Episode of Ease 3

「賑やかな町ですわね。それにしても……ちょっと大きすぎますわ。」


 イーゼがたどり着いた町【ルベバ】は、今までかつて見たことがないほど大きな町であった。

 端から端まで歩いてみたわけではないが、多分アバロンの30倍はある。

 超巨大都市というところだろうか。


 しかし、イーゼが一番驚いたのは、都市の大きさではない。

 行き交う人々の服装だ。



「戦争でもあるのかしら?」



 そう、町の人々は、誰もが重装備であったのだ。



 振れるかどうかもわからない程、大きな大剣を担ぐ者。

 刀身の長い刀を携えている者。

 これまたバカでかい斧を持っている者。

 背中に、巨大な弓のような者を背負う者。 



 町中の人々が、こんなに重装備をして歩いているところなど、見たことがない。


 色々疑問は尽きないが、考えても無駄な事だと悟ったイーゼは、考える事をやめた。

 今はとりあえず、冒険者ギルドのようなところを探す事を優先し、歩き続ける。


 この町の街道は、行き交う人がみんな重装備のせいか、とても広い。

 そして、行き交う人々を観察すると、誰もが同じところに向かって歩いているのがわかった。

 誰もが、町の中央に向けて歩いている。


「何かあるのかしら? 行ってみる価値はありそうですわね。」


 

 イーゼは、この町の地理がわからない為、とりあえず、みんなが歩いて行く方に付いて行くことに決める。

 すると、10分も歩くと、遠くに超巨大なドーム型の建物が見えてきた。

 そこは、闘技場のようにも見えるが、なんとなく違う気がする。

 見たところ、誰もが自由に出入りをしており、特にお金を払って入る様子がないからだ。



 そしてイーゼもまた、他の者と同じように、そのドームの中に入る。

 中に入ると、ドームの外側にいくつかカウンターがあり、受付嬢と思われる者が、何かの受付を行っていた。

 他にも、武器や防具を売っている店や、食べ物を提供する店も建ち並んでいる。


「凄いですわね……まるでお祭りですわ……。」


 ドームの中には、人が溢れかえっており、活気というか、熱気がヤバイ。

 だれもが、たぎる様なギラギラした目をしている。

 そして、そこである物に気付いたーー看板である。


 その大きな看板に、説明書きが書いてあった。



※ ようこそ、ハンター諸君。

  当ハンターズギルドには、いくつか注意事項がある。

  必ずこれを読んで、行動をしてくれたまえ。


  一つ、他のハンターと揉めない事。

  二つ、他のハンターに、クエストを強要しない事

  三つ、武器の手入れは怠らない事。


  以上3点を守る者だけ、当ギルドの利用を認める。

  それでは、塔の最上階目指して頑張ってくれ!

  勇猛なるハンター達よ! 健闘を祈る。



「嘘ですわ……。この巨大な施設が冒険者……いえ、ハンターズギルドですの? ですが……文字は同じですわね、これは助かりますわ。」



 イーゼは、目の前の看板の文字が読める事に喜ぶと同時に、このバカでかい施設全体がギルドである事に驚いた。

 しかし、看板の内容を読む事で自分がやるべき事を理解した。

 それは、ここでハンターになれば、塔の最上階を目指せることである。

 ならば、やる事は決まった。

 


(ハンター登録をするわよ!)



「すいません。わたくし、ここのギルドを利用するのは初めてですの。ハンターについて説明を受けてもいいかしら?」


 

 イーゼは、さっそく受付っぽいところに行き、そこで空いている受付嬢に声をかけた。



「ようこそ、ハンターズギルドへ。初心者の方ですね。それでは簡単に説明します。」


 その受付嬢は、まるで定型文を読むが如く、機械的に説明をしていく。

 その内容は、



・ハンター登録をした者だけが塔に入れる。


・塔に入るには、チケットが必要であり、そのチケットをこのギルド中央にある装置に入れる事で、塔の中にワープできる。


・塔への挑戦は、単独でも可能であるが、最大4人まで同行が可能。


・ハンターになると、ハンターの証という首飾りを与えられ、自分のランクに合わせて星が付される。


・ハンターは、クエストと呼ばれるミッションを受付で受注し、それをこなすことで星が増える。


・クエストには、下級、上級、T級と三種類に分かれており、星の数に応じてクエスト受注が可能。


・下級からT級に上がるほど、塔の階数が上がっていき、最上階は50階。

 そしてそこまで到達した者は、未だかつて誰もいない。  


・塔の中では不思議な力が働き、外の世界で使えるような魔法等は制限されてしまう。

 そのため、自分に合った武器を選んで、クエストのボスに挑むしかない。


・塔の中で、致命傷を受けて倒れたとしても、不思議な力が働き、最初の位置に三回まで戻ることができる。

 そして、それはパーティ全体で3回ということであり、自分が死ななくても3回誰かが倒れる事で強制的に、ハンターズギルドに送還される。



 全ての説明を聞き終えたイーゼは考え込んだ。



 ここでは、今まで培ったスキルや、魔法は使えない。

 つまり、この世界のルールで、最上階を目指さなければならないとわかる。

 それがどれだけ高難易度であり、また時間を要するものであるかを考えると、少しだけここに来た事を後悔した。

 だが、説明を聞く限り、塔を攻略することで死ぬことはない。

 それだけは吉報であった。


「説明は以上です。初めての方は星1のクエストのみ受注可能であります。ハンター登録はいかがされますか?」


「当然するわ。でも、装備はこのままでいいのかしら?」


「お任せください、初心者の方には特別に、初期装備を無料でレンタルしております。ですが、非常に弱い装備ですので、いきなり強敵とは戦わないように注意してください。まずは自分に見合ったクエストを選び、素材を集めて、装備を強化していくことをおすすめします。」



(装備を素材で強化? つまり、塔の敵は塵にはならずに、素材になると……。少しだけですが、燃えてきましたわ。)



「わかりました。それでは、わたくしに合う装備はどれが良いと思われます?」



 イーゼは、初めての事なので、できるだけ情報を得て選びたかった。

 とにかく、効率重視で星の数をあげ、そして最上階にいかねばならない。

 そのためには、使えるものは何でも使うつもりだ。



「そうですね。見たところ、エルフの方に見えますので、マジックボウはいかがですか?」


「マジックボウ?」


「はい、自身の魔力を飛ばせる弓です。これを使える方はほとんどいないのですが、かつてT級まで行かれたハンターに一人だけいます。マジックボウを使えば、敵の弱点属性で攻撃が可能であり、魔力量が多ければ多いほど、その効果は絶大です……が、当然、ボウが弱ければ魔力は引き出せませんので、いい素材で作られた装備が必須となります。」



「それに決めましたわ! 是非、そのマジックボウでお願いしますわ。」



 イーゼは説明を受けて即決する。

 どう考えても、自分の為にあるような装備だ。

 まだ、クエストには行ったことはないが、その武器があれば、かなり効率的に攻略できそうだと感じる。



「はい、わかりました。それとその防具ですと、敵の攻撃を1発でも食らえば倒れてしまいます。ですので、マジックアーチャー専用の防具をレンタルします。武器と防具は、新しい装備が手に入り次第返却を願います。最後に、クエスト開始前に、必ず、こちらで回復薬と簡易食料を受け取りに来てください。」



(防具だけでなく、回復アイテムまでも……。逆に言えば、そこまでしても最上階まで到達した者がいないと……)



 イーゼを言い知れぬ不安が襲う。

 ここで最上階まで行かなければ、自分は元の世界には戻れない。

 自分の寿命は長いため、いつかはその可能性も見えては来るが、それでは遅すぎる。

 一日でも早く、自分は元の世界に帰らなければならないのだ。



 滴り落ちてくる冷や汗……。



 だが、それでもイーゼは希望を諦めない。

 必ず、愛する者のところに戻ってみせる。


 こうしてイーゼは、塔の最上階を目指すため、ハンター登録をする。

 これから、長きに渡る狩猟生活が解禁されることとなるのだった。

 


 

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