第11話 融合スキル
「へ? ムッツゴクロウ? って、お? おぉ?」
その恐竜の叫びを聞いた刹那、再び俺の腕にはめられている【絆の腕輪】が強く光る。
光は次第に大きくなると、一人の老人の姿が、そこに映し出された。
「T坊元気じゃったか? すまないのぅ、ワシのせいでこんな所に一人にしてしまって……。」
そのお爺さんは申し訳なさそうに魔物に謝罪をする。
「グォオオン! グ……グォォォン!」
(ムッツ爺! ごめん、食べちゃってごめん! オイラ……オイラ……)
「いいんじゃ、いいんじゃ。あれはワシの不注意じゃてぇ。T坊は悪くなか。お前さんがいつまでも小さいままだと、ぼけて勘違いして、餌に紛れてしまったワシが悪いんじゃ。」
思い出した!
そう言えば、過去に魔心の職業になった人の名前がムッツゴクロウさんだ。
そして、最後には魔物に食われてしまって、この腕輪になったんだっけか?
なるほどな、つまりこの霊体っぽいのが、ムッツゴクロウ氏で、目の前のドラゴンに食べられたのか。
霊体と魔物の会話で状況を推察した俺は、とりあえず黙って二人のやり取りを静観することに決める。
どうして、急に腕輪に引っ張られたのか分かった気がした。
ムッツ氏は、この魔物を守りたかったのだろう。
「グォォン……。グォグォゴォォォン。」
(オイラ、あれからずっと後悔してた。それで、もうここから動かないって決めたんだ。)
「そうかいそうかい、本当にすまなかったのう。長い間一人でおったのか……可哀そうにのう……。でも、安心せぇ、これからはずっと一緒じゃ。もう、ワシは死んでるから食われても平気じゃてぇ。フォッフォッフォ……」
「ゴォォ?」
(本当? ずっと一緒?)
「あぁ、ずっと一緒じゃ。ワシにとってお前は、大切な息子じゃてぇ、もう一人にはさせん。さて、そこの若いの、聞いての通りじゃ。お前さんが大切に持っている魔石と、ワシの息子であるこの子を融合させてはくれんかのう?」
え?
どういう展開?
「いや、ちょっと意味がわからないっというか、もうちょい詳しく教えてくれませんか?」
「フォッフォッフォ……すまんすまん。お前さんもワシと同じでモンスターが大好きなんじゃろ? そして、その胸にある魔石は、お主の大切な家族じゃとワシはわかっておる。その家族を生き返らせるためには、融合しかないのじゃ。だから、ワシの大切な息子と融合させて、お主の家族も生き返らせてくれんかの? ってことじゃよ。」
なに!?
ゲロゲロが生き返るだと!!
「ゲロゲロは……ゲロゲロは生き返れるのですか!? それで融合というのは、どうすればできるのですか?」
はやる気持ちを抑えることもせず、捲し立てるように質問した。
「ふむ、ワシの魂が入った腕輪に、強く願うんじゃ。そして、【融合】と唱えるだけじゃよ。」
そんな俺の焦りとは別に、ムッツ氏は落ち着いて説明してくれる。
その姿に少しだけ、俺も落ち着きを取り戻す。
「でも融合してしまったら、ゲロゲロの魂はどうなるんですか? そこにいる恐竜と混ざってしまう、もしくは消えてしまうのではありませんか?」
冷静になった俺は、危惧する問題について確認した。
「そうじゃのう、普通はそうかもしれんがの。融合した魂の内、ワシが息子と一緒におるけぇ、残るのはそのゲロゲロという魔物の魂だけが、表面には出るはずじゃ。そして、ゲロゲロが天寿を全うした時、ワシもT坊と一緒に天に還るけぇのぉ。それまでは居候に近い感じじゃけぇ、それでもダメかのう?」
なるほど、ゲロゲロの魂のままなら、何も問題はない。
俺は決めた。
ゲロゲロを蘇らせる!!
「いえ、ダメじゃないです! むしろ俺の方からお願いしたい!」
「T坊や、それでもいいかのう? わしと一緒にいてくれるか?」
「グォォン!」
(当然だよ! ずっと一緒だって約束したじゃないか!)
「そうかいそうかい、それではすまんが、後は頼むぞい。ワシは腕輪に戻るけぇな。」
そういうと、霊体のムッツゴクロウは消えて、俺の腕輪からも光が消える。
「よし、じゃあT坊とやら、覚悟はいいか?」
「グオォォ!!」
(よろしく頼む!)
「わかった! じゃあいくぞ! 【融合】」
俺は胸の中にしまっていたゲロゲロの魔石を取り出し、絆の腕を装着した腕に魔石を乗せると、それを掲げながらスキルを唱えた。
その瞬間、T坊は青い光に包まれると、そのまま塵となって消えた。
だが、そこに青色の巨大な魔石が残っており、それが宙に浮かび上がる。
そして、ゲロゲロの魔石もまた、赤色の光に包まれると宙に浮き、青色の魔石に引き寄せられるように向かって行く。
二つの魔石が合わさると、そこで初めて融合が始まった。
俺の目の前で、青と赤の光が煌めきながら交差する。
「綺麗だ……。」
その光景は、正に神秘的の一言に尽きた。
二色の螺旋が天に向かって伸びながら、一つの生命を作りあげていく……
交差した二色の光は、少しづつ混じり合いながら紫色に変わり、そして一つの形となる。
正に新たな生命の誕生を現わす光景であった。
つつつつ……。
俺の頬を涙がつたう。
会える!
やっと、会える!
ゲロゲロ!
俺が歓喜の涙を流していると、やがて紫色の光が当たりを埋め尽くし、そこに新たな生命体が誕生した。
それを見た瞬間、俺はそいつに飛びつく。
「ゲロゲロォォ! ゲロゲロォォォ!!」
俺が飛びついた新たな生命体【ゲロゲロ】は、今までと違い、キングの姿より一回り大きく、そしてとてつもなく勇ましい姿になっていた。
もふもふがゴツゴツした恐竜の表皮となっているのが少し悲しいが、それでもゲロゲロにまた会えた喜びが大きい。
ゲロォォ!(サクセス!!)
俺はしばらく、その場でゲロゲロを強く抱きしめるのであった。
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