第25話 浜辺でバカンス

現在のパーティ

サクセス 戦士?(魔物つかい)レベル20

リーチュン 武闘家      レベル34

シロマ   僧侶       レベル34

イーゲ   魔法使い     レベル35

ゲロゲロ  フロッグウルフ  レベル29

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 目の前には広がるのは、果てしなく広がる青と陽の光を浴びて煌めく白の世界。 

 俺は生まれて初めて海というもの見た。 


 遠くからも聞こえるさざ波の音、時折、頬を撫でる潮風、その全てが俺の心を癒してくれる。 


「うっわーー! 凄い綺麗! おーい! サクセスぅぅ、早くおいでよ!」 


 海が見えた瞬間、ゲロゲロと海に向かって駆けていくリーチュン。 

 それとは逆に、不思議そうに砂を手で掬って、サラサラと地面に落とすという謎の儀式をするシロマ。 

 そして、特に海に反応することが無く、いつまでも俺の腕にしがみ付いているイーゼ。 


 三者三様の反応であるが、どうやらシロマとリーチュンは、俺と同じで海を見るのは初めてのようだ。 



「んで、そろそろ離してくれないかイーゼ。俺もこの砂浜を堪能したいんだ!」 


「嫌です。私はサクセス様を堪能したいです。」 


「どおらあぁぁぁ!」 


 俺はいつまでもしがみ付くイーゼを強制的に振り払う。 

 決してイーゼにしがみ付かれるのが嫌な訳ではないが、このままだと何もできないし、若干シロマの目が痛いからな。 


 イーゼはそのまま砂浜に倒れると、ローブの裾から伸びる白い足が砂まみれになった。 


 おっほー。

 え、えろい……。 

 いかん! ダメだダメだ! 


 これもあいつの作戦に違いない! 

 全く、ゲイだっただけに芸が細かいな! 


 横目でイーゼを見ながらそんな事を考えていると、



 シャカシャカシャカ……



 という変な音が聞こえてきた。  


 なんだこの音? 


 俺は咄嗟に音が聞こえる方に振り向く。

 するとそこにいたのは、両手が鋭く光る巨大なハサミになっている、人間サイズのカニだった。 


 なんじゃありゃ! 魔物か!? 


 そのカニは信じられない程速い横歩きで、倒れているイーゼに向かってくる。



「イーゼ! 早く立て! モンスターだ!」 


「あっは~ん。立てないですわぁ~。助けてください、サクセスさまぁぁ。」 



 言ってる場合か! 

 こんな時に、何を馬鹿な事をしてんだ、この変態は! 


 俺がイーゼに危険を伝えるも、イーゼは俺の方しか見ないでふざけている。 



「馬鹿! いいから、立てって! クソ!」 



 俺はイーゼに駆け寄ってその前に立つと、迫りくる化け物カニを銅の剣で攻撃する。



 バシっ! 


 俺はどうのつるぎでその蟹をぶん殴ると、カニの魔物は一撃で爆散した。 


 あれ? 一撃……。 

 俺、強くなりすぎてね? 


 久しぶりに戦闘をした俺だが、いつの間にか俺は、自分で思っている以上に強くなっていたみたいだ。 


 やはり能力向上10倍はヤバすぎる。 

 他のメンバーも経験値10倍のせいでレベルが爆上がりだし、そう考えると結構ヤバいなこのパーティ。 



「こ、怖かったデスゥ~!」 



 イーゼが図々しくも俺に抱きついてこようとした為、俺はそれを素早くかわす。 

 するとイーゼは勢いよく砂浜に顔面ダイブした。 



「うきゃっ!!」


「イーゼ! もうこういうのはやめてくれ! 次は絶対助けないからな!」 



 多分こいつは、俺が必ず助けると計算してこんな事をしたに違いない。 

 だが、これはやり過ぎだ。

 戦闘は遊びではない。 

 ここできつく言わなければ、今後は命に関わる可能性だってある。 


 だからこそ、俺は語気を強めて言った。 



「……申し訳ございませんでした。少し浮かれており、調子に乗り過ぎていましたわ。」 



 イーゼはシュンとして、反省しているように見せてはいるが――多分演技だな……。

 俯きながらも、イーゼは、ちらちらと俺の様子をうかがっている。 


 はぁ……全くこいつは。 

 まぁ、同じ事は流石にもうしないだろう。 

 それより今は……。 



「んで、さっきのあれはなんだ?」 


「あれは、海賊蟹ですわ。普段は群れて冒険者を襲ってくるのですが、今回は一匹でしたので、甘く見てしまいました。申し訳ございません。」 



 なるほどな。 

 イーゼはあの魔物を知っててあんなことをしたわけか。 

 といっても、危険な事には違いないが。 


 とりあえず、先に色々聞いておいた方が良さそうだ。 



「他にも、ここら辺で出てくるモンスターについて教えてくれ。」


「はい、海辺の近くでは、痺れスライムやデスカラスなどが現れます。」 


「それはどのくらい危険なんだ?」 


「レベル20前後のパーティなら十分戦えるレベルかと。今の私達ですと、かなり余裕ですわ。」 


 

 思ったよりも危険は少なそうだな。 

 と言っても、油断はできない。 

 それにしてもイーゼは、本当にダメな時はダメだが、こういう時は頼もしいな。



「わかった。参考になるよ。それで、目的のアバロンは、ここからどのくらいで着くんだ?」


「そうですね、そこの森を出て1日歩けば着くかと。ちなみに目の前の森はそこまで深くありませんので、半日もあれば抜けられますわ。」 



 俺が質問すると、イーゼは浜辺の先の森を指差して説明する。 



「それじゃあ、今日のところは森に入らずに、浜辺の先にある木の下で野営をするかな。そしたら明後日の夜には着くみたいだし。」 



 別に急ぐ旅でもないし、折角初めて海を見たんだから、今日くらいはゆっくりしてもいいと思う。 

 それに、美女達と一緒の海でビジョビジョになりたいし! 



「それがよろしいかと。ここの浜辺は、夕陽が沈むととても綺麗なのです。いつか最愛の人とそこで愛を語り合うのが私の夢でした……。やっと叶いそうですわ!」 



 イーゼはウットリとした目で語りながら、一人の世界に入っている。 

 もうさっきの事は忘れているようだ。 

 少しは懲らしめた方が良さそうだな。 



「悪いけど、イーゼ。さっきオイタしたから、今日は、俺から2メートル以内の接近禁止な。これは命令だ。わかったら少しは反省してくれ。」 


「そ、そんな! 私の……夢が……!」 



 俺の宣告にイーゼは言葉を失う。

 体全身から絶望のオーラが溢れ出るイーゼ。 


 ちょっと可哀想だが仕方ない。 

 ここで甘やかすと後で大変だからな。 

 ここは心を鬼にして、明日以降は少し優しくしてあげよう。 


 ところでそういえば、さっきから他のメンバーを見ていない。 

 こっちで戦闘があったにも関わらずだ。 

 つまりは近くにはいないということだろう。 


 一体どこで何をしているのだろうか? 


 俺は砂浜で放心状態になっているイーゼを置いて、他のメンバーを探し始めた。 


 俺はしばらく海沿いを歩いて探し始めると、大分離れた場所でリーチュン達を発見する。 



「リーチュン、もっと優しくです! あっ! もう、崩れちゃったじゃないですか!」 


「あははは、まぁいいじゃん。次はもっと大きいのを作ろうよ!」 


 なんと二人と一匹は、浜辺で砂遊びをしていた。 

 なんて自由な奴らなんだ! 

 こっちが魔物に襲われていたというのに……でも、なんか楽しそうだな。 

 俺も誘ってくれよ……寂しいじゃないか。 



「みんな楽しそうだな、なにを作ってるんだ?」 


「砂でお城とトンネルを作ってました。サクセスさんも一緒に何か作りますか?」 


 俺の質問にシロマが楽しそうに答える。 

 だが、もっと楽しそうな奴がいた。 



「サクセス! 見て見て! オッパイ! おっきいでしょ!! あはは!」 



 そうリーチュンである。 

 リーチュンは、砂でおっぱいを作って笑っていた。 

 正に自由人。 



「お前は、子供かっ! でも嫌いじゃない……。」 



 最後の言葉だけは小さく言う俺。  

 本当にリーチュンは楽しそうだな。 

 見ているだけで俺も楽しくなってくるぜ。

 だけど、ここは安全ではない。 

 一応注意しておくか。 



「二人とも、あんま油断してると魔物に襲われるぞ。さっきイーゼがでっかいカニに襲われてたからな。そこまで強くはないが、万が一という事もある。」 


「あ! そういえば聖水撒いてませんでしたね! うっかりしてました!」 



 俺の言葉にシロマが自分のミスに気付いて声をあげる。

 シロマにしては珍しいうっかりのようで、反省している……がリーチュンは違う。 


 何故かブーーっっと頬を膨らませて怒っていた。

 なぜだ? 



「なんでアタイを呼んでくれないのよ! サクセスだけカニさんと遊んでズルい!」 


「いやいや、遊びじゃないから。って、そうだよ。とりあえずここにも聖水を撒かなきゃ!」 



 ゲェェェェロォォォォ! 



 俺が聖水を取り出そうとすると、砂浜を走り回って遊んでいたゲロゲロが突然叫んだ。 



「どうしたゲロゲロ!?」 



 ゲロゲロを見ると、さっきまで元気よく走り回っていたのに、今は体をピクつかせながら倒れている。 


 一体何が……? 


 俺は注意深くゲロゲロのいるところを見ると、なぜゲロゲロが倒れたか直ぐ分かった。 

 どうやらゲロゲロは痺れさせられたようだ。 


 当然それをやったのは……魔物である。 

 ゲロゲロの横には、青色のクラゲみたいな魔物がいた。 

 そいつは、その体の色で海にカモフラージュし、ゲロゲロに近づくなり、触手を巻き付けて痺れさせたのだ。 



「みんな、魔物だ! 警戒しろ!」 



 俺は叫んだ。

 どうやらこいつが、さっきイーゼが言っていた痺れスライムのようだ。 



「サクセス! どいて!」 



 リーチュンが痺れスライムを素手で殴る。レベル差があるから、多分また一撃爆散だろう……と思ったら違った。 



 グニュっ! 



 リーチュンの拳はスライムに当たると、そのまま中に吸い込まれてしまう。 



「この! は、な、れ、ろーー!」 



 リーチュンが拳を抜こうとするもなかなか抜けず、その隙に触手がリーチュンの足に巻きついた! 



「きゃー! 痛い痛い! 痺れる!」 



 リーチュンは痺れスライムに痺れ触手を巻きつけられると、逆さまに釣り上げられる。 



「そういえば、モンスターの中には打撃無効の敵がいます!」 



 シロマがそれを見て叫んだ。 

 それを聞いた俺は、直ぐにどうのつるぎを抜く――のだが……俺はそのまま固まってしまった。 


 理由は簡単だ。 

 俺の目の前に映るヤバい光景。 

 そう、リーチュンがあられもない姿で宙吊りになっているからである。 



 つつつ……。 



 俺の鼻から血液が垂れていく。


 くそ! 動け! 動けよ俺の体! 

 

 まさか、間接的に俺まで痺れさせてくるとは……なんだこの感じ……。 


 の、脳が……震える。 


 突然の違和感に俺は動けない。 

 否! 違う。 

 俺の脳が魔物を倒すのを拒否している。 

 あと、少し……もうちょっと……。 

 先っぽだけだから……。 



「サクセスさん!」 



 ビクっ!! 



 その時、突然横からシロマの怒声が聞こえた。 

 その声を聞いて本能がヤバイと察し、痺れが解除される。 



「てめぇ、リーチュンになにしてくれてんだー! 最高か!?」 



 バチュっ! 



 最後はつい本音を漏らしつつも、感謝を込めた俺の会心の一撃が痺れスライムを一刀両断した。 

 どうやら全く斬れないどうのつるぎであったが、柔らかいスライムに対しては斬属性扱いになるらしい。 



「ケアリック」 


 

 俺が敵を倒すと、地面に落とされたリーチュンと倒れ伏しているゲロゲロにシロマが魔法を唱えた。 

 初めて聞いた魔法だが、ピクつきが消えているところを見ると、状態異常回復魔法だとわかる。 



「ふぅ、危なかったな! だから、油断はしちゃいけないんだ。わかったら、野営の準備と聖水を撒くぞ。」 


「サクセス。助けてくれてありがとう。あ、顔に血がついてるよ。サクセスを傷つけるなんて、結構ヤバい敵だったのね。アタイの攻撃も効かなかったし……。」 


 それは顔というか、鼻です。

 そうです鼻血です。この負傷はあなたのおかげです。 


「そういえば、サクセスさん。なんか倒す最高って聞こえた気がしたんですけど。どういう意味だったのですか?」 


 やば、聞かれてたのかよ。 


 シロマが白い目を向けて俺を問い詰める。

 うまく、有耶無耶にしたつもりだったのに失敗したようだ。 



「き、気のせいだっぺよ。」 



 俺が動揺しながら答えると、更にシロマが追及する。 



「それに直ぐに動きませんでしたよね?」 


「い、いや。て、敵の動きをよく見ないと、逆にやられると思ったっちゃ!」


「ほんとですかぁ~? リーチュンのパンツを見てただけじゃないんですかぁ?」 



 うげぇぇ! 



 今日のシロマは凄い攻撃的だ。 

 俺はなにも言えずに無言になってしまった。 

 そんな俺を見て、シロマはさっきまでの顔が嘘のように笑顔に変わる。 



「なんてね、嘘ですよ。サクセスさんがそんな事するはずないですもんね。ちょっと……なんか少し胸がモヤモヤして意地悪しちゃいました。ごめんなさい。」 



 なんだこの子。 

 めっちゃ可愛いやんか! 



「すまなかった、次はもっと早く動けるように頑張るよ。」 


「まぁまぁ、今回はアタイが油断したせいだから、そう暗くならないでよ。ほら! 日が落ちる前に野営の準備、レッツゴー!」 



 あんな恥ずかしい姿を見られたというのにリーチュンは元気で明るかった。 

 その後、俺たちは辺りに聖水を撒くとみんなで夕陽を眺める。 

 

 イーゼが言っていたように、それはこの世の物とは思えないほど美しかった。 

 だが美しいのは海だけではない。 

 夕陽に照らされる仲間達もまた美しい。 


 ちなみにイーゼは一人離れてシュンとしている。 


 今日は色々あったけど、いいリフレッシュになったな。 

 今日の事は、絶対忘れない! 


 ありがとう! 

 ありがとう痺れスライム! 

 ありがとうパンティ!

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