第9話 俺の居場所①

 町の中に入った俺達は、早速シロマがいるであろう救護所を探して歩いているのだが、やはり外に出ている者はいない。


 誰かに救護所の場所を聞くのが手っ取り早いけど……無理だな。


 それもそのはず。


 俺達はカリーが上空から魔物がいなくなっていることを確認していたが、外の冒険者達はまだ知らないので、住民の避難は続いているということだろう。


 今頃、東と西に配置した冒険者達が周囲の状況を確認しているところだろうけど、魔物達が全ていなくなったと知るまではもう少し時間が掛かりそうだ。



 だがそんな閑静な町の中で、唯一慌ただしさを感じさせる場所にカリーが気付く。



「あっちみたいだぜ」



 カリーが指すのはここより、もっと北側の町中央付近。


 なんでわかったの? とは聞かない。


 カリーが言うのだから確証があってのことだろうし。


 というより、普通に熱探知で人の動きを確認したんだろうけどね。


 そんなわけで俺達はそのまま中央の方へ進んで行くと、次第に血の臭いが濃くなってきた。


 どうやらここに負傷者達が集められているのに間違いはなさそうである。


 そこは、なんというか町の集会とかで使われていそうな、大きな平屋建ての建物。


 これだけ大きいのならば、多くの負傷者を収容できる。


 きっとこの中にシロマもいるはずだ。



「みんな、聞いてくれ。俺はシロマと合流した後、一緒に負傷者の救護に当たりたいと思う。」



 俺がそう言うと、真っ先にリーチュンが反応する。



「あ、サクセス! アタイもやるよ! アタイも回復スキル使えるから!」


「サクセス様。わたくしも、賢者が使える回復魔法は全て習熟しておりますわ。」



 二人はどうやら天空職になった事で回復する術を身に付けていたらしい。


 非常に頼もしいことこの上ないな。



「あぁ、サクセス。俺とイモコは手分けして、ここのお偉いさんか指揮官に状況を話してくるわ。ここにいてもできることはほとんどないしな。」


「御意。それでは某は町の外の者に話をしてくるでござる。」



 カリーとイモコも率先してできることをし始める。


 俺が何か言う前にこうやって動いてくれる仲間達。


 本当に頼もしい。



「わかった。じゃあ一段落したらここに戻ってきてくれ。」



 俺はそう言うと救護所の中に入っていった。



 すると外とは違って、さっきより濃厚な血の臭いがむわっと鼻の奥まで広がっていく。


 窓は開いているので換気はされているようだが、それでも屋内には血の臭いが充満していた。


 今回の襲撃が如何に悲惨な状況を引き起こしていたかを再認識する。



「退いてください!」



 中に入った途端、俺達の前を担架を担いだ者が慌ただしく通っていく。


 見ると、担架の上には既に助からないのでは? と思うほどの瀕死の重傷者が乗っていた。



「シロマ先生!! 急患です!」



 その者らは奥のドアを開けるや、鬼気迫る声で叫ぶ。


 それを聞いて、俺達もそこにシロマがいることがわかった。



「サクセス」


「あぁ、あそこだな。俺達も急ぐぞ。」 



 リーチュンと顔を見合わせた俺は、そのまま急いで担架が入っていった部屋へと向かい、



ーー扉を開けると



 【リバースヒール】



 部屋に入った瞬間、シロマの声が聞こえた。


 見ると担架に乗せられた男の体が時を戻すように回復していく。


 先ほどまでは体の至るところから骨が見え、全身血まみれであったことから、正直助からないと思っていた。


 しかし、シロマの回復魔法はそれすらも治してしまう。



「凄い……」



 リーチュンはその光景を見て、少ない言葉を漏らした。


 ふとイーゼをみると、彼女も少なからず驚いているようである。


 だが俺はそれよりもシロマの体が心配になった。


 なぜならばその顔はかなり青白くなっており、俺達がここに来るまでに、どれだけ無理をしていたかわかったからである。


 よく見るとこの部屋はそんなに広くなく、他の負傷者はいない。


 先ほどの状況と合わせて察するに、この場所は通常の回復魔法で手に負えない者が次々に運ばれてくる場所なのだろう。


 本来なら死を看取ることしかできない者達を、シロマは一人で助け続けてきたのだ。


 外の状況からすれば、そういった者の人数は俺が想像するよりも多いはず。


 俺が想像するよりも、ここは過酷だったに違いない。



「あ……あぁ……お、俺は……」



 シロマの杖から光が消えると、担架に乗っていた者の意識が戻った。


 そんな彼に、シロマは優しく微笑む。



「もう大丈夫ですよ。他の負傷者の方が待っていますので、ゆっくりでいいので休憩所まで行って休んでください。すみません、どなたか案内をお願いしま……す?」



 そこで初めてシロマは俺達がいる事に気付いた。



どうやらこの部屋に入ってきたことにも気づかない程に疲弊していたらしい。


 そんなシロマは俺はもちろんのこと、傍にいるイーゼとリーチュンを見てきょとんとした顔を浮かべていた。



 その姿……萌え度100パーセント



「シロマ。一人で大変な役目をすまない。外の魔物は全て倒した。ここからは俺達も手伝うからもう無理はしなくていいよ」


「シロマ! 久しぶり!! って今はそんな状況じゃないよね。アタイも手伝うよ」


「シロマさん、あなたには色々と言いたいことがありますが今はやめておきますわ。わたくしもあなた程の回復魔法は使えませんが、エクスヒールくらいなら使えますわ」



 三人が同時にそう話しかけると、シロマは少しだけ困惑した表情を浮かべながらも、嬉しそうに声をあげた。



「はい! ありがとうございます!」



 なんだろうこの感じ……。


 凄く懐かしいというか……こうぐちゃぐちゃになってしまったパズルがピタっと綺麗にはまったというか。


 うまく言葉にして言い表せないけど、一つだけはハッキリしている。


 やっぱりこの三人と一緒にいるこの場所こそが、



   俺の居場所



だということだ。




 

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