第26話 アダルトコーナー

「おかしいでござる。無いでござるな……。」


「まじか……嘘だろ……。」



 まさかの芸術コーナーに目的の物は置いていなかった。



 流石にエロ本は置かれていないのか……。



 俺はその事実に打ちひしがれていると……あるものを発見する。



「なぁイモコ、あそこになんか暖簾(のれん)みたいなのがあるけど、あの先に何があるか知ってるか?」



 俺が指さすのは、「18禁」と文字が書かれた暖簾。

 18禁が何かはわからないが、その言葉は何故か妙に俺の心をゾワゾワさせた。



 一体、なんなのだあれは……。

 いや、そんな事はどうでもいい。

 さっきから俺の第六感が激しく告げている。



 あそこに入れと!



「師匠、あれは18歳未満は立ち入り禁止という意味でござる。ちなみに師匠は何歳でござるか?」


「じゅ……じゅうはちだ!」



 さりげなくサバを読む俺。

 ここまで来て、年齢制限で入れない等あってはならない!

 2歳くらい誤差だろ!



「それなら問題ないでござるな。しかし何故あのような年齢制限をしているのでござるか……とりあえず中を確認するでござるよ。」


「お、おう。行こう行こう、直ぐに行こう!」



 イモコは訝しめな(いぶかしめな)目を暖簾に向けながらも、スタスタと歩き始める。

 当然俺も、それに続いて急ぎ足で向かった。


 年齢制限に引っかかっている以上、誰かに見られる訳にはいかない。

 俺は周囲をキョロキョロと確認した後、ガバっとその暖簾を潜り抜ける。



 そして暖簾を潜ったその瞬間……俺は遂に辿り着いてしまった。



 そう……ひとつなぎの秘宝に……。



「おぉ! 師匠! あったでござるよ!」



 一方、目的の物が見つかった事で大きな声をあげるイモコ。

 感動して固まっていた俺も、それには流石に焦ってイモコの口を塞ぐ。



「シーーッ! イモコ、静かにしてくれ。誰かに見られたら……。しかし、これはやばい。もうこの瞬間にも鼻血が出そうだ。」



「モゴモゴ……も、申し訳ないでござる。」



 イモコがおとなしくなったのをみて、俺は再度周囲に目を向けた。


 そこに広がるは、女の裸が表紙となっている数多の本達。


 因みに入った先の看板には、「春画コーナー」と書かれている。

 つまり、此処こそが俺が探し求めていた楽園だ。


 一つ気になるのは、至る所にティッシュが置かれてところだが気にしない。

 というか気を遣い過ぎってレベルじゃないだろ、それ。

 流石にここで戦闘を開始するのはプロを通り越して狂ってるわ。



 とりあえず俺は、目移りしながらも並んでいる本のタイトルと表紙絵を確認する。


 

 【姫の一人情事】

 【狙われた街娘】

 【大根の陰謀と陰毛】



 なんだこれ。凄いタイトルだな……

 まるで別世界にきたみたいだ。


 ヤバイ、やばいぞ。

 どれから読めばいいのかわからない!



 俺がその光景に圧倒されていると、イモコは軽い感じで1冊を手に取ると読み始めていた。



 やりおる……この男……


 

 イモコが手に取った春画のタイトルは……



【練兵所の課外訓練~絶倫武士は萌え娘を千人斬る~】



 うわっ!

 なんかすげぇ濃そうなの読んでるよ!

 いや、俺も負けてはいられねぇ!

 シロマじゃないけど、俺はここを制覇するんだ!



 ふんっ!

 童貞の呪いだかなんだか知らんが、ざまぁみろ。

 これなら邪魔は入るまい。



 事前学習ばんざーーい!!



 俺は脳裏に映った悔しそうにするトンズラを踏みつけ、手始めに一冊手に取った。



 なぜそれを選んだのか?

 そう、それは表紙絵にシロマに似た女性が書かれていたからである。



【読書マニアの成り上がり~性の知識を蓄えた少女は殿様を寝取る】



 俺はゴクッと生唾を飲み込むと、その本のページを捲り始める。



 おっほーーー!!



 カッと見開いた俺の目に映るは、正に探し求めていた新しき世界!



 最初のページからいきなり図書館みたいなところで、一人プレイを始めるシロマ似の美少女。

 そのページだけで、俺はご飯3杯は余裕だった。


 

 初動から大分責めているな……

 だが俺はこういうのを求めていたのだ。


 秘部は……秘部はまだか!!

 じらさんといてぇぇぇ!



 (*´Д`)ハァハァ…… 



 全集中! エロの呼吸 



 俺が抑えきれぬリビドーを全開放し、次なるページを捲ろうとしたその時……そいつは突然現れた。



「読書中失礼します。一応若めの方の年齢確認を行っておりまして、失礼ですが身分証を見せていただけますか?」



 !?



 現れたのは如何にも書物庫に居そうな眼鏡姿の若い店員。

 俺に対してそう聞きながらも、その疑いのまなざしは間違いなく俺が18歳未満だと確信している様子だ。



 いつからだ! いつから俺は見られていた?

 いや、それはいい。

 そんな事よりも、これからがいいところだったのに!!



 俺は黙って見つめてくる店員から目を反らすと、唯一助けてくれそうな人物に目を向ける。



「えっと……イモコさん……。」



 ……がしかし、どうやらイモコは夢中になっているようで、全く気づいてくれない。


 だがそれを見た店員は、イモコに目を向けて俺に尋ねた。



「あちらの方はお連れの方ですか? ですが、あちらの方はどう見ても18歳を超えていますので……とりあえずあなた様のを確認させてください。確認できない場合は、以後、こちらの書物庫への出入りが禁止となります。」



 あまりに残酷な事実を突きつけられている俺。

 どうにか弁解をしたいところだが、この様子だと何を言っても確認するだろう。

 唯一このピンチを乗り切れるとしたら……奴しかいない。



 イモコオォォォォォォォ!!



 俺の心の叫びは、どうやらイモコには届かなかったようだ。

 流石に観念した俺は、仕方なくポケットから冒険者カードを取り出して店員に渡す。



「これは……外国の方でしたか。しかし、規則は規則ですのでこちらへの立ち入りは禁じられています。今回は初めての事でしょうから大目に見ますが、以後立ち入った場合は出入り禁止となりますのでお気をつけ下さい。」



 ここまで言われたら引き下がるしかないだろう……普通ならな!

 俺はそれでも食い下がるぞ!

 どうしてもあの続きがみたいんだ!



「そ、そこをなんとか! お願いします! 私の国では16歳が成人です。種族や文化が違う場合は、個別に物事を判断するべきではないでしょうか? なにとぞ、なにとぞ!」



 その場で土下座をして懇願する俺。

 流石にその声を聞いてイモコも気づいたようだ。

 しかし、俺に一瞬目を向けるも、直ぐに本に目を戻してしまう。



 う、嘘だろ……おい。

 あれだけ師匠師匠と言っておきながら……こいつ裏切りやがった!!

 間違いない、イモコは気づいていながら知らない人の振りをしている。



 裏切ったなイモコぉぉぉ!

 この恨みはらさでおくべきか!



 俺が深い恨みの眼差しをイモコに向けるも、店員は非情にも俺を無理矢理移動させようとする。



「言い訳は結構です。規則は規則ですので曲げる訳にはいきません。速やかにここから出て行ってください。」



 俺の必死の懇願むなしく、背中を押されて春画コーナーから追い出されてしまう俺。

 その時一瞬だけ後ろからイモコの視線を感じたが、どうやら助けてくれないらしい。



 信じてたのに……。

 くそーーー! 

 弟子解消だ、おら!!



 こうして俺は、目的を果たせぬままその場を立ち去る事になった。


 だが、ただでは転ぶまい!


 俺は脳裏に焼き付けたページを頼りにトイレに駆け込むのであった……。

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