第134話 二人なら(前編)

「さてと……やるか、っと言いたいところだけど……」



 ゲロゲロと一つになる事で冷静を取り戻した俺は、すぐさまウロボロスに攻撃……ということはしなかった。


 なぜならば、戦えるようになったからといって、今までと同じように戦ってはウロボロスを倒す事ができないとわかっていたからである。


 さっきまで俺は、我を失ってひたすらウロボロスに攻撃をしていたが、その時の記憶は残っている。



 あいつは普通にやっても殺せない



 一度だけシャイニングを使ってウロボロスの体全てを吹き飛ばし、黒い塵に変えた時ですら、あいつは直ぐに復活した。


 仲間の話では卑弥呼がウロボロスの核となった事で、それを壊せば消滅させられる、と聞いていたが実際には体全てを塵に変えても消滅していない。


 戻ってきたイモコが言うには、核を壊すには竜神とかいう奴の力が必要だとかも言っていたが、それはつまり、そいつの力が無ければ核も直ぐに再生してしまうということだろう。


 とはいえ、いるかどうかもわからない竜神を待っている余裕などあるはずもないし、そもそも今戦っているのは俺だ。



 今俺ができる事を考えなければダメなんだ。



 俺はしばらくその場で思考を巡らせているも、ウロボロスはその隙を見逃さなかった。


 再び開く三匹の竜の口。


 その照準先は当然俺であり、ためらうことなくそのまま破滅の光を発射した。



ーーだが……



「あぁもう! 人が考えている時に邪魔すんじゃねぇよ!」



 俺は煩わしいその光を、反射的に振った剣の一振りで払いのける。


 再びかき消される破滅の光。


 これによって流石のウロボロスも今回の事で理解したようだ。



 目の前の虫(俺)にはブレスが効かないということを。



 そして次にウロボロスがとった行動は……間接攻撃ではなく、直接攻撃で俺を潰すことだった。


 ウロボロスはゲロゲロと戦った時のように、体の至るところからニュルリと大量の腕を生やす。


 しかし、さっきとは違う少し違う。


 ウロボロスは俺の事を余程脅威と感じたのか、生えてきた腕の数は百本を超え、その全てが一斉に俺に向かってきた。



 俺の視界の全てはウロボロスの腕によって遮られ、当然退路も存在しない。



 だが俺は、不思議な事に全く恐怖を感じなかった。


 どれだけ多くの巨大な腕が迫ってこようとも、今の俺にとっては脅威足りえない。


 その位、今の自分に力があるのを感じている。



「仕方ねぇな。やりながら考えるか。」



 俺はそう呟くと、剣を構えた。



【ドラゴニックブレード】x3



 俺は斬撃スキルを連続で放つと、巨大な光の斬撃が襲い来る巨大な腕を次々で刎ね飛ばしていく。


 それはまるで豆腐のように柔らかいものを斬るような斬撃だった。


 圧倒的な物量ともいえる巨大な腕達だが、ものの見事に一瞬で消えていく……。


 

 そう、消えていったのだ。



「どういうことだ?」



 俺はその異変に首を傾げる。



 今まで何度も腕や足、翼を斬り落としてきたが、それがこんな風に消える事は一度もなかった。


 さっきまでの戦いでは、斬り落とした巨大な腕は地面に落下し、そして瞬く間にウロボロスの体から再び斬った腕が生えてくる……これの繰り返し。


 そして斬り落とした腕は暫くすると消え、黒い塵となって地面から舞い上がっていたのも見ていた。


 それらを総合的に考えると、もしかしたらあの黒い塵こそがウロボロスであるのかもしれない。


 それであれば、空に舞った塵は再びウロボロスに吸収されていたのであろう。


 それが無敵の謎だというなら納得だ。



 だがしかし、今回は違う。



 黒い塵に変わる事なく斬った腕は消滅していた。



 原因はわからないが、それならばこのまま攻撃すればウロボロス自体も消滅するのでは? とも考えたが、どうやらそういう訳にはいかなそうだ。


 辺り一面は黒い塵が舞っており、それがどの位の広さなのかはわからないが、それがある限りウロボロスは死なない。


 その証拠に斬り飛ばした腕の数本の根本からゆっくりとだが、腕が再び生え始めている。


 再生速度はさっきまではと比べ物にならない程遅いが、やはり再生しているという事は、完全に消滅するという事はないのだろう。


 しかしながら、さっきと全く違う反応を見せたのには何か理由があるはずだ。


 それがこの戦いの鍵になるかもしれない。


 だからこそ、それを知る為にも今度は自分から攻める!



 そう結論づけた俺は、翼をはためかせてゆっくりと大地から舞い上がった。



 【ドラゴニックブラスター】



 俺の素早さが一時的に3倍まで上がる。



「とりあえずその体、ザクザクに斬らしてもらうぜ。」



 その言葉と同時に、音速を遥かに超える速さで飛翔すると、ウロボロスの胴体に剣を突き刺した。


 そしてそのまま衝撃波を伴った速度で、ウロボロスの巨大な体を一周する。

 

 流石にサイズが大きすぎて真っ二つとまではいかなかったが、それでもかなり深く胴体を斬り裂いてやった。



「ギャァァゥオォォォ!!」



 すると、ウロボロスは苦しそうに叫び出す。


 これも今までにはない反応だ。



「お? 効いているのか? だが、まだまだぁぁ!!」



 今度はウロボロスの頭上まで舞い上がると、ウロボロスの翼の根本に向かって斬撃を飛ばした。



 【ドラゴニックブレード】



 その斬撃はウロボロスの両翼を根本から斬り落とすと、腕とは違ってそのまま消える事なく地面に落下する。


 これにどういう違いがあるのかわからないが、検証する為にも、俺は新しく使えるようになった技を放つ事に決めた。



 【ドラゴンエクスプロージョン】



 俺は両手を空に掲げると、それぞれの手の上に拳サイズの球体が生まれる。


 そしてそれを落下する翼に向かってそれぞれ投げつけた!


 その小さな球体は、落下する巨大な翼に接触すると同時に大爆発を起こすと、翼を完全に消滅させた上に、ウロボロスの背中も大きく抉る。



「グラァァァゥゥゥ!!」



 あまりに凄まじい威力に、思わず放った俺自身が口をあんぐりと開けてしまった。



「……え? やばくねこれ? あんなに小さいのにシャイニングに近い威力だぞ?」



 初めて使った技は俺の想像を遥かに超える威力があった。

 これがスキルの威力なのか、それとも自身のステータスがなすものなのかはわからない。

 しかし、一つだけ確かな事がある。



 ウロボロス……よわっ!!



 

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