第12話 変態エルフ

 俺達は、モーホを弔うと早速森を抜け、テーゼの町に向かうことにする。

 ちなみに、さっきの戦闘で俺のレベルは11になり、リーチュンとシロマも20になった。 



「サクセス様、先ほどは大変失礼しました。エルフは死を目の前にすると子孫を残したくなる性がございまして、私はそれで少し混乱していたようです。こういうのはきっちりじっくりと距離を縮めなければならないと痛感しております。」 



 いやそれおかしいだろ! 

 男同士で子孫が残せるわけがねぇ! 


 そうツッコミたいところであったが、どうにも俺はコイツが苦手であり、あまり会話には乗りたくない。 



「わかった、距離は縮まらないと思うが、とりあえずテーゼまでは俺も一緒に行こう。」 


「ありがとうございます! 私はこの身全てをあなたに捧げるつもりです。」 


 

 だめだ……。 会話にならねぇ……。



「じゃあ、とりあえず冒険者カードを見せてくれないか?」 


「はい! 喜んで!!」 



 これはどういう事だ?

 俺は、冒険者カードを見せて欲しいといったはずだ。 

 なのに、なぜ目の前の変態エルフは四つん這いになって俺にケツを向けている……。 



「んで? お前なにしてんの?」 


「いえ、私をお求めかと……。どうぞ好きに見てください!」 


「なぁシロマ……聞いていいか? こいつなんなの?」 


「わ、私もこんなイーゲさんは初めてで……えっと……その……私は見ないふりしていますので、どうぞごゆっくりと……。」 



 ごゆっくりじゃないだろ? 

 止めろよこの変態を! 



「色々とおかしいだろ! もういいからさっさとカードを見せてくれ! 冒険者カードだ!」 


「わかりました……とても残念です。ではどうぞ、こちらが私のカードです。」 



 やっとイーゲは俺にカードを渡す……。 


 って、おい! 手を放せ! 

 イーゲは、カードを渡すと見せかけて俺の手を掴んで離さない。 

 それどころか、自分の頬を俺の手にスリスリし始める。 



「イーゲ……頼む。手を放してくれ。あと、スリスリすんな!」 


「わかりました、つい素敵な手だったので夢中になってしまいました。すいません。」 


「そういえば聞いた事があります。エルフは一度誰かに惚れるとそれはまぁ凄い執着心を持つとか。ですが、裏切ったり相手を傷つけることは絶対にないので逆に安心ですね。」 



 そんな状況を見ても、シロマは冷静にいらんうんちくを述べる。 


 どこが? 

 ねぇ、どこが安心なの? 

 俺、今貞操の危機よ? 

 童貞と処女を同時に奪われかねないんだけど……。 


 シロマの全く嬉しくないうんちくは置いておき、俺はイーゲのカードを確認した。


 イーゲ 125歳 魔法使い 

 レベル 24(総合140)

 力   11 

 体力  27 

 素早さ 24 

 知力  68 

 運   10


 げげ、こいつ125歳かよ……。

 そういえばエルフは長寿だっけか。 



「結構レベルが高いんだな。」 


「はい、そこの二人とは比較になりませんよ。」 



 イーゲは、勝ち誇ったかのようにリーチュンとシロマを見る。 



「へっへーん。残念でした! アタイはもう20レベルだからイーゲとそこまで変わらないよぉ~だ!」 


「はい、私もあっという間に20レベルになりました。これもサクセスさんのお蔭です。」 



 二人からの言葉を聞いて、突然イーゲは怒りだす。 



「嘘をつくな! あれからそんなに経ってないはずだ。そんなに早く強くなれるはずがない! たしか12、3レベルだったはずだろ!」 


「嘘だと思うなら、見なさいよ。はい、これがアタイの冒険者カード。」 



 リーチュンは、自分の冒険者カードを取り出してイーゲに渡すと、シロマもそれに続いて渡した。 


 それを見たイーゲの表情はみるみるうちに変わっていく。 



「ばか……な。そんな……そんなはずは。信じられん! これはどういうことだ!?」 



 イーゲは目の前の現実を受け入れられない。


リーチュン 武闘家 16歳 

レベル20(総合120)


シロマ 僧侶 16歳 

レベル20(総合120)



「へっへーん。内緒だよ! あ! そうだ。サクセスのも見せてあげなよ!」 


 へ? 

 内緒なのに、見せろとはこれ如何に? 

 まぁいい、俺だけ見せないのもおかしいか。 



「あぁ……内緒? そうだな。じゃあ俺のも見せないとダメか。」 



 俺は、四つん這いでうなだれているイーゲに、とどめのカードを渡す。



「な! なんですかこれは! こんなの……こんなのありえない!!」 



 イーゲは完全に発狂した。



 サクセス 戦士? 

 レベル11(総合525)

 力   105 

 体力  105 

 素早さ 105 

 知力  105 

 運   105


 他の3人と比べても圧倒的である。 

 その能力は100レベル相当であった。 



「ちょっとアタイにも見せて!!」 



 リーチュンは、茫然としているイーゲからサクセスの冒険者カードを奪う。



「うっは、やっば! これやっば! まじやっば!」 


「流石にこれは引きますね。強すぎです。」 



 シロマよ。

 引くとか言うなや……もうちょっと他に言い方があるでしょ? 



「イーゲ。いいか、俺の能力については内緒だ。わかったか? おい、イーゲ?」 


「は、は、は、はい! 絶対に一緒に入る墓までもっていきます!」 



 イーゲは、再度リーチュンから俺のカードを奪い返すと、まるでぬいぐるみを抱きしめる幼女の如く、そのカードを抱きしめて見悶えている。 


 それを見た俺は少し後悔していた。



「なぁ……。本当にこいつは大丈夫なのだろうか?」 


「いいんじゃない? イーゲ入れて丁度4人だし、このままパーティ組んで冒険しようよ。」 


「私も賛成です。本来の目的である魔法の玉を手に入れるには、イーゲさんは必須ですし。」 


「本来の目的? 魔法の玉? どゆこと?」 



 俺がその言葉に疑問を口にすると、シロマは、これまでの事を丁寧に説明し始めた。 


 要約するとこうだ。 


 転職できるマーダ神殿に行くためには、ワープの祠を通ると楽らしい。

 ワープをするには、魔法の玉と呼ばれるアイテムが必要で、それがこの森の中にあるダンジョンで手に入る。 

 

 そのダンジョンに入るにはエルフの力が必要らしく、丁度酒場で仲間を募集していたイーゲのパーティに入った。 


 転職は20レベルからだが、どの道、いつかは行かないといけないためにお願いした。 



 とまぁ、こんな感じだ。

 転職ねぇ……。 


 つうか俺の冒険者カード、今気づいたけど職業欄に記載された戦士の後に?がついているんだが、これはなんだ? 


 まぁ気にしても仕方ないか。 

 きっと冒険者カードの故障だろう。 

 いずれにしても20にならないと転職はできないなら、今の俺にはまだ必要はない。 

 ただ、マーダ神殿の近くには大きな町もあるみたいだし、行く価値はある。 

 一度行っておけば、キマイラの翼というアイテムで高速移動できるみたいだし、丁度いいか。



「なるほどね。いずれにせよ、一回テーゼとかいう町に行かなきゃだな。備蓄が大分減ってるし。」 


「そうですね、もうすぐ森を抜けられると思うので後3日もあれば着くと思います。」 



 シロマも同意らしい。まぁ準備は必要だ。 



「それじゃあ、イーゲをこのパーティに入れるって事でいいんだな?」 


「アタイはオッケーよ。でもパーティに入れるならあの事は伝えた方がいいと思うわ。」 


「あの事? あぁ経験値のことか……そうだなぁ……。」 



 本当にこいつに伝えて平気だろうか? 

 いや、同じパーティなら直ぐにバレるか。でもなぁ、こいつ変態だし不安だ。



「お呼びですか、我が君!」 



 近い近い! 顔が近い! 

 確かにキレイな顔はしているが、俺は男に興味はない!



「イーゲ、これから俺達は、イーゲをパーティに入れる。その為、重要な事を伝えるが、それを誰にも話してはならない。いいか?」 


「それは……つまり……。二人だけの秘密ということですね。わかりました! あぁ……愛しの君よ。」 



 なんか勘違いしているみたいだが、もうここまで来たらどうにでもなれ! 


 俺は、イーゲに二つの事を説明した。 


 一つは、俺とパーティを組むと俺以外は経験値が10倍になること。 

 二つ目は、俺が人よりもレベルアップ時に上がる能力値が高いこと。 


 正直、話しても信じてくれないと思っている。 

 どう考えても俺が伝えた事は、常軌を逸しているからだ。 

 実際に経験するまでは、普通なら誰も信じないだろう。 


 しかし、イーゲは違った。 

 俺の話を聞いたイーゲは、完全に全てを信じ切っており、恍惚の笑みすら浮かべている。 


 その表情は、普通ならば気持ち悪いと言いたいところなのだが、容姿が整いすぎて、不覚にもドキリとしてしまうくらい美しく見えた。 



「あ~神よ! エルフ神よ。遂に私のところへ運命の人を連れてきていただいたのですね。エルフ神に感謝を。ここに永遠の愛を誓います。アーメン、ラーメン。」 


 とりあえず、変な事を口走っているが、それはスルーだ。 



「なぁイーゲ。俺はしつこい奴が嫌いだ。頼むからあまり俺には近づいて来ないでほしい。」 


「わかっております。唇は触れるか触れないかの距離が一番興奮するという事ですね。大丈夫です。安心してください。」 



 だめだぁぁぁ! 

 こいつはダメだ! ダメな奴だ! 



「ちょっと! イーゲ! いい加減にして、だからサクセスはアタイのものだってば!」 



 そこに突然のリーチュンの告白! 

 え、俺リーチュンの物なの? 

 つか、もの扱いなの? 


 ……うん、悪くないな。

 是非、俺の如意棒を自由に物として使ってもらいたい。



「何だと? 誰がそんなことを決めたのだ! サクセス様は私の運命の人だ。お前のようなガサツな女には似合わない! お前こそ去れ!」 



 いや、誰がお前の運命の人だって? 

 去るのはお前じゃ! イーゲ。



「待て待て、勝手に決めるな。それに、俺はまだリーチュンの物になった覚えはない。当然イーゲの運命の人でもない。だから、みんな仲良くしてくれ! 喧嘩禁止!」 



 とりあえず二人の仲裁に入る俺。 

 私の為に争わないでぇぇ! 



「わかったわ。サクセスがそういうならそうするわ。」 


「はい、不本意ながらもサクセス様に従います。」 



 二人は、素直に喧嘩をやめつつも、未だにお互いを睨みつけている。 


 もうやめろってばよ。 

 

 これでイーゲが女なら嬉しい悲鳴というところなんだがな。 

 まぁこれから長い間一緒に旅をするんだ、あまり恋愛うんぬんは控えておいた方がいいだろう。


 冒険者には毒だ。 



「じゃあ今日は、もう遅いから野営に入るぞ。明日の早朝からまた出発だ。」 


 こうして変態をメンバーを迎えた俺達は、森の北にあるテーゼの町に向かうのだった。 

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