第59話 サクセス交渉術

 俺達は、ボッサンの後ろについて行き、ちょっと豪華な椅子やテーブルのある個室に入った。



「おう、にいちゃん。先に飯と酒を頼んでもいいか?」



 奢れと? 

 ちょっと図々しいな。

 まぁ仕方ない、必要経費だ。


 シロマは、流石に睨みつけてるがな。



「構わない、好きに注文してくれ。」



 一応いくらになるかわからないから、俺が払うとは言わない。

 まぁ間違いなく、コイツは払う気はないだろうけどな。



「わかったぜ、じゃあ俺がにいちゃん達のも頼んでやるよ。お勧めの酒があるぜ?」


「いや、酒は飲まない。うまいものだけでいい。」


「お? なんだ、まだ酒は飲めないおこちゃまかな?」



 ちょっとボッサンは、調子に乗り過ぎているようだ。

 あまり舐められても、交渉が難しくなる。



「今ここでお前を殺したら、スッキリしそうだな。」



 俺は、小さく殺気を込めていった。


 こいつは、多分ベテランの冒険者だ。

 だからこそ、俺の強さを見た目で判断していないはず。

 なぜならさっきビビってたからな。



「わ、悪かった! ちょっと大勝ちしたもんで調子に乗り過ぎた! すまねぇ。」



 案の定、謝罪してきた。

 まぁ舐めないでくれるならそれでいい。


 その後、次々と運ばれてくる料理や飲み物を食べ終わると、俺は本題に入ることにする。



「いやあ! さいっこうだなぁ! 勝利の後はよぉ!」


 ボッサンは顔を真っ赤にして、満足そうにしていた。

 あまり酒は強くないらしい。

 それでよくさっきは、俺を煽ってくれたもんだ。

 まぁ酔っ払ってるなら、少しは口も滑るだろう。



「ボッサン、そろそろ本題に入ってもいいか?」



 俺がそう言うとボッサンの目つきが真剣なものに変わる。



「あぁ、いいぜ。これだけうまいもん奢ってもらったんだ、ある程度なら答えるかもしれねぇぜ。」



 おい! 奢るなんていってねぇよ。

 まぁいい、料金表を見たが、せいぜい全部で50コインだ。

 それならさっき地下で勝ったコインで余裕で間に合う。



「お前、さっきのあの子供と知り合いか?」



 俺は、敢えてちびうさの名前は伏せた。

 こいつから出てくれば、嘘をついてもわかるからな。


「あぁ、なんだ兄ちゃん。やっぱり気付いたか、あの子供に。だがはっきり言うぜ。全く知らない。名前も知らない。話したこともない。」



 どうなんだ?

 本当か?

 嘘か?

 わからん。

 シロマさんお願いします。


 しかし、シロマは黙っている。

 まだ話を聞くつもりみたいだ。



「そうか、じゃあなんであの子の事を信じたんだ? いや、違うか。あの子が話しかけた魔物が勝つと信じたんだ?」


「悪いがそれには答えねぇ。ただ……じゃな。」



 うん、わかってた。

 質問に答える時、コインを絶対に要求することを。

 とりあえず俺は50コイン渡す。



「足りねぇな。もうちっと誠意見せてくれよ? おっと! 怒るなよ? これは当然の対価だ。」


 仕方なくもう50ゴールド渡した。

 すると、ボッサンは嬉しそうにコインを胸にしまった。



「いいだろう、交渉成立だ。あの子に気付いたのは比較的最近さ。どういうわけか、あの餓鬼は結構な頻度で闘技場に入ってきていてな。あの試合の時だけは、さっきみたいに話かけてたんだわ。最初は、俺もただの変な行動だと思ってたんだが、どういうわけかあの餓鬼が話かけている奴が必ず勝っている事に気付いたんだよ。それで思い切って、あの餓鬼が話しかけている奴に賭けてみるとよ……案の定勝ったんだよ。それ以来、俺はあの子をラッキーガールと呼んでるんだぜ。俺の中でだがな。」



 なるほどな。

 どうやら嘘じゃないっぽい気がする。

 ……そこんところ、どうなんですかね?

 シロマさん。

 そろそろ話しておくれ。



「なるほどです。わかりました、それには納得しました。しかし、一つおかしなところがあります。」


 おぉ!

 やっとシロマが質問してくれた。

 助かる! 



「ほぉ、なんだい? 言ってみな。」


「正直、子供が何度もここにこれるとは思えません。率直に聞きます。あなた、あの子の名前を知っているでしょう? あなたは、嘘をついています。」


「なんでそう思う?」


「確かに最初は、偶然だったのかもしれません。でもやっぱりおかしいです。これは私の予想ですが、あなたは、あの子を街で見かけた時に声をかけたはずです。そして、ヘルアーマー四体の試合の日と時間をこっそり教えたのだと思ってます。」


「ははは、流石だな。そこまで想像できてるなら、正直に言おう。その通りだ。俺は、あのラッキーガールの名前を知ってる。そして話した事もある。嘘をついて悪かった。ただ、これだけは言わせてもらうが、それだけだ。他はなんも知らねぇし、知るつもりもねぇ。俺は、勝てるならそれ以外はどうでもいいんだ。」



 おぉ! そういうことだったのか!

 流石シロマ!

 やっぱり頼りになる。


 なるほどね、それで昨日金がどうしても必要だったわけか。

 線が一本繋がったな。


 だが重要な事がまだわからない。

 なぜちびうさが、魔物をパパと呼んでいるのか。

 これについては本人に聞くしかないだろう。



「まぁ嘘をついたことは水に流す。んで、本当にあの子について知っている情報は、それだけか?」


「あるとしても、ただで言うと思うか?」



 ボッサンの返事は早かった。

 間違いない、まだ何か隠している。



「っち! わかったよ。だけど、無かったら返してもらうぜ。力づくでな。」



 俺は舌打ちをする演技と共に、ちょっと強めに言った。


 この方が効果があると思ったからだ。

 そしてまた100コインを渡す。

 それ以上を要求してきたら、力づくで体に聞くとしよう。

 ここには二人も回復魔法を使える奴がいるからな。



「おぉ~怖いねぇ。クワバラクワバラ。二人してそんな目でみるなよ。わかった、じゃあ一つだけ分かってる事を教えるぜ。」


「もったいぶるなよ、早く話せ。」


「あの子は、城への隠し通路を知っている。そして月に一度、お城に行ってるはずだ。」


「ん? それがなんだって言うんだ? それに、なんでそんな事をお前が知ってるんだよ?」


「あの子を探していて、たまたまみたんだよ。花をもって、子供が入れそうな穴に入っていくのをな。」


「いや、だからなんでそれがお城に繋がってるってわかるんだよ。」


「それは言えねぇ、いや、半信半疑ってのもあるか。だが、多分間違ってねぇと思う。あの子は城に入ってる。」


「もしそれが本当だとしても、お城がそんな穴を放置するとは思えないがな。」


「それは俺の知ったところじゃねぇな、まぁ俺が知ってるのはそれくらいだ。後は自分で調べるんだな。なんでそんなにあの子の事を聞くかまではわからねぇが、あんまり他人に深入りはしないほうがいいぜ。これは忠告だ、金は要らねぇ。んじゃ、俺は行くぜ。今日は兄ちゃんのお蔭で大分儲かったぜ。当分、ここで暮らしていけそうだ。」



 ボッサンはそれだけ言うと、席を立って嬉しそうに部屋から出て行った。



 穴?

 お城?

 俺には、眉唾に聞こえる。

 シロマはどうだろう?



「シロマ、今の話どう思う?」


「わかりません、でも嘘を言っているようには見えませんでした。そしてそんな突拍子もない事を言う理由もないと思います。」


「なら、やっぱ直接聞くしかないな。まぁその前に、最後に劇場で何かないか調べてからにするか。」


「それがいいと思います。とりあえず、なんでリーチュン達がちびうさちゃんを連れてここに来たかはわかりましたね。まだいるかわかりませんが、多分試合が終わったなら、酒場にも長くはいないと思います。」



 そんな大事な話をしている中、俺はある事に気づいてしまった。


 ここは個室。

 呼ばなければ誰も来ない。


 つまり……

 ここで、あんな事やこんな事をやっても誰にもばれないって事だ。

 どうして気づいちゃったの俺?

 こんなチャンス当分来ないぞ?



 だがまて。

 ステイ!

 今かなりシリアスな雰囲気だ……。


 いきなり、イチャイチャとか難易度高すぎるだろう。

 そういうのは爆発系イケメンがすることだ。

 下半身爆発系の童貞のできる技ではない。



 そ、そうだ!

 酒だ!

 酒の力だ!



 いやだめだ、まだ終わってないだろう。

 やることが沢山あるだろう。

 何の為にここに来たんだ。


 そりゃ、シロマとデート……

 ってちがーーう。

 ちびうさを助けるためだ……


 俺は、またしても悶々と禅問答を繰り返す。

 すると、そんな俺に気付いたのか、シロマは近づいて来るなり、俺の手を取った。



「今はダメです。これで我慢してください。あまり自慢できるものではありませんが……。」


 そう言うとシロマは俺の手を取って、自分の胸に誘導した。



 ムニ……ムニムニムニ……



「あん……ちょっと! もう終わりです! それ以上はダメです。」



 えぇぇぇ!

 なんで?

 もう終わりなの?

 そっちから誘ってきたのにぃ……。



「こ、これはさっきの借りたコインの分の貸しですから! もう終わりです。」



 シロマの胸は、お世辞にも大きいとは言えなかったが、それでもそこにパパイヤは存在した。

 揉むほどはないものの、柔らかさは直に伝わってくる。


 息子は完全に大暴走だ!

 暴走しまくって、多分、ちょっと……少しだけ……先走ってる気がする。



 どうして俺はこんなにも運がいいのだろう。

 セットスキルをくれた神様に感謝したい。

 エロ神様! 

 どうもありがとうございます!



 こうして、俺の闘技場での情報収集は終わった。


 次は二階にある劇場だ。

 一体そこでは何が俺達を待っているのだろうか……

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