第30話 デート💛

 冒険者ギルドを出た俺達は、さっそく武器屋を見てまわることにした。



「そういえば、近くに武器屋があったな。沢山あったけど、近いところから回っていくか?」



 この町の商店は冒険者ギルドを中心に沢山点在している。

 武器屋、防具屋、道具屋、小物屋、業種もたくさんだ。



「いいわね! 時間もまだあるし、ゆっくり見て回ろ! ねぇねぇ、これってデートだね!」


「えっ?」



 突然のリーチュンのセリフに固まる俺。 



「だぁかぁらぁ! デートでしょってこと! まぁいいから行こ行こ! レッツゴー!」



 俺の手を握って引っ張るリーチュン。


 こ、これが……。

 噂のデートって奴か!?

 おのれリア充め! 爆発しろ!


 って俺だあぁぁ!

 やばい!

 俺、爆発しちまうよ! 



「もう! なにぼーっとしてるのよ。早く行くわよ!」


 リーチュンは楽しそうに満面の笑みを浮かべている。

 それを見れるだけで、ご飯が三杯は食えそうだ。

 可愛すぎる。 


「あ、ああ。デートだっぺな! 行くべ行くべ!」


 俺はテンパリながらもリーチュンの手を握り返して進んだ。

 ちなみに恋人繋ぎである。

 リーチュンの手は武闘家とは思えないほど柔らかった!

 そして、俺達はさっそく一軒の武器屋を訪ねる。 



「へいらっしゃい! お! にぃちゃん可愛い彼女を連れてるねぇ。どこでそんなマブいのゲットしたんだい?」

 

「いやぁ、その……。それは、えっと……。」 


「あ~、大丈夫だぜ。言わなくていい。わかってるからよ。でもそんなマブいねぇちゃんじゃ随分金が掛かったろ? キャバクラの同伴な事ぐらいおじちゃんにもわかるさ。んで、どの店の娘だい? こっそり教えてくれよ、安くしとくからさ。」



 キャバクラ……ってなんだ?

 俺は田舎者すぎてよくわからない。

 リーチュンに聞いてみるか。 



「キャバクラ? リーチュン知ってるか?」


 すると、隣でリーチュンが顔を真っ赤にして怒っている。

 あれ? どういうこと?

 キャバクラってなんなの! 



「サクセス! いこ! こんな失礼な人の店にいい物があるはずないわ。イーーダ! 私はキャバ嬢じゃないから! 次どこかで見かけたらぶっ飛ばしてやるわ!」


 リーチュンが凄い剣幕で怒り始めたことから、俺は急いで店を後にした。



「何言われたかよくわからないけど、リーチュンが怒るくらいだから悪い店だったんだな。」 


「最低ね。ていうかサクセスが馬鹿にされたのよ! 許せない! 今度店の看板ぶち壊してやるわ!」


 リーチュンはまだ怒っていた。

 どうやら俺は、バカにされていたらしい。

 それでリーチュンが激オコというわけだ。

 なんか嬉しいな。

 誰かにバカにされても、怒ってくれる仲間がいるなら全然気にならないわ。


 そしてそれからも俺達は、いくつか武器屋を見て回るも、中々いい装備が見つからずにいる。

 といっても俺が選ぶわけではないが。



「あったわ!! あれよ! あれあれ! でもちょっと高そうかも……。」



 五軒目の店で、ようやくリーチュンの御眼鏡に適う物が見つかったらしい。



「リーチュン、すまない。なんか俺とリーチュンが一緒に行くと酷い対応されるみたいだから、先に俺が見てくるよ。値段を確認してくるわ。」


 そうなんです。

 どの店に行っても、男の醜い嫉妬のせいで店主がいいものを見せてくれない。

 まぁ今回は外に並んでいるのだから、大丈夫だろう。


 そして俺はその武器を手に取って確かめた。


【はがねのつめ】 攻撃力38 スキル 力+10 素早さ+5 レアリティ138


 おお! 確かに良さそうだ。

 ついているスキルもいい感じ。

 リーチュンはよく遠目からでわかったなぁ。 



「すいません、これいくらになりますか?」


 俺は早速寡黙そうな店主の親父に聞いた。 



「おう、5000ゴールドだ。買うか?」


 5000ゴールド!? 高すぎだろ!

 ほぼ全財産だわ。

 流石に買えねぇ……。


 すまないリーチュン、甲斐性の無い俺を許しておくれ……。



「すいません、出直してきます。」



 俺はそう告げるとリーチュンのところに戻った。 



「リーチュン……ごめん、あれちょっと無理だわ。5000ゴールドするらしい。」 


「高!! ぼってるわね! わかったわ! アタイに任せて!!」


 俺がリーチュンにそう言うと、リーチュンは俺にウィンクした。

 そして意気揚々と武器屋に向かっていく。

 どうやら何か作戦があるらしい。



「ねぇ、そこの素敵なおじ様。アタイね、ちょっとその爪が気になってるの。」



 リーチュンはチャイナ服の裾をチラっとめくって、上目遣いで店主に言った。 



「お、おおおおお、おう。好きなだけ見てくれ。ささって、どうぞどうぞ!」



 すると寡黙な店主がテンパりだす。

 あいつ、さてはむっつりだな。

 くそ! 俺と全然対応が違うじゃねぇか!



「見るだけなんて嫌よ……。これ……欲しいなぁ……。でもそんなにお金ないし……。どこかに買ってくれる素敵でダンディな人はいないかしらぁ?」



 リーチュンの演技は続く。



「お、お、俺でよければ……は! 違った俺が店主だった! いいよいいよ! 2500ゴールドだけど、今日は俺の記念日になりそうだから250ゴールドでいいよ! なんだったらタダでもいい!」


 おい、この店主……。

 さっき俺には5000ゴールドって……。

 やっぱりぼってやがったな!

 つうか記念日って何期待してんだよ、このスケベ親父が!


 まぁ気持ちはわかる。 リーチュンのルックスであんな事言われたら俺でも全財産投げ出すわな。



「やったーー! おじ様大好き! はい、じゃあこれ250ゴールド。タダは悪いからね。それじゃあ、ありがとねぇ!」



 リーチュンはそういうと、はがねの爪を手にとって戻ろうとする。

 がしかし、それを店主が腕を掴んで引き留めた。 



「ちょ! ちょっと! 名前は! ていうかこの後、ご飯でも……。」



 必死に引き留めるむっつり店主。

 かなり本気だな、あれは。


 だが、リーチュンは……。 



「はぁ? 誰に口きいてんのよ? この汚い手を離さないとぶっ飛ばすわよ!」


 一気に態度を豹変させて怒鳴り飛ばすリーチュン。

 傍から見ていた俺も、その迫力に後退りしそうになった。

 そして、当然相対している店主はビビッて手を離し、顔から大量の汗を噴き出している。


 ざまぁみろ、俺からぼったくろうとした罰があたったんだ!


 俺は少し胸がスッとした。


 だが、リーチュンの攻撃はそれで終わりではなかった。

 なんと俺に近づいてくると、トドメとばかりに俺の腕に抱き着いて親父に見せつけたのだ。 



「ダーリンお待たせ! ごめんねぇ、なんかきもい人に声かけられてさぁ。早く帰っていい事しようよぉ!」


 甘えた声で俺にじゃれるリーチュン。

 それを見た店主は、そのまま五体投地のようにぶっ倒れた。


 どんまい、おっちゃん。いい店見つけろよ。


 ん? それよりもいい事ってなんだろね!


 ワクワクっ!

 ドキドキっ! 



「な、なぁ……あの、いい事って……。」


 俺はそっとリーチュンに尋ねる。

 だが……。 



「ほんと! ざまぁみろって感じ! この町のお店やってる商人は碌な奴がいないわ!」



 いい事について詳しく聞こうした瞬間、リーチュンは俺の声に被せて文句を言い放つ。

 どうやらリーチュンは怒りの限界だったようだ。

 ちょっと怖すぎる。

 聞くのはやめよう。 



「と、とりあえず昼だから宿屋に戻るか。後で他のみんなの装備も買わなきゃだし。」 


「そういえばお腹ペコペコ! へへーん、でも凄いでしょ。この爪250ゴールドなんてラッキー!!」


 そういうと、いつの間にか元のリーチュンに戻る。


 女って……怖い。 



「まじで凄かったわ。これで他の装備に回せるな。流石リーチュンだ!」


「でしょでしょ! アタイに可愛いアクセサリー買ってくれてもいいんだからね!」 


「オッケー。いいよ、買ってあげるよ。大分金が浮いたしな。」 


「やったーー! あ、サクセス見て見て! あの髪留め可愛い!!」



 リーチュンは、優しそうなおばさんが開いている小物屋の露店を指差して言った。


 ほんと、よく見えるな。



「あ、これは!? ニッカクラビットを象ったゴム紐か。リーチュンに似合いそうだな。」


「でしょでしょ! サクセスがあたいにプロポーズしてくれた時の魔物よ。」


 ギクッ! 

 お、おぼえてらっしゃったか……。


 俺は恥ずかしくなり黙り込んだ。 



「あらあら、お熱いわねぇ。あたしにもそんな時があったかしらねぇ。ほら、お兄さん。黙ってちゃダメでしょ、安くしとくから買ってプレゼントしなさいな。男の甲斐性ってやつを見せないと、すぐに他の男に取られちまうよ。」



 おばさんは俺にそう発破かける。



「わかりました。それで、おいくらですか?」 


「ほんとは3000ゴールドだけど、昔を思い出させてくれたお礼に300ゴールドでいいよ。」



 昔をって。

 それより高っ!

 3000ゴールドってはがねのつめより高いじゃないか。

 そう聞かされると、300ゴールドがえらい安く感じるな。

 この商売上手め。



 がしかし、その髪留めを手に取った時、それが本当に善意で破格の値段にしてくれたことに気付く。



 【ニッカクラビットの髪留め】 防御力1 スキル 逃走確率UP 素早さ+15 レア68



 見た目と違って破格の性能だった。

 これならはがねのつめより高くて当然だ。


 レアリティが二桁の装備なんて初めて見たわ。

 それに逃走確率アップは素晴らしい。

 今後危険な魔物と出会った時、間違いなく役に立つだろう。

 ありがとう、おばさん。


 俺は、おばさんに300ゴールド渡して購入する。 



「ほらあんた、買ったらおしまいかい? つけてあげるんだよ! さっさとしな!」 


「は、はいっ!!」


 俺はおばさんに怒られて、急ぎリーチュンの髪にそれをつけた。 


「やったーー! ありがとうサクセス! これ、アタイの一生の宝物にするね!! ねぇねぇ似合う? ねぇ?」 



 リーチュンは満面の笑みで、物凄い喜びながら俺に見せてくる。

 か、かわいい……。

 髪留めというか、リーチュンの全てがだ。 



「か……かわいすぎだっぺよ……。まじ天使だべ……。」



 思わず口から洩れる本音。

 真顔で言った俺の顔見て、リーチュンは顔を真っ赤にさせて照れ始めた。 

 裸を見られても照れないリーチュンがだ。

 その姿も最高に可愛い。 



「も、もう!! 言い過ぎよ! からかわないでよ!」


 からかったつもりはないのだが……。

 まぁリーチュンの照れ隠しだろう。 

 本当にありがとう、おばちゃん。 



「じゃあそろそろ戻ろうか。みんなお腹を空かせているはずだしな。」 


「そ、そうね。あの……さ。サクセス、アタイはいいんだからね?」



 ん? 何がいいんだ?

 この時の俺は気づかない。

 それがあの時、俺が血迷ってしてしまったプロポーズの答えだとは。


 故に……。 



「ん? あれ? さっきお腹空いてるって言ってなかったっけ?」 


「馬鹿!! サクセスのバカ! ご飯は食べるわよ!」



 なんか怒られた……。

 きっと腹が空いて気が立っているのだろう……。


 しかし、今日はリーチュンの意外な面が沢山見れたな。

 すげぇ可愛いところも多かったが、やはりあの武器屋での事が忘れられない。

 元気で明るさが取り柄のリーチュンですら、あの演技力。

 まじで女って怖いわ。

 その分可愛くもあるんだけどな。


 余談であるが、今回武器やアクセサリーが安く買えたのが、俺の幸運値200オーバーが理由であることをまだ誰も知らない。


 そして……


 あぁぁぁ! ぱふぱふ屋の事忘れてたぁぁぁぁぁぁ!

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