第7話 再逢 前半

「イーゼ! リーチュン!!」



 段々と近づく二人を見て、俺は言葉では言い表せない程の嬉しさが胸に広がっていく。



 あの日からずっと心配していた。


 もしかしたらもう会えないかもしれないと不安になった日もあった。


 だが生きている! 


 こんなに嬉しいことはない!



 すると二人もまた、遠くから何度も俺の名前を叫んでいる。



「サァァクセスぅぅぅ!」

「サクセスさまぁぁぁぁ!」



 うんうん。


 本当にあの二人だ。


 元気そうでよかった……んだけど、ちょっとまってくれ!


 リーチュンはともかくとして、



 イーゼ……お前……



 二人は俺を見つけたことで全力で近づいてくれているようだが、あれはちとやばい。


 リーチュンはいい。


 けど、イーゼ。


 あれはだめだろ。



「負けませんですわ!」



【フレアバースト・フルオープン】



 なんとイーゼは、鉄のボートで俺の方に向かってきていたのである。


 その勢いは魔物に向かっていく時以上に速く、いくら俺でもあれに突っ込まれたらただでは済まない。



「アタイだって負けないわ! 闘気全開!」



 今度はリーチュンが更に加速する。


 二人は未だかつてないほど、全身全霊の力で俺に向かっていた。


 その姿を見て俺は思う。



 俺は男だ。二人の全力を受け止める義務がある。


 だ、だけどさ……あのボートを受け止めるってのはちょっと違くないか?



 覚悟を決めた俺は、少しばかり焦りを感じながらも、大きく両手を広げて二人を迎えた。



 どちらが先か……今のところ勝負は五分五分。



「サクセス様への愛は誰にも負けませんわ!」


「アタイだって負けないもん!!」



 二人のデッドヒートは続いている。


 しかしどうやらイーゼの方が少しだけ速いようで、俺が受け止めるべき存在は人ではなくボートになりそうだった。



「来るなら来い!! 俺も男だ! やってやる、やってやるぞ!」



 完全にボートを受け止めるために気合を入れた俺。


 だが目の前に近づくそれをみて、正直足が震えてきた。


 だって近づいてきたそれは思ったよりデカくて超硬そう。



 俺、死んだりしないよね?



 そんな不安を他所に、二人の勝負に決着がついた。



「勝ちましたわぁぁ! サクセス様! わたくしが勝ちましたわ!!」



 少しづつリードを伸ばしていたイーゼが、先に俺の下へ到着するらしい。


 予想はしていたが、あれを受け止めるには相当な力が必要だ。



 だが負けない、絶対に受け止める!



 と力を入れて足を踏ん張っていたのだが、突然ボートの軌道が俺から逸れた(それた)ことで身構える必要が無くなった。


 そして勝利を確信したイーゼはボートから飛び降り、宙を舞いながら俺にダイブしてくる。



 イーゼ一人ならそんなに力まなくても受け止められるだろう 



 そう思っていたのだが……


 なんとイーゼが宙を舞っている間に、その横をリーチュンがドピュンッと追い抜かしたのである。



「えっへへーー! アタイの勝ちーーー!!」



 完全に防御を緩めた俺の体に、とんでもない衝撃が走る。



「ごぁばぁぁっ!!」



 ほぼリーチュンの全力攻撃と変わらないダメージを受けた俺は、そのまま地面に倒れ込んでしまった。


 


「サクセスサクセスサクセス!! 会いたっかったよぉ! サクセスぅぅ……!!」



 リーチュンはそのまま俺を押し倒しながらも、ぎゅうううッと抱きしめて頭をグリグリ胸に当ててきた。



 その力は想像以上に強く、ちょっと呼吸ができなくなりそうだが、それでもその嬉しい気持ちが凄い伝わってきて、幸せの方が勝っている。



 そして今度はイーゼが飛び込んできたのだが、リーチュンが覆いかぶさっているため、イーゼは俺に触ることができない。



「サクセスさまぁぁ! ってどきなさい! 邪魔ですわ!」


「いやっ!! アタイが勝ったんだもん!」



 俺の上でもみ合いになる二人。


 ちなみに俺はそれに乗じて、両手に当たるメロンをもみもみしている。



 あぁ……これだよ。

 これぞまさしく揉みあい。

 最高だっぺ。


 リーチュンはイーゼに引き離されないように必死に俺に抱き着いているせいか、俺のもみもみには気付いてないらしい。



 何たる幸運だろうか……おっぱい神様。



 ありがとう。



 そんな事を考えていると、遂に痺れを切らしたイーゼが暴挙にでた。



「いい加減、わたくしと代わりなさい!!」



  【ラリパッパ】



 あろうことか、イーゼはリーチュンに魔法を放ったのである。


 すると完全に不意打ちだったのもあり、リーチュンはそのままグデっとして眠ってしまった。



「ちょ、イーゼ。流石に魔法は……」


「そんなことサクセス様は気になさらないで下さい。これもわたくしの愛ゆえですわ」



 イーゼはリーチュンをそのままゴロンと転がすと俺に抱き着いてくる。



「サクセス様! サクセス様! わたくし頑張りましたわ! サクセス様の力になるため、ずっと孤独に戦ってきましたわ!」



 そう強く叫びながらも、イーゼは大粒の涙を流している。


 こんなイーゼを見たことがあっただろうか。


 正直、魔法を仲間に使ったことを叱ろうかとも思ったが、できるわけがない。


 二人とも俺の為に本当に危険で孤独な試練を受けてくれたのだ。


 今はこのまま黙って抱きしめることしか俺にはできない。



「二人とも、生きていてくれて俺は本当に嬉しいよ。ありがとう」


「サクセスさま……う……うぅ……」



 俺は上体を起こしてそのままイーゼを優しく抱きしめ続ける……と、なんだか下半身に気持ちのいい刺激が……



 今度は俺がもみもみされる番だった。



「サクセス様。もう我慢しなくていいですわよね? もうこの場でいいですわよね!? 致しますわ!!」



 完全に血走った目を俺に向けるイーゼ。


 致しますわってナニを!?



「うおぉい!! あほか!」



 俺は咄嗟にイーゼを突き飛ばす。



「あぁん……サクセス様のいけずぅ……」



 あぁ……そうだった。


 久しぶり過ぎて忘れていたが、イーゼは変態だったわ。


 ぶっちゃけ青空の下で初めてっというシチュエーションも悪くはないが……って悪すぎだろ。


 ここ戦場だし!


 カリー達はまだ戦ってるし!


 つか、リーチュンが横で寝てるし……ってもう! 色々台無しだよ!



「はぁ……とりあえずリーチュン起こして」


「残念ですが……わかりましたわ」



 俺の言葉にイーゼは渋々応じる。



 【ハザメ】



 イーゼが呪文を唱えると、リーチュンの目がパチっと開いた。



「あれ? アタイなんで?」



 目が覚めたリーチュンは、少しだけ困惑していた。



 うーん。言うべきか、言うべきでないか。

 でも久しぶりに会えたってのに、ここでもめられるのは嫌だな。



 とりあえず俺はイーゼがしたことについては、まだ言わない事に決めると、再びリーチュンの前に立った。



「リーチュン。また会えて嬉しいよ。生きててくれて……本当によかった」


「サクセス……」



 その言葉にリーチュンが目に涙を浮かべると、その姿を見て俺も涙が出てくる。


 なんか色々おかしなところもあったけど、やっとまともな感動の再会に戻った感じだ。

 


ーーすると今度は上空から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。



「サクセス!! こっちは終わったぞ!」



 カリーだ。



 どうやら西の戦場も無事に終わったようで、カリー達を乗せたゲロゲロが俺の所に降りてきた。

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