第25話 秘宝
「ホットサンド、うま!!」
「ゲロロ~ン!!(このお肉も美味しい!!)」
俺はカフェで軽食と飲み物を注文すると、ゲロゲロと二人で食事を楽しんでいる。
カウンターで注文する時は何を頼めばいいのかわからずに困っていたが、どうやら当たりだったようだ。
といっても俺が選んだ訳ではなく、お店の人に勧められたものを人数分買っただけなんだけど、やはりわからない時は人の意見を素直に聞くに限る。
そして今、そのお勧め品を食べているわけだが
……この中からとろけるチーズが溢れ出てくる温かいサンドウィッチは絶品だ。
チーズとハムが絶妙なハーモニーを舌の上で奏でており、いくらでも食べれそうである。
そしてこのキャラメルマキアートとかいう謎の飲み物もヤバウマ。
ちょっと苦みがあるが、独特の甘みがそれとうまく調和しており、パンとの相性も素晴らしい。
落ち着いた雰囲気な場所に、柔らかいソファ。
そして軽い感じだけど、美味しい料理と飲み物。
「ここ最高じゃね?」
「ゲロォ!(最高!)」
そんな感じで食事を楽しんでいると、突然テーブルの上にドサッっという音を立てながら、大量の書物が置かれた。
「え? ちょ……シロマ? いきなりそんなに持ってきてどうするの?」
「大丈夫です。このくらいの量なら3時間もあれば読みきれますから。それよりも、いい匂いですね。私の分もありますか?」
本棚から大量の本を持って現れたシロマは、目の前に広がる料理に目を輝かせる。
正直、読書する事で頭が一杯になって、食事には目もくれないと思っていたが、これは予想外だ。
「もちろんあるよ。好きな物を食べてくれ。俺のおすすめはこのホットサンド! 温かい内に食べるといいよ。」
そう言いながら、シロマにホットサンドと抹茶フラペチーノを勧める俺。
飲み物は何種類か買ってみたのだが、この白いクリームが乗った緑色のドリンクも気になっている。
「美味しそうですね! これで朝まで頑張れます!」
シロマはホットサンドではなく、抹茶フラペチーノを見て目を輝かせていた。
どうやら、シロマのお眼鏡に止まったようである。
……って今、なんつった??
「いやいやいや、朝までって……。閉館時間は看板に22時って書いてあったから無理だぞ、それ。」
俺は入り口にあった看板に書かれていた営業時間を思い出す。
シロマがいくら粘っても、読めるのは22時まで。
というか、朝までは流石に付き合いたくはない。
「はい、わかってます。ですので先ほど係の人に確認したところ、有料にはなりますが、ここの本を借りる事ができるそうなのです。読みきれなかった本は持ち帰ってから読もうかと。」
そう口にするシロマの目は、キラキラと輝いている。
普通女性ならば、綺麗な宝石を前にしたらこういった目になるのかもしれないが、シロマにとっては宝石より本のようだ。
しかしまさかとは思うが、ここにある本を全て読みきるつもりでは
……いや、流石にそれは無理だろ。
「ま、まぁ、それならいいけど……ちゃんと睡眠はとってくれよ。いつ戦闘になるかわからないんだからな。」
「えっ? あ、はい。すっかり忘れてました。それでは3時間は寝る事にします。」
3時間って……というか徹夜するつもりだったのかよ。
何をしにここに来たのだと思っているんだ。
でもまぁ、こうやって知らない土地の見た事がない本を読むのはシロマにとって最高なんだろうな。
目的の合間ならば、ちょくちょく時間を作ってあげたい。
そんな事を話しながらも、シロマはあっという間に食事を平らげて読書モードに入る。
俺はそれ見て、目を疑った。
読書スピードがおかしい……
もはや読むというよりも、見るというレベルだ。
1ページ辺り3秒……ペラペラマンガじゃないんだからさ、早すぎるだろ。
まぁシロマだし、気にしたら負けだな。
それにこれだけ集中しているのなら、俺もゆっくりと目的の物を物色できるだろう。
「ちょ、ちょっと俺も本を探してくるわ。」
俺はちょっとどもりながらシロマにそう告げると、席を立った。
シロマは読書に集中しているみたいだし、聞こえてないかとも思ったが、意外にもちゃんと聞いていたようで「行ってらっしゃい。」とだけ言うと、すぐさま本に視線を戻す。
よ、よし。
怪しまれていないな。
おっしゃ! んじゃお宝さがしに行くぜ!!」
いざ、秘宝【エロピース】を求めて!
エロ本王に……俺はなる!
しかし俺は、いざ書物スペースに辿りついたものの、あまりに多すぎる本棚に圧倒され、どこを探せばいいかわからず右往左往してしまった。
すると、偶然俺を見つけたイモコが近づいてくる。
「師匠、何かお探しでござるか? よければ某も一緒に探すでござるよ。」
「おぉ、イモコ! 助かる! でもそっちはいいのか?」
「大丈夫でござるよ。セイメイがいくつか見繕ってくれたので、後でそれを確認するでござる。それに某が読まなくてもセイメイがいれば問題ないでござる。」
う~ん。
なんか、申し訳ないというか後ろめたいというか……。
他のメンバーは今後の為に必死でやっているというのに、俺は……。
でも、そんなの関係ねぇ!
俺は俺のやるべきことがあるんだ!
ということで、お言葉に甘えるとしよう。
「なんか申し訳ないな。つか、まだ飯も食べてないだろ? テーブルにイモコの分も置いてあるから、後で食べてくれよ。」
「かたじけないでござる。師匠にそのような雑務をさせてしまうとは、弟子失格でござる。」
イモコは俺の言葉に申し訳なさそうにしている。
だが、申し訳ないのは俺なわけで、そんな気持ちにさせてはならない。
「大丈夫。俺達は仲間だ。弟子であってもそれは変わらない。仲間ならそれぞれが自分のできる事をするのは当然だろ? だから気にしないでくれ。むしろ俺の方が申し訳ないよ。」
「し、師匠~!! 師匠の懐の深さに感服でござるよ。」
イモコは感激のあまり、涙を流しそうに目を潤めている。
かくいう俺は、そんな格好つけた事を言っているが実際には仲間に仕事を任せて、エロ本を探しているだけのクズだ。
この状況で本当にそんな事を手伝ってもらって平気だろうか?
ちょっとこの雰囲気は言いづらいぞ。
どうする俺!?
いや、虎穴に入らずんばエロを得ずだ!
雰囲気などぶっ壊せ!
「イモコ……お前を男と見込んで一つお願いがある。」
俺は突然、真剣な面持ちでイモコを見据える。
「はっ! 何なりと申し付けるでござる!」
「……そうか、だが一つだけ約束してくれ。今から俺が言う言葉は誰にも言わないでほしい。」
「当然でござる! 師匠からの言葉を誰かに言う事などあり得ぬでござる。そんな事をしたならば、某は腹を切るでござるよ。」
俺の言葉にイモコは大袈裟に返す。
それを聞いて、やはり俺はこれからいう言葉に後ろめたさを感じてしまうが、それでも俺はイク!
「わかった、イモコを信じよう。実は俺が探している本というのは……芸術だ!」
俺の言葉を一言一句聞き逃すまいと真剣な眼差しを向けるイモコ。
しかし、芸術と聞いてから、少し困惑していた。
なぜ困惑しているかは、芸術と言っても幅が広すぎる為、力になれるかどうか不安になったからである。
「げ、芸術でござるか……。某、芸術には若干疎いでござるよ。」
「ふむ。それでは、この書物庫には絵が描かれた本はあるか?」
「それならば沢山あるでござるよ。芸術とは絵画の事でござるか?」
「当たらずとも遠からずだな。絵画というよりも、神秘……あぁ、もういいや。ようは女の裸がみたいんだよ、俺は!」
ここまで格好つけてもったいぶってみたが、なんだか面倒くさくなってしまった。
故に、ぶっちゃける。
「おぉ! 女人の裸絵でござるか! 確かに芸術でござるな!」
「お? あるの!? エロ本?」
「エロ本が何かはわからないでござるが、あるでござるよ。春画と呼ばれるものでござるな。某も詳しくはないでござるが、そういった本があるのは間違いないでござる。」
よっしゃーーーー!!
春画が何かはわからないが、この際、女の裸さえ描かれていれば何でもオッケーだ!
しかし、流石にそれをもってカフェに行くわけにもいかないだろう。
たとえシロマ達と離れたところで読んでいても、何気なく俺のところに来る可能性もある。
……であれば。
「ち、ちなみに……ここは立ち読みはオッケーかな?」
「問題ないでござるよ。周りを見れば、結構な人が立ちながら本の中身を読んで確認しているでござる。」
第一関門突破!!
勃ち読みオッケーだぜ!
「じゃ、じゃあ、後、その……例えば本を読んでいる際中にもよおしてきて、本を持ってトイレに入ることは?」
「本だけなら問題ないでござる。汚れ防止の術がかかっているが故、汚れる心配はないでござる。しかし、何故そのような事を?」
「い、いや気にしないでいい。なんとなく聞いてみたかっただけだ。それよりも時間が惜しい、直ぐに探しに行こう。場所はわかるか?」
「御意! 芸術スペースにあると思うでござるよ。では参りましょうぞ。」
こうしてイモコに引き連れられた俺は、意気揚々と芸術コーナーに向かうのであったが
まさかあのような事が起こるとは……。
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