最弱装備でサクセス!〜どうのつるぎとかわの防具しか買えなかった俺だけどセットスキル【レアリティ777】の効果がチート過ぎて伝説の戦士になってしまった〜
キミチカ
序章 貧乏農家の三男
辺境の村、そしてその近隣にある森の中。
今一人の少年が、目の前に現れた魔物と呼ばれるイノシシに吹き飛ばされている。
「ぐぁぁぁ!」
「サクセス!?」
そこにその少年を探す為に森にきていた少女が、少年のピンチを見て駆け付けた。
その少女はサクセスと呼んだ少年を庇うように前に立つと、突進してくるイノシシに向かって拳を振り抜く。
どうみてもその魔物は少女が勝てるような相手には見えない……にも関わらず、少女に殴られたイノシシは一発で頭部を砕かれて絶命した。
一方、それを瀕死になりながら見守る少年サクセス。
彼はその少女が一撃で倒した魔物を前に、足が竦んで動けなくなると一撃で倒されてしまったのである。
「大丈夫、サクセス? 今回復するわ。ハイヒール!!」
少女の手から温かい光が放たれると、サクセスの体の傷がみるみる回復していく。
「ビ、ビビアン……。なんで?」
意識が戻ったサクセスは、目の前にいる幼馴染の少女を見て呟いた。
「当たり前でしょ!! 探したんだからね! なんで私に黙って森に来たのよ!」
傷ついたサクセスを前に、本気で怒るビビアン。
「べ、別にいいじゃないか。俺がどこで何したって俺の勝手だろ?」
「よくないわよ! だってサクセスは……こんなにも弱いじゃない!」
その言葉がサクセスの心を深く抉る(えぐる)。
そう、サクセスは弱いのだ。
貧乏農家の三男として生まれ、特別な才能もなければ、力だって強くない。
いつだって今回と同じ様に、幼馴染の女の子に助けられて、その背中の後ろに隠れている。
そんな自分が情けなくて……不甲斐なくて……そして許せなかった。
いつまでもこのままじゃだめだ!
守られてばかりいる奴は男じゃない!
それに俺にはもう時間が無い……。
そう考えたサクセスは、今回一人で山の魔物と戦いに来たのである。
この世界最弱と言われるスライムなら、なんとか倒せるかもしれないと思ってここまで来たのだが……
なんと運が悪い事に、最初にエンカウントしたのは、この森最強の
暴れボア
だったのである。
その姿を見た瞬間に固まるサクセス。
そして自分に気付いた敵は、サクセスが逃げる間もなく突進してきて、それをくらったサクセスはあわや死ぬ寸前であった。
当然、それを目にしたビビアンが怒るのも無理のない話。
「……そうだよ。俺は……俺は弱いよ。ビビアンみたいに魔法も使えなければ、力だって強くないさ。でも……それでも! 俺は強くなりたい。ビビアンに俺の気持ちなんかわからないよ!」
サクセスは立ち上がると、目に涙を浮かべながら村に向かって走り出す。
普段そんな風に怒る事のなかったサクセスを見て面をくらったビビアンは、一瞬だけその場で固まったが、直ぐにサクセスを追いかけた。
当然ビビアンの足ならサクセスに追いつくのはたやすいが、普段と違うサクセスに対して何と声をかけていいのかわからない。
その為、サクセスの後ろを走りながら、近づいてくる魔物を全て瞬殺していき、サクセスが安全な村に辿り着くまで守り続けていた。
そして、そんな事にも気づかず無我夢中で走っているサクセスは家に辿り着く。
「ただいま、母さん。」
「あら、服が汚れているじゃない。またビビアンちゃんと遊んでたの?」
「まぁ……ね。そんなところだよ。それよりも、今日は良い匂いがするね。」
「ふふ……。サクセスの好きなシチューを作っているからね。お肉もちゃんと入ってるわよ。」
「え? お肉? 大丈夫なの!? そんな高級品……。」
「いいのよ。だって、私にはそれくらいしか……。ごめんね。ごめんねサクセス……。」
突然泣き出す母親。
そんな母の肩にサクセスは手を置くと、優しく言った。
「大丈夫。俺は大丈夫だから。母さんは心配しないで。それよりも、シチュー楽しみだよ。ありがとうお母さん……。本当に今までありがとう。」
「サクセス……サクセスゥゥ!!」
息子の優しい言葉に更に強く泣き出した母親は、その両手でサクセスを抱きしめる。
なぜ母親が泣いているのか?
それは明日、サクセスがこの家から追放されるからである。
サクセスの両親は農家の人間であり、正直いってかなり貧乏だ。
お肉なんて年に何回か口にできればいい方。
故に三男であるサクセスは、一六歳という成人を迎える時に家から出ていくように言われていたのである。
サクセスが時間がないと考えていた理由こそ、それだ。
この家を出たら一人で生きていかなければならないし、当然仕事もない。
故に、少し離れた街に行って冒険者となるしかサクセスに道は残されていなかった。
だが……サクセスは弱い。
本当に弱い。
正直、スライム一匹すら倒せるかも危うい。
彼が強くなろうとするのは当然であった。
それに……小さい時は気にしなかったけど、大きくなるにつれて、毎回ビビアンに守られている自分がみじめに感じ始めたのも理由の一つ。
強くなりたい……。
その想いは日増しに強くなるも、ビビアンがそれを否定する。
「サクセスは弱くてもいいの! アタシがずっと守ってあげるんだから!」
満面の笑みで普段からそう告げるビビアン。
それがいつしか、サクセスにとって呪いの言葉に変わっていった。
自分はビビアンがいなければ村の外にも出れない。
ビビアンなしでは、外に出るのも怖い。
今回、その呪いに打ち勝つために、ビビアンにばれないように勇気を出して村の外に出たのだが……結局はまたビビアンに守られてしまった。
ビビアンは可愛い。
小さい頃から可愛いと思っていたし、大きくなってからもその魅力は増している。
正直、自分にはもったいない程の女性だ。
子供の頃は結婚の約束もしたけど、多分覚えてないだろう。
それにもしかしたら、いつまでも弱い自分はその内に愛想をつかされて捨てられてしまうかもしれない。
そしたら俺は一人だ。
才能もない。
力もない。
容姿も別によくない。
そんな自分となぜビビアンが一緒にいてくれるかわからない。
だが、それも今日までだ。
明日には俺は家を……いや、村を出ていかなければならないから。
母親に抱きしめられながらそんな事を考えていると、突然家の外から自分を呼ぶ声が聞こえる。
「サクセス! いるんでしょ! 早く出てきて!」
ビビアンだ。
正直、今は彼女に会いたくない。
あえば、自分が何を言うかもわからないし、それに……。
「サクセス……出てあげなさい。まだ言ってないんでしょ?」
ビビアンの声に応えないサクセスを見て、母親はサクセスを離して聞くと、それに小さく頷く。
「……うん。」
そう。実はビビアンには、まだ明日村を出る事を言っていなかったのだ。
何度か言おうとしたけど、心配をかけたくなかったし……うまく口にすることができなかったのである。
気まずそうな顔をしながら、ゆっくりと家の扉を開けるサクセス。
ーーそして言った。
「ビビアン。大事な話があるんだ。ちょっと少し歩こうか。」
「え? どうしたの? もしかしてさっきやられた傷がまだどこか痛いの?」
サクセスの表情に、心配を強めるビビアン。
しかし、サクセスは首を横に振る。
「違う。傷はビビアンのお蔭でどこにもないよ。とにかくついてきてほしい。」
「わかったわ。」
ビビアンはそう返事すると、黙ってサクセスの後ろを歩く。
そして一本の大きな木の下で止まると、サクセスはビビアンに向き直った。
「俺さ、農家の三男でしょ。明日家を追い出されるんだ。だから俺は冒険者になる! 強くなりたいんだ。俺が強くなったらまた一緒に冒険しよう!」
無理に作り笑いを浮かべながら、必死に想いを伝えるサクセス。
しかし、その言葉を聞いたビビアンは顔を真っ青にして叫ぶ。
「ダメ! サクセスは弱いんだから、すぐに死んじゃう! 絶対ダメ! アタシが16歳になるまで待って! お願い。それまで家にいられないなら、うちにいればいいから。」
ビビアンは必死だった。
なぜならビビアンが言葉にした通り、今の弱いサクセスが冒険者になれば死んでしまう可能性が高い。
彼女にとって誰よりも大切なサクセスが死ぬなんて許容できるはずもなかった。
……しかし
「そうやって……そうやって俺は、いつまでビビアンに守られなければいけないんだ? 俺はそんな自分が嫌だから冒険者になるんだ!」
突然声を荒げるサクセス。
その表情は、怒りからか、悲しみからか、それとも自分に対する情けなさを隠すためか、複雑でありながらも険しい表情だった。
しかし、当然ビビアンも引かない。
ここで引けばサクセスが死んでしまう。
「それの何が悪いのよ!? アタシとずっと一緒にいてよ! サクセスの嘘つき!!」
ビビアンはその綺麗な瞳に大粒の涙を浮かべて言い返すと、サクセスは悲しそうな顔をしたまま
「ビビアン、俺はそれでも行くよ。強くなりたいんだ。強くなって立派な冒険者になったら、また会いに来るよ。」
そう言い残すと、振り向かずにその場から立ち去ってしまう。
そして大きな木の下に取り残されたビビアンは、走り去るサクセスを追う事が出来ずに、その場で泣き崩れてしまうのであった。
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