第28話 アバロン城
その後、俺達は速度を上げて森を駆け抜けていくと、なんとか森から脱出した。
すると、遠くからでもわかるほど立派な城が見えてくる。
確かここから馬車で一日の距離だったはず。
後少しだな!
「あれがアバロン城か。くそでかいな!」
「はい、あれがアバロンの城です。まだ昼前ですから馬車を飛ばせば今日中に着くかもしれません。しかし、森で大分、馬の足を酷使しましたので、今日はどこかで野営をした方がいいと思いますわ。」
イーゼが提案する。
当然、俺がそれを否定することはない。
「そうだな、ここからは普通の速度で進んで行って、日が落ちる前になったら野営の準備をしよう。ところでアバロンまでの間に危険なモンスターとかは出るのか?」
「ここからアバロンまでは問題ありません。ここは冒険者も多いですし、城の衛兵達が演習をするために城下町の外を頻繁に往来しています。ですから、よっぽどのことがない限りモンスターに襲われることはないと思いますわ。それにもしも、モンスターに襲われてピンチになったとしても誰かがすぐに応援できてくれるでしょう。ちなみに襲ってくるとしたらデスカラスですわ。ですが、これも滅多に遭遇することのない魔物です。もし出たら弱いので狩ればいいかと。経験値の足しにはなりますわ。」
相変わらずイーゼの説明に抜け目はない。
なんでイーゼはこんなに頭がいいのだろうか?
とはいえ、やはり知らない土地での野営の為、不安は残る。
「わかった。だが一応警戒はしておいた方がいいだろう。聖水も残り少ないしな。」
「そうですわね、ですが、本当にここはアリエヘン周辺よりも安全ですわよ。」
うーん、イーゼがそこまで言うなら少しは安心してもいいのかな。
「あ、サクセスさん。私、先程の戦闘で聖水と同じ効果の魔法を覚えましたので、聖水は今後減らしても大丈夫だと思います。今後は私の魔法「ホリフラム」で結界を張って、聖水は非常時用にしませんか?」
突然シロマからの嬉しい知らせ。
金が浮く!
「ほんとか! よくやったシロマ! んで、ホリフラムってのはどういう魔法なんだ?」
さすがは頼れるロリっ子シロマ。これで節約できるぞ!
貧乏暇なしにはなりたくない。
「はい、聖なる光で結界を張る魔法です。聖水よりも効果は強く、範囲が狭い感じですね。聖水だと魔物によっては中に入れるモンスターがいますが、ホリフラムの結界の中には魔物は入れません。なので、見張りもいらない感じです。」
なんと! それはまことであるか!?
これで旅の安全性が格段に上がるぞ。
ぶっちゃけ聖水使っていても、俺は安心できなかったのよねぇ~。
「んー、でもそれって人は入れるんだよな?」
「いえ、基本的に外からは入れません。結界内にいる人も一度結界の外に出たら、こちらから呼び入れない限りは入れませんね。ただ、結界破りの魔法もあると聞いたことはあるので完全ではありませんが。」
結界破り?
なんじゃその禁忌っぽい魔法は。
こわっ!
「じゃあ盗賊とかに襲われることはないのか? その結界破りはどの程度の人間が使えるかわかるか?」
「それは……。すいません。わかりません、勉強不足です……。」
しまった!
シロマが傷ついてしまった。
誰だ! こんな可愛いロリっ子をいじめる奴は!
出てこい! 俺が相手してやる!
って俺だぁ! ごめんなさい、なんでもかんでも聞きすぎました。
「いや、すまない。俺も色々しつこく聞きすぎた。」
すると、イーゼが代わりに答えた。
「サクセス様、結界破りは普通の魔法ではありません。闇魔法は、職業で覚えられるようなものではないですから、本当に使える人がいるかすらわからない魔法になりますわ。もし、使える者がいるとしたら、それはサクセス様クラスの異常者ですわね。」
この変態エルフは、今なんつった?
言うに事かいて、この超絶紳士の農民上がりで貧乏な俺を……
言ってて悲しくなるな、やめよう。
でも異常者はないだろ!
せめて格好よく超越者とかにしてくれ。
「誰が異常者だ! お前が言うな! まぁなんにせよ、それなら安全か……。100パーセントとは言わないが99.9パーセント位は平気そうだな。じゃあこれからは見張りはやめて、みんなで休むか!」
「サクセス様、どうしても心配ならば結界内に土魔法で壁を張る事もできます。それがあれば、万が一のことがあってもしばらくは時間が稼げるかと思います。」
「そんな事できるのか? ならなんで今までやらなかったんだよ?」
そんな便利魔法が使えるなら使って欲しかったわ。
もう少し俺も安眠したかったぞ。
「聖水であれば、そんな物を作っても入られる危険が十分にありました。それならば間違いなくサクセス様は見張りをやめなかったと思ったのです。であれば、やる意味もないかと。必要でしたか?」
こいつ……。
まさにその通りだ。
なぜ俺の心が読める!
俺は基本的に超臆病なんだ。
さっきもああは言ってみたものの、不安は消えていない。
それをイーゼは察したのだ。
流石変態……ではなく天才エルフだな。
「いや必要なかったな。流石はイーゼだ。お前は凄いよ、俺なんかよりもな。」
「私など無駄に長く生きているから知っているだけで、サクセス様には到底及びません。ただきっとこれまでの経験は、サクセス様に出会った時の為に培ってきたものだと今ならわかります。」
珍しくイーゼは真剣な表情で言った。
なんだか、凄く照れくさい。
「や、やめるっぺよ。照れるべさ。んで、その魔法はなんて魔法だべ?」
つい、照れすぎて方言が出る俺。
今までほとんど褒められたことがないから、あまり褒めないでほしい。
ときめいちゃうだろ!
「アースウォールですね。上位魔法のストーンウォールも使えますが、これは周りに石がないと無理なので基本はアースの方がいいかと。」
ふむふむ、なるほどな。
「わかった、まぁそこの判断は専門のイーゼに任せる。」
俺がそういうとイーゼは頷く。
最近、俺のイーゼへの評価が上がりっぱなしだな。
ダイレクトの好意も慣れてくると嬉しいもんだ。
こいつの変態行為だって、もしも二人旅だったならば……。
それ以上はダメだ!
仮定の話を考えたらきりがない。
なんにせよ、ガチ恋はダメよぉ! ダメダメ!
俺はまだ冒険を楽しみたい!
こうして、その日初めて俺達は、見張りを付けずに安全な野営をする。
ちなみに、やはり臆病な俺は本当に安全かわからなかったから、今回に関しては魔法の他にも残りの聖水も全て使用した。
色々とチキンでごめんね!
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