第26話 ゲロゲロの家族
翌朝、不貞腐れているイーゼを連れて、俺たちはアバロンに向けて出発した。
「イーゼ、道は大丈夫か? あと、ここら辺のモンスターについても教えてくれ。」
俺は早速、イーゼ辞典に確認するが未だに不機嫌にしている。
「つーん! つーんつーん!」
イーゼは、そっぽを向いて答えてくれない。
どうやら、まだ昨日の事を根に持っているようだ。
これは困ったぞ。
どうすれば……。
「いいかげん、機嫌なおしてくれよ。イーゼの事を思ってやった事なんだから。」
俺はダメ元で説得を試みるも、やはりダメだった……。
むしろ、火に油を注いでしまったようだ。
「そう言ってサクセス様は私の事を都合のいい時だけ使うんですよね。そうですよね、どうせ私は都合のいい女ですわ。つーん!」
イーゼはまだ拗ねている。
なんて言えばいいのか……。
ここでシロマに助けを求めたらしたら、さらに拗ねてしまいそうだし……。
女って、めんどくさっ!
だがしかし、ここは我慢だ!
男は我慢! 女は愛嬌!
「なぁイーゼ、どうしたら機嫌なおしてくれるかな?」
「そうですわね。ではキスしてくれたら許します。ホッペやおでことかお子様なのは無しです。 ちゃんと口に深くお願いしますわ!」
キスだと!?
しかもディープを所望だと!
童貞にそんな難易度求めるんじゃねぇ!
流石にそれは……全然オッケーだぜ!
そんな事でいいならお安い御用さ!
チェリーのヘタで訓練した我が秘技を味わうがいい!
いざ、ファーストキス & ディィプ!
「アンタ何言ってんのよ! 昨日聞いたけど悪いのアンタでしょ!」
しかしそこで、ずっと黙っていたリーチュンが遂にキレた。
「そうですよ、イーゼさん。今回はイーゼさんの自己責任です。前にリーチュンを注意してた時に言ってましたよね? 私は覚えてます。悪い事をしたら反省しなさいって。」
シロマまでなんか怒ってらっしゃる。
危なかった、うっかりキスをしていたら逆に俺が叩かれるところだったぜ。
べ、別に勿体ないとか思ってないんだから!
「そ、それは確かに言いましたけど……。わかりましたわ。今回は私が悪かったですわ!」
意外に早く折れたなイーゼ……。
もう少し粘ってもいいんだぞ?
「おし、じゃあイーゼも反省している事だし、接近禁止は解除しよう。それに、なんだかんだ言って本当にイーゼには助けられてるからな。ありがとうイーゼ。」
リーチュンもシロマも少し面白くなさそうだが、何も言わない。
じゃあ、これでおしまいだ。
「サクセスさまぁ!! 一生ついていきます!」
だが、俺の言葉に感極まったイーゼが抱きついてくる。
やめろイーゼ!
せっかく収まりかけたリーチュンとシロマの眉間に皺が寄り始めたぞ!
すぐさま俺はイーゼを引き離す。
「おいイーゼ! 離れろ! ったく。んで、さっきの話だが……。」
「はい、道は任せてください! ここのモンスターで注意するべきはフロッグウルフとスリープきのこです。」
はや!! 答えるのはや!
こいつ……。ちゃんと聞いてたな。
どうやら拗ねた振りをして俺の気を引いていただけだったようだ。
「ん? フロッグウルフって、ゲロゲロの事か?」
「はい、ずっと不思議でしたわ。前の大陸にフロッグウルフが生息しているはずがなかったのでしたので。多分、密猟にあったか何か特別な事でもあったのでしょう。」
衝撃の事実!
先に言えやイーゼ!
だがそうなると……。
「じゃあここにゲロゲロの親がいるかもしれないのか……。もしいたらお別れかな……。」
ゲロゲロと離れるのは辛い。
今では俺の癒し担当筆頭であり、何より俺に懐いているゲロゲロが可愛くて仕方なかった。
だが、子供はやっぱり親と一緒の方がいいだろう……。
辛いな……。
「ゲロロ?」
ゲロゲロは不安そうな顔で、俺の顔を覗くとペロペロしてくる。
俺は更に胸が締め付けられた。
そんな顔をしないでくれ、ゲロゲロ。
「そうですね、親がいるなら返してあげた方がいいかもしれません。」
シロマも悲しそうに言う。
しかし、リーチュンだけは違った。
「アタイは反対よ! だってそれで返して冒険者に殺されたら可哀想だわ! ペットは一度飼ったら最後まで責任をもちなさいって親に言われたわ!」
リーチュンは絶対にゲロゲロと別れないという意思表示か、ゲロゲロを抱きしめて離さなくなる。
そういえば、この中で一番ゲロゲロを可愛がっていたのはリーチュンだったな。
「確かにそうだ。だけどそれを決めるのは俺達じゃない。ゲロゲロだ。もしも、ゲロゲロが帰りたいって素振りを見せたらその意思を尊重してあげよう。辛いけどな……。」
「そんな泣きそうな顔して言わないでよ! サクセスだって本当は別れたくないんでしょ! アタイは誰がなんと言おうと絶対反対だからね!」
「俺だって別れたくないさ! 誰がなんと言おうとゲロゲロは俺の仲間だ! いや、もう家族だ! 離れたいわけなんてない! けどな、それでも……家族だからこそ、俺はゲロゲロの意思を尊重したいんだよ……。」
俺はつい声を荒げてしまう。
リーチュンの気持ちは痛いほどわかるが、それよりもゲロゲロの気持ちが大事だ。
辛いのは俺だって同じだ。
「あの~、一つよろしいですか? そもそもまだ親がここにいるって決まったわけではないですし、フロッグウルフは結構色んなところにいますわよ? そもそも、親がわかるかどうかもわかりませんし。とりあえず、そういう事があったら考えればいいのでは?」
イーゼは冷静に話した。
さっきまでの、情けないイーゼとはまるで別人だ。
「確かにそうか! っつか、色んなとこにいるのかよ! 先に言えよ。」
「なぁんだ! ビックリしちゃった。てっきりアタイ、今まさに別れる別れないの話をしているのかと思っちゃった。それならよかったわ!」
リーチュンも嬉しそうだ。
「しかし困りましたね、それですとこれからフロッグウルフと遭遇した時、無闇に倒せませんね……。」
シロマの言葉に俺は気付かされる。
た、確かに!
それは考えてなかった!
そういえば、そもそもフロッグウルフは魔物だ!
大事な事を忘れていたよ……。
「どうしよう、イーゼ。」
困った時はやっぱりイーゼに聞くのが一番。
「そうですね、それではフロッグウルフが出たらゲロゲロに戦ってもらうのはどうですか? 今のゲロゲロは小さいですが、レベル的にそこらへんのフロッグウルフくらいなら集団でも倒せますよ。」
「お前天才か!? でも、あんまりゲロゲロに戦わせてなかったけど大丈夫かな?」
「とりあえずそこに沢山いますから、やらせてみましょう。」
イーゼは当たり前のように言う。
気がづくと、俺たちは緑色のトサカを持った狼の集団に囲まれている。
集団心理からなのか、自信があるのか、こいつらは俺たちを見ても逃げずに攻撃するつもりみたいだ。
どうやら俺たちの隙を窺っていたらしい。
ひー、ふー、みー、……八匹!
ゲロゲロだけでいけるか?
「よし、ゲロゲロ! 任せるぞ! ちなみに親はいないか?」
「ゲロロン!」
なに言ってるかわからないが、多分いないって事だと思う。
何故かゲロゲロの考えが伝わるんだよな、これも魔物つかいの能力なのかな?
後でイーゼ先生に聞いてみよう。
「ゲロォォォォン!」
ゲロゲロが突然雄叫びをあげる。
凄い声だ!
その声を聞いたフロッグウルフ達は怯えてすくみあがった。
いつのまにそんな特技を覚えたんだ?
そして、その瞬間を逃さず、ゲロゲロは一匹づつフロッグウルフに襲いかかった。
爪で斬っては、相手の爪を避け、噛み付いては、避け。
え? ゲロゲロってこんなに強かったの?
ゲロゲロは、自分よりも大きなフロッグウルフの成体を次々と蹴散らしていく。
ズバ! ガブ! ズバ!
その姿、正にゲロゲロ無双である。
ゲロゲロの圧倒的な速さに、敵は全く追いつけない。
そして、あっという間に全て倒してしまった。
「ゲロオぉーーン!」
ゲロゲロは嬉しそうに勝利の雄叫びをあげる。
「ゲロゲロ! お前やるじゃないか!!」
俺はそんなゲロゲロの喉の下を撫で撫でする。
ゲロゲロは目を閉じて気持ちよさそうにしていた。
「アタイも! アタイも!」
リーチュンも、一緒になってもふもふし始める。
やっぱりゲロゲロと別れるなんて無理だわ。
もう、俺はわがままでもいいから、ゲロゲロとはずっと一緒にいよう。
そう心に誓うのだった。
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