Episode of Ease 2
イーゼが森の中を彷徨い続ける事、一週間。
遂に、森の出口が見えてきた。
「ふぅ、思ったよりも深かったですわね……この森は。」
出口の前で、後ろを振り返るイーゼ。
この森は、全く自分の知らない世界に転移し、初めて過ごした場所。
エルフであるせいか、どうやら自分は森に歓迎されていたようで、リスのような小動物等に大分懐かれた。
森の中では、木の実や果物等も豊富であり、食べ物に困ることはない。
思いのほか、森の中での暮らしは、イーゼにとって悪くないものであったのだ。
「ほら、お食べなさい。大きいモンスターには注意するのよ。それじゃ、ありがとうね。」
イーゼはそう言いながら、森の中で拾った木の実を、肩の上に乗っているリスに食べさせる。
そして、そのリスをそっと地面に置いた。
どういうわけか、このリスはイーゼを見つけてからずっと離れようとしなかった。
最初は、餌目的かとも思ったが、自分の食い扶持は、自分で探していたので、それは違う。
姿こそ全然違うが、イーゼには、そのリスがまるでゲロゲロのように思えた。
その為、いつかは別れないといけないと思いつつも、ここまで一緒に来てしまう。
ゲロゲロを失った悲しみや、一人でいる寂しさもあったせいか、遂には森の外まで来てしまった。
このリスの存在には、大分精神的に助けられてきたが、いつまでも面倒を見れるわけもない。
ここは、やがて去りゆく世界。
心を鬼にして別れようと、決断した。
キューー!
だが、いつまでもそのリスは自分を追いかけてくる。
その姿を見るのが辛かった。
そして、断腸の思いで魔法を唱える。
「アースウォール」
リスとイーゼの間に土の壁が生まれた。
直接的に分断を図ったイーゼの顔は重い。
リスの悲痛な鳴き声に胸を痛めるものの、イーゼは振り返らない。
いつまでも、自分の孤独を誤魔化すわけにはいかないのだ。
「しっかりしないといけませんわね。また、いつかどこかで会いましょう……ゲロゲロ。」
こうして、ゲロゲロと名付けたリスと決別したイーゼは、再び一人になって森の外を歩いて行く。
森の外に出てからは、目指すべき場所がはっきりとした。
なぜならば、既に目的地は見つけている。
遠くに見えるは、天空を突き破る勢いで、高く聳え(そびえ)立つ巨大な塔。
その周りには、囲いが見えることから、きっと町があるのだろう。
目的地がはっきりしている分、イーゼの足取りだけは軽い。
そこから数日して、やっと囲いの外までたどり着く。
「門は……あるわね。開いているわ。入れるかしら?」
囲いの中央には大きな門が構えられており、そこには門兵と思われる男が4名立っていた。
「失礼します。わたくし、この町の中には入れるかしら?」
言葉が通じるかわからないが、とりあえず標準語で門番に話しかけてみる。
見た目は、普通の……いや、普通よりは一回り大きい男達であったが、見てくれが人間と同じであった為、言葉が通じる可能性に期待した。
そして、それは的中する。
「おや? お嬢さんはここに来るのは初めてかい? 自由に入っていいぜ。ここはハンターの町、ルベバだ。」
門番の男は、相手が綺麗なエルフであることからか、簡単に通そうとしてくれる。
これをチャンスとみたイーゼは、今の内にいくつか情報を手に入れようと考えた。
「そうですの。森から出るのは久しぶりでしたので、今の状況がよくわかりませんわ。よろしければ、教えて下さらない?」
「お、おう。いいぜ! 俺でよければ何でも聞いてくれ。アンタやっぱりエルフだったか。珍しい恰好してるから、森の妖精だとは思ったぜ。」
「森の妖精? エルフはそんなに珍しいのかしら?」
「あぁ、滅多に外に出る種族じゃねぇからな。ここには色んな種族の奴らがいる。エルフってだけで、変な目で見られることはねぇから安心してくれ。」
思いのほか、色々と話してくれるこの男。
しかし、さっきから顔を真っ赤にして、視線を合わせようとしてこない。
どうやら、女性に免疫がないようだ。
その態度が少しだけ、出会った当初のサクセスを思い出させてくれて、ふと、表情に笑みが浮かんだ。
「うふふ、優しいのね。それで、自由に町に入れるなら、あなた達はなぜここに立っているのかしら?」
「お、おっふ。いや、俺達は外からモンスターが来ないか見張っているだけで、夜には門を閉めて戻るぜ。よ、よ、よ、よ……よければ今夜、仕事が終わったら……め、めしでも一緒に食べないか? いい店を紹介するぜ。」
大胆な誘い文句を言いながらも、その門番は、やはり目を合わせない。
かなり、照れているらしい。
「ごめんなさい。私、もう夫がいるの。でも、あなたのその態度……嫌いじゃないわ。それで最後に二つだけ教えてもらえるかしら?」
だが、イーゼの質問に返ってくる声は無かった。
それどころか、急に膝をついて、四つん這いになって項垂れてしまう。
相当ショックが大きかったようだ。
免疫がない分、断られた時のショックはでかい。
あまりにそのリアクションが大きすぎて、他の門番たちも近づいて来る。
「どうしたんですか、隊長!? その女に何かされたのですか!?」
「す、すまん! みんな! 違うんだ。ちょっとナンパしたら振られてショックをうけただけだ。持ち場に戻ってくれ!!」
「たいちょーー! もてないんだから、慣れない事やって心配させないでくださいよ!」
呆れた他の門番は直ぐに配置に戻った。
どうやら、やっぱりこの門番はもてないらしいーーが隊長であったことに驚くイーゼ。
随分と、うぶな隊長だ。
「すまなかった。お、おれは、女性が大好きなんだけど、極度の緊張症でな。久しぶりに勇気を出したら、ばっさり断られたんでちょっとショックが……。」
「あら……ごめんなさいね。でもあなたなら素敵な女性ができるわよ。自信をもっていいわ。それで、さっき質問の答えは教えてくれるかしら。」
「みんな……最後に同じ事いうんだよな……。素敵な女性ってなんだよ……。だったらそう言うお前が一緒になってくれればいいじゃないか……。女なんて……女なんて……大好きだ!!」
イーゼはどうやら失敗したらしい。
その門番の隊長はそれ以上話してはくれなかった。
だが、収穫は多い。
何よりも言葉が通じるというのが大きかった。
それに加え、色んな種族がいることから、町に入ってから誰かに狙われたりする可能性も低いとわかる。
エルフというだけで、攫おうとする輩は、元の世界にも多かった。
故に、この情報はかなり助かる。
そしてこの町の事を、この門番は
ハンターの町
と呼んだ。
つまり、多分冒険者ギルドに似たような施設は必ずあるであろう。
町に入ったら、まずはそこを目指そうと心に決める。
そして、イーゼは、ハンターの町【ルベバ】に入っていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます