第6話 もののけ
ハロワで魔石の換金を終えた俺達は、イモコの案内で町の散策を始めた。港の周りは、観光客やら魚目当ての者達でごった返していたのだが、少し離れて見るとなんとも長閑な風景が広がっている。栄えているのは港周辺だけであり、少し離れると田んぼや畑が多く、小さな旅館がポツンポツンとある程度。そんな中を俺達は、大地を踏みしめるが如くゆっくりと歩いていた。
「なんかこの感じいいなぁ。落ち着くよ。俺は村育ちだから、あまり人が多いところは好きじゃないんだよね。」
俺は川沿いの畦道をゆっくり歩きながら、周りの風景を見て呟く。
思えばこういった農村地帯をゆっくりと散策するのはいつぶりだろうか? この雰囲気に一番近いのは、旅立って間もない頃に訪れたテーゼだから……うん、かなり前だな。
「師匠、本当にこんなところの散策でよろしいでござるか? この辺りには何もないでござる故、商業区に戻って必要な物を買い揃えたほうがよろしいと進言するでござるよ。」
どうやら効率重視のイモコは、こういったゆっくりすることに慣れていないらしい。多分職業病というか、何かしていないと落ち着かないタイプなんだろうな。イモコの言う事は理に適っている……。
だが、断る!
たまにはいいじゃないか!
急ぐ旅ではあるが、常に気を張っていても仕方ない。
こういうのは、メリハリが大事だ。
「いやさ、ずっと俺達は船の上にいたわけじゃん? だからさ、久々にこうやって大地を踏みしめて、ゆっくり歩くのもいいリフレッシュになるんだよね。たまには肩の力を抜く事が必要だぞ、イモコ。」
「そうですね。船での生活も良かったですが、久しぶりにこうやってゆっくり長閑な道を歩くのも悪くないですね。」
俺がそう答えると、即座にシロマも同意する。シロマもまた、俺と同じようにリラックスした感じで歩いていた。やはり、如何に素晴らしい船だったとは言え、大地の上の方が落ち着くよね。
「サクセスの言う通りだ、イモコ。訓練でも散々伝えたが、時にはリラックスして心を休める事も必要な訓練。だから、旅の準備はセイメイと合流してからでもいいだろう。まぁ俺としては散歩をするよりも、こういうところで昼寝するのが一番落ち着くんだがな。」
「カリー殿まで……。確かにそうでござるな。どうやら某は焦り過ぎていたようでござる。失言申し訳ないでござる。」
イモコはそう言うと、少しシュンとしてしまった。別に責めたつもりはないのだが、流石にちょっと可哀そうだな。というか、イモコの言ってる事は間違ってはいないんだし……。ということで、アフターフォローだ。
「いやいや、イモコ。そんなしょげるなって! いいんだよ、そういうイモコの助言はありがたいからさ。今後も気づいたらどんどん言ってくれ。今回はたまたまみんな俺と同じ気分だっただけだしさ。」
「し、ししょーー! わかったでござる、今後も何かあれば直ぐに伺いを立てるでござるよ。」
それからしばらく俺達は、久々の大地を踏みしめながら散歩をした後、再度商業区の方に向けて戻り始めた。すると、商業区に入ったところで不思議な事を目にすることとなる。
「チューー!」
なんと商業区に戻って直ぐに、一匹のネズミが俺達に駆け寄ってきたのだ。そのネズミは全身真っ白の毛並みで、クリクリの目玉が何とも愛くるしい姿だった。だがしかし、ゲロゲロは俺とはそれが違って見えたらしい。そう、獲物だ。さっきまで大人しかったゲロゲロの目が、ギラギラと輝き始める。
「ゲロォ!!(サクセス! 餌!!)」
「ちょっ! 待てゲロゲロ!」
「チュ……チューーー!?」
俺は今にも襲い掛かろうとしているゲロゲロを抱き上げた。俺の腕の中で激しくもがくゲロゲロであるが、それを力いっぱい抑え込んだ。だってさ、いきなりこんな可愛いネズミが血みどろになるところを見たくはないだろ。弱肉強食とは言え、せっかくなごんでいる雰囲気にそれはない。
「げろぉぉぉ!(離して!)」
「ダメだってば! 後で一杯美味しいの食べさせるから、落ち着けゲロゲロ!」
「ゲロ……。(わかった……。)」
死を直感したネズミは逃げる事もできず固まっていたのだが、俺達の様子を見て安心したのか、また歩き始める。そして、ちょこちょこと俺達の位置を確認するように振り返るネズミ。よくわからないけど、不思議とその姿は、俺達をどこかに案内しているようにも思えた。
「可愛いネズミですね。でもなんでわざわざ私達の前を歩くのでしょうか?」
シロマがその様子を不思議そうに見ながら呟くと、イモコが何かに気付く。
「はっ!? 師匠。もしかするとこのネズミは、セイメイの召喚した物の怪(もののけ)かもしれないでござる。」
もののけ? もののけってなんぞ? 物の毛? うん、わからん!
「ん? どういうことだ? つか、もののけって何?」
「物の怪とは陰陽師が召喚した動物の事でござる。動物といっても、その本体に実態は無いので、それが物の怪か本当の動物かは触れて見ないとわからないでござるよ。しかし、実態がないという事は日中なら触らなくても、影を見ればすぐにわかるでござる。」
ふむふむ。よくわからないけど、何となく伝わった。そしてイモコが言うように、そのネズミをよく見てみると、こんなに日が出ているのに影が映っていない。つまり、それは実態がないということだ。
「確かに影がないな。良く気付いたな、イモコ。でもなんでこれがセイメイが召喚したとわかるんだ?」
「それは簡単でござるよ。この国で師匠達の事を探すのはセイメイ殿位しか思い浮かばなかったからでござる。それにあのセイメイが合流する場所を告げずに分かれたのでござるから、このくらいは当然すると思うでござる。」
すっげぇ! この一瞬でそこまで考えが行くとは。流石は大将軍様だな。
「流石だな、イモコ。んじゃこいつに付いて行けばセイメイと合流できるってことか。良かったよ、ゲロゲロが襲わないでくれて。」
「商業区は広いでござる。故に、どうやってセイメイと合流するか考えていたのでござるが、これで一安心でござるな。流石はセイメイでござる。」
「いやいや、凄いのはイモコも同じだから。セイメイもイモコなら気付くと思ってこの方法を取ったんだろう。二人とも凄いよ。」
「し、師匠に褒められると照れるでござるよ……。」
「よし、じゃあまずはセイメイと合流するか。こうやって案内を寄越すって事は、セイメイの方も準備が整ったってことだろうしな。」
俺達は、しばらくそのネズミの後を歩いて付いて行くと、一軒の豪華な宿屋の前までたどり着いた。すると、案内していたネズミはそこに着いた瞬間にフッっと煙となって消える。どうやらイモコの予想通り、このネズミはセイメイが召喚した物の怪であったようだ。なぜならば、宿屋の前には笑顔で手を振るセイメイがいたからである。
「お待ちしておりました皆様。それでは全て準備は整っておりますので、まずはこの宿に入ってお寛ぎ下さい。」
こうしてセイメイと合流した俺達は、その夜とびっきりうまいアンコウ料理に舌鼓を打ちまくりつつ、温泉を堪能して一晩を明かすのであった。
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