第9話 童貞の呪い

「おう、じゃあ気を付けていけよ。絶対無理するんじゃねぇぞ!」


「はい、色々とありがとうございました。また、近くに寄ったら是非伺わせてください。」


「あたりめぇよばーろー! いつでも来やがれ。」



 俺はペポシに見送られて、ドワーフの町ドワルゴンを去った。

 こういう風に一人で旅をして、色んな出会いをするのも悪くない。

 この町には、またいつか、仲間と一緒に訪れたいと思う。


 ペポシから聞いた話だと、ドワルゴンのある山を越えるのには、少し時間が掛かるらしい。

 ドラゴンの影響で誰もそっちに行かないことから、道は整備されておらず、馬車が通れるかも微妙だそうだ。

 しかし、馬車は食料等も運んでいる為、旅の命綱でもあるし、できれば失いたくはない。

 最悪、木を切り倒したり、山の一部を砕いてでも馬車で進んで行こうと思う。



 それからしばらく整備されている道を歩き続け、ドワルゴンのある山の頂上まで着くと、次の山が見える。

 やはり、ここからの道は整備されていない。

 しかし、なんとか馬車が通れるだけの道はありそうだった。


 そして、それよりも目に付いたのは、向こうの山の頂上付近にある穴だ。  

 どうやらそこが、例のドラゴンの巣穴らしい。

 まだ遠すぎるからか、ここからではドラゴンの姿は見えないが、穴の大きさから、かなり巨大なドラゴンだということが窺えた。


「なるほどね。あれが例のドラゴンの巣穴か……。先に向かった冒険者が無事だといいんだが。ここからは急ぐか!」


 はやる気持ちを抑えながらも、俺は出来るだけ早く馬車を走らせる。

 道は険しいのだが、馬が二頭の馬車であるため、比較的安定して走行できている。

 しかも道が整備されていない分、ここからは真っすぐ走る事が可能だった。


 --道を創る事ができるならば……



「ちょっと、下まで降りたら、ライトブレイクぶっ放してみっかぁ!」



 道がないなら作ればいい。

 今まで俺のライトブレイクは、城の壁をぶっ壊したりしていたから、どこまで貫通するかはわからないけど、それなりに道は作れると思う。


 そんな事を考えながら馬車を走らせていると、突然、体に妙な感覚を感じ始める。



「ん? なんだこの感じ……なんか気持ち悪いな……。」



(おいおい、気持ち悪いってのは酷いっぺなぁ。)



「うわぁ!! びっくりした! トンズラ??」



(おっと、すまん。いきなりで驚かせてしまったな。昨日、俺を強化してくれたおかげでシンクロ率が上がって、少しだけ話せるようになったべ。)


 

 俺の脳裏にいきなり声をかけてきたのは、やはりトンズラだった。

 どうやら、昨日の修繕というかアップグレードで会話ができるようになったらしい。

 確かに、昨日着た瞬間から、なんというか装備との一体感を強く感じていた。



「しかし、そう考えるマジで凄いなペポシさん。もしかしたら世界一の鍛冶師なんじゃないか?」



(あぁ、間違いねぇっぺ。あの感触……今でも忘れられねぇ。槌で叩かれる度に、思わず叫んじまったよ。あれはまじで最高だったっぺ。あれが、絶頂ってやつなんだべかなぁ……。)



「童貞のくせに……。やっぱ、ペポシさんが言ってた喜びの声ってのは、トンズラの喘ぎ声だったんだな。ぷっ……あはははは! 叩かれて感じるとか、遂にマゾに目覚めたか。」



(馬鹿! あれはマジで最高だったっぺ! もう一回お願いしたいべ。っというか、サクセスだって童貞だべさ。笑うでね!)



「あ!! それで思い出した。そう言えば、前に俺に言ってた一生童貞の呪いについて教えてくれよ。あれが気になって、まじで精神衛生上悪いんだよ!」



(オラを笑いものにしたから教えないべ。つーーんだべ!)



「いや、男のつーんは可愛くないから、ってごめんごめん。謝るから教えて! 教えてくれたら、またペポシさんにお願いしてもいいんだけどなぁ~。」



(お? 本当か!? オラ、マジでペポシとなら結婚できるべさ! 毎日叩いてほしいっぺ。わかった、じゃあ教えるぞ。一生童貞の呪いってのはな……)



「呪いってのは……?」



(オラの事だべ。オラが童貞のまま死んだせいで、その無念がオラの魂に深く刻まれていて、オラを装備しているサクセスに呪いがかかってるっぺよ。つまり、オラを人間に戻さない限り、サクセスは童貞だべ。先に卒業はさせられないっぺよ!)



「お、お、お前がかぁぁぁ!! ふっざけんなよ! まじで? じゃあもしかして、いつもやれそうな雰囲気なのにできないのも?」



(それはサクセスがチキンだからだべさ。まぁいいじゃないか、大魔王を倒して、オラを人間に戻せば呪いはとけるっぺよ。だから頑張ってくんろ!)



 聞きたくない情報だった。

 まさか、俺にそんな呪いが掛かっていたとは……。



「嘘だ……嘘だといってくれ……。」



(残念だが本当だっぺ。まぁちゃちゃっと大魔王倒してくれれば、それでいいっぺよ。それに呪いが解ければ……)



「解ければ?」



(あんなに可愛い子達と自由に……じゃねぇか! ひゃっほーいだべ! 羨ましいっぺよ!)



「た、確かに……。うし! マジで早く大魔王ぶっ飛ばすしかねぇっぺ! うぉぉぉ! 俺はやるぞ! やってやんぞぉぉ!」



(おう! その意気だっぺよ! 頑張るっぺ! どっちが先に卒業できるか、勝負だべ!)



「その勝負受けた! 負けた方は、一週間パシリな!」



(わかったっぺ。おっと、そう言えばそんな話をするために声をかけたわけじゃないっぺ。今回のオラの強化で熟練度項目がいくつか埋まったべさ。後一つ、項目をクリアすれば進化できるっぺよ。)



「まじ? すげぇじゃん! 早く進化してくれ! そして大魔王を倒させてくれ!」



(んだば、その一個が問題だっぺなぁ。項目がわかればいいんだけど……ま、とりあえず進化できるようになったら速攻で進化するべさ。)



「うん、頼んだ! 楽しみだなぁ。せっかく強化してもらったんだから、その強化も引き継がれるといいなぁ。」



(任せてくんろ! おっと、もう時間だ。まだずっと話すことはできないっぺよ。またわかった事があったら、話すべさ。)



 それだけいうと、さっきまであった不思議な感覚が消え、トンズラの声が聞こえなくなった。



「ふむ、とりあえず呪いの事も聞けたし、まぁよしとするか。 んじゃ、とりあえずまずは目先のドラゴンからだな!」



 それから俺は、急こう配の坂を下っていき、登りとは違ってあっという間に山を下りきるのであった。 



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