第10話 謎の冒険者
とりあえずドワルゴンの山を下りたところで、俺は馬車から降りる。
「うし! んじゃ、いっちょやってみっかな! 【ディバインチャージ】」
剣先に青い光が収束していく。
気のせいか、今までよりも青色が濃く感じた。
「いっくぜぇぇぇ!!」
ブゥォォォン!
………………。
ズドォォォーーーン!!
俺が剣を振った瞬間、驚くべき光景が……。
ライトブレイクの威力と衝撃波は想像の何倍もの破壊力になっており、振って数秒たってから、辺りに轟音が鳴り響いた。
そして目の前に映るは一本の道。
少し道を切り開くつもりが、目的の山の大穴まで、破壊の跡は縦長に続いている。
「うげ!! やり過ぎたか? つか、こんなヤバイ攻撃力になってるとは……力+知力の威力は半端ないな。」
その時だった……
「グオォォォォン!」
山からいきなりドデカい叫び声が響く。
そして穴の中から体の大きな何かが現れた。
「あれは……まさか? いや、でも似てるな。」
俺が目にしたのは、ドラゴンではなく、古代図鑑に載っていたTレックスと呼ばれる動物だった。
しかし、遠目からでもわかるが、図鑑に載っていた大きさよりも数倍でかい。
多分、Tレックスの魔物なんだろう。
恐竜とよばれていたTレックスの大きさは、図鑑では5メートル。
しかし、遠くからでもわかるが、あれはそんな大きさではない。
多分、優に10メートルは超えている。
「やべぇな、ありゃ。確かに普通のドラゴンではないわ。といっても、多分だが、魔王程は強くないだろう。つまり……デカいだけで俺の敵ではない!」
穴から出てきた恐竜は、付近をキョロキョロ見回している。
どうやら、さっきの俺の攻撃と振動に驚いてでてきたようだ。
そして、その原因を探しているのか?
知恵がありそうだな。
とその時、小さな何かが恐竜に向かって走っているのが見えた。
「あれは……まさか! まずいぞ、多分例の冒険者だ!」
俺よりも一日早く出発していた冒険者は、どうやら既に目的の山の穴近くまで来ていたらしく、たった一人でそのモンスターに挑んでしまった。
普通に考えて、魔王よりは弱いかもしれないが、あのモンスターはヤバイ。
冒険者一人の手に負える相手では決してない。
焦った俺は、ライトブレイクで出来上がった、目の前の一本道を、全速力で馬車を走らせる。
山の勾配から考えて、山の手前で馬車を置いて、そこからは、自分の体で登るしか間に合う方法は見つからない。
恐竜の魔物は、冒険者に気付き、既に二人は戦闘に入ってしまっている。
急がなくては!!
俺は精一杯鞭で馬を打ち、全速力で走っていく。
すると、思いのほか早く山の下までたどり着いた。
とはいえ、既にあれから10分は経過している。
間に合うかどうかはわからないが、それでも俺は馬車を降りて全速力で山を駆け上がるのだった。
「グオォォォォン!」
「おら、どうした! 全然当たらないぜ! おらよ!!」
俺が二人の戦闘場所まで辿りつくと、なんと二人はまだ戦っていた。
戦っている冒険者に傷は見当たらず、逆に恐竜の方は全身切り傷だらけである。
どうやら、この冒険者は普通じゃないらしい。
恐竜と冒険者の動きを見ればわかる。
まず、恐竜のモンスターは決して弱くない。
動きも見た目以上に早ければ、攻撃力も申し分ない程、破壊力満点だ。
恐竜が腕を振る度に、山が削れている。
しかし、その攻撃は冒険者には当たらない。
その冒険者の素早さが尋常ではないからである。
俺程ではないにせよ、多分リーチュンよりは上。
更に持っている武器が異様だった。
両手にそれぞれ、黄色と赤色の剣を持ち、背中には槍と弓を背負っている。
戦いに使っているのは、その赤と黄色の双剣であり、一撃自体は重くはなさそうだが、多分雷と炎の属性が付与されており、じわじわと恐竜にダメージを与えていた。
こんな戦闘スタイルを見るのは初めてだ。
それに背中にしょっている槍と弓も気になる。
一体、どんな職業なのだろうか?
「うーん、これは手助けの必要はなさそうだな。って、え? 嘘、ちょっ! なんだこれ! ま、待って!!」
突然、俺の【絆の腕輪】が光りだすと、二人の間に向かって俺を引っ張っていく。
それはまるで、強い引力に引き付けられるが如く、凄い勢いで二人のところへ飛んでいった。
「うおぉぉぉ! とぉまぁれぇぇぇ!!」
俺が二人の間に飛んでいった時、冒険者は双剣から水色の槍に持ち替えており、何らかのスキルを発動して、恐竜の胸に目掛けて一突きした瞬間だった。
多分、これが彼の最高必殺技なんだろう。
そして、それを食らえばきっと恐竜もただでは済まない。
そんな予感がしたーーが、あろうことにも、俺はその突きの射線に入るのだった。
「う、うそだろ!! クソ! なんだよこれ!」
「は? ばっかやろぉぉぉ! 死ぬぞ!」
ガキーン!!
短めのツンツンした青髪の青年が叫んだ瞬間、俺は盾でその突きを防いだ。
間一髪で防御が間に合ったお蔭で、攻撃を防ぐことはできたが、ちょっとだけ盾が凍っている。
どうやら、氷属性の必殺技であったようだが、俺の防御力はそれを凌駕しており、ほとんどダメージはない。
ちょっと手が痺れて、冷たいだけだった。
「まじかよ? 嘘だろ? 俺の必殺技を防いだだと!? お前、もしかして魔王……ん!? フェイル!! フェイルじゃないか! 生きてたのか!?」
その青年は自分の攻撃が防がれた事に驚くと同時に、俺の事をフェイルと呼んだ。
知り合いに似ているのだろうか?
「すまない! 邪魔するつもりはなかったんだ。何故か急にこの腕輪が……。」
「いや、そんな事はどうでもいい!! なんでここにいるんだ! 生きていたなら……くそ……姉さんだって……。」
なぜかその男は、突然涙を流して膝をつく。
不思議な事に、恐竜もまた動かないーーが、その時だった。
「グオォォォン」
恐竜は突然その場でデカい雄たけびを上げると……座り込む。
そして、俺には何故かその雄たけびのーーいや、その言葉が聞き取れた。
そいつはこう叫んだのだ。
「ムッツゴクロオオオオ!!」
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