第8話 クボマンジュとジロウズモルト

「おぉぉ! 凄い料理だ! うまそおぉぉ!」


 目の前のテーブルには、これでもかというくらい豪勢な料理が置かれており、思わず感嘆の声が漏れる俺。


 

 やきとり、からあげ、からあげのチリソース、鳥南蛮にチキンカツ……



 チキンのオンパレードかよ!?

 しかし、旨そうな事には違いない!



「ハニー! 今日は豪勢だな。愛してるぞ!」


「あらやだわ、ダーリン。お客さんの前よ。うっふん。」


 

 俺や子供達がいるにもかかわらず、堂々といちゃつくペポシ。

 素敵な夫婦だと言いたいところではあるが……いや、よそう。

 どっちが女性かわからないなんて、口が裂けても言えまい……。



「パパ! もう食べてもいいよね?」


「おう! みんな食え! そして飲め! おっ!? そうだ、ハニー。サクセスが持ってきた酒はあるか?」


「もちろんあるわよ! さぁみんなコップに注いで存分に飲みなさい。」



 ガチャッコがそう言うと、まずはペポシから俺が持ってきた酒【クボマンジュ】をコップになみなみに注ぐと、一気にそれを飲み干す。


 このお酒は、マーダの町で食材を買う時に、料理にも使えるし、そのまま飲んでも最高にうまいと言われてかった一品であり、お値段も結構高かった。

 お酒について詳しくはないけど、高いなら料理にも合うだろうという安易に考えて買ったものであるが、それを一気に飲み干したペポシは、目を輝かせている。



「ぷふぁぁぁぁ! うめぇぇ! おい! サクセス! これはえれぇいい酒だなぁ。お前最高だぜ!」



 ペポシがその酒を美味そうに飲み干すと、他のファミリー達もその酒を取り合っては、コップに注いで飲み始める。



 酒の消費スピードが半端ない。

 やはりドワーフの酒好きは、伊達ではなかった。

 このままだと、多分俺の飲む分は残っていないだろう。

 しかし、俺はいつでも買えるし、みんなが喜んでくれるならば別にいらない。



「喜んでいただけて嬉しいです。料理も凄く美味しいですし、俺の方こそ感謝しかありませんよ。」


「おっと、すまねぇな。おめぇさんが飲む前に空になっちまった。ハニー、あれ取ってきてくれ、30年物が残ってただろ?」


「え? あれは大切にとっていたんじゃないの?」


「いいんだ、こんなうまい酒をもらったんだ、あれを出さなきゃ俺の男が廃るってもんよ。」


「わかったわ、じゃあ専用のグラスとアイスも一緒に持ってくるわね。」



 ガチャッコはそう言うと、直ぐに台所に向かった。



「俺のとっておきの酒【ジロウズモルト】を出してやるから楽しみにしててくれ。チョコレートのような味わいの旨い酒なんだ。ちょっと強めの酒だから、氷で割って飲むといいぞ。俺はそのまま飲むがな! がっはっは!」



 ペポシが俺にそう説明すると、ガチャッコは小さなグラスに大きな丸い氷を入れて、酒と一緒に持ってきた。



「じゃあ私が注いであげるわね。はい、召し上がれ。」



 トクトクトクトクッ……



 俺の目の前のグラスに、見たことがない金色の酒が注がれる。

 量的には多くはないが、強い酒の匂いが俺の鼻をくすぐった。



「綺麗ですね。ではいただきます!」


 

 すぐさまそのお酒を口に含んだ俺は……舌が痺れた!

 


 つよ!! アルコールつよ!!



 アルコールの強さに唇と舌が痺れるが、それ以上に濃厚な味わいが舌の上で転がる。

 たしかに、ほのかにチョコレートのような甘味があった。

 今まで飲んだことがないお酒であったが、とても美味しい。



「うまい!! うまいですよ、これ!」


「そうだろう? 俺のとっておきの酒だ、味わって飲めよ。」



 とペポシは言うが、ペポシ自身はとても味わって飲んでいるようには見えない。

 俺がちびりちびり飲むのに対して、ペポシはがぶがぶ飲んでいる。

 痺れたりしないのだろうか?



「ところでペポシさん、酔っ払う前に聞いておきたいというか、言っておきたいのですが、私もドラゴンの住む山を越えたいと思っています。」



「何!?」



 突然、ペポシの雰囲気が変わる。

 さっきまでの陽気な姿とうって変わって、険悪なオーラが漂っていた。



「お前……俺が言ってた事を信じてないのか?」


「いえ、信じているからこそです。それほど恐ろしい竜がいるならば、私の前にそこに向かった者が心配です。ドラゴンを倒せないとしても、その者を救う事くらいはできるかもしれません。」



 本当はドラゴン位余裕で倒せるとは思っているが、そんな事は口にしない。

 そんなことをいったところで、「はいそうですか。」等と納得するはずがない事が容易に想像できたからだ。



「…………ふむ。わかった、いいだろう。」



 ペポシはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと答える。

 予想外な事に、否定せずにそれを認めたのだ。



「え? いいんですか?」


「今日修繕した装備を通して、お前さんの実力について、俺もある程度分かっている。多分、普通のドラゴン程度ならばお前は一人でも余裕で勝てるのだろう?」



 嘘だろ!?

 なんでそんなことがわかるんだ。



「は、はい。凄いですね、鍛冶師ってのは。そんなことまでわかるのですか?」


「馬鹿。鍛冶師だからじゃねぇ、今まで沢山の冒険者を見てきたから、そいつがつけているもんをみりゃなんとなくわかるってだけだ。それに、俺も昨日あの山に向かった奴が心配なのもある。あそこにいるのは、普通のドラゴンじゃねぇ。見た目も強さもだ。ドラゴンと表現してはいるが、あれはドラゴンであって、多分ドラゴンではねぇ。」



 ドラゴンであって、ドラゴンでない。

 つまり、この間俺が見た、普通のドラゴンや、その何倍も大きなダークドラゴンとも違うという事だ。

 一体、どんなモンスターなのだろうか。


 俺はペポシの言葉に、逆に興味が湧く。


「わかりました。そこまで言うのですから、きっと俺も見たことがないようなモンスターなのでしょう。しかし、やっぱりペポシさんは凄いです。」


「やめろや、俺はそんな凄い奴なんかじゃねぇ! それと、これだけは言わせてもらうが、絶対無理はするなよ。できるならば、昨日の奴を連れて逃げてほしい。わかったか!?」


「はい! 約束をします。絶対に無理はしません。」



 俺がそういうとペポシは俺の目をジーッと見つめた後、ニィッっと笑った。



「おっしゃ! じゃあ今日は、存分に飲んで食え! そして英気を養って、昨日行っちまった馬鹿を助けてこいや!」


「はい! 本当に何から何までありがとうございます!」



 そしてその夜、俺はペポシファミリーと共に、夜が更けるまで笑い合いながら馬鹿っぱなしをして飲み明かし、朝を迎えるのであった。

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