第13話 ベビーウルフ


「まったく魔物に遭遇しないな……。」 



 俺たちは、現在テーゼに向かっているところであるが、その間、全く戦闘がなく、森の木の実や薬草などを採取する以外やることがなかった。 

 しかしそんな森も間も無く終わりを告げる。 


 木々の合間から、その先にある草原が見えてきた。 



「そうですね、私達のレベルが高くなっていますから、私達が近づくのを感じて逃げているのでしょう……あっ!!」 



 シロマはそう答えた瞬間、何かに気づいた。



「魔物です! あれはオオアルマジロ! この森で一番の強敵です……が動きがおかしいです。えっと……何かを囲んでいるようですね。あれは……。ベビーウルフ?」 



 俺は、シロマが指差す方を見た。

 大きいイノシシのようなモンスターがいるが、あれがオオアルマジロだろう。


 うわ、なんか細長い舌がチロチロ伸びてて……きも! 

 そしてそいつらに囲まれているのは……白色の子犬? 

 なんか頭に緑色の角が三本生えているな。 



「シロマ、囲まれているのも魔物なのか?」 


「はい、フロッグウルフと言うモンスターの赤ちゃんですね。多分、親とはぐれてオオアルマジロの縄張りに入ってしまったのかもしれません。」 



 なるほど、魔物同士でも縄張り争いとかあるのか。まるで普通の動物と同じだな。 



「アタイ、助けに行ってくる!」 


「待て、リーチュン。団体行動中だ! 勝手は許さない。大体魔物同士の喧嘩に、我々がわざわざ間に入る必要はない。助けたところで、助けた魔物に噛まれるのが関の山だ。」 



 俺とシロマの会話を聞いていたリーチュンが駆け出そうとするが、それをイーゲが止める。 



「離して! そんなの関係ない! 魔物だったとしても赤ちゃんがあんな大きい奴に囲まれてるのよ! きっと怖い思いしてるはずだわ! アタイは助ける!」 



 純粋な心を持つリーチュンにとって、魔物も動物も関係ない。

 ただ、可哀そうなものをほっとけないのだ。 

 そんな心優しいリーチュンを見て、俺は決めた。 


 俺があの赤ちゃんを助ける! 



「わかった、じゃあ俺が行く。俺のステータスなら攻撃されてもダメージはない。それならいいだろイーゲ? 3人はここで待っててくれ。」 



 ここでまたリーチュンとイーゲが喧嘩になってもしょうがないし、俺が行けば済む話。それに俺も助けてあげたい。 



「サクセス様がそうおっしゃるのであれば、私は構いません。」 


「サクセス! ありがとう!」 



 イーゲがしぶしぶ了解をすると、リーチュンが抱きついてくる! 



 ムニュ……。 


 おっほーー! 



 スイカとは思えない柔らかさだ! 


 すると、隣でそれを見ていたイーゲもまた



「サクセスさまぁ!」



 といって、抱きついてきた。 


 おい、どこを触ってんだよ! 

 つうか、お前は助けるのに反対してただろ! 


 イーゲは、どさくさに紛れて俺の陰部を触ってくる。 



「この変態がぁぁぁ!」



 バシッ! 



 俺は、イーゲの手を強く払うと、逃げるようにベビーウルフの元に向かい、どうのつるぎを抜く。 


 すると、俺に気付いたオオアルマジロ達は、一斉に俺の方を見て逃げていってしまった。 

 やはりモンスターは、冒険者の強さを感じ取る事ができるらしい。 


 惜しい事をした。

 主に金と経験値……。 


 追いかければ倒せると思うが、先にあの子犬っぽい魔物の保護だ。 


 俺はその魔物に近づいていくと、そこに残されたベビーウルフは、俺を見てお腹を上に見せるように転がって鳴き始める。 



 ゲルゥ ゲルゥ。 



 その姿は、実家で飼っている犬が降伏を示す動作と同じだった。 

 それを思い出すと少し可愛く見えてきて、俺はその剥き出しの腹を優しく撫でる。


 すると気持ちよさそうにベビーウルフ鳴いた。


 魔物のくせに襲い掛かってこないし、めっちゃ可愛いなコイツ。

 鳴き声は変だけど。



「変な鳴き声だな。くぅーん、とか、ワンとかじゃないのか……。」 



 俺に敵意が無いのを悟ったのか、今度は立ち上がって俺の手をペロペロし始めるベビーウルフ。 



「お前……可愛いなぁ。どっから来たんだ?」 



 俺がそう聞くと、ベビーウルフは草原に向かって、


 ゲロン! 


と鳴いた。 


 俺にはそれが「あっち!」と答えたように聞こえる。 

 言葉が通じるはずもないが、何故かそのベビーウルフには通じている気がした。 



「かわいい! ねぇ、サクセス。この子飼おうよ! ねぇいいでしょ?」 



 リーチュンは、その可愛さに目を奪われ、俺に上目遣いでお願いしてくる。


 確かに可愛い。リーチュンがな。



「ん? そういえば魔物って飼ってもいいのかな?」 


「はい、飼うことは可能かと。魔物使いという職業もありますし。ただ、私達の中に魔物使いはいませんので色々面倒な事が起こる可能性はあります。」 


 俺の質問にシロマがすぐ答える。 

 その言葉は冷たく感じるが、目は完全にベビーウルフの虜だった。


 しかし、イーゲだけは鋭い目でベビーウルフを見つめている。 

 どうやらこいつは飼うことに反対らしい。 



「サクセス様、私は反対です。獣くさいのは我慢なりません。」 


「いや、お前の行動の方が獣くさいぞ、イーゲ……。そうなると、俺も我慢ならないな。」 


「飼いましょう! サクセス様!」 



 俺の一言で即刻意見を覆すイーゲ。 


 あほか。 


 とりあえず、これでベビーウルフを飼う事が決まったわけだ。 

 すると、リーチュンが興奮した様子でベビーウルフを抱っこする。 



「やったぁぁ! じゃあ今日からこの子は、私達のペットね。ねぇねぇ、この子に名前つけようよ! アタイはねぇ、ポチがいいと思うの!」 



 名前かぁ。

 確かに必要だな。 



「いや、サクセス様の下僕として、ここはやはり性獣がいいかと……。」 



 おい……この変態エルフ……。

 ふざけんな、それはどっちの意味だコラ。 

 詳しく聞こうか? あん? 


 リーチュンとイーゲはそれぞれ、ベビーウルフに自分がつけた名前で呼んでみるも、ベビーウルフは全く反応せず、俺の事をキラキラした目で見つめている。


 その様子は、まさに


【ベビーウルフは名前を付けて欲しそうにこちらをみている】


と言った感じだ。 


 しかし困ったな。 

 俺はこういったセンスが無いんだよな。

 そうだなぁ……。



「よし、お前はゲロゲロ鳴くから、お前の名前は今日からゲロゲロだ! いいか?」 


 

 ゲロロロぉぉぉ。 



 俺にそう呼ばれたベビーウルフは、嬉しそうに雄たけびをあげる。 

 どうやら、ゲロゲロという名前を気に入ってくれたらしい。


 そして、ふと俺の冒険者カードが光った気がして取り出してみると、そこにはさっきまでは無かった文字が加えられていた。


 サクセス 戦士?(魔物使い)レベル11


 あれ? マーダ神殿に行かないと転職できないのでは? 

 いや、カッコだから転職はしていないのか? 

 冒険者カードのシステムがよくわからない。 



「シロマ、見てくれ! なんか俺の冒険者カードがバグっちまった!」 


「え? こんなのをみたのは初めてです。長寿のイーゲさんなら知っているのではありませんか?」 


 シロマは、俺のカードをイーゲに渡す。 



「いえ。わかりませんね。ただ一つ言える事は、サクセス様が素晴らしいという事です。流石は我が愛する君。これでモンスターを連れていても問題にはなりません。」  


 この世界を長く生きるイーゲにもわからないか……。 


 不思議だな。 

 まぁとにかくこれでモンスターを連れてても問題がなくなるならばそれで良しとするか。 


 こうして俺たち4人パーティに新しく一匹のもふもふな仲間が加わるのだった。

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