第10話 俺の居場所②
「とりあえずシロマは少し休んでくれ。後、カリーから貰ったものは躊躇せずに飲んでいいから。」
見ると、シロマの横の棚の上にはお嬢様聖水が三つ並んでおり、どれも蓋が開いていない。
つまりシロマはギリギリの限界まで飲まないつもりでいたらしく、まだ一本も飲んでいないといことだ。
「わかりました。ですが、外の戦闘が終わったということは、これから今までとは比べ物にならない程の負傷者が運ばれてくるはずです。それですので……」
俺からそう言われても、シロマの心配そうな顔は変わらない。
実際シロマが考えている事は正しい。
戻るに戻れなかった者も多いはずなので、これからが正に本番だと言えよう。
ーーだが、それでも俺は言う。
「心配しなくていい。その為に俺達がいるんだろ?」
「そうよ。シロマだけに負担はさせないわ」
するとその言葉を聞いてホッとしたのか、シロマはクラっとしながらその場に倒れ込みそうになった。
当然それは俺が支える。
いつも無理しすぎなんだよ、この子は。
「すみません。ありがとうございます。では一本だけ頂くことにします。」
「あぁ、飲んでくれ。それとこれからは本当に危険な負傷者だけをシロマが回復してくれ。後は俺達で何とかするから。」
そう言いながら瓶の蓋を開けてシロマの口に運ぶと、それを少しづつ口に含んでいく。
なぜかわからないけど……
本当になぜかはわからないけど……
少しだけ俺はそれを見て興奮した。
これも竜神の護符にある性欲増強スキルの弊害だろうか……
大分コントロールしてきたとはいえ、美少女の喉がゴクっとするのを見るだけで興奮してしまう俺は……
もうだめかもしれない。
「サクセス! どうしたの!?」
俺の様子を見て、リーチュンが慌てる。
しかし、イーゼは違った。
「サクセス様もお疲れのようですし、少しわたくしと別の場所へ。幸い、ここには多くのベッドがありそうですわ」
もしやイーゼは俺のアレを治療してくれるのだろうか……
って、何考えてんだよ俺!
その提案に乗った瞬間、さっきまで俺が感じていた俺の居場所がなくなるだろ……
つうかイーゼ。
こんな状況でもブレないお前はある意味尊敬に値するよ。
「イーゼさん!」
俺が何を返すまでもなく、シロマが声を荒らげてそれを非難すると、イーゼはフンっと鼻であしらいながらも
「冗談ですわ」
と何食わぬ顔をした。
まぁ間違いなく冗談ではなかったとは思うがっと、それはさておき……
「えっと、それで他の負傷者はどこにいるんだ?」
咄嗟に話題を変える俺。
とりあえずここは流れを変えなきゃいけねぇ。
するとシロマが簡単に説明する。
「はい。部屋を出て真っすぐ行きますと、大広間がありますので、まずはそこに負傷者が運ばれて行きます。」
「なるほど、じゃあ俺達三人はそっちに行った方がいいな。シロマはここで少し休憩しててくれ」
俺はそれだけ告げると、そそくさと部屋を出て行こうとし、二人も一緒についてきた。
「じゃあシロマ、またあとでねぇ~」
「はい。皆さんも無理をなさらないようにお願いします」
シロマとの会話を終えた俺達は、そのまま言われた通り進んで行き大広間に辿り着く。
そこには百人を超える負傷者が床に倒れており、その一人一人に回復魔法を使える者達が治療や回復魔法を施していた。
とはいえ、使っている魔法はよくてハイヒール。
それ以外は下級魔法のヒールか、精々上薬草を張るだけである。
エクスヒールを使える者もいるのだろうけど、この数相手では精神力が持たないために節約をしているのだ。
結果として、此処にいる者達は今すぐに死ぬという事はないが、未だに瀕死に近い状態の者が多い。
そんな状況を観察していると、神父のような者が俺達に気付いて声を掛けてくる。
「あなたたちは? 見たところ負傷しているようには御見受けされませんが? ここは負傷者が運ばれる場所ですので、それ以外の方は外に出ていただきたい。」
どうやら冷やかしのように思われたらしい。
いや違うか。
口調はきついが、悪意は感じられない。
ただ単に俺達が邪魔というのもあるが、この悲惨な状況を見せたくなかったのだろう。
「いえ、私達はシロマの仲間で、ここにいる二人も含めて回復魔法等が使えます。微力ながら助力に来ました。」
俺がそう口にすると、神父は即座に表情を変えた。
シロマという存在が、如何にここでは特別な存在だったかわかる。
「そうでございましたか! 大変失礼いたしました。シロマ様のお蔭で多くの者が助かっております。」
さっきまでとは打って変わって丁寧な対応と謝意を述べる神父。
だがそれはシロマに対するものであって、俺達にではない。
「いえ、それはシロマに直接お伝えください。とりあえず話す時間も惜しいので、まずは……」
俺はそう言って話を打ち切ると、戦場で使ったようにこの大広間全体を範囲として魔法を行使した。
【ライトヒール】
部屋全体が蒼く優しい光に包まれると、部屋で横たわっている者達の傷が即座に回復していく。
「こ、これは一体!?」
その光景を目にした神父は、驚愕から目を見開いた。
「凄いね、サクセス。これならアタイ達必要ないんじゃない?」
「いや、ライトヒールは傷を回復させるだけだから。生命力までは回復できないんだ」
残念ながら俺の回復魔法は傷を治すだけ。
つまり衰弱し続ければ、そのまま死ぬこともあり得るのだ。
ーーしかし。
「それならアタイの出番ね!! アタイは逆に生命力の回復を促せるから。」
リーチュンはそう言うと、俊敏な動きで各患者の体に触れていく。
そして龍気と闘気を送り込むことで自然治癒能力を高めていた。
リーチュンが言うのだから間違いはないのだろうけど、それが事実ならば俺のライトヒールとの相性は抜群。
俺が傷を癒し、リーチュンが生命力を回復させる。
これならば多くの者が助かるだろう。
そしてそこに更に……
「これではわたくしのやることがないですわね。それならばこれですわね」
【ヒールウィンド・継続】
突如として窓の外から優しい風が広間を吹き抜けていく。
その風はなんとも心地よく、心身ともにリラックスさせていくようだった。
「イーゼ、この風は?」
「癒しの風ですわ。少しづつではありますが、生命力を回復させていきますわ」
聞いたこともない魔法だが、素晴らしい。
この三人の力が合わされば、シロマの負担も大きく減るだろう。
「凄いな。二人とも」
俺は純粋に関心してしまった。
「いえ、サクセス様ほどではありませんわ。では、時間もできた事ですので、暫く二人で休むとしましょう」
「……え?」
そういって俺の手を引っ張るイーゼ。
それは鬼(リーチュンとシロマ)が離れている隙を狙った犯行だった。
だがその目論見は即座に頓挫する。
なぜなら、気配を察知するのに秀でているリーチュンが気付かない訳がなかったからだ。
次の瞬間、リーチュンが鬼の形相で戻ってくる。
「ちっ」
それに気づいたイーゼは舌打ちしながらも、俺の手を離した。
「イーゼ! あんたねぇ!」
「あら、あなたはゆっくりとやるべきことをされては?」
何食わぬ顔でとぼけるイーゼ。
まじでこいつのメンタル強すぎる。
「何言ってんのよ! サクセスからも言って!」
俺に振るの!?
蚊帳の外にいようと思ったが、そうは問屋が卸さない。
「えっと、ケンカはやめるべさ……」
突然のことに少々動揺した俺は、また方言がでてしまう。
みんなが苦しんでいる場所で俺達は何をしているのだろうか?
正直恥ずかしいというか、申し訳ない気持ちで一杯だ。
何より、これを傍で見ている神父は……ってあれ?
そういえばさっきから神父が何も言ってこない。
ふと神父の方に振り向くと……彼はなぜか膝をつきながら手に持った十字架を掲げて祈りを捧げている。
「女神様。ありがとうございます。」
どうやらいつの間にか女神に感謝の祈りを捧げていたようだ。
まぁ実際ギリギリでこの襲撃に間に合ったのは幸運ではあるが、それが女神(ターニャ)の力であったかは不明だ……
そこで改めて神父のことを見ていた俺は気づいた。
見ると、神父の服には至るところに女神(ターニャ)の絵柄が施されている。
どうやらこの者は、噂に聞くオタメガ(女神オタク)のようだ。
とそれはさておき、そうこうしている間にも次々と新しい負傷者が運ばれてくる。
俺は意識を切り替えて、二人に告げた。
「よし、ここからが正念場だぞ。みんな!」
「気合が入るわね!」
「わたくしは早く……なんでもありませんわ」
この後も俺達は、増え続ける負傷者の救護に当たり続けるのであった。
後に今日の出来事は、女神の使徒が降臨されたとして伝承に記されることとなることを、この時の俺達は知らない……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます