第13話 復活の呪文と忍び寄る魔の手

【シャナク視点】



 ここはどこだ……?

 暗い……。

 何も見えないぞ。

 私は死んだのか?


 シャナクの目に映るのは、暗闇の世界。


 最後に思い出せるのは、モンスターの大群を殲滅していたところ、腹に槍が刺さった事。


……そして


 世にも恐ろしい勇者様が、自分に刺さった槍をいきなり引き抜いて……。



「そうか、私はあれで死んだのだな。」


「王様、申し訳ございません。」


「使命果たせぬまま、死んだ私をお許しください。」



 その時、シャナクに何者かの声が聞こえてきた。





  おお シャナクよ 


  しんでしまうとは なさけない


  しかものろわれているではないか


  そなたに もういちど 


  きかいを あたえよう


  のろわれしものよ さぁゆけ




 その不思議な言葉と同時に、シャナクの意識は覚醒していくのだった……。




【ビビアン視点】



 アタシはモンスターを倒した後、シャナクが倒れている場所に向かった。


 シャナクの周りには沢山の泣いている男達がいる。



「どいて! 邪魔よ!」



 アタシは、邪魔なそいつらを押し退けてシャナクに近づいた。


 これからアタシは、シャナクにある魔法を使うつもり。


 それは、アタシがギガドーンを覚えた時に習得したもう一つの魔法【ザルオ】



 私の脳内に送り込まれた情報によると、この呪文の効果は蘇生みたいだわ。


 この魔法で本当にシャナクが蘇るかわからないけど、シャナクがいないと少し困るから使ってあげる事にする。



 べ、別に……

 どうしても助けたいわけじゃないんだからね!


 か、勘違いしないでよね!

 ただ、ちょっと私も、悪い事したかなぁって……。 


 

 シャナクに近づいたアタシは、改めてシャナクの状態を確認すると、腹に大きな穴が開き、血がヤバイ事になってる。


 その光景はとてもグロテスクで、復活の呪文で生き返るとは到底思えなかった。



 アタシは見るに絶えず、ザルオを使う前に回復させようとする。


  【ハイヒール】


※ シャナク は かいふくしなかった。



 ダメみたい。

 回復魔法はシャナクには効かなかった。


 そしてどうやら魔法だけでなく、回復アイテムも無駄みたいだわ。


 よく見ると、シャナクの体には薬草と思われる緑色の液体が沢山ついている。

 

 誰かが先に薬草等を使って、傷の治療を試してくれていたみたいだけど、効果はなかったみたい。



 ダメね、傷は塞がらないわ。

 死んだら細胞の再生もできないって事かしら?

 まぁ、今はそんな事どうでもいいわね。



 使うわよ!【ザルオ】



 アタシは蘇生の魔法を唱える。



  ビビアンは ザルオを となえた!


  シャナクは いきかえらなかった!



 シャナクに変化はない。


 確か死んでから時間がそこまで経たなければ成功するはず。



 でも、成功率は低いみたいね。


 しょうがないから何度か試してあげるわ。


 ありがたく思いなさいよ!




  ビビアンは ザルオを となえた!


  シャナクは いきかえらなかった!


  ビビアンは ザルオを となえた!


  シャナクは いきかえらなかった!


  ビビアンは ザルオを となえた!


  シャナクは いきかえらなかった!


  シャナクは いきかえらなかった!

  シャナクは いきかえらなかった!

  シャナクは いきかえらなかった!

  シャナクは いきかえらなかった!

  シャナクは いきかえらなかった!



  シャナクは いきかえらなかった……。



「もう! 何で生き返らないのよ! そんなに死んでたいなら、勝手にして!!」



 何度やっても生き返らないシャナクに、遂にアタシは痺れを切らしてしまった。


 その時、知らないひげもじゃの男がアタシに近づいてくる。


 後で聞いたらそいつはこの船の船長だったみたいだわ。


 そしてそいつは、いきなりアタシにお願いし始めた。



「勇者様、どうかこのお方を助けて下さい。」



 こいつ馬鹿なの?



「やってるわよ! 見てわからないの! 何度もやってるわよ!」



 アタシはわざと生き返らせてないようにしていると言われたみたいで、無性に腹が立ってきた。


 

「そんなに生き返したいなら自分でやりなさいよ!」



 アタシは怒りのあまり、そいつを怒鳴りつける。


 すると、そいつは自分が言った言葉の意味に気付いたのか謝りだした。


「も。申し訳ございません。あの、関係あるかわかりませんが、先ほど船内でこのような物を見つけたので、何か役に立つのではないかと思いお持ちしました。」


 そいつが持ってきたのは、怪しく黒い光を放つ、黒い球。


 それはバーゲンを倒した時に地面に落ちていた、アタシが拾った玉だった。



 でも、こんな黒いオーラ出てたかしら?



「何よそれ! 私のじゃない。アンタ盗んだわけ!?」



 ビビアンから放たれる威圧で、恐怖に怯える船長。


 まさか声をかけた勇者が、これほどまでに野蛮だとは思っていなかった。



「い、いえ! とんでもございません! 何か光るものが見えたので、見に行くとこれがあったのです。もしかしたら何か勇者様に役立つかと思い……。」


「言い訳しないで、この泥棒ひげ! 早く返しなさいよ!」



 鋭い眼光で船長を睨みつけるビビアン。


 船長は反射的に、手に持っていた魔石を渡した。



「は、はい!」



 こんな玉が何の役に立つかわからないけど、まぁいいわ。


 アタシは、復活の呪文を何度でも唱えるだけよ。



 しかしその玉のお陰なのかわからないが、次の魔法は一発で成功する。



  ビビアンは ザルオを となえた!


  シャナクは いきかえった!



 アタシがさっきと同じに復活呪文を唱えると、何故か持っていた黒い球から不気味な黒いモヤが現れる。


 そして、それがシャナクに吸い込まれていくと、シャナクの心臓が動き始めた。



【ハイヒール】



 アタシはすぐに回復魔法を唱えたわ。


 また出血多量で死なれても困るからね。



 すると今度は、シャナクの傷がふさがっていき、次第に顔が赤みを帯びてきた。



 そして、シャナクの目が開き始める。



「わ、わたしは……あれ? ここは?」


「起きたわね、シャナク! 死んでるんじゃないわよ!」



 そう言ったアタシの目には、涙が浮かんでいた。


 べ、別に心配だったわけじゃないんだからね!


 ただ、ちょっとだけ。


 そう、ちょっとだけ嬉しかっただけよ。



「そうですか、そういうことですか……ありがとうございます勇者様。」


「ふん! 起きたなら、さっさと私に美味しいコーヒーを用意することね。」


 シャナクは自分が勇者様に生き返らせてもらった事に気付いた。


 そして、落ちている魔石にも……。



「はい。直ちに用意いたします。あれ? どうしてこれがここに? 無くなったら大変ですね。」



 シャナクはそう言うと、早速コーヒーを準備するため、その玉を持って部屋に戻る。



 その時、どこからか謎の声が聞こえた気がした。



 オマエニハ キタイシテイルゾ



「ん? なんか今聞こえたような? 気のせいか。生き返ったばかりでちょっと耳がおかしくなってたんだな。」



 空耳だと思ったシャナクは気にしない。



「早く用意せねば、また殴られて殺されてしまいますね。急ぎましょう。」



 こうしてシャナクは無事生き返った。



 その後、コーヒーがまずいと言われて殴られ、再度三途の川を渡りかけるシャナク。



 まだ二人の旅は続くのだった……。





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