第5話 円とゴールド

 しばらく俺達は、その場で受付の人が戻るのを待っていると、受付嬢が入って行った扉が開き、一人の眼鏡をかけたインテリっぽいおじ様が現れる。



「大変お待たせいたしました。私は魔石交換所の責任者の野口と申します。どうぞ、お見知りおきを。」


「初めまして、私は他の大陸から来た冒険者のサクセスと言います。」



 俺がそう言って挨拶をすると、野口は眼鏡をクイッと右手の人差し指で上げて、なにやら思案している。

 そしてーー


「なるほど、全てが繋がりました。あなた様達が、大派遣部隊が連れてきた希望……という事ですね。そちらにいらっしゃるのは、大野芋狐大将軍様とお見受けします。この度は当店にお立ち寄り頂き、至極光栄でございます。」



 大将軍? あれ? イモコってマジで偉い奴だったんか。

 しかし、この人の頭の回転半端ないな。



「その通りでござる……が、今は違うでござる。今は、こちらに御座せられるサクセス様の弟子でざるよ。」


「なんと!? 大将軍様ともあろう方が弟子でございますか!? なるほど、それほどのお方という事ですね。流石は災禍の渦潮を倒した英雄というわけですか。つまりは、この持ち込まれた魔石は災禍の渦潮の魔石……。」



 インテリおじ様は、初めて驚きの表情を顔に表す。だが、それも一瞬。直ぐに元のポーカーフェイスに戻った。



「いや、それは違う。持ってきた魔石は災禍の渦潮のものではない。災禍の渦潮が残したのは、もっと小さく禍々しい球だった。申し訳ないが、それは俺が砕いてしまったので今はない。今回持ってきた魔石は、災禍の渦潮が産み出したギガロドンの魔石だ。」


「そう言う事でしたか。わかりました、とりあえずそれでもこの魔石は貴重。この量と質の魔石ならば、我が国の大きな資源となる事でしょう。それでは、これを……。こちらが、今回の魔石の換金額でございます。」



 野口はそう言って、女性の顔が描かれた札束をカウンターに置く。



「え? これ……何?」


「師匠。これがこの大陸の通貨の円というものでござる。卑弥呼様の顔が描かれた札は1万円札、それが……1万枚程でござるか?」


「その通りです。今回の換金額は1億円です。」


「1億円? それってすごいのか?」


「そうでござるな。ゴールドに換算すると、10万ゴールド位でござる。物価が違うので、正確には言えないでござるが。」


「10万ゴールド!? まじで? やばいじゃん。」


「そうでござる。旅の経費としては十分でござる。」


「それで、こちらの町にはいつまでおられるのでしょうか? よろしければ皆さまのお力をお借りしたい案件がございます。聞いてはいただけないでしょうか?」




 俺達が報酬に喜んでいると、突然野口が質問してきた。



「ん? あまり時間のかからない案件なら考えるけど、とりあえず聞いてから決めるので話してくれ。」


「ありがとうございます。実を言いますと、ここより北西にある国「小江戸皮肥え」の国主より救援依頼が来ております。突然、国内において魔物達が凶悪化し手に負えない為、助けて欲しいといった内容でした。しかし、こちらからもベテランの戦闘員を派遣するも、全滅してしまったのです。どうやら、現れた魔物は通常よりも凶悪かつ数が多いようであり、我々としても現在手をこまねいている状況でございます。是非お力をお貸しいただけないでしょうか?」



 ふむふむ。モンスターの討伐依頼か。この大陸のモンスターを知る上でも、普段なら受けるのだが……。

 正直、一刻も早くオーブを集めなければならない俺達としては、やっかいな問題は避けたいところだ。

 ん? いや、待てよ。小江戸って……。



「イモコ、小江戸ってこれから俺達が進むルート上だったよな?」


「そうでござるな。」


「それなら、受ける事に問題はなさそうだけど、誰か反対する奴はいるか?」



 俺がそう確認すると、シロマとカリーは横に首を振っている。

 どうやら、特に異論はないらしい。



「よし、その依頼を受けた。期限はあるのか?」


「このクエストに期限はございません。一度、国主であらせられるソレイユ王と会われるとよろしいかと。」


「わかった。それじゃあ、その旨の連絡だけ入れておいてくれ。」


「かしこまりました。どうぞ、よろしくお願いします。」



 こうして俺達の次の目的地が決まった。といっても、元々小江戸皮肥えには行く予定だったんだけどね。

 それよりも、ソレイユ王って名前どこかで聞いた事があったような……。まぁ、会ってみればわかるか。

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