第27話 眠れる森

 ゲロゲロは思ったよりも強かった。 

 多分俺のチートスキルの効果で、レベルがいつの間にか上がっていたせいだと思う。 



「ゲロゲロ、お前故郷に帰りたいとか思うか?」 


 

 俺は、ゲロゲロと絶対に離れないと決めたばかりであったが、なんとなくゲロゲロに聞いてみる。 


 ゲロゲロは首を横に振った。 

 どうやら、別に興味がないらしい。 

 そもそも故郷なんて魔物にあるのだろうか……? 



「よし! じゃあ俺達はずっと一緒だな! ゲロゲロ!」 


「ゲロォ!!」 



 俺の言葉に力強く吠えるゲロゲロ。 

 うん、ゲロゲロも俺達と一緒の方がいいみたいだ。 


 良かった! 

 そして俺は以前から気になっていた事をイーゼに聞いた。 


「イーゼ、俺さ、ゲロゲロの鳴き声で言葉がわかるわけじゃないんだけど、なんとなくゲロゲロの気持ちがわかる気がするんだ。これって俺の思い込みだったりするのかな?」 



「いえ、サクセス様は魔物つかいの職業も兼ねているようですから、多分それは一種のテレパシーのようなものだと思います。以前一緒に冒険していた魔物つかいの方も同じ事をおっしゃっていましたから。」 



 ふむふむ、なるほどねぇ。 

 やっぱり勘違いではないのか、何か嬉しいな。 

 だけど、ちょっとその魔物つかいの方ってのが気になる。


 この気持ち……そうかこれが嫉妬か。 

 他にも色々聞きたいが、なんかそいつの話は聞きたくないな。 


 俺がそんな事を考えていると、なぜかイーゼは嬉しそうだ。 



「安心してください、サクセス様。その人とは何もありませんよ。」 



 ギクッ!! 



「べっべつに気になってねぇし! つうかそん時、お前男だったし!」 



 顔に出ていたのか、核心を突かれて焦る俺。 



「ぶぅー。男じゃありません! 男の娘ですわ! まぁ女は嫌いでしたけどね、私は人族より長く生きているので色々なパーティを組んできましたけど、女性がいるせいで散々な目に遭いましたわ。詳しく話すのもイヤなほどに。」 



 まぁ、そうだよなぁ。女の嫉妬、妬み、それに男女が集まれば自然ともめごとは増えそうだ。 


 こいつも苦労してきたんだな……。 


 その時、馬車が変な方向に動き始めていることに気付く。 



 「どうしたんですか? そっちはイーゼさんが言ってる方と違いますよ?」 


 シロマは、御者にいるリーチュンに問いかけた。 

 ふと気になって馬車の中から外を見ると、周りに霧がかかっているように見える。 

 そしてこの鼻をくすぐる甘い香り。 



「くんくん……。なんか、いい匂いがしないか? あまぁーい香りがするぞ。」 



 俺が鼻をクンクンさせて周りをみると、ゲロゲロが気持ちよさそうに俺の膝で寝ていた。 


 あれ? さっきまで起きていたよな? 

 疲れたのかな? 

 もしかしてリーチュンも疲れたのか? 



「リーチュン、霧が出て来たけど大丈夫か?」 



 俺はリーチュンに尋ねるが、リーチュンから返事がない。 


 気になってリーチュンを確認しにいくと……寝てるぅぅぅ! 



「おい! リーチュン起きろ! 御者が寝るとか危ないだろ! 眠いなら俺が代わ……あれ? なんだか俺も物凄く眠く……。」 



 馬車の外に出た俺は、突然強烈な睡魔に襲われた。 



「いけません! 襲撃です! これは、甘々の息!?」 



 イーゼが一番最初に事態に気付いた。 

 しかし、その声は、俺には届かない。 

 俺は既に眠さが限界で、意識が飛ぶ寸前だった。 



「シロマさん、ハザメの魔法は使えますか?」 



 ハザメとは眠りから回復する魔法である。 



「はい! この間取得しました。 みんなに使います!」 


「わかったわ。今起きているのは二人だけ、私が外に出て囮になりますので、その間に全員を起こしてください!」 


「わかりました!」 



 イーゼが外に飛び出ると、そこには大量のスリープきのこが口から紫色の息を吐いている。 

 その息こそが、周りに発生している霧の原因であり、その匂いはとても甘ったるかった。 



【スリープきのこ】



は、口から吐き出す甘々の息で対象を眠らせて、攻撃をしかけてくる危険な魔物。

 

 その見た目は赤く毒々しい白い斑点のついたキノコのカサに、胴体には目と口があり、手と足も生えている。 

 防御力も攻撃力もそこまで強くはないのだが、パーティ全員を眠らせる甘々の息を吐いてくるため、要注意モンスターとして冒険者ギルドでは登録されていた。

 パーティに僧侶がいない場合は、こいつと遭遇すると全滅する可能性が高いらしい。

 

 イーゼは、口と鼻を布で覆いながら外に出るも、それでも全ての空気を遮断することはできず、眠気に襲われる。 

 そして魔法で敵の数を削ることはできるかもしれないが、全員を倒すのは時間的に無理だった。 


 甘々の息の効果は徐々にイーゼを蝕んでいく。 

 

 みんなが起きるまでに、この霧をなんとかしないと! 


 そう思ったイーゼは考える。 


 どの魔法が一番効率がいいか。 


 風魔法が使えれば一番良かったが、それは僧侶の魔法でありイーゼには使えない。 


 刻一刻と迫る、睡眠状態に誘う睡魔。 


 敵は完全にイーゼ達が眠るまで攻撃をすることがなく、ただ不気味な顔で笑っている。 


 なにか……なにかいい魔法は……。 


 火炎魔法はダメ。 

 木に飛び火して森が燃えたらそれこそ全滅する。 

 氷魔法は意味がない……。 


 それならっ! 


 イーゼは最近習得した魔法を思い出す。 


 相手の特技を一時的に封じる魔法「ワザトーン」だ。 


 使う魔法を決めると、イーゼは布を口から外し、呪文を唱えた。 



「お願い! 成功して! ワザトーン!」 



 ワザトーンは範囲魔法である。

 成功すれば範囲にいる魔物全員の技をしばらく封じることができる。

 しかし成功率は五分五分だ。 

 失敗すれば後はない。 


 イーゼの杖から青い光が放たれると、スリープきのこ達を青いシャボン玉のようなものが包み込む。


 成功した! 


 そうイーゼが思った瞬間、その玉は願い空しくも弾けてしまう。

 失敗だった……。


 イーゼはそのまま地面に四つん這いになる。

 必死に耐えていたがもう限界だった。



「ダメ……でしたか……。すみません……サクセ……スさ……。」



 そこでイーゼの意識は途絶える。

 だがその時、誰かが馬車から飛び降りてきた。



 ヒュン! 


 バシィン!



「寝てんじゃないわよ! イーゼ!」 



 リーチュンだった。


 外に飛び出したリーチュンは、真っ先にイーゼの頬を叩く。

 眠りに落ちた瞬間であった事と、リーチュンが強めに引っぱたいたお蔭か、再度イーゼの意識が戻った。



「次は成功させ……なさい……よ。」



 それだけ言うと、リーチュンは再度眠ってしまう。

 イーゼはすぐに状況を把握した。

 時間がないと気付いたイーゼは、すかさずもう一度ワザトーンを唱える。



「ワザトーン! ワザトーン! ワザトーーン!」 



 イーゼは、意識を振り絞ってワザトーンを三連続で唱えた。


 一回でも成功すればいい。

 3連続魔法……それが今の限界だった!


 すると、なんと今度は二回目のワザトーンが成功する。


 スリープきのこをシャボン玉が包んだままになって消えていない。

 やるべきことはした。

 後は、仲間を信じて任せるだけ。



「あとは、頼んだわ……シロマ……さん。」 



 そのままイーゼは、眠ってしまう。


 すると、そこに魔法を唱える声が響いた。



「ギバストーマ!!」



 ブォォォォォォォォォン!



 辺り一面を真空の突風が吹き抜ける。

 ギバストーマとは、真空の刃を纏った風で敵を切り刻む風の中級魔法。

 この魔法により、ほとんどのスリープキノコが刻まれて塵となると、辺り一面に広がる霧も吹き飛ばされた。


 この魔法を放ったのは当然シロマ。


 なんとか間に合った。

 しかし、まだ半分近くスリープきのこは生き残っている。

 魔法の範囲外に逃れたものや、倒しきれなかったモンスターだ。



 だが、馬車から出たのはシロマだけではなかった。



 そう、俺だ!!



「待たせたな! イーゼ、リーチュン、よくやった! シロマ、二人に魔法を!」



 そう言って馬車から飛び出す俺とゲロゲロ。

 俺達は二手に分かれ、シャボン玉に包まれているスリープきのこに襲い掛かる。



 ガスガス! 

 

 ズバ!


 ボン! 



 俺の剣撃とゲロゲロの爪が凄い勢いで敵を斬り刻んでいった。

 まぁ俺の場合は斬るというか、やはり撲殺に近い。


 そしてあっという間に俺達は、モンスターの大群を全滅させる。



「ふぅ……なんとかなったな。いや、この森やべぇな。早く抜けないと。」



 今回、敵からの不意打ちだったのもあり、相手とのレベル差があるにも関わらず、かなりギリギリの戦いだった。

 この世界では、レベルが高ければいいというわけでないのが、今回はっきりとわかった。


 事前に敵の特技や対処法を知っていなければ、高レベルパーティでも全滅する可能性があるということだ。


 やはり、油断大敵。

 これからも作戦は【いのちだいじに】だな。



 そして今回一番の立役者であるイーゼが目覚める。 



「助かった……のですか?」 



 イーゼは全員生きている状況を見て確認する。 



「アタイがいれば楽勝っしょ!」 



 イーゼの言葉に今さっき起きたばかりのリーチュンが反応した。

 確かにリーチュンのお蔭でもあるが……まぁいっか。


 それよりも、俺は目が覚めてからイーゼの頑張りを馬車からずっと見ていた。

 口では俺だけ大事みたいな事を言っていたが、ちゃんとパーティの為に身を挺して戦っていた。


 俺は見直したよ、イーゼ。 



「イーゼ。よく頑張ったな! お前のお蔭でみんな助かった。感謝している。ありがとう。」



 俺は、イーゼに近づくと、抱きしめてねぎらいの言葉をかけた。



「サ、サクセス様……。」 



 イーゼは、ここぞとばかりに攻めてくると思ったのだが、なぜか泣き出してしまう。

 その姿はいつものウソ泣きとは違い、か弱い女性にしか見えない。 



「お、おい。イーゼ? どうしたんだ?」



 突然の事で俺は焦る。 



「いえ、すみません。なんだか安心したのと、やっと本当の意味で私の事をサクセス様に仲間と認められた気がして……。嬉しくて涙が……。」 



 どうやら、イーゼは不安だったらしい。 

 確かに言われてみれば、俺はイーゼには少し冷たかった。 


 だがしかし、このイーゼはマジで可愛いな。

 ちょっと、惚れそうだ。


 と思ったのも束の間、イーゼは、その隙に俺の息子を右手でさわさわしていた。



「おい! はかったな! もうだまされないぞ!」


 リーチュンとシロマには、イーゼの巧妙なセクハラが見えていないため、よくわからずキョトンとしている。



「へぇー、イーゼも涙を流すことがあるんだ~。ウソ泣きしかしない女と思ってたわよ。いが~い。」


 リーチュンは、イーゼに抱き着いた俺に嫉妬したのか、珍しくダイレクトな毒を吐いた。



「まぁ今回はイーゼさんのお蔭ですからね。大目に見ましょう。」 

 


 それをそっと、フォローするシロマ。

 空気を読むのがうまいな。

 ナイスシロマ。



「あ~、なんだ。そのあれだな。セクハラはともかく……これからもよろしくな。」



 俺は、少し照れ臭そうに言うと、満面の笑みでイーゼは答える。



「はい、これからも皆さんの仲間として頑張りますわ!」



 うん、言っている事は立派だが、イーゼから離れようとした俺のお尻をさわさわしてきた。


 やめてほしい。 

 いややめてほしくはない。 

 だけど色んな意味で辛いから中途半端はイヤ!



「とりあえず、さっそとここを抜けよう。また襲われるかもしれないから、注意しながら一気に抜けるぞ!」



 そう言って、俺達はこの危険な森を駆け抜けていくのだった。


現在のパーティ

 サクセス  戦士?(魔物つかい) レベル21(総合1025)

 リーチュン 武闘家        レベル36(総合200)

 シロマ   僧侶         レベル36(総合200) 

 イーゼ   魔法使い       レベル37(総合205) 

 ゲロゲロ  フロッグウルフ    レベル32(戦闘力330)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る