第72話 ハゲエロメガネ
町長の館に訪れた俺は、門番に中へと通してもらうと来賓室に案内される。
しかし来賓室に来てみたもののダークエルフの町長はおらず、代わりにいたのはなぜか人族の男だった。
「これはこれは、旅の方。話は聞いておりますぞ、この度はダークエルフの子を見つけて頂き感謝しております。更にはその犯人まで捕まえて下さったとは……言葉もございません」
この男は俺が来賓室に入るなり、礼を述べながら頭を下げる。
確かにクエストにあった通り行方不明になった者達を見つけることはできたけど……誰一人助けることができなった。
とはいえ、どうする事もできなかったのも、亡くなっていたとはいえ見つけたのも事実……だからだろうか、なんだかお礼を言われても素直に喜ぶことができない。
もしかしたら素直に喜べないのは、なぜもっと早く助けることができなかったのかと叱責されるのも若干覚悟していたせいかもしれないな。
等とシリアスに俺が考えているのに……
こいつときたら……
(ぎゃはは! 見ろサクセス! ハゲだ、ハゲがいるっぺ! 頭頂部が眩しすぎるぅぅぅ!!)
はぁ……こいつは気楽でいいわな。
つか、まじでこいつの声聞こえてないだろうな?
普通に聞かれてたら処刑もんだぞ。
確かにつるつるの頭頂部を向けられているけどさ……
と若干焦りつつも、ゆっくりと顔を上げるその男の表情からは、トンズラの声が聞こえているような素振りはない。
やはり俺にしか聞こえない設定はゲームのキャラクターにも同じようで安心した。
しかしそれはともかくとして、この人初めて見るけど一体何者なんだ?
人族ではあるけど、それなりに偉い人かな?
今回クエストを受けた時は、珍しく人族ではなく、ダークエルフの町長本人からの依頼だった。
更に言えば、その町長はやり場に困る服装をしたボインボインのお姉様。
今回はいつでも録画してオカズ目録に入れられる有望な人材に報告する気満々だったんだけど、まさかこんなハゲた中年オヤジに報告だなんて……そりゃないぜとっつぁん。
「あ、いえ、はい。あの……失礼ですがあなたは?」
「おぉ! これは失礼しました。私はこの町の内政補佐官をしております、シュン・ブンと申します。シュウカン国から派遣され、この町の内政をお手伝いしている者でございます。以後、お見知りおきを」
シュウカン国? 初めて聞く国だけど、これも設定なんだろうな。
少なくとも俺は現実世界でそんな国があるなんて聞いた事がない。
とはいえ、要するにこのオッサンは人族でありながら、この町のナンバー2的な立場のようだが、人族ってのがなぁ……。
今回の事は出来ればダークエルフの方にしっかり報告したい案件であるため、伝聞で伝えられるのはあまりよろしくはない。
どうしたものか……。
と頭を巡らせていると、その男が話を進める。
「では早速ですが、町長から言伝と報酬を預かっておりますので……」
「ちょっと待ってください。その前に直接町長に報告しておきたいことがあるのです。町長はどちらにいますか?」
「さ、左様でございますか。しかし残念ながら町長は現在この町にはおりませぬ。今回の件の報告の為、長老会が行われている首都に向かわれてしまいました。ですが安心してください、わたくしが責任をもってありのまま報告致しますので」
なんか今、あからさまに嫌そうな、というか、めんどくさそうな顔を見せたぞ、このハゲメガネ。
それになんか今のセリフ、すんごい胡散臭いんだよなぁ。
目付きもなんか嫌らしいし、俺個人として生理的に受け付けないタイプなもんで、猶更直接町長に……って今こいつなんて言った!?
「え? 長老会に報告!? 待って下さい、まだ俺は何も報告をしていませんよ?」
「いえいえ、既に詳細は聞き及んでおりますとも……それに、犯人のエルフまで捕まえて下さったではありませんか。死んでしまっていたのは残念ですが、報告するには十分な内容でございます」
そう言いながら不敵な笑みを浮かべ、人差し指で眼鏡をクイッとするハゲメガネ。
なんだろう……やっぱりこいつの顔むかつくわ
「いえ、十分ではありません。少なくともあのエルフが犯人かどうかわからないじゃないですか? 死んでいたんですよ? エルフもまた今回の犠牲者の一人かもしれません」
俺はできる限りありのままの情報を伝える。
二種族間における争いの火種にならないよう、ちゃんと曲解されないように真実を伝えなければならない。
「ほほぉ……それはそれは。しかしお言葉ですが、そのエルフは貴方に見つかった事で逃げ場はないと判断して自害したのでは? その証拠としてエルフの体にだけは傷が無かったと聞き及んでおりますが、何か間違いでも?」
「い、いえ、それはそうなんですが。だけど……」
想像していた通り、やはりそこを突かれてしまったか。
凄惨な姿となった死体と比べてしまえば、どう考えたっておかしくは見えてしまう。
頭の悪い俺は、何から説明すればいいのかわからず答えに窮していると、更にハゲメガネは話を続けた。
「だけど……なんでしょうか? あの状況を聞けば答えは見えてくるのではありませんかね? そのエルフはただの工作員、云わば実行役に過ぎず、エルフ本国が黒幕であるとバレないように自害した。実に理にかなった行いですなぁ」
そう言って、うすら笑みを浮かべるハゲメガネ。
くっそ、何勝手に妄想を膨らませてるんだよこいつ。
確かにその可能性もあるし、それを否定する確実な証拠もないけど、それでもまだ断定はできないだろうが。
どっちかわからないにも関わらず、勝手に決めつけやがって、このエロハゲメガネが!
あっ! そうだ、まだ伝えて無い事があるじゃないか。
あれを聞けば少しは考えを改めるかもしれないぞ。
大事な事を報告していなかった事に気付いた俺は、早速それを真実をありのまま伝えることとする。
「あの、俺は現場でエルフの死体を確認しましたが、そのエルフが亡くなったのは、俺が発見するより大分前で間違いありません。それは今からでもエルフの死体を確認すればわかると思いますが」
よっしゃ! 言えた!
ふふふ、どうだ。
ちゃんと確認したんだろうな?
あれだけの数の子供が死んでいるのに、まさか中途半端な確認しかしてないなんてことはないだろうなぁ。
少しだけ顔に焦りが見えてるぜ、ハゲメガネさんよぉ。
「そ、そのような報告は受けておりませんなぁ。しかし残念です。既にエルフの死体は四肢を切断し、民衆に対して見せしめを行った後、焼却されております故、もはや確認しようもございませんが……まぁする必要もないでしょう」
え? 今なんて?
四肢を切断して見せしめ?
確認する必要もないだと?
何を狂った事を口にしてんだよ、こいつは。
「は? 犯人かどうかもわからない段階で四肢を切断して見せしめ? 何考えているんですか? 死者を冒涜するなんて許されないだろ」
「これはこれは異なことを。これだけの凶悪犯であれば、本来なら自死したくなるほどの苦痛を与えて死刑を執行するもの。それができないのであれば、せめてもの行為として妥当……いえ、これでも優しすぎるくらいかと」
そう、さも当然の如く口にするハゲメガネ。
町長も同じ意見なのだろうか?
だとしたら、あの凄惨な現場を生んだ犯人となんら変わらないぞ。
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