第76話 歴史と追体験

 

「それと一番の失敗は長老会一日目です。私のステボには既にクリアと出ていたので安心して油断しました。その日にチョウ・シンの動きを探っておけば、少なくともこうはならなかったはずです。悔しいですわ」


「いや、それは無理……つうか結果論だよね。イーゼは十分頑張ったと思うんだけどな」


「頑張った……ではダメでございます。結果が全てですわ」



 自分に厳しいな、イーゼは。


 俺も見習わねば。



「それで結局、イーゼはどっちが嘘をついていると思うの? エルフ族? それともダークエルフ?」


「私は……まだ判断しかねますわ。ただ……」


「ただ?」


「エルフとダークエルフが戦争にならなければ、今の世界は変わっていたかと……それなので、どちらの種族も信じたいというのが本音ですわね。突拍子もない話になりますが、悪いのはエルフでもダークエルフでも……そして人族でもなく、魔王軍ではないかと思っていますわ」



 ええ? まじ?



「ここに来てまだ登場していない第4勢力か。根拠は?」


「ありませんわ……今はまだ……ですが、これはあくまでわたくしの希望的な意見であり、現実的にみれば、口にはしたくありませんが、現状エルフ族が一番怪しいですわね」



 まさかのエルフ族


 イーゼがそっちを選ぶとは思わなかった。



「そっか。ところで気になったんだけど、さっきエルフとダークエルフが戦争をしていなければって言ってたけどどういう意味?」



 そう。そこが引っかかっていた。


 なんだかそれが本当にあったかのような口ぶりだ。



「サクセス様。このユートピア、いえ、今までの旅も含めて、ダークエルフという種族にあった事がございますか?」


「あ、そういえばないな。この第三ステージに来て、初めて知ったよ」


「そうでしょう。なぜならダークエルフはこの世界には、殆ど存在しておりません。昔は違ったのですが……」



 え? ダークエルフって空想の存在じゃなかったの?? エロネタ的な存在かと……。



「ま、まさか、今俺達がいるこの世界って……」


「はい。おそらく。この第三ステージは過去に実際にあった出来事かと思われます。そしてそれであれば、他のプレイヤーは歴史に沿って行動をするはず。その結果、誰もが第三ステージをクリアできないという結果でございますが」



 やっぱりそうか。


 これは実際にあった歴史の焼き直し。


 あれ? 

 

 でもそうなると、答えは簡単じゃない?



「つまりは歴史上、エルフとダークエルフは戦争をして、ダークエルフ側が負けて滅亡した……という訳だね」


「滅亡とまではいきませんが、その戦争をきっかけに衰退し、数が限りなく少なくなったのは事実でございます」


「ん? 待てよ。それおかしいよ。だってエルフ族より、ダークエルフ族の方が種族的に戦闘力が高いって聞いた気がするんだけど」



 俺がそう質問すると、なぜかイーゼはパサロコインを取り出して俺に見せる。



「確かにサクセス様のおっしゃるとおりですわ。しかし、エルフ族に生まれた一人の英雄によって、その戦力差は一気に覆されました。それがこのコインに描かれているエルフ……英雄パサロでございます」


「まじか、そんな強かったんだ」


「はい。それはもう伝説になるほどですから。その強さは時の勇者にも引けを取らなかったとか」



 時の勇者ねぇ……


 言われてまっせ、トンズラさん



 ふと俺はステボを開いて画面を見ると、そこには



(馬鹿言うなっぺ。俺っちの方が全然強いっちゃ! あんなクソイケメンエルフには負けないっちゃ! 絶対負けないっちゃよ!!)



 となぜかむきになった感じで書き込まれている。


 よし、見なかった事にしよう。



「なるほどねぇ。でもさ、それなら考えようによっては答えが見えてくるんじゃない? 他のプレイヤーが歴史に沿うことで失敗したなら、逆を取ればいい。つまり、ダークエルフ側につけばいいってことだ」


「はい。ですので、わたくしはエルフ側が怪しいと判断しました。ですが……」


「やっぱそれだけじゃないよな。わかってる。俺も同じ考えだ」



 俺がそう口にした瞬間、なぜかイーゼの目が妖しく輝く。



「はい、では致しましょう」



 そう言って突然服を脱ぎ始めるイーゼ。


 何? これ何なん? どういう展開?



「ちょ、な、なにやってんの!?」


「いえ、サクセス様から同じ考えと言われましたので、他の者が集まる前にサクッとしようかと……」


「いやいや、サクっとされてたまるか!! 初めてくらいネッチョリやらせてくれって、ちがーーーーう! そうじゃない! てか、やってる場合か!」


「あぁん、イケズですわぁ」



 やばい、今ので一気に色々頭から飛んだわ。


 何の話をしてたんだっけか?


 とりあえず俺は無理矢理イーゼに服を着させる。


 この緩急には流石についていけないぜ。



 結局、現時点一番怪しいのはエルフ族という事だが、やっぱりなんかしっくりこないんだよな。


 イーゼが言うには、これはパサロの追体験ではないかとのこと。


 つまり俺達プレイヤーはパサロと同じ立場で物語を進めていき、歴史の通りならば、パサロに成り代わって、俺達がダークエルフを滅ぼす。


 それがこの第三ステージの流れになるんだろうが、他のプレイヤーはまず間違いなくそれで失敗している。


 でも実際ダークエルフ側に立って、エルフを滅ぼしても結果は同じ気がするんだよね。


 そう考えると、やっぱり一番怪しいのはシュウカン国であり、イーゼが一番最初に言っていた、まだ実際には登場していない魔王軍という選択もありえる。


 でもまだ足りない。


 圧倒的に情報が足りない。


 それと、それとなく俺達が戦争を回避させようというマインドになっていた事をイーゼに話してみたんだけど、どうやらイーゼは別にそうは考えていなかったらしい。


 ただ歴史的にそうなって欲しいからそうしていたっというちょっと予想外な答えであった。


 てっきりイーゼの事だから、戦争回避がクリア条件という何かの根拠を得て、それを目指していたのかとね。


 であれば、俺が戦争を回避していたのは、単純に争わない方がいいって道徳的に考えていただけかもしれない。


 それを口にしたら、イーゼはそれこそがクリアの鍵になるかもしれませんわとか言っていたが、そんな都合の良い話はないと思うんだよね。


 まぁいずれにしても、今回が失敗しても後まだ一回……


 ん? ま、待てよ……


 もしかして……


 

「なぁ、イーゼ。今、なんかちょっと嫌な事が頭を過った(よぎった)んだが……」


「はい、なんでしょう?」


「あのさ、ゲームマスターはヒントでチャンスは二回あるって言ってたじゃん? 俺達はそれを第三ステージが二回までチャレンジできるって考えてたわけだけど……」



 そこまで話を聞いて、イーゼは目を大きく開き、ハッとした表情を浮かべる。



「ま、まさか。いえ、そうですわ。その可能性が高いですわ!」



 どうやら今のだけでイーゼも気づいたらしい。


 ようは、二回チャンスがある内、俺達は既に一回目を失敗しているということだ。


 あの二回というのはステージのチャレンジ回数じゃない。


 今俺達がやっている第三ステージの中で、二回チャンスがあるということだ。


 そして、俺とイーゼは既にその一回目のチャンスを逃し、失敗している。



「あぁ、この状態になる事こそが、俺達全員が一回目のチャンスを逃したという事である証明。俺達は既にそれぞれ全員が一度だけチャンスを与えられていたんじゃないかな? 俺の場合であれば、小屋の中にいた真犯人を捕まえる事。イーゼであれば、暗殺者を確保して証拠をつかむこと」



 うわぁぁ、気づいちまった。


 いや、この場合気付いてよかったというべきか。


 これは本格的にまずいんじゃないか?



「間違いありませんわ。それぞれのプレイヤーごとに、ある段階をもって今いる位置を加味したクエストが振り分けられる。そしてそれを正しくクリアできればこの状態にはならない。あり得ます……いえ、そうに違いありませんわ。ただ、正しいクリアが一人だけでよかったのか、全員がクリアする必要があったのかはわかりませんが」


「そうだな。少なくとも俺とイーゼが経験したことは一つに繋がっている。他の仲間達も同じようになんらかのクエストがあった可能性が高い。そう考えると、もしかしたら他のメンバーも気付かずにチャンスを見逃していたのかもしれないな。集まって話し合ってみないことにはわかんないけど」



 カリーとリーチュンにはすれ違った時に少しだけ話をしたが、そういう話は出ていない。


 しかしそれも話す時間が短かったからなんとも言えないし、なんなら気付いていないだけの可能性もある。


 だが、シロマだけは気づかない訳がないと思うんだよなぁ。


 残念ながらあれからまだすれ違っていないのでわからないけど、リーチュンがシロマを探すって言ってたから、それを信じて待つしかないか。


 いずれにしても全員で話し合ってから考えなければ、この第三ステージを突破できそうもない。


 とにかく今は待とう。


 仲間達が制限ターン以内にここに集まるのを……。


 そしてそこで再度話し合いをして、答えを見つけるしかない。


 チャンスは残り一回。


 これを逃す訳にはいかない。




 

 

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