第6話 破壊神と謎の二人

【サクセス視点】



 みんなと分かれた俺は、北側から回り込んで東側の戦場に向かっている。


 すると東側の森の方から巨大な魔物が一匹、凄まじい速度で冒険者の方に近づいていくが見えた。



「……うわ。なんだあれ、気持ち悪っ!」



 そいつは遠目からわかるほど巨大なモンスター。


 大きさもさることながら、見た目がグロテスクすぎる。


 ガイコツのような顔が三つに、ライオンのような胴体。


 しまいにはその胴体から生えている八本足を使って、ゴキブリのようにカサカサと高速移動していた。


 あれを見て気持ち悪いと思わない奴はいないだろう。



「あれはヤバそうだな。見た目もそうだけど、なんか強そうだし。急がなきゃ!」



 東側の戦線は大分安定しているようにも見えるが、ところどころ部隊が崩れそうな場所も見受けられる。


 その為どこから助けに行けばいいか上手く判断できなかったが、その魔物があまりにも危険に見えたので、そこから助けにいくことにした。



ーーだが



「まずい! 思った以上に速いぞ! ……え? 嘘だろ!?」



 なんと一人の冒険者がその魔物に近づいていき、盾を構え始めてしまったのである。


 せめて距離をとってくれれば間に合いそうだったが、流石にここからでは俺の全力をもってしても間に合わない。


 その状況に焦りながらも急いで救援に向かっていると、突然


  ゴキブリラ(※デスサイズマイラ)


が止まった。



「なっ!?」



 俺は前に出て盾を構えた冒険者が、なんとかゴキブリラの突撃を止めてくれるのを願っていたのだが、そうはうまくいかなかった。


 なんとゴキブリラはその大きな口を広げて、何かを吐き出そうとしていたのである。



……あれは、ブレスだ!!



「ここからじゃ間に合わない。ならっ!!」



   【ライトボール】



 未だゴキブリラと距離がある俺だが、手を前に伸ばして走りながら使える光魔法を放つ。


 この魔法は俺が使える攻撃魔法の内、一番威力が弱いもの。


 だがその分剣を振る必要もないし、牽制攻撃としてはかなり有用な魔法であった。



ーーしかし


 

「ちっ! 間に合わなかったか」



 俺のライトボールが届くより、敵の攻撃の方が早い。


 ゴキブリラは目の前の冒険者に対して、既に黒い炎を吐き出しており、その炎は冒険者達全てを焼き尽くさんとしている。


 その威力は想像するより高威力のようで、盾を構えていた者もその場で倒れ伏した。


 しかしながら、俺のライトボールが直撃したゴキブリラもまた、その一撃をもって爆散する。


 ゴキブリラは見た目程強くはなかったようだが、そんな事よりも今は倒れている者達が心配になった。


 既に死んでしまった可能性もあるが、それでも俺は生きている事を信じたい。



「まだだ……まだ間に合う!!」



 俺はそこから更に加速して倒れた冒険者の近くまでたどり着くと、意識を集中させてその範囲全体に向けて魔法を放った。



   【ライトヒール】



すると、辺り一面が蒼くキラキラする光に包まれていく。



「……うっ、あ……あ、あ。」



 真っ黒こげの炭に成り果てていた者達から、うめくような声が聞こえ始める。


 どうやらまだ死んでなかったらしい。


 辺りを見渡すと、倒れている者全員が少しだけ動き始めており、炭になってしまった肌も元に戻っていた。


 範囲にライトヒールを放ったのは初めてだが、上手くいったようだ。



「ぎ、ぎでくれだん……ですね。りーじゅ……さ……」



 倒れていた冒険者達の内、ゴキブリラの前に立ちふさがっていた男が何か言っている。


 ちょっと何言っているかわからなかったけど、一番危険だった彼も助かったようで俺は少しだけ安心した。


 とはいえ、彼らはまだ当分は動くことはできないだろう。


 そこに後続から押し寄せた魔物が現れれば、間違いなく死ぬ。


 その為、このままここに放置するのは危険すぎる……と言いたいところだが問題ない。



 なぜならば……



「しばらくそこで休んでてくれ。」



 俺は彼にそれだけ告げると、魔法を唱えた。



  【ライトプリズン】



 光の壁が第二ライン全体を覆うように包み込む。


 そう。結界魔法だ。


 これがあればある程度魔物の攻撃に耐えることはできるだろう。


 そもそも敵の強さを考えれば、俺の結界が簡単に壊される可能性は低い。


 問題があるとすれば、ライトプリズンにいる者達が何が起きているのかわからずにそこから出てしまうことだ。


 その為、できる限り早く魔物達を殲滅することが必要だろう。



「な、なにを……あな……だば……いった……い?」



 するとさっきの男が俺に質問してきた。


 今度は辿々しい(たどたどしい)ながらも、しっかりと言葉の意味がわかる。


 とはいえ、それに対して丁寧に説明を返している時間は無かった。


 なぜならば、多くの魔物達が既にこちらに向かっていたからだ。



「俺はサクセス。後は俺に任せろ」



 俺はそれだけ告げると、その場から魔物達の方へ向かって走り、近づいてきている魔物に向けて斬撃スキルを放つ。



 【ライトスラッシュ】



 それはディバインチャージ程の威力もなく、攻撃範囲も狭いスキルだが、それでも向かってくる敵2,3匹は斬り裂く事ができる……と思っていたのだが、嬉しい誤算があった。


 光の斬撃は俺自身が強くなったからか、貫通力が上がっており、2,3匹を倒したつもりが、その後ろにいる魔物達をも斬り裂いていく。


 つまり今の一撃で十から二十の魔物を一度に倒せたということ。


 思った以上に魔物が固まってくれていたのもあったが、これなら予想よりも早く近づいてくる魔物を一掃できそうだ。



  【ライトスラッシュ】

  【ライトスラッシュ】

  【ライトスラッシュ】……



 ひたすらその場で剣を振りまくる俺。


 するとこんな状況で言うのもあれだが、面白いように魔物が塵へと変わっていく。


 あっという間に第二ラインに近づいてきた魔物全てを消し去ることができたものの、それでもまだ森の奥から次々と魔物が押し寄せてきているのが見えた。


 それを見た俺は、少しだけその場で考える。



 う~ん……あれだけ離れているなら流石に誰もいないよね?



 広範囲攻撃は味方への誤爆もあるだろうから控えてきたけど、戦場はここだけではないし、できるだけ早く仲間の下へと駆け付けたい。


 それであれば一気に殲滅するのが効率的であるが、もしも遠くで戦っている者がいたならば間違いなく一緒に殺してしまうだろう。


 だがよく考えてみれば、ここまで魔物達に押されているのだから遠くで誰かが戦っている可能性は極めて低い。


 ならばやはりここは、一気にまとめて倒した方がいい。



「よし! やろう。どう見ても戦っている人なんかいないし、大丈夫だ!」



 決断した俺は、剣を空へと掲げた。



  【スターフォール】



 俺が使えるスキルと魔法の内、一番広範囲に攻撃できる魔法。


 それがこれだ。



ーー大地に引き寄せられるように、空から無数の星が地上に向かって落下し始める。



 それは大地に直撃すると、断続的に凄まじい轟音が響き渡り、立っていることができなくなるほどに大地が揺れた。



「あっ……やば。やり過ぎたかも……」



 その光景に思わず俺は焦った。


 これを初めて使ったのは大海原で、次がウロボロス戦。


 思い返せばそれが引き起こすであろう天災に近い結果が予想できたはずだった。


 なんとそれは魔物はおろか、広範囲な大地に大きなクレーターができると……森も山も消滅してしまったのだ。


 もちろん生き残っているであろう魔物も存在しないが、これを見ている者がいたら俺の事をどう思うだろうか?


 魔王? 破壊神? 


 それを想像すると、なんだか全身に怖気が走った。



「まずい、まずいぞ。後ろにあれだけ人がいたんだから……」



 町の東側を言葉通り無に帰した俺は、違う意味で恐怖を覚えながらもおそるおそる振り返る。


 すると人の視線より先に、違うものが目に入った。



「えっ!? まじかよ!」



 前ばかり気にしていたせいか、今更ながらそれに気づく。


 一部の魔物が東側から南側に迂回して攻め込んでいたのだ。


 そしてその魔物がいる場所は、東側で言うところのデッドライン。


 つまり町の城壁に限りなく近い場所。



 それを見た俺は周りの視線をも忘れ、急いで南側に向かって走りだしていた。



「まだあんなに残っていたのかよ! くそっ!」



 全く防衛部隊のいない南側城壁付近に、百匹近い魔物が集まっている。


 俺の魔法やスキルならこの距離からでも届くには届くがそれはできない。


 なぜならば魔物の位置が悪すぎた。


 今いる位置からだとギリギリライトボールは届きそうだが城壁にも当たる。


 であれば魔物の襲撃は今日だけとは限らないし、自分達もずっとこの町にいられる訳でもないので、町の防壁が崩れるのだけは避けた方がいい。


 そう考えながらも必死で足を前に出していたのだが、その時、遠くから魔物に向かって近づく二つの存在に気付く。



「あれは人……と、なんだ?」



 まだ南門まで距離がある俺には良く見えないが、二つの存在が土煙をあげながら近づいているのが見えた。


 少しだけ信じられないが、その速度は俺程ではないがカリーより速い。


 加速魔法を受けていたとしても、到底人が出せる速さではないだろう。


 更にそのそばを走っているのは……船だ。


 船といっても覇王丸のような大きな船ではなく、なんというか湖とかで使いそうなボート?


 だからこそ困惑する。


 

「ここ……水の上じゃないんだが……」



 なんとその船はまるで水の上を走るように大地を駆け抜けていた。


 それも信じられない程速い速度で。


 向かっている場所は俺と同じ南側城壁……つまりは町に迫っている魔物達と戦うつもりらしい。



「ボートに乗ってるのは一人っぽいな。ってことは二人だけか。まずいぞ。」



 遠目からだから正確ではないが、ボートに乗っている人物は一人みたいなので、あれだけの魔物に対して二人で戦うようだった。


 俺や俺のパーティなら問題はないが、これまでの様子からすれば、普通の冒険者にはかなり危険な状況である。



ーーーしかし、俺はそこであり得ない光景を目にした。



 なんと魔物に接敵した二人は、驚く程強かったのである。


 一人は武闘家らしく、ものすごい速さで魔物を殴っては蹴り飛ばしていた。


 そしてもう一人の方は多分魔法使いなのだが……。


 多分何ていうのは失礼かもしれないが、それ以外表現できない。


 俺はこれまでいろんな魔法を見てきたが、その者が放っているであろうものは、俺の知っている魔法と全く違う。


 へんなビームみたいなのを飛ばして魔物の体を貫いたり、突然魔物の集団が爆発して木っ端みじんになったり……あんな魔法は見た事が無い。



「俺の出番はなさそうだな」



 ホッと胸をひと撫でした俺だが、今度はその二人に興味がわいた。


 すぐにでもカリー達の所へ向かいたいところだが、ゲロゲロから何のテレパシーも飛んでこないのだから、暫くは問題ないだろう。


 そして俺はその二人に近づいていく。


 すると、二人も俺が近づいてきているのに気付いたようで……って、あれ? 


 大分距離が近づいたことで二人の姿がぼんやりとだけど見えてきた。


 そして俺が二人が誰かという事に気付くよりも先に声が届く。



「サクセスぅぅぅーーーー!!!」

「サクセスさまぁぁぁぁ!!」



 その声ですぐに分かった。


 あの桁違いな強さをもった二人が誰かを。



 リーチュンとイーゼだ!!  


 

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