第133話 ゲロゲロの愛

 光の柱が消えると同時に、深く抉られた大地から大炎が舞い上がった。



 目の前に拡がるは、業火の炎。

 


 その中に人の影はない……



「カリー! 嘘だ……こんなの嘘だ! うそだぁぁぁぁ!」



 俺は目の前の現実を受け入れる事ができなかった。


 全力で炎に向かって走りながらも、その紅蓮に燃える炎の中にカリーを探し続ける。



 だが、そこには何も残っていなかった。



「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だぁぁぁ!」



 燃え盛る炎の前で俺は膝から崩れ落ちる。


 あまりに大きすぎるショックに、もはや何も考える事ができなかった。


 しかしウロボロスは違う。


 新たなる邪魔者を発見した奴は、その巨大な足で俺を虫のように踏みつぶさんとした。


 突如俺の周りが暗くなる。


 俺の真上に空は無く、あるのは巨大な足。


 だがそんな事はもうどうでもいい。


 俺の胸は今にも張り裂けそうなんだ。



 苦しい……

 辛い……

 悲しい……



 負の感情が一斉に俺に襲い掛かってくる。



(なんでだよ? どうして? 誰のせい? 俺のせい? なんでカリーが……)



 いくら叫ぼうと変わる事のない現実に、俺は自分を責めた。



 やがてそれは受け入れられず……



(俺が……いや、あいつだ。あいつがカリーを……あいつがカリーを殺した! 許せない……絶対に許すものか!!)



 俺の怒りの矛先は、やがて自分から敵(ウロボロス)へと移り変わる。



 そして次の瞬間、暗闇は更に大きくなり、目の前のごみ(俺)を消し去ろうとした。



ーーだが……



「おまえがぁぁぁぁぁぁ!!」



 怒りの感情に全てを飲み込まれた俺は、目の前に迫る巨大な足に袈裟斬りをする。


 二つの力がぶつかったと同時に、激しい衝突音が辺りに響き渡ると、なんとウロボロスの方が弾き飛ばされ仰け反った。



それは完全に物理法則を無視した現象。


二人の体格差は蟻と象以上だ。


象に踏み潰された蟻が、逆に象をはじき飛ばす。


そんなことはありえない。


だが起こった。


それほどまでに、今のサクセスの力は常軌を逸している。


その原因の一つが、今この時、サクセスの中で1つのスキルが覚醒した。



--それは【激昂】



(怒りに我を忘れし時、秘めたる力の一部が解放される。)



 銀髪だった髪は、燃え盛る炎の様に赤色へと変わっていく。



「お前が……お前が、お前が、お前が、お前がカリーの!!」



 俺は顔を狂気に歪めながら、無我夢中でウロボロスを攻撃し続けた。



腕を斬り飛ばし

足を斬り飛ばし

胴を斬り裂き

そして首を刎ねる。



 あまりの速過ぎる俺の動きに、ウロボロスは何をされたのかもわからず、ひたすらその体が斬り刻まれていく。


 

……だが、死なない。



 いくら手足を斬ろうと、首を刎ねようと、ウロボロスは何度でも回復した。


 それも、今までにはないほどの速度で。


 斬った腕は生え、飛ばした首は黒い靄に変わると直ぐに元の場所に再生する。


 単純なステータスで言えば、俺の力は既にウロボロスを遥かに凌駕していた。


 しかし、それだけではウロボロスを倒すことはできない。


 それを俺は知らなかった。


 いや、たとえ知っていたとしても関係なかっただろう。



 今はただ……



 この感情をぶつけていたかった……



「何度でも復活しろよ! 何度でもぶっ殺してやる!」




 【ディバインチャージ】



 巨大な光の斬撃は、ウロボロスを一刀両断する。


 しかしそれでもウロボロスは再生した。



 この終わりなき戦いはどれ程続いただろうか?


 一時間……一日? わからない。


 ただ一つわかることは、その戦いには誰も近づけなかったという事だけだ。


 シロマどころか、ゲロゲロすら近づくことができないその場所。


 周囲一帯は炎に包まれ、大地は大きく深く抉れ、まさにその様相は地獄の荒野を成している。



 そこで俺とウロボロスは戦い続けた。



 

 何度殺しても死なないウロボロス。


 シャイニングで全てを消し飛ばそうとも、その体は直ぐに元の形へと戻っていく。


 そして死ぬたびに再生速度が速くなり、今では斬った瞬間には再生されてしていた。


 いくら俺でもそんな戦いを永遠に続ける事はできず、終わりの時はやがて訪れる……



---------------------




「ぐっ……かはぁ……」



 俺はウロボロスの首三つを同時に斬り落として地面に着地しようとしたところ、足の踏ん張りがきかずに、そのまま地面に倒れ込む。


 そして髪の色が銀色に戻ると、全身から一気に力が抜け落ちていった。



「まだだ! まだなんだ! 動け! 動けよ! ふざけんな! 俺はまだ……カリーの仇をとってねぇ!」



 動かない体を必死に鞭を打ち、俺は地面にその拳を叩きつけた。


 すると、ゴロンと何かが服の隙間から転がり落ちてくる。



「これは……卑弥呼の……。」



 それはセイメイから持つようにと渡された



 【魂縛水】



だった。



「猛毒……か。はんっ! 毒でも何でもいい。俺に力をくれ!」



 俺は瓶の蓋を乱暴に開けると、一気にそれを飲み干す。



ーーだが……



「何も変わらないじゃねぇか! クソっ!」



 それを飲み干したにも関わらず、体から抜けた力は戻ってこない。



 期待した俺が馬鹿だった。


 例え毒だとしても、力を与えてくれるかもしれないならと思ったが、俺の体には何の変化もない。


 唯一救いなのは、悪い影響もなかったという事だが、そんなのは今となってはどうでもいい事だった。



 なぜなら……



 ウロボロスの首を俺に向けられ、その口を大きく開いていたからだ。



 つまり、これで俺は死ぬ。



「クソ……俺は……俺は友の仇すら討てないのかよ……。」



 あまりの情けなさから、俺の瞳から涙が零れ落ちた。



 だがその時……俺の心に声が届く。



(サクセス! 泣かないで! その苦しみ……僕にも分けて!!)



「ゲロゲロ……」



 俺の心に直接届いた声の相手は、ゲロゲロだった。



(僕と一つになって! 僕にその全てを分けて!)



 気が付くと、ゲロゲロは俺の前にいた。



 それに気づかない程、俺は正気を失っていたようだ。



 一つに……一つ……

 そうか、そうだな。

 まだ俺にはあれがある。

 まだ俺は……諦めねぇ。



 こんなところで諦めてたまるかよっ!



「ゲロゲロ……一つになってくれるのか? 俺の苦しみを分けてもいいのか?」


(当然だよ! 僕はサクセスが大好き! だから辛いのも苦しいのも全部僕に預けて……サクセスは、空にはばたいて!)



 ゲロゲロの言葉が……

 優しさが……

 愛が……



 俺の乾いた心に染み渡っていく。



(俺は……俺は本当に……こんなにもみんなに……)



「わかった! 一緒に行くぞゲロゲロ!」


「うん!」



 【フュージョン】



 その言葉と同時に俺の体が膨れ上がり翼が生えると、その姿を竜人の姿へと変える。


 するとさっきまであった心の苦しみがスゥッと軽くなるのを感じ、体も同様に軽くなった。



 まるで翼が生え……いや生えているな。



 そこで以前ムッツから言われた事が頭を過る。



(次にこれを使ったら戻れなくなる可能性があるんだっけか? まぁ関係ないな。ゲロゲロと一緒なら本望だ)



 ゲロゲロの真の愛を受け、ここに本当の意味でゲロゲロとの融合が完成した。



 その力は、以前とは比べ物にならない程凄まじい。



 聖なる神の加護と龍の加護が合わさる事で、誕生したその姿こそ、卑弥呼が未来予知で見た竜神の姿であった。



 だがその刹那、目の前にカリーを消し去った時と同じ光が迫りくる。



--しかし



 その破滅の光は、剣の一振りでかき消された。



 ウロボロスに心があるかはわからないが、たった今起こった事が信じられないのか、その動きが止まる。



「ゲロゲロ……ありがとう」



(大丈夫! サクセスと一緒になれて嬉しい。この痛みも僕には嬉しいよ。だから僕の事は気にせず、あいつを倒して!)



「あぁ、そうだな。全てはそれからだ。」



 後悔も、懺悔も後でいい。

 今はただ……あいつを倒したい。

 カリーの仇は……必ず俺がとる!



 そして遂にウロボロスとの戦いはクライマックスに向かうのであった。





※サクセス(竜神)レベル70


 力    2000

 体力   2000

 素早さ  2000

 運    2000

 竜神の加護 全ステータス+500

 合計値  10000

 攻撃力  5000

 防御力  2500

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