第31話 夢の店【ぱふぱふ屋】
俺たちは宿屋に戻ると、さっそく宿屋の女将に案内されて食堂に向かう。
どうやら他のメンバーは既に食堂にいるようだ。
「お、みんな食べて……ないな。待っててくれたのか? いいのに。」
イーゼとシロマはまだ食べてなかった。
ゲロゲロすら、待ての状態で座っている。
なんか悪い事したな。
「あ、おかえりなさい。どうでした? でも、その前に揃ったので先に食事にしましょうか。」
食事の前に色々聞くのは野暮だと思ったのか、シロマは先に食事を勧める……のだが……。
「あ! リーチュン! それどうしたんですか!?」
突然シロマが声を上げる。
そう、リーチュンの髪留めに気付いたのだ。
「えっへへ~。いいでしょ! サクセスに買ってもらったんだ! どう? 似合う? ねぇ似合ってる?」
リーチュンはテンション高めにシロマに自慢する。
「そうですね、はい、とても似合ってます。」
シロマの声が低い……。なんか怖いな……。
「み、みんなも食事が終わったら買い物行こう! な? な?」
何故か俺は、浮気亭主が取り繕うようなセリフを言っている。
どういうわけか後ろめたい気持ちになる俺。
「リーチュンだけずるいです……。」
小さく言ったつもりかもしれないが、聞こえてますよシロマさん。
今度、シロマにも何かプレゼントしないとな。
「とりあえず、まぁ飯食おうぜ!」
ん? あれ? 何かおかしいぞ?
そうだ、イーゼだ。
いつもなら必ず反応するはずなのに、今日はやけに静かだ。
むしろなんだろ、余裕の笑みを浮かべてやがる……。
逆に怖いわ。
「イーゼ見て! 可愛いでしょ!」
せっかく食事で誤魔化そうとしているのに、リーチュンがまた余計な事を言い始めた。
やめちくりーー。
「そうですわね。とても似合ってらっしゃいますよ、うふふ。」
「なによぉ、なんでそんな余裕そうなのよ! なんか嫌な感じ!」
「ふふふ、私は今夜そんな物よりもとっても素敵な物をサクセス様に頂きますから。お子様はそれで喜んでおけばいいのですわ。ね、サ・ク・セ・スさまぁ。」
「え? 俺聞いてないんだけど……。なんか怖い。」
「いいのですよ、サクセス様は何もしなくて。私がもらうだけですから、うふふふふ。」
こえええええ、でもなんか、ちょっぴり期待しちゃう。
でも今夜はダメだ。
今夜俺はプロにお願いして男になるって決めたからな!
俺は食事を始めると、早速ギルドで確認した緊急クエストについて話した。
「それは非常に良さそうなクエストですね。見つけたら一攫千金ですね。」
シロマもやる気みたいだ。
なんか目がキラキラしてる。
金か?
うん、金だな……。
女って……。
「それでは午後は、買い物ついでに情報収集するといいかもしれませんわね。」
イーゼもやる気みたいだけど、他の二人よりはあまり興味なさそうだ。
なんか他の事に気がいってる感じがする。
今回はどんな悪だくみを考えているのだろうか。
「あ、買い物だけどさ。悪いけど金を渡すから三人で行ってもらってもいいかな?」
「どうしてですか?」
俺の言葉にシロマが聞いて来た。
「いやさ、午前中リーチュンと二人で買い物したら散々な目にあったんだよ。どうにも綺麗な子と俺がいるといい物見せてもらえないみたいだからさ。」
「そうそう! ほんとむかつくよねぇ! って今アタイのこと綺麗って言った? ねぇ言った? ねぇねぇ! もう一回言って!」
二度は言わぬぞ、他の面々が怖いからな!
「じゃあ私と二人なら平気ですかね? 私はリーチュンやイーゼさんみたいにスタイルもよくないし、綺麗ではありませんから。」
おっとぉ! ここでシロマの自虐ネタか?
「いやいや、普通にシロマ可愛いから、無理。」
「え?」
俺の素の言葉を受けて、シロマが黙り込んだ。
めっちゃ照れてる。可愛い。
「あ、いやなんでもない。とにかく俺は別行動にさせてもらうよ。今回リーチュンのお蔭で大分金が余ったからな。3000ゴールド渡しておく、二人は1500ゴールド以内で好きな物を買ってくれ。」
俺はそう言って、シロマに金の入った袋を渡した。
午前中に550ゴールド使ったので所持金は4650ゴールド。
3000ゴールド渡しても1650ゴールドは余る計算だ。
この後、道具や飯や宿屋代やらで減ると思うが、それだけあれば十分だろ。
それに、ぱふぱふ代金分もな……。
げへ。げへげへ……。
「それではサクセス様。一応先に伝えておきます。私は以前言ったように服や下着を購入します。それが終わり次第サクセス様と合流してもよろしいですか? 買い物じゃなければ問題ないのですよね?」
ぐっ! そう来たかイーゼ!
だが、大丈夫。
今回は下見だ。
「まぁいいだろう。でもこの広い町で俺を見つけるのは難しいんじゃないか?」
「大丈夫ですわ! わたくしには、愛がありますから!」
「お、おう……。わかった、もうそれ以上はいい。じゃあ見つけられたらそうしよう。」
「はいはーい! じゃあさ、アタイは必要な物ないし最初からサクセスと一緒でもいい?」
なんだと! ここに来てダークホースが!
まさかそう来るとは!
絶対それだけは阻止せねばならん!
リーチュンがいたら、ミッションインポッシブルだ!
何かないか? 考えろ俺! ここが正念場だぞ!
ピキーン!
その時、俺は突然閃く。
「リーチュンには悪いがそれはダメだ。なぜなら、シロマとイーゼは僧侶と魔法使い。この町は、さっきの話もあったが、どこに盗賊が隠れているかわからない。だから何かあった時にリーチュンの腕っぷしが絶対必要になるんだ。だから、リーチュンには仲間を守って欲しい!」
熱く語る俺。
ナイス俺!
これだ! これならリーチュンも引かざるを得ないはずだ!
やるな俺! 念願の脱童貞が掛かった俺はいつもと一味違うぜ!
「わかったわ! アタイに任せて! 変な奴がきたらアタイがボコボコにしてやるわ!」
リーチュンは完全に乗せられてやる気満々だ。
ちょろいぜリーチュン!
はっはっは、作戦勝ちーー!
「ではサクセス様、一応念のためゲロゲロを連れて行ってもいいですか? 二人に別れた時に護衛として役に立つと思いますので。」
お? 珍しいな。
イーゼはゲロゲロを所望か。
断る理由はない! でもなぜ?
まぁいっか。
「いいぞ、じゃあみんなを頼んだぞ! ゲロゲロ!!」
ゲロオオオ!
ゲロゲロは気合を入れて鳴いた。
「それでは午後も別行動ですね。私達もガンダッダについて何か情報がないか探してみます。」
「おう、頼んだ! 俺はそれがメインだ。みんなもあまり無理はするなよ!」
こうして俺は、なんとか午後からの単独行動が許された。
目指せ歓楽街!
まだ見ぬ秘境の地「ぱふぱふ」
待ってろよ!
そして俺はみんなと分かれると、意気揚々と散策する。
「ぱっふぱふ~ぱっふぱふ~♪」
俺は鼻歌交じりに町を練り歩いていた。
道行く人は、俺を怪訝な目で見てくるが、そんなものは今の俺には気にならない。
だって今日、俺は男になるんだもーん!
イェーーイ!
大人はちいせぇことなんざ、気にしねぇんだぜ?
そんな俺に突然路地裏から現れたチャラそうな男が近づいて来る。
誰よコイツ?
「よ! にいちゃん! 随分機嫌がよさそうじゃねぇか? なんかいい事でもあったか?」
「ふふふ、良い事があるように探してんだよ? 言わせんなよ!」
突然、訳わからない奴に絡まれても俺は上機嫌だった。
ぱふぱふ以外は、全て些事だ!
「ははぁ~ん、さては、ぱふぱふ目当てだな。このスケベめ!」
その男は俺の肩に手を回しながら言う。
馴れ馴れしいなこいつ。
流石にちょっとイラっとしたぞ?
「だったらなんだよ?」
こいつバカにしてんのか?
喧嘩なら買うぞコラ?
「いや、兄ちゃんこの町初めてだろ? 最初に言っておくがこの町にぱふぱふ屋はないぜ。」
「えっ!? なんですと?」
俺は、そいつの口から出た衝撃の事実に地獄に落とされる。
うそだろ……。
嘘だと言ってよ! バー〇ィ!!
「まぁいきなり言われても信じられねぇか。俺はこの町の情報屋だ。嘘は言わねぇ。ここは王様の方針でそういう店は全て摘発されてんだ。残念だったな。」
俺は言葉を失った……。
いや、生きる気力さえも……。
息子はたった今死んだ……。
その役目を全うすることなく……。
絶望に突き落とされた俺は、その場で完全にうなだれた。
「だが安心しろ! お前は運がいい。実は夜だけ隠れてパフってる店があるんだよ。」
「本当ですか? 師匠!!」
いつの間にか、俺は自然とそいつを師匠と呼んでいる。
「師匠はやめろよ。俺はワイフマンってもんだ。だけどな、最初に言ったが俺は情報屋だ。情報を売りもんにしてんだ。わかるだろ? な?」
親指と人差し指を擦り始めるワイフマン。
俺は、それが何を意味しているかわかった。
当然払うぜ! 情報料!
「はい、金ですね! 師匠! おいくらですか!?」
「ちょ! 声がでけぇって! 落ち着け! そんな血走った目をするんじゃねぇ! こええだろ! ったくこれだから童貞は……。」
「早く! 早く教えてください! お願いします! 俺、男になりたいんです! お願いします!!」
俺はそいつの肩を掴んで揺さぶる。
超必死だった!
「わかった! わかったから! ちょっとこっちこい。ここじゃ目立つ! 衛兵に見つかったらどうすんだ。」
俺の様子を見てワイフマンも焦りだし、俺を路地裏に引き込んだ。
「わかりました。」
ふぅ、少し冷静になって来た。
でも仕方ないだろ?
さっきまでの夢と希望に溢れていた俺が、いきなり地獄に落とされたんだ。
そりゃ焦るさ! 童貞なめんなよ!
俺は、そのままワイフマンの後ろを付いていくと、とある古びた建物の前でワイフマンが止まった。
「ここだ。ここがそうだ。まぁそう、あせんな。まだやってねぇよ。みんなが寝静まる頃に営業するんだ。深夜ここにまた来い。とりあえず情報料は50ゴールドにまけてやる。ちなみに本番は中で200ゴールドだ。だけど……もっと持ってきた方がいいぞ。裏オプションは別料金だからな。すっげぇぞ! 裏オプはよぉ! 昇天しまくり間違いなしだぜ。」
「なんですか! その裏オプって耳心地の良い響きは! 今からワクワクとドキドキがとまりません!!」
俺の興奮はマックスだ!
「店に入ったら、とりあえずごつい男がいるから、そいつに注文しな。若くてかわいい子ってな。まぁ俺的にはベテランのテクニシャンがお勧めだが、素人にはまだはええ。最初は若い子にしておけ。」
その口ぶりは、完全にベテランのそれ。
先人の言葉は尊重しなくてはならない。
「本当になにから何まで感謝っす! あんた神っすよ!」
「いいってことよ兄弟! まぁそうだな、でも一言だけ言わせてくれ……グッドラック!」
そいつは爽やかな笑みでサムズアップした。
「ししょーー!!」
俺は感動のあまりワイフマンをハグして感謝する。
「あ! そうだ。重要な事を言うのを忘れたぜ。こういう店だから警戒心が強くてな。武器や防具は絶対装備してくんなよ。門前払いされっからな!」
「はい! ぬののふくだけ着てきます!!」
「よぉし、いい子だ。ちゃんと可愛い子が来るように、俺からも言っといてやんぜ。」
「何から何までありがとうございます!」
俺は、ワイフマンの優しさに涙が溢れる。
こうして俺は無事念願のぱふぱふ屋を見つけることができたのであった。
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