第一部 最弱装備から始まる旅立ち

第1話 旅立ち

「それでは父さん、母さん、行ってきます! もし自分が死んだとしても悲しまないでください。16歳が寿命だと思って生きてきましたんで……。」 



「すまん……すまんサクセス! 1ゴールドも持たせてあげられない不甲斐ない父を殴ってくれ……。」



「サクセス……絶対に死んだらダメです! どうしても無理だったら戻ってきなさい、あなた一人だけならなんとかしてあげられるから……。」


 別れの挨拶に涙を流す両親。


 しかし俺は振り返らない。

 なぜならこの家に自分を養うお金なんてないのは知っているから。

 両親は貧乏ながらも優しく愛をもって育ててくれた、それだけで十分だ。


 こうして俺は家族と別れ、旅立ちの町アリエヘンに向かうことなる。



「うひー、アリエヘンまで遠いなぁ。も、モンスターとか突然出てこないだろうなぁ?」



 俺は初めての一人旅に、若干恐怖を覚えながらもアリエヘンまで急いで向かう。



 「も、モンスターなんか怖くなんかねぇし!」



 この近くには、スライムという怖い魔物が出没するのだが、今のところ運がよく遭遇していない。

 俺は、もしもスライムと遭遇した時の為に、念の為に拾っておいた石と太い木の棒は持っている。

 現在の所持品は、幼い頃よりこの日の為にコツコツと溜め続けた


    300ゴールド


そして、

   【ひのきのぼう】 攻撃力1 

   【ぬののふく】  防御力1


であり、能力については冒険者ギルドでもらえるカードで確認するまではわからない。


 だが見なくてもわかる。くそよわいだろう……。


 おっと、そんな説明をしていたら早速見えてきたぜアリエヘン! 

 いや、今のは突っ込んだわけじゃないよ? 町の名前がアリエヘンってだけさ!


 俺の家から町までは徒歩で3時間。

 つまり、まだお昼前である。


 さっそく町に着いた俺は、まずは武器屋に向かった。


 この町は特に大きい町ではなく、武器屋も防具屋も一つしかない。


 更に言えば、周辺の魔物が弱いのもあって、売っている装備も大して強い物は置いていないらしい。


 しかし、かまわない。



 どうせ俺には無理なんだ……。

 買えないんだ……。

 だって300ゴールドしかないんだ!



 所詮は貧乏農家の息子。

 いきなり最初に訪れる町で最強装備を買って無双するなんて、夢のまた夢。

 そんな可哀想な俺は、みすぼらしい武器屋の前まで行くと元気なオッサン(店主)に声をかけられる。



「へいらっしゃい! 何を探してるんだい? あんちゃん!」 


「あの……武器をちょっと……。」


「ほほぉ……さては新米の冒険者だな。いいぜ、好きなのを見な! 金は持ってるよな?」


「はい、少ないですが。ですので、安くていい武器はありませんか?」


「おいおい、ここにあるのは全ていい武器だぜ! この鉄の剣なんてどうだ? これがあれば新米でもスライムをズッパズッパいけるぜ!!」


「おお! 格好いい! 手に取って見てもいいですか?」


 店主が見せてくれた武器は、キラーんと光る何の変哲もない鉄の剣。


 しかし、これから冒険者になって魔物と戦おうとする俺には、それがとても眩しく見えた。

 故に欲しい。

 という事で、早速手に取ってその武器を確認する。



【鉄の剣】 攻撃力12 スキル 力3 レアリティ281



 この世界では不思議な事に、装備に手を触れるとそのステータスが脳内に情報として入ってくる。

 それ故に商人は、客を騙して粗悪品を売る事はできない。

 それと気づいただろうか? このレアリティという存在に。

 この数字が小さい程ステータスやスキルに良いものがついているのだ。



「いい武器ですね! いくらですか!?」 


「だろう、これは匠が作った業物だぜ。見たところおまえさんはまだ駆け出しみたいだから、500ゴールドのところを特別に300ゴールドで売ってやる! 優しいだろ?」


 武器屋のオッサンはドヤ顔でそんな事を言うが、俺の表情は暗い。



 「3、300ゴールドですか……。」 



 そう、俺の全財産は300ゴールド。

 まるでピンポイントで攻めて来たような価格だ。


 こいつ、もしかしてエスパーか? 


 正直喉から手が出る程欲しい……だが無理だ。

 これを買えば、俺は飯も食えずに野宿となる。



 初日からホームレスとか、そんな悲しい冒険があっていいわけないだろ!



 ということで、少しごねてみることにした。



「すっすいません、もっと安くしてもらえませんか? もしくはもう少しお安い物を……。」


「馬鹿野郎! これ以上安くなんか出来るかバーロー! それが買えないなら、これなんてどうだ? これなら150ゴールドで良いぜ!!」 



 武器屋のおっさんが次に取り出したの鉄の剣よりワンランク下の武器【銅の剣】だ。

 正直、最初に鉄の剣を見せられたからか、あまり魅力を感じない。

 しかし、金が無いんだからそうも言ってられないか。


 俺はその場で腕を組んで考える。 



 う~ん、150ゴールドかぁ……。

 悪くはないが、防具も考えるとやはり厳しいな。



「すっすいません、もう少し安いのを……。」


「俺をからかってるのか? これより安い武器なんて……あぁ、一応そのクズ装備ボックスに入ってる奴なら全部50ゴールドで売ってやる。だがクズ装備だからな? 後でぼったくられたとかいうなよ!」



 おっさんが指差すクズ装備ボックスは、正直ゴミ箱にしか見えない。

 どれも埃が被っており、とても売り物とは言えない代物。

 とはいえ、背に腹は代えられないか……。



「わかりました……。その中から探してみます。」 


 俺がそう言うと店主は興味を無くしたのか、店の奥に行ってしまった。



「くず装備か……。」 


 

 一応ささやかな期待を胸にクズ装備ボックスの中を見た俺だが、その期待は無に帰る。



 さび付いた短剣、木に布がまかれた棒、先が折れた鉄の剣……。



 どれも今持っているひのきの棒と大差がない。


 だが、箱の奥までガサゴソと探してみると、思わぬ掘り出し物を見つけた。



「お!? これいいじゃん!」



 ちょっと汚れてはいるが、最後に見たどうのつるぎと同じ、銅製の剣。

 早速手に取って確認してみる。



【どうのつるぎ】 攻撃力7 スキルなし レアリティ777



「まぁ、この中じゃ一番マシだな……よし! 決めた。すいませーーん! 決まりました!」



 俺が店内奥に向けて叫ぶと、さっきと違ってやる気無さそうに店主が出てくる。



「おう、早かったな。あぁそれか……レアリティが低すぎるどうのつるぎだな。」


「はい、金もないのでこれにします。」



 俺は、店主に50ゴールド支払うと店を出た。



 残金250ゴールド。



 これならなんとか、防具も買えそうである。 

 大分お金が浮いた事から、今度は意気揚々と防具屋を訪ねる。

 だがしかし、そこである重要な事に気付いた。


 防具というのは、一つではない。

 頭、鎧、盾、靴と四箇所分必要だったのだ。

 そうなると、やはり全部揃えるには金が足りない。


 しかし、防具だけは絶対に妥協したくない。

 なぜならば、痛いのは絶対に嫌だし、そもそも農民の俺は、防具をキチンと装備していなければ間違いなく死ぬ。 


 という事で、やはりここでもクズ装備ボックスから装備を選ぶことになった俺。

 やっぱり武器と同じで正規品ではないため、どれも粗悪品だ。


 しかし、全て30ゴールド均一であるため、これならば俺でも防具を揃えられる。

 全部で120ゴールド、ちなみにこんな感じ



【かわのよろい】 防御力4 スキルなし レアリティ777

【かわのたて】 防御力2 スキルなし レアリティ777

【かわのぼうし】 防御力2 スキルなし レアリティ777

【かわのくつ】 防御力2 スキルなし レアリティ777



 なんとすべてレアリティ777! 

 偶然にしてはよくできている。 

 全て粗悪品でボロボロだけどね。



 言うな! あるだけマシと思え、俺!



 とは言え、この帽子は恥ずかしすぎるだろ……人前で被るのはやめておくか。


 こうして無事? 装備を整えた俺は、次に冒険者ギルドに向かうことにするのだった。

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