Episode of Ease 4

 あれから五年の月日が流れた……


 イーゼはこの世界に来てから、ハンターとして、毎日大物の魔獣を狩り続けた。

 最初の半年は、まだここでの戦い方に慣れておらず、焦る気持ちだけが空回りして、クエスト失敗が続く。

 だが、沢山の出会いや、経験値を得て、今、遂に50階層に向かう階段の前に立っているのだった。



「長かったですわ……。あれから5年……。サクセス様は無事でしょうか……。」



 少しだけ、ここでの生活を振り返るイーゼ。

 しかし今は、それよりも、やっと元の世界に戻れる事への安心感で一杯であった。

 


「早く……ダーリンに会いたいですわ! そして……今度こそ、子種を……。」



 長くサクセスに会えなかった、イーゼの妄想は暴走する。

 既に何万回と行ったイメトレは、イーゼにとって、現実と区別がつかないところまで来ていた。

 そして、足早に階段を上りゆく。



 この塔は48階層が事実上、ラスボスがいる階層であり、そこまではパーティ攻略が許されている。

 しかし、49階層だけは単独で臨まなければならず、更にそこにいるのは48階層のボス【ミラクルボレー】の亜種、【ミラクルマシンガン】という強敵だった。


 イーゼがこの世界に来た頃、48階層までは、何人か辿り着くも、流石に単独で戦わなければならない、49階層を攻略できるハンターは現れなかった。


 つまり、この世界において、イーゼこそが初の踏破者であり、名実ともに、伝説のハンターである。

 そして、49階層のボスを倒すと同時に、天空に続く階段が現れた。

 これこそが、最上階に行くことができる、唯一の道。



 どこまで続くかもわからない階段を、イーゼはひたすら上りゆく。

 しかし頭の中は、サクセスとの情事の事でピンク一色であった……。


 そして、遂に階段の先が見えてくるーーがイーゼは気づかない。


「いやん! だめですわぁ! あぁん、きてぇん。」


 そこにおわすは、どう考えてもただの変態。

 そんな妄想をしながら、よく階段から落ちないものであるが、階段の先にある扉に頭をぶつける。



 ガンッ!



「いたっ! って、もう到着ですの? これが50階層への扉……。」



 頭を扉に打ち付けたことで、やっと現実に戻るイーゼ。

 そして、ゆっくりと、その扉を開けると



ーーそこには1匹のリスがいた。



「待っていたぞ、踏破者……よくぞこの試練を乗り越えた、異世界の者よ。」



 そのリスを見て、イーゼは思い出す。

 この世界に来た時に、懐いていたリス(ゲロゲロ)を。



「あなたはゲロゲロ……かしら? どうしてここに?」


「そういえば、主は我をそう呼んでいたな。いかにも。我はこの世界の精霊神であり、この姿は仮の姿である。」


「精霊神……様? では、あなたが私を転職させてくれるのですわね?」


「いかにも。まずは、試練の褒美として、これを受け取るがいい。」


 精霊神がそう告げると、イーゼの目の前に、ティアラのような冠と靴が現れる。



「こ、これは……。」



 イーゼは、突然目の前に現れた装備に驚きつつも、なぜか懐かしい感じを覚える。



 なぜならば、現在、イーゼの装備は、ガチガチでゴツゴツの重装備。

 この世界のモンスターの皮や角等で作られた装備であり、ぶっちゃけ蛮族っぽい恰好だ。


 そんな中、元にいた世界で見るような、質素で小さな装備を見れば懐かしくもなるものだ。


 質素といっても、ティアラは綺麗なエメラルドグリーン色をしており、その透明感からも気品溢れる美しい物。

 そして、靴にあっても、特に派手な装飾等はないものの、履きやすそうでありながら、貴婦人がつけていてもおかしくない程に、洗練された見た目であった。


 イーゼはその装備を手に取って能力を確認する。



【精霊神の冠】 レアリティ 3

 防御力 35

 スキル 魔力解放 精霊神の加護 知力+30



【精霊神の靴】 レアリティ 3

 防御力 30

 スキル 精霊脚 素早さ+15 知力+15



「ふむ、受け取ったか。では、一度、主の装備を戻そう。」



 精霊神はそう言うと、イーゼの体が光り輝き、元の世界にいたころの服装に戻る。

 ただし、頭と靴だけは、今回与えられた装備となっていた。



「凄いですわね……体が軽いですわ。でも、ちょっとだけ、寂しいですわ。」



 長い間装備していた、蛮族装備が一瞬で消えてしまった事に、少し寂しさを覚えるイーゼ。



「よく似合っているぞ、踏破者よ。では、この場において、主を転職させる。我の前に来ると言い。」



 イーゼは、精霊神の言葉に従って前に進むと、精霊神はジャンプして、イーゼの肩に飛び乗った。



「あら? 抱き上げてもよろしくてよ?」


「それには及ばぬ。では、ゆくぞ! はい、終わり。」


 

 今までずっと、リスの姿に似つかわしくない威厳ある言葉で接していた精霊神であったが、最後はなぜか少しコミカルな雰囲気に変わる。


 更に言えば、「行くぞ!」等と気合入れておいて、速攻で終わるという何とも、微妙な転職であった。

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