第17話 覚醒と悲劇

 ゲロォ(くらぇぇー!)


 ゲロゲロは、圧倒的な速さでダークドラゴンに接近する。


「ふん、犬っころの分際で生意気な。」


 ガキーーン!


 ゲロゲロの爪は、ダークドラゴンの爪と激突した。


 ゲロロ!(甘い!)

 

 ズバっ!


「なに!?」


 なんとゲロゲロの攻撃力はダークドラゴンを少しだけ上回っており、ダークドラゴンの爪を弾くとその腕を斬りつける。


 だが、残念ながらダークドラゴンの防御力は高く、薄皮一枚切っただけに過ぎなかった。


 ゲロォ!(やるな!)


 そしてゲロゲロは、攻撃を与えると直ぐに距離をとる。

 敵の強さを正確に察知し、反撃を防いだのだ。


 その姿を見たイーゼ達は……


「これは……予想外ですわ。これならいけるかもしれません。リーチュン! シロマさん! わたくし達はあのレッドドラゴンをやりますわよ!」


「あいよ! じゃあ援護よろしくね!」


「わかりました、では掛けます。【ペプシム】【サイダーム】」


 リーチュンの物理防御と素早さが上がる。


「わたくしからもかけまわ。【マッスルシオン】」


 更に力も上がった。


「いいわね! 力がみなぎってきたわ! いっくわよーー!」


 レッドドラゴンに突撃するリーチュン。

 だが、レッドドラゴンも黙ってはいない。

 三匹同時にブレスを吐いた。


【ブリザック】【ブリザック】


 イーゼはすかさず上級氷魔法を二連発で放ち、レッドドラゴンの炎を食い止める。


「さっさとやりなさい! 長くは持ちませんわ!」


 敵のブレスは強力であり、イーゼであってもギリギリだった。

 そして、これまでの戦いでシロマもイーゼも精神力を大分消耗している。


「イーゼさん、これを使います!」


 シロマは、アイテム袋から


 【祈りの宝玉】


を取り出すと、掲げた。


 宝玉から光がほとばしると、イーゼとシロマを温かい光が包み込む。

 二人の精神力が回復した。


「ナイスですわ、シロマさん。これなら! 【ブリザック】」


 精神力が回復したのを感じたイーゼは、三発目の魔法を唱える。

 すると、遂に吹雪がドラゴンのブレスを押し切り、ドラゴン達の足と体の一部を凍らせた。


「今よ! スピニングブレイクキック!!」


 ズバババっ!


 バリンっ!


 リーチュンの必殺技は、ドラゴンの凍った胴体を砕く。


 グォォォォン!!


 その鳴き声と共に、レッドドラゴンは、地に伏して倒れた。


 残り二匹。


一方、ゲロゲロは……


 ダークドラゴンよりも高い素早さを駆使して翻弄すると、ヒットアンドアウェイの攻撃を繰り返し、着実にダメージを当てていた。


「くそ、この犬はちょこまかと! いい加減燃えろ!」


 ゴォォォ!


 ダークドラゴンの口から黒い灼熱の炎が吐かれる。

 だが、それをゲロゲロはギリギリで避けていた。


 ゲロゲロがヒットアンドアウェイを繰り返していたのは、これを警戒していたからである。


 ゲロゲ~ロ(あたらないよ~)


 挑発するゲロゲロ。

 ダークドラゴンは同じモンスターであるが故にゲロゲロの言葉を理解した。

 そして頭に血が昇る。


「いいだろう、これはかなり力を使うから温存していたのだが……もう許せん! ぶっ殺す!!」


 突如、ダークドラゴンの周りから黒い炎が沸き上がった。

 その炎は天に届くが如くダークドラゴンの周りで燃え上がると……次第にダークドラゴンに吸収されていく。


「ふはははっ! 魔界の炎を呼び寄せたぞ! 覚悟しろ、犬っころ!」


 ダークドラゴンのステータスが劇的に向上した。

 そして、一瞬でゲロゲロに近づくと腕を振う。


 ドガン!


 ゲロゲロは反応する事も出来ず、吹き飛ばされる。


 ゲロロォォン!!


「ゲロゲロちゃん!!」

 

 それにシロマが気づいた。


「シロマさん、ゲロゲロを回復してあげて!こっちは二人でなんとかなりますわ!」


「わかりました! 【エクスヒール】」


 シロマはイーゼの言葉を受けてゲロゲロに駆け寄ると、回復魔法をかける。


 ゲロォ(ごめん)


 回復魔法を受けて、フラフラしながらもゲロゲロは立ち上がる。


「無理はしないで下さい。こっちが片付いたら逃げましょう。あれは無理です!」


 シロマの言葉はわからないが、何を言おうとしていたかは理解した。

 だが……

 

 ゲロ!(僕は負けない!)


「ちょっと、ゲロゲロちゃん! 戻って下さい!」


 ゲロゲロは、また直ぐにダークドラゴンに向かっていってしまった。

 それを見てシロマは止めるのを諦めると、何とか範囲内の内に【サイダーム】をかける。


「無理なら逃げてくださいね!」


 その言葉を背に、ゲロゲロは走った。

 補助魔法を受けたゲロゲロは、素早さだけはダークドラゴンと並ぶ。


「ほう、逃げずにくるとはいい度胸だ。なすすべなく、死ぬがいい。」


 ダークドラゴンは再度爪で攻撃をしてきたが、今度はそれを避けた。


 ゲロロ(見える!)


 そして懐に潜り込むと、一撃を加える。


 ガキッ!


 だが、ダメージが通らない。

 防御力が高すぎて、攻撃が効かなくなってしまったのだ。


「ふははは! 弱い! 全く効かぬぞ!」


 ゲロォ(くそぉ)


 その後、何度もゲロゲロは攻撃を与えるも、ダークドラゴンは全くダメージを受けておらず、ほぼ無傷であった。

 更に運が悪い事に、間も無く一時間が過ぎようとしている。


「どうした? もう終わりか? おやおや? なんだか弱くなってきていないか?」


 能力解放の効果が切れかかっていたのだ。


「ゲロゲロちゃん! 戻って下さい! 逃げますよ!」


 シロマは叫んだ。

 しかし、ゲロゲロには届かない。


 そこにリーチュンとイーゼが合流する。

 二人は何とか残り二匹のレッドドラゴンを倒したのだ。


「アタイが囮になるわ!」


 そう言うと、リーチュンはゲロゲロを逃す為にダークドラゴンに接近する。


「なんだ? また雑魚が増えたか。ふん、レッドドラゴンも使えんな。やはり地上のドラゴンは当てにならぬ。」


 そしてダークドラゴンは、リーチュン目掛けて黒いブレスを放とうとした。


 ゲロォ(まずい!!)


 焦るゲロゲロ。

 そのブレスの威力は本能が察知している。

 それを食らえばリーチュンはタダでは済まない。


 ゴォォォ!!


 だが、ゲロゲロの叫び虚しく、既に放たれてしまった。


「キャーー!!」


 リーチュンの悲痛な叫び声が響く。

 如何にブレス軽減の魔法を受けていても、そのブレスの威力の前では、ほとんど効果は無かった。


「まずいですわ! シロマさん急いで!」


「はい! リーチュン! お願い! 生きていて!」


 黒く燃え上がるリーチュン。

 もはや声すら出ない。


 ゲロ……ゲロロロ!!(よくも、よくもやったなぁ!!)


 激しい怒りが湧き上がるゲロゲロ。

 すると、眩い光がゲロゲロを包み込んだ。

 この時、サクセスの影響を受け続けたゲロゲロは光属性の能力が覚醒する。


 ゲロォ(食らえ!!)


 ゲロゲロの爪から光の斬撃が放たれた。

 それはまさにディバインチャージと同じ光。


【ディバインスラッシュ】


「な、なに!? グォ! なんだ……何だこれは!?」


 ゲロォ(トドメ!)


 ゲロゲロはダークドラゴンの胸に爪を立てると、今度は爪先が爆発する。


【ライトクラッシャー】


「グォォォ!!」


 光属性が弱点だったダークドラゴンは、断末魔の叫びを上げると遂に倒れた。


 しかし、遅かった。


「リーチュン! リーチュン! 【エクスヒール】【エクスヒール】」


 リーチュンは黒焦げになっており、息がない。

 だが、奇跡的にまだ心臓は動いている。

 シロマは、必死に回復魔法をかけ続けた。

 だが、全くリーチュンは回復しない。


 既にもう……完全に死ぬ寸前であった。


「お願いリーチュン! 生きて! お願い!」

 

 シロマは泣きながら叫ぶ。


「どいてください! シロマさん!」


 イーゼはそう叫ぶと、リーチュンから離れないシロマを乱暴にどけて、その体に液体をかけた。


 すると、みるみる内にリーチュンの体が元に戻っていく。


 イーゼがかけた液体。

 それは、カジノで交換した


 【世界樹の樹液】


だった。


 その効果はーー瀕死の一撃であっても、一瞬で回復することができる。


 正に危機一髪である。

 

 死の淵から、リーチュンは生還した。


 ギリギリで復活したリーチュンは、ポケッとした顔で目をパチクリしながら体を起こす。


「リーチュン!」


 そこにシロマが凄い勢いで抱きついた。


「あれ? アタイ……なんで??」


「イーゼさんが……貴重なアイテムでリーチュンを助けてくれたんです。」


「イーゼが? アタイを? イーゼ!! ありがとう!!」


 リーチュンはイーゼに飛びつく。

 それを嫌そうな顔をして剥がそうとするイーゼ。


「本当にあなたはしぶといですわね。もう少しでライバルが減るところでしたのに。それと女性に抱きつかれる趣味はありませんわ!」


 イーゼはそう毒づくも、言葉とは裏腹に、その顔は嬉しそうであった。


 ゲロォ(ごめんなさい)


 そこに小さく戻ったゲロゲロが近づく。

 その姿は完全にションボリしていた。


「あ! あれ、あいつは!?」


 やっと我に返ったリーチュンは、ダークドラゴンがいない事に気づいた。


「ゲロゲロちゃんが倒してくれました。まるでサクセスさんみたいでしたよ。」


 シロマは落ち込んでいるゲロゲロを撫でながら言った。


「凄いじゃない! アレを倒したの! 悔しいけど、今回はアタイの負けね。次は負けないわ!」


「あなたは何と勝負しているのかしら? それよりもサクセス様が心配です。早く追いましょう。」


「そうですね、休憩する暇はありませんね。今頃、サクセスさんも追いついて戦っているはずですから。」


 ゲロオオン!(サクセスに会いたい!)


 こうして激戦を終えた仲間達は、デスバトラーを追いかけたサクセスの元に向かうのであった。


追加魔法


サイダーム 

 素早さをあげる。


マッスルシオン

 力をあげる(リトルマッスルの上位版)


ディバインスラッシュ

 光属性の爪攻撃


ライトクラッシャー

 突き刺した爪から光が爆発する。


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