第12話 船上の悲劇

「どうしたモンスターども! もうくたばったのか? この賢者シャナク、まだまだ魔法は使えるぞ! わっはっは!」



 シャナクは物見台から高笑いを続けている。



「さすが! 素敵!」


「抱いてぇ!」


 船内からは黄色くない、おっさんたちの声援が聞こえてきた。



 なぜだろう…女性の声援が一つもない。



 すると、一人の金髪の少女も騒ぎを聞きつけ、船室から甲板に出て来て叫んだ。



「シャナク! あんたのうるさい声で目が覚めちゃったじゃないの!」



 客室内でいつものように一人情事にふけっていたビビアンは、シャナクの気持ち悪い笑い声で現実に戻されてしまい、ご機嫌斜めである。


 そんな状況に気づけない位、有頂天になっているシャナクは自慢気に話し出す。



「おぉ! 勇者様! このシャナク、勇者様に害が及ばぬよう、魔物を蹴散らしておりました。勇者様にも是非見ていただきとうございました。」



 まるで褒めて欲しそうに話すシャナク。


 だがそんなに甘くない勇者。



「蹴散らすなら、最後までやりなさいよ! まだ残ってるじゃないの!」



 ビビアンは燃えて盛っている海を見ながら言った。



「ははは、何を。もう既に魔物は……。」



 その時だった……


 燃え盛る海の上から、何かが凄い勢いで飛んできた。


 それは一瞬で船まで到達すると、物見台に立っているシャナクの腹に突き刺さる。



「ぐはっ!」



 それは三又の槍だった。


 その槍先はシャナクの腹部を簡単に貫通すると、途中で止まる。


 シャナクは腹部に深いダメージを負い、口から大量の血液を放出した。



「馬鹿、調子に乗って油断するからよ!」



 ビビアンはそう言うと、シャナクの立っている物見台までジャンプし、シャナクに刺さった槍を一気に引き抜いた!



「ふん!」


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」



 シャナクは三又の剣先が逆に引き抜かれたことで致命的なダメージを負うと……



ーー死んでしまった。



「シャナク! シャナク! よくもシャナクをやったわね!」



 ビビアンは断末魔をあげて倒れたシャナクを見て、槍が飛んできた方を睨みつけて叫んだ。



「はっはっは! 目障りな賢者は死んだか。しかし、勇者とはえげつないな。仲間にとどめを刺すとは。」



 そいつは目の前の燃え盛る海を突き進んでいる大魔王イカの頭の上に立って話しかけてくる。


 その魔物は、緑色のトサカのついた半魚人のようなモンスターだった。



「誰よアンタ! 出てきなさいよ! それと勝手に人のせいにしないで!」


「我が名は八天魔王が一人! 海王グラコッサである。海を統べる王にして、お前を殺す者だ。大魔王様の命にてここで討たせてもらう! それとその賢者を殺したのは間違いなくお主だぞ?」



 グラコッサはビビアンに名乗りを終えると、今度は三叉の槍を掲げて動き始めた。



グラコッサは グラコッサのヤリを ふりかざした!


グラコッサの しゅびりょくが100ふえた!



 グラコッサの身体が、水のバリアで包まれていく。


 しかし、その隙にビビアンも動いた!



「何してんのかわからないけど、シャナクの仇よ!」



  【ギガドーン】



 ビビアンは ギガドーンを となえた!



 ビビアンは30レベルになった時、二つの新しい魔法を覚えていた。


 その内の一つである【ギガドーン】は、勇者しか使えない究極の雷撃魔法である。


 グラコッサの上空に黒い雲が突然現れると、その雲から極大の雷がグラコッサ目掛けて落ちてきた。



 上空の空が激しく光ると、遅れて轟音があたりに響き渡たる。


 雷が落ちた跡には、真っ黒こげになった大魔王イカだけが見えた。



 だがそこに、グラッコッサはいない。



 突如、激しい金属音が鳴り響く。



 グラコッサはビビアンが魔法を放った瞬間に、船に飛び移っていたのだ。


 雷の余波はグラコッサの水のバリアのみを消失させ、グラコッサにダメージはない。


 そして今まさに、魔法を唱えて隙だらけとなったビビアンに槍を突き刺そうとしたのだが、ビビアンの剣によって弾かれてしまった。



「やるな、勇者よ。流石、魔王バーゲンを屠っただけはある。だが……これはどうだ?」



 グラッコッサはビビアンの剣に弾かれると、後方にジャンプして距離を取る。


 そして、再度槍を掲げて不思議な呪文を唱え始めた。



「ナミナミオオナミ、ナミナミツナミ、イタクナッタラスグセデス……。」



 次の瞬間、ビビアン達が乗っている船に向かって、巨大な津波が襲い掛かってくる。



「はっはっは。私は油断しない。さっきの攻撃で倒せないならば、私に勇者は倒せないだろう。しかし、この津波からは逃れられまい。船ごと沈めてしまえば、私の勝ちだ。」



 グラッコッサは戦闘で勝てないと悟ると、船を破壊しようとしたのだった。



 しかし……。


 そこにいるのは、歴代最強の勇者ビビアン。



「ふん! そんなもの!」



 ビビアンはそう言うと、津波に目掛けて何度も剣を振り続けた。


 すると、大王者の剣から発生した無数の竜巻が、襲い来る津波とぶつかり合って、津波は船を中心に真っ二つに割れる。


 そして、二つに割れた波は船を避けるようにして、船を通り過ぎて行った。



ーーつまり、船は無事である。



「ば、ばかな! 勇者は化け物か!」



 その光景を目の当たりにしたグラコッサは、勇者の凄さに驚愕する。


 そしてその隙を逃すようなビビアンではない。


 津波に竜巻をぶつけた瞬間、ビビアンはグラッコッサ目掛けて突っ走っていた。


 やっとそれに気付いたグラコッサ。


 しかし、時既に遅し……。



「ま、まて! は、話せばわか……。」



 気付いた時には、グラコッサの目の前には剣を振り抜こうとするビビアンがいた。


 そして最後の命乞いをする間もなく、真っ二つに切り裂かれてしまう。


 船上にいたグラコッサは塵となり、大きな魔石だけを残して消えた。


 船上で一人佇むビビアン。


 彼女は一言呟いた。



「これで、シャナクの仇が取れたわ……。」



 平穏だった船の旅に、突如訪れた悲劇。



 船を救った救世主、そうシャナクの周りでは、多くの船員たちが泣き叫んで、その死を悼む。



 こうして、シャナクの冒険の書は幕を閉じ……るかと思いきや、この後まさかの展開が……!

 

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