第33話 信頼

「ふははは。よくぞ戻ってきたな、弱き者よ。いいだろう、30分耐えて見せるがいい。」


「邪竜王殿。申し訳ございませんが、少々時間を頂けませぬか? 私の命はどうなっても構いませぬので、5分だけ時間を頂けないでしょうか?」


 なんと、シャナクが邪竜王に頭を下げた。

 そしてそんな願いが通じる相手のはずがない。


「馬鹿を言え。なぜワシがそのような願いを聞き入れねばならぬ。」


「理由は簡単にございます。邪竜王様の相手となる者など、ほとんど現れませぬ。であらば、できるだけ戦闘を楽しみたいはずでございます。」


「ほほぉ。お主……弱そうだがバカではないようだな。確かにその通りだ。ワシは退屈である。だが、そなたにワシを楽しまさせられるとは思えないがのう。」


「私ではありませぬ。こちらにいる勇者様が邪竜王を楽しませてくれますぞ。」


「シャナク! あんたさっきから何をいってるわけ!?」


「勇者様、少し待っていてください。説明は後でございます。」


「ほほぉ。だが、その勇者にはまだそんな力はないと思えるがな。」


「そうでございます。今時点では、あなた様と勇者様では力が違いすぎる。故に、この装備を勇者様につけて戦ってもらいたいのです。」


 シャナクはそういうと、黒く光り輝く冠を【マジックバッグ】から取り出した。


「ほう。それは中々凄そうな装備ではないか。それをつければ、勇者はワシといい勝負ができると?」


「その通りでございます。私はこの戦の為、この装備の情報を知り、命を懸けてこれを手に入れました。これさえあれば、勇者様は今の何倍もの力を手にする事ができるのです。」


「ふはははは! 面白い! 面白いぞ! いいだろう、わかった。お前の口車に乗ってやろう。ではそれを勇者につけるがいい。」


「シャナク……あんたまさか……。その為だけにアタシの前から消えたわけ!? なんで……なんで言ってくれなかったのよ! どれだけ心配したと思っているの! アンタに沢山言いたいことがあったのよ!」


 ビビアンは、シャナクの話を聞き、涙を流した。


「申し訳ございません、勇者様。これを伝えれば止められてしまうと思いまして。しかし、話は後です。早くその髪飾りを外して、こちらをお付けください。」


「わかったわ。アタシはシャナクを信じるわ。それと……今まで、本当にごめんなさい。」


「気にすることはありませぬ。これこそが私の使命にございます。ささ、邪竜王の気が変わらぬうちに!」


 シャナクはビビアンの謝罪を軽く受け流すと、執拗に装備を勧めた。

 そして、当然ビビアンもそれに応える。


 ビビアンは【オリハルコンの髪飾り】を外した。


 状態異常無効が解除されました。


 ビビアンは、【魔王の冠】を装備した。


 その冠を被る瞬間、ビビアンはその防具が【魔王の冠】という名前に気付いた。

 だが、もはやビビアンはシャナクから渡された物がなんであれ、一度信じると決めたことから、躊躇なくそれを装備した。


 すると突然、近くから大きな笑い声が聞こえる。


「はははは! やりましたぞ! 遂にこのデスバトラーやり遂げましたぞ! ゲルマニウム様! 見ていて下さっておりますか! ふはははは!」


 突然大笑いを始めるシャナクの姿に、ビビアンは目を剥いた。


「いきなりどうしたのシャナク!? っ!? い、いたっ!! あ、あたまが……あたまがぁぁぁ!!」


 そしてビビアンが突然苦しみだした。


「いやぁ、こんなに簡単に騙されるとは……流石ゲルマニウム様にございます。」


 すると、いつの間にいたのか、そこには魔王ゲルマが立っていた。


「ここここ……。よくやりましたわぁん。私の可愛いデスバトラーちゃん。では、その醜い姿を解除してさしあげるわぁん。ん~ん【マネッチュ】解除よ~ん。」


 ゲルマがそう呪文を唱えると、シャナクはその姿をデスバトラーに変えた。


「ありがたき幸せ。ゲルマニウム様。あの姿は非常に不快でしたので、やっと解放されて嬉しく思いますぞ。」


「んふふぅ。やっぱりデスバトラーちゃんはその姿の方がいいわねぇぇん。」


「ところで、なぜあんな姿に変えたのでしょうか?」


「ん~ん。そんな事は知らなくていいのよぉぉん。それじゃあ、あたしは近くで見ているから、何かあったらまたおしえるのよぉん。これで大魔王様はお悦びになられますわぁん。」


 恍惚な表情でそう言うと、ゲルマは一瞬でその場からいなくなった。


「ふん! あやつめ。このワシにこのようなつまらない演技をさせおって! 後でしっかりワシの好きなドラゴン酒を渡してもらうからな! だが……これはこれで面白い。さて。勇者がどうなるのか、見物させてもらうかの。」


「わかりました。邪竜王様のお言葉、このデスバトラー必ずやゲルマニウム様に届ける事を誓います。」


「ふはははは。まぁよい。それではゆっくりと見物させてもらうかのぉ。」


「それがよろしいかと。私も先ほどからなぜか愉快でたまりませぬぞ。ふはははは!」


 苦しむビビアンをよそに、二人は大きく笑い合う……。


「シャ……シャナ……ク……。」


 最後にその言葉を残して、ビビアンは意識を手放すのであった。

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