第7話 アップグレード

 そうこうすること、3時間……



「なげぇ……何もしないで椅子に3時間座ってるのって、結構辛いな。」



 そんな事を呟いた瞬間、下から大きな声が聞こえてくる。



「サクセス! 降りてこい、できたぞ!」



 お!?

 やっとか!



「はい! 今行きます!」


 

 俺はまるで誕生日プレゼントを待つ子供のように、胸を弾ませて階段を下りていく。

 自分の装備が強化されたかと思うと、なんだかワクワクしてくるのだ。



 ダダダッ!



 急ぎ足で階段を駆け下りると、目の前にある金属製の大きなテーブルの上に、俺の装備が並べられているのが見える。

 そして、その周りをペポシファミリーが神妙な面持ちをしながら囲んでいた。



 え? なんでこんな雰囲気なの??

 ちょっと怖いんだけど……。



 なぜかそこにいた全員の顔に笑顔はなく、凄く緊張感が漂う雰囲気になっていた。

 完成品のお披露目だからか、みんな真剣な目をしている。



 んで、俺の装備はというと……


 一言で言うならば、今まで見た事がないほど煌めいている。

 なんというか、見た目は変わらないはずなのに、ツヤツヤしていて新品以上に新品という感じ。

 どう見ても、最高の出来だと思う。



 俺が黙って自分の装備を見ていると、やっとペポシが口を開いた。



「おう、どうだ? ちょっと触って確認してみろや。文句があったら遠慮なく言いな!」



 文句って……。

 言えるわけないじゃん。

 というか、触れなくてもわかる。

 これは、とてつもなく最高の出来だ。



 そう思いつつも、俺はその装備に触れることで能力を確認する。



破邪のつるぎ+++


  攻撃力 60(+20)

  スキル 邪悪を切り裂く力 力+20


破邪の盾+++


  防御力 35(+15)

  スキル オートヒール オート修復


破邪のよろい+++


  防御力 55(+20)

  スキル 光の加護 オールステータス+5


破邪のかんむり+++


  防御力 35(+10)

  スキル 光の波動 知力+15 


破邪のくつ+++


  防御力 20

  スキル なし 素早さ+20 疾風



「うお!! なんじゃこりゃ! 凄すぎる!! つうか、スキルまでついてるし……。」



 俺の驚嘆した姿を見てペポシがドヤ顔をしながら笑った。

 と同時に、周りの子供達も胸を撫でおろしている。

 どうやら、あの緊張感はペポシが醸し出したものらしい。

 客(俺)の反応を見るまでは、油断できないのが職人魂なのだろうか。



「がっはっはっは! そうだろうそうだろう! こいつは、俺の人生で一番の仕上がりだ! なんだかわからねぇが、この装備には魂を感じたぜ! 俺が槌で叩く度に、金属が喜ぶ声が聞こえてきてなぁ! がっはっは!」



 喜ぶ声……。

 まさか、トンズラ……

 そっちに目覚めたのか!?



「いや、本当に凄いですよ。装備してもいいですか?」


「おうよ! 早く着けてみてくれ!」



 俺は早速、アップグレードされた装備を着用してみると……不思議な事に、今までよりもフィット感が良く、なんだか体が軽くなったようにも感じた。

 例えるならば、装備と一体化したかのような、そんな感じ。



「すげぇ……まるで別物だ! なんだか、力が湧いてくるよ、ペポシさん!」


「がっはっは! そうだろう、それと今回、その装備にオート修復ってスキルが付いたぞ。それがあれば、多少欠けても元に戻るだろう。だがな! それでも、毎日手入れだけは欠かすんじゃねぇ! 装備は自分の体と同じだ、毎日きっちりと手入れをしてやれ! わかったか!? 二度と酷い状態の装備を見せるんじゃねぇぞ!」



 再び笑顔から鬼のような形相になるペポシ。

 装備への熱意は、凄まじいものがある。

 それだけに、今後は装備の手入れをちゃんとしようと心に決めた。



「は、はい!! ありがとうございます! それでお代はいくらですか?」



「あぁ? んなもんはいらねぇよ、俺が好きでやってんだ。しいて言うならば、今後、毎日この装備の手入れだけは欠かさねぇでくれ、それが俺への代金だ。」



 かっけぇぇぇぇ!!

 マジで漢だわ、ペポシ。

 その漢気に惚れた! 



「わかりました、約束します。ですが、それならばここに5000ゴールド置いておきます。これはドワカジ協会に対する寄付金です。」


「あぁ? 5000ゴールドだぁ!? そんな大金受け取れるわけねぇだろ!」


「いえ、これだけ凄腕の居る鍛冶師協会であれば、私は是非寄付がしたい! どうか、受け取ってください。」



 流石に泊めてもらって、更に装備まで強化してもらっておいて、タダで済まそうとは思わない。

 協会に対する寄付という事なら、受け取らざるをえないはずだ。



「パパ、協会に対する寄付じゃ、貰わないわけにはいかないよ?」

「そうだぜ、ダディ。ここは、素直に受け取っておこうぜ。」



「う~む……よし、わかった! この金はドワカジ協会の資材購入にありがたく使わせてもらおう!」



 息子たちに説得されても渋っていたペポシであったが、最終的には折れてくれた。



 本当に、このペポシというドワーフは、職人の中の職人だな。

 ドワカジ協会のトップは肩書だけではなかった。

 腕も心意気も、正にトップに相応しい。



「ダーリーーン! ご飯の準備ができたわよぉぉ!!」



 その時、今度は二階から奥さんの声が聞こえる。

 どうやら、丁度ご飯の準備もできたようだ。



「おーう! 今行くぜハニー! よっしゃ! じゃあサクセスも来い! 今夜は宴会だ!!」



 こうして俺は、何故か成り行きで装備をアップグレードさせると、ペポシの厚意に甘えて、初のドワーフ料理を食べるべく、二階に上がっていくのであった。

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