第8話 再逢 後半

「サクセス様!」


「サクセス!!」



 それを見て瞬時に戦闘態勢に入るリーチュンとイーゼ。


 どうやらゲロゲロを魔物と勘違いしたようだ。



「大丈夫、俺の仲間だ。そういえばまだ言ってなかったな、実は……」



 俺が二人にゲロゲロについて説明しようすると、ゲロゲロから降りて来たカリーが突然俺に詰め寄ってきた。



「サクセス! お前……大丈夫だったんだろうな?」


「え? 大丈夫って? 体はピンピンしているぞ?」


「そうじゃねぇ。あれだけ言っただろ、範囲攻撃はやめろって! 東側の地形、崩壊してんじゃねぇか!」



 どうやらカリーはスターフォールのことを言っているらしい。


 まぁ、そりゃ怒るよね。



「ごめん。でも全員避難させてライトプリズン使ったからさ……」


「そういう問題じゃねぇだろ。どうせ俺達が心配で早く片付けようとしたんだろうけどよ、もっと俺達を信頼しろよ!」



 図星であった。


 だからこそ、俺は何も言い返せない。



「ごめん。信頼はしてたんだけど、少し焦ってしまって。だから……」



 俺が顔を俯かせて(うつむかせて)そう謝罪すると、カリーは俺の肩に手を回して言う。



「まぁ今回は許す。しかし、俺はもう一つだけお前に言いたいことがある。なっ、イモコ?」


「そうでござるな……それがし、消化不良でござる」



 カリーが相槌を求めるとイモコは神妙に頷いた。



 一体なんのことだろう?


 消化不良ってどゆこと?



「ん? そっちでなんかあったの?」



 俺が聞いてみると、カリーはゲロゲロの体を優しく擦りながら話し始めた。



「あぁ、本当にこいつはお前に似ててよ……せっかく俺達も熱い戦いができると思ったのによ」


「全くその通りでござるな。」


「え? だからなに? 何があったの?」



 ゲロゲロがなんかやらかしたのかな?


 なんだろう……


 このスッキリした顔のゲロゲロを見ていると、悪いことをしたようには思えないんだが……



 するとカリーが話を続けた。



「いやな、俺達の戦場も相当魔物が溢れていてよ……こんな事言うのも戦っていた冒険者達には悪いけど、なんつうか腕試しするには丁度いい感じでな」


「そうでござる。それがしもかなり昂っていた(たかぶっていた)でござる。」


「だけど、気付けばあれだけいた魔物がほとんどいなくなっててよ。もうわかるだろ? ゲロゲロが魔物の八割くらいを一人で倒しちまったんだよ。だから俺らはゲロゲロの攻撃から逃れた魔物だけ相手にしていたってわけだ。」



 なるほど。道理で早いはずだ。

 ゲロゲロならありえる。

 俺もまだ西側は戦っているものだと思っていた。




「ゲロォォ(僕強い!)」



 するとそこまで黙って話を聞いていたリーチュンが、ゲロゲロという言葉に反応する。



「え? ゲロちゃん!? 嘘!? 今ゲロゲロって言った!?」


「ゲロゲロが生きているんですの!?」



 二人は驚きながらも俺に詰め寄ってきた。

 

 それを見てカリーは二人が俺の知り合いだと気付く。


 二人の存在には気付いていたが、俺が助け出した町の冒険者としか思っていなかったのだ。



「サクセス、そこの二人は?」



 カリーが俺にそう尋ねるも、リーチュン達の言葉がそれを打ち消した。



「サクセス、どういう事? ゲロちゃんは死んだんじゃないの!?」

「サクセス様。よろしければ説明していただけますか?」



 その凄い気迫に思わず俺は後退る(あとずさる)。



「お、おう。わかった。というか、既にゲロゲロはそこにいるんだが……」



 俺はそういって古龍狼になったゲロゲロを指した。



「ゲロ!?(リーチュン! イーゼ!)」



 どうやらゲロゲロも二人に気付いたらしい。

 嬉しそうに尻尾を振っている。



「そうだ、リーチュンとイーゼだぞ。ゲロゲロ」



 俺とゲロゲロの会話を見て、二人は目をパチクリさせていた。



「今……ゲロって鳴いた。ってことは、この子は本当にゲロちゃんなの!?」


「あぁ、正真正銘ゲロゲロだ。詳しい事は後で話すが……ゲロゲロ、元の姿に戻ってくれ」


「ゲロ(うん!)」



 俺がそう言うと、ゲロゲロは可愛いモコモコ姿に戻っていき、その姿を見たリーチュンはその場で膝をついて大号泣し始めた。



「ゲロちゃん! ゲロちゃん!! よかった! 生きてた! 本当に良かったよぉぉぉ!」



 そんなリーチュンにゲロゲロは近づくと、その涙をなめとっていく。



「ゲロロン(リーチュン、泣かないで)」


「あぁあ……ゲロちゃん! ゲロちゃん!」



 感極まったリーチュンはそのままゲロゲロを強く抱きしめた。


 よく見るとイーゼも指で顔をこすっている。


 ばれないように涙を拭って(ぬぐって)いたようだ。


 うん。わかるよ。本当に。


 ゲロゲロが生き返った時、俺もかなり泣いたからな。


 そんな感動的な再会をカリーやイモコも黙って見守ってくれている。



 だが、そろそろ俺から説明しないとな。



「カリー、イモコ。紹介する。この二人は俺の……」



「妻ですわ!!」



 俺がそこまで言うと、イーゼが言葉を被せてきた。



「ちょっとイーゼ!!」



 それを聞いたリーチュンはゲロゲロを抱えながらイーゼの正面に立って睨みつける。



「なんですの?」



 イーゼも負けずに睨み返しているが……頑張れ、リーチュン!


 今まともな紹介ができそうなのはお前だけだ!



……と思った俺が馬鹿だったよ。



「アタイがサクセスのお嫁さんだよ!」



 ……なんでやねん!!



 いや、そんなことを二人して言ってくれるのは普通に嬉しいけどさ。

 ここは違うだろ。

 もっとまともな挨拶をしてくれよ。



 だがそんな俺の願いは空しく、二人はカリー達の前で言い合いを始めてしまう。



「いいえ! わたくしが、サクセス様の正妻ですわ。あなたは……まぁ妾としてなら認めますわよ?」


「なんですって! ちょっとサクセス!!」



「は、はい!」



 突然呼ばれた俺は、声が上ずる。


 今の俺は間違いなく情けない姿だ。


 そんな俺を見て、カリーはなぜか黙って頷いていた。


 どうやら色々察してくれたらしい。


 だがイモコはまだわかっていなかった。



「師匠。つまりは、そのご婦人お二人は師匠の奥方でよろしいでござるか?」



 空気読め、イモコ。

 そこはもっと違う言葉があるだろ。



「いや、えっと。まだ結婚してないというか……あれ? なんか違う。そうじゃない。二人は俺の大事なパーティの仲間であって……えっと……」



 なんだかよくわからないが、俺は混乱し始めた。


 もはや何を言えばいいのかもわからない。


 だが、そんな俺の態度にリーチュン達が怒り始めてしまった。



「えーーー! アタイ達にあんなことしておいて、それはないよ。」


「そうですわね。それには同意いたしますわ」



 あ、あんなことって!

 いや、まぁうん。色々したけどさ。

 さっきもしてたし……



「ちょっ! あんなことって。いや、別にそう言う意味じゃ……」


「サクセス、男らしくないわ! ちゃんと、アタイ達を紹介して!」



 う……そうは言うけどさ。

 クソ恥ずかしいだろ、こんなの。

 どんなプレイだよ……



「えっと、うん。二人とも俺の恋人兼頼れる仲間だ。よろしく頼む。」



 俺がそう言うと、二人はどうやら納得してくれたようでニコニコしている。



 ふぅ……頑張った俺。



「なるほどな。シロマちゃんが大変なのがわかったぜ。俺はカリーだ。サクセスは俺にとって大事な弟分だ。これからもこいつのことをよろしく頼むわ」


「それがしは、サクセス師匠の一番弟子のイモコでござる。以後お見知りおきを」



 リーチュン達とは違って、まともに自己紹介をする二人。


 色々恥ずかしいところを見せてしまったが、何も言ってこないのはありがたい。


 カリー達が自己紹介をしたので、俺からも説明する。



「二人は俺がオーブを探しに行っている間、一緒に戦ってくれていた仲間なんだ。仲良くしてくれ」

 

「へー。サクセスのことを助けてくれたんだ! ありがとね! アタイはリーチュン」


「初めまして。わたくしはイーゼと申します。」


「ゲロ、ゲロゲロ!(僕、ゲロゲロ!)」




 ちゃっかりゲロゲロも自己紹介していて、可愛い。


 とまぁそんな感じで顔合わせも済んだところで、そろそろシロマの所に戻らないとな。



「よし、じゃあ一旦町に戻ってシロマと合流しよう。」


「シロマ! そういえばシロマいないね」


「あぁ、シロマは負傷者の救護に当たってもらっていたんだ。二人を見たらビックリしそうだな」


「だね! シロマ元気かな? 早く会いたい」


「わたくしもシロマさんとは、ゆ~~っくりとお話が必要ですわ」



 リーチュンとは違い、なぜかイーゼの言葉は意味深である。


 とりあえず女同士の話には関わらないでおこう。


 こうして無事仲間達と合流した俺は、そのまま南門に向かって町に入っていくのであった。

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