第77話 朗報来たる!

 イーゼとの話し合いの後、俺だけここに残して、イーゼはゴールマス周辺の町に赴いて情勢を確認しに行った。


 その間、無事にカリー、リーチュン、シロマがほぼ全員同時にゴールマスに到着すると、イーゼもタイミングよく戻ってくる。


 イーゼを含めて全員が集まった今、残りターン数は7。


 これから何かをするにはかなり厳しいターン数であるが、ここにきて更に追い打ちをかけるような事態が起こる。


 なんと全員がゴールマスに到着した瞬間、上空に浮かぶ巨大掲示板に数字がカウントされ始めてしまったのだ。



 【7:70:00】



 その数字を見る限り、間違いなく制限時間を表しているのがわかる。


 そしてその数字が動き始めることにより、それらの数字が何を意味しているかを俺達は理解した。


 上の数字の内、一番左の7が残りターン数で、その右側は時間だった。


 しかしこれは70時間ではなく、70分を表している。


 その証拠に、1秒ごとに


 6:69:59

 6:69:58

 6:69:57


と減算していっている。


 つまり、1ターンにつき持ち時間は10分。



 俺の考えでは、ここで話し合いをした後に、全員でエルフとダークエルフの長老達がいる場所を探そうと思っていたのだが、どうやら間に合いそうにない。


 そもそも7ターンでも厳しかったが、その為にイーゼだけ情報収集に向かわせていた訳で、イーゼが持ち帰った情報次第ではまだ可能性はあると思っていたのだ。


 完全に詰んだ。


 俺は上空に浮かぶ掲示板を眺めながら、この状況に絶望する。



ーーしかし、



「やはりここがゴールで間違いありませんね」


「はい。後は待つだけですわ」



 突然、シロマとイーゼが当たり前のようにそう口にする。


 その様子からも全く焦っているようには見えないので、どうやらこの状況も二人の智者にとっては想定内のようだ。


 そうだよな、まだ絶望するには早いよな。


 俺にはこんなにも頼もしい仲間達がいるんだから。



「それはどういう意味なんだ?」


「はい。ここは元々そういうステージだったということです」



 うん……ごめん。


 シロマには悪いが、それだけで理解できる頭じゃないんだわ、俺。


 と心の中でツッコんでいると、やはりそこはイーゼが説明を補完する。



「つまりこのゴールマスは文字通りゴールであるという事ですわ。加えるならば、残りターン数でどうするかを決める場所でもあるということですわね」


「なるほどね。じゃあもうどこかの町に行ってクエストを探す必要はないってことか」



 ぶっちゃけ今のイーゼの話で全部理解できた訳ではないが、何となく今のでこれからの事だけはわかる。


 だから一応そこだけは確認した。


 一応ね。


 そしてそれにはシロマが答えた。



「はい。イーゼさんもそう考えていると思います」



 それを聞き、ひとまずホッとする俺。


 実際、ここから長老達の場所を探すとなると、かなり厳しい。


 それが無くなっただけでもかなり大きいが、未だ予断は許さない。


 結局のところ、ここで発生するであろう最後のクエストが何なのかわからないままだ。


 時間の限り、仲間達と話し合わなければ……



 ※ ※ ※



 それからみんなの話を聞いた結果、結論として全員が既にメインクエストと思われるものに関わっていた事が判明した。


 ただ予想外だったのは……



「つまりシロマは正しい形でメインクエストをクリアしたって事でいいのかな?」


「はい。皆さんの話を聞く限りそう考えられますね。私が報酬でもらった、この【親書】というアイテムは、きっとこの後に始まる最終クエストを有利にしてくれるはずです」



 そうなのである。


 てっきり俺は今の状況になってしまったのは、全員が二度あるチャンスの内、一度目を失敗しているからだと思っていた。


 しかし、なんとシロマは正しいルートで達成したらしい。


 その証拠が、今シロマが見せてくれたこの【親書】という手紙だ。


 これはメインクエスト報酬としてもらったロザーナの副賞であり、差出人はダークエルフ領で四肢を切断されたエルフ、そして宛先はその両親。


 当然そこに書かれている内容が気になるところだが、どうやらまだ開けることはできないらしく、わかったのはそのエルフの名前がトゥーイということだけだった。


 この親書が最終クエストでどの程度役に立つものなのかはわからないが、少なくとも朗報には間違いない。


 

 ちなみにシロマが受けたメインクエストについてだが、



 【エルフの長老達を説得して、会談の場を設けさせよ】



という内容らしく、これは正直ちょっと予想外な展開だった。


 だってシロマはダークエルフ領内で情報を収集していたはずだ。


 それであればダークエルフ側ならともかくとして、エルフ側を説得するのはおかしい。


 と思っていたのだけど、話を聞いて納得した。


 実際シロマはダークエルフ領内でクエストを受注したり、情報収集に当たっていたのだが、そこでエルフを探している者達に出会ったそうだ。


 その者達こそ、シロマが手に入れた親書にあるトゥーイの両親である。


 二人はダークエルフの町で石を投げられたりしながらも、必死に子供を探し続けていた。


 そんな両親が悪質な嫌がらせを受けているところに偶然遭遇したシロマは、当然のように二人を助け、その結果、その場で両親から一緒に子供を探して欲しいと嘆願された訳である。


 その時はまさかそれがメインクエストの前提クエストとは思ってもいなかったが、その後の状況等から推察するに、それで間違いないそうだ。



 その後の詳しい話は端折るが、そのクエストは単純に人探しというよりも、色んな情報等から推理したりして、真実に近づいていくといった形で、少しづつトゥーイの足跡を掴んでいくものだったらしい。


 そして多くの謎を解き明かすことで、ようやくトゥーイが最後に訪れた場所まで辿りついたものの、そこで発見したのは見るも無残な姿となったトゥーイであった。


 まさかそんな姿で見つかることなど想定もしてなかった両親は、その場で深い悲しみと激しい怒りに塗れるものの、そこに辿り着くまでに知ったトゥーイの気持ちを汲み、怒る気持ちを押し殺し、エルフの町へと戻ることとなる。


 ……のだが、その際、シロマが見せしめにあっているトゥーイの死体を回収して両親に引き渡したのが、もしかしたら正規ルートへの分岐点ではなかっただろうかとシロマは話した。



 実際、死体を回収するのはかなり厳しい状況だったらしいが、逆にそれができなければ、両親がエルフの国に戻るような事はなく、その後のメインクエストにも発展しなかった可能性が高かったのではないかとのこと。


 結果として、両親をエルフ領まで送り届ける際中に、ダークエルフ領に向けて進軍する長老達と接触し、そこでトゥーイの両親から


【エルフの長老達を説得して、会談の場を設けさせよ】


という本当のメインクエストを受注することになったのだ。


 両親たちは、心から戦争に反対したいという訳ではなく、なぜ自分の子供がこんな目に遭ったのか、また、その原因が何であるのかを知りたかったのである。


 その為には、戦争よりも先に会談を行って欲しいと願うのは理解のできる話だ。


 だがこのメインクエストは、前提クエストと違って凄くあっさり終わる。


 普通に長老達に状況を説明した上、トゥーイの両親が嘆願することで長老達は納得し、クエストがクリアとなった。


 まぁそういう流れを知っているからこそ、あの時、上空に制限時間が表示されても全く動じていなかったようだが。



  あとそれに加えて、色々謎だったトゥーイの失踪についても、前提クエストを進めていく間に一部判明している。


 トゥーイは拉致されたわけではなく、人族からの依頼でダークエルフ領に向かったらしい。


 つまりこの時点で、イーゼが聞いたチョウ・シンの話はデマだとわかる。


 実際には、トゥーイはダークエルフとエルフの親交を深める使者としてダークエルフ領に訪れ、その後、依頼されたとおりにダークエルフが運営する貿易関係の仕事に従事していた。


 だがトゥーイは、不幸にもその仕事の中で知ってはいけない秘密に触れてしまい、その結果暗殺され、更には猟奇的殺人犯に仕立て上げられたのである。


 今聞いても、本当に胸糞が悪くなる話だぜ。


 だが、トゥーイを暗殺した犯人まではわかっていない。


 もしかしたらそのヒントは、この親書にあるのかもしれないが……。


 とそんな訳で、シロマのファインプレイにより、最終クエストに向けて俺たちは一歩前進した。


 

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