルフではなく、同じ人族。


 思わぬ反撃に俺は焦り始めて墓穴を掘ってしまう。



「そ、それはどういうことですか? 何が言いたいんですか?」



 そう口にしてから、直ぐに自分でも気づいてしまった。


 このままあいまいにしておけばいいものを、自らハッキリさせようとする行為は正に愚行と言わざるを得ない。



 そして当然エロハゲメガネは……



「ふむ、ちゃんと口にしないとわからないようですなぁ。さっきからあなたの態度や言動から疑わしいと思っていたのですよ。それはつまり、あなた本人が犯人の内通者、又は共犯者ではないか……ということです。そう考えれば、これだけ早く攫われた子供達を見つけ出せたことにも辻褄(つじつま)が合うというものですなぁ」


「なっ! ふっざけんなよ、このハ……」


(押さえろサクセス!!)



 このハゲェェェと叫びそうになった瞬間、それ以上に馬鹿でかい声が響き渡り、俺の言葉が中断される。



「なんだよ、トンズラ!!」



 そして熱くなって冷静を失った俺は、勢い余ってその声の主に怒りの矛先を向けて叫んでしまった。


 当然ここには俺とエロハゲメガネしかいない訳で、トンズラの声が聞こえないこいつには俺が何を言っているか理解できない。



「とんずら?? 突然何を……それより今何か私に言おうとしていませんでした?」



 あからさまに不機嫌な様子を見せるハゲメガネ。


 どうやらハゲを気にし過ぎて敏感なようだ。


 だがそれよりも……



(サクセス、落ち着け! さっき話し合ったっぺよ! とりあえずこれ以上はまずい。このままだと本当に犯人の仲間に仕立て上げられるかもしれねぇっぺ。そうなれば大変なことになるっちゃ!!)



 確かにトンズラの言う通りだ。


 今ここでこいつに何を言ったところで意味もなければ、むしろ悪くなる未来しかない。


 こういう時こそ冷静になり、落ち着かなきゃ。


 サンキュ、トンズラ。


 お蔭で大分落ち着いてきたぜ。



「失礼しました。今のは俺の発作のようなものです。とりあえず私はそのエルフが犯人かどうかわかりませんが、その者は初めて見る人ですし、全く関係はありません」


「ふ~む、その言葉だけで信じることは難しいですが、同じ人族のよしみとして信じてあげましょう。これ以上の面倒ごとはわたくしとしても本意ではありませんからなぁ。では町長からご苦労であったというねぎらいの言葉とこの報酬を渡すからとっとと帰りたまえ」



 とてもねぎらうような口ぶりではないが、そう言って小さな箱を渡してくる。


 完全に俺を疑っている感じからか、その渡し方さえもまるで物乞いに物を渡すような不躾な感じだった。



 まじうぜぇ、こいつ。


 名前覚えたからな、ブン・シュンだっけ?


 いや、シュン・ブンか。


 どっちでもいいか、こんな奴はハゲエロメガネで充分だ。


「ありがとうございます。では失礼します」



 俺は箱を受け取るや、直ぐに踵(きびす)を返して外に出ようとするも……その際後ろから



「旅の方。くれぐれも余計な事に首を突っ込まない事を助言しますぞ。このダークエルフの町に今後も入りたいならね。クックック……」



 気持ち悪い笑い方と共に、その脅しともとれる発言。


 やはりトンズラが言うように、あのままだったらかなりまずかったかもしれない。


 最悪はダークエルフから狙われて逃げる日々、良くても今後二度とダークエルフの町には入れなくなっていただろう。


 故に俺は聞こえなかった風にして、その言葉に振り向くことをせずにそのまま部屋を出た。


 本心ではその捨て台詞に何か一言言い返したい気持ちもあったが、今はまずい。


 しかしこれでハッキリしたな。


 今回の俺の報告は、絶対にダークエルフの町長には伝わらないということが。


 むしろ曲解された報告がされそうで怖い。


 そんな訳ですごいモヤモヤするが、とりあえず俺がやるべきことは……



(サクセス、首都っつうとあそこだな)



 町長の館を出たところで、トンズラが口にする。


 そしてそれが何を伝えようとしているかもわかっている。


 どうやらトンズラも俺と同じ気持ちのようだ。



「あぁ、ここに来る前に入ったフーラーズって町だ。急いで向かおう。もう選択は出てるんだろ?」

 

(あぁ、出てるっぺよ。これで完全にクリアってことだっぺな。んだば、ポチっと押して外のマスに戻るべさ)



 そして俺は報酬受領ボタンを押す事で、この町を出た。


 今回は非常に胸糞悪くモヤモヤする結果だったが、一応無事にクエストは完了。


 そして報酬受領ボタンを押して、町の外に出ることでこの貰った箱を開けることができる。


 ではでは、ステボのアイテム欄に何が入ったか確認するかな。


 若干の期待を胸に俺は、ステボの履歴を見てみると……



 【30万パサロを手に入れました】



「え? 金だけ?」



 なんと今回の報酬は珍しくパサロだけという残念な結果に。


 大体どのクエストも必ずアイテムか装備等が手に入って、その副賞的な感じでパサロかロザーナが貰えるんだけど……



(まぁでも、今までのクエスト報酬に比べれば10倍以上だっぺな)


「うーん、まぁそうなんだけどさ。パサロが多い分、物は無しってか? 俺としてはアイテムの方がワクワクするんだけどなぁ」



 クエストの醍醐味は金じゃないんだよねぇ。


 まぁ外の世界で使える通貨だからありがたいっちゃありがたいけど……


 んーーー、なんかほんとにモヤモヤする!!



 とそこで、俺はある事に気付く。



「あれ? つか、これって探してたメインクエストっぽくない?」



 そう、今回は内容の深さといい、クエストが継続している可能性といい、今までのお使いクエストとは全く異なる。


 それにもしもこれが継続クエストであるならば、今回の報酬がパサロだけだというのも納得できる。


 完全にクリアして、初めて本当の報酬としてのアイテムが貰えるとか。


 だけど、何か引っかかるんだよな……


 まだ何かが足りない。


 これでは間違いなくこれがメインクエストと断定できないというか……



 (んだべなぁ。でも、空の掲示板にも俺っちにも何も表示が出てこないっぺさ)



 それだ!!


 仲間達との会議で、メインクエストを誰かが進行した際は、全員に何らかの形で伝えられるだろうという話だった。


 実際そうなるかどうかはわからないけど、このゲームの仕様上、もしもそれがステージクリアに繋がるものであればそうなる可能性が高い。


 他のステージで言うならば、誰かが先にゴールマスに到着した時なんかがそうだ。


 空に浮かぶ掲示板にも、後何ターンで到着しなさいとか表示される。


 つうことは、やはり今回のはただのクソクエストだったのか? 


 ……いやまだわからないな。


 何と言っても、この第三ステージは特別仕様。


 故に、やはりメインクエストの可能性を考慮しながらマスを進めていく必要がある。


 まぁどっちにしろ、長老会が行われている町には行く予定だけどな。


 こんな結果で納得できるはずがない。


 この、俺自身が!!

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