第17話 イーゲの悪意

現在のパーティ

サクセス  戦士?(魔物使い)18レベル

リーチュン 武闘家      30レベル

シロマ   僧侶       30レベル

イーゲ   魔法使い     32レベル

ゲロゲロ  フロッグウルフ  23レベル

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 俺たちは無事ガーディアンを倒した後、なんなくダンジョンを抜け出す。 

 今回の戦闘では経験値10倍の影響もあり、全員かなりレベルアップした。 

 シロマとイーゲに関しては使える魔法が増えたようだ。 


 しかし俺たちは、ダンジョンを出た後、直ぐに町に向かって出発せずに、近くで野営をする事に決めた。 

 レベルアップにより、体力も精神力も回復はしているものの、やはり命の危険があった後はしばらく休んだ方がいいらしい。



「改めてサクセス様の強さに惚れました! 一生あなたにつきまとうことを誓います!」



 つきまとっちゃダメだろ! 


 野営早々、イーゲがアホな事を口走る。


 それを言うなら、一生ついていきますじゃないの? 

 まぁどちらにしても断固拒否だ! 

 何度も言うが俺は男に興味はない。

 だがしかし、こいつの知識にだけは興味がある。 



「そうか、わかった。それは拒否するとして、俺に少し魔法を教えてくれないか?」 


「よ、喜んで!!」 



 普段俺から邪険にされているからか、物凄く嬉しそうに了解するイーゲ。 


 その後、俺はイーゲからのセクハラを交わしつつ、火魔法、氷魔法、雷魔法などを教わってみたが、どれも使えなかった。 

 やはり光魔法だけが特別だったようである。 

 結構ショックは大きい。


 魔法が使えれば、魔法戦士的な者になれると浮かれていたからだ……。 



「サクセス様、気を落とさないで下さい。魔法など使えなくても、あなた様は最高に素敵です。」 


 

 イーゲの目はハートマーク。

 

 でも男のお前に素敵と言われてもなぁ……。 



「まぁ、正直かなり悔しいけど光魔法が一つでも使えるなら……いや、やっぱり悔しい! 魔法を使いたい!」 



 納得しようと思ってみるが、一度期待してしまうと中々諦められないのが人の性というものだろう。 

 今夜は悔しくて眠れなさそうだ。

 右手と遊ぶか……。 



「サクセス様、それなら少ないですが、私が知っている他の光魔法も試してみますか?」 


「ほんとか! まだあるのか!?」 



 イーゲの言葉に、俺の目は、再び輝きを取り戻し、興奮しすぎてイーゲの肩を掴んで揺さぶった。 

 するとイーゲは、顔を赤らめて黙り込んでしまう。 


 おい、やめろ。 

 その反応はやめろ! 

 ポッ……じゃねぇよ。 

 早く教えてくれ! 


 どうやら、エルフは攻められるのには弱いみたいだった。 

 

 いらんわ、そんな情報。 



「わかりました。では唯一知っているライトヒールとディバインチャージをお教えします。」 


「おお! なんかわかんないけど格好いいじゃねぇか! どんな魔法だ?」 



「ライトヒールは知力依存の回復魔法で、ディバインチャージは、力と知力を合わせた光の剣戟でございます。イメージしながら唱えてみて下さい。」 



 俺は、今言われた事をイメージしながら二つの魔法を唱えてみる。 


 しかし発動したのはライトヒールのみだった。 

 ディバインチャージは発動出来ない。 

 だが俺は回復手段を得た! 

 しかも使える魔法が二つになったんだ。

 もう魔法戦士を名乗ってもいいんじゃないか? 



「でかした! イーゲ、お前やっぱり最高だよ!」 


「ありがとうございます。それでは一つお礼を返していただけないでしょうか?」 


「おう、いいぞ! なんでも言ってくれ! いや待て! なんでもは無しだ! できる範囲でならいいぞ!」 



 危なかった! 

 うっかり勢いで罠に嵌められるところだった。



「そんなに大したことではありません、少し指を切って血をこの紙に落としていただければいいだけです。」 



 そう言うと、イーゲは懐から何も書かれていない一枚の紙を取り出す。



「そんなことならお安い御用だ、じゃあ……。」 


「ちょっとまったぁぁぁ!」



 俺が指を切ろうとしたその時……リーチュンが叫んだ。 



「アンタ! どさくさに紛れて何しようとしてんのよ! サクセスも油断しすぎ! これは呪われた誓約書よ!」 



 イーゲの出した紙には何も書かれていない。 

 だから、俺は何も考えずにやろうとしたんだが、よく考えれば確かに怪しすぎるな。 


 これは一体なんだ? 


 リーチュンの声を聞いたシロマも近づいてくると、その紙を手に取って、何か呪文を唱えた。


 すると、紙に文字が浮びあがってくる。



 この紙の上で互いの血が交わる時、二人は一生愛し合う事を誓約する。



「なんじゃこりゃ! おい、テメェふざけんな! こんな事していいと思ってるのか?」 



 流石にこれには俺も怒った。


 リーチュンは、以前これで騙された人を見たことがあった為、気づいたようだ。 

 何も知らない俺は、危うくイーゲに洗脳されるところであった……。 



 悪事がバレたイーゲは、焦った様子で直ぐに謝罪を始める。



「すいません! サクセス様、ほんの……ほんの出来心なんです! 許してください!」 


「ダメだ。これは完全に計画犯だろ……たしかにお前は有能だし、今回かなり見直した。けどもうお前を信用できない。今後、お前とはパーティを組まない! 町に戻ったらお別れだ。」


「そ、そんな……。お願いします! なんでもしますから! 見捨てないで下さい。」 



 俺の言葉に焦ったイーゲは、必死に縋り付いて泣きながら懇願する。 


 でも、ダメだ!

 マジでこいつは危なすぎる。 

 百歩譲って好意を寄せるのはいい、それは自由だ。 

 だが、相手の気持ちを蔑ろにして騙してくる相手とは一緒にはいられない。 



「ダメだ。俺はもう……お前を信用できない!」 



 イーゲの顔は、まるでこの世の終わりかのように絶望一色に染まった。 

 

 正直イーゲは惜しい。 

 だが無理なものは無理だ。 



「少し待ってもらえませんか? サクセスさん。言っている事はごもっともです。しかし良い方法があります。」 



 俺とイーゲのやり取りを黙って見ていたシロマは、何かを提案する。 

 しかし、今回だけはシロマからの言葉でも受け入れられないぞ。 



「シロマ、俺の気持ちは変わらない。俺はコイツを許すわけにはいかないんだ。」 


「はい、ですからイーゲさんに罰を与えましょう。」 



 罰だと? 

 そんなもん意味ないだろ。 



「罰を与えたところでこいつは繰り返す、俺にはわかる。」 


「はい、ですからこういった事ができなくなる罰を与えます。その紙を貸してください。」 



 俺はシロマに言われるがまま、イーゲが使おうとした紙をシロマに渡した。 

 するとシロマはその紙に呪文を書き加える。 


 そこに書かれていたのは。


 一つ、パーティメンバー及びサクセスを騙すことはできない。


 二つ、パーティメンバー及びサクセスを害する行為はできない。


 三つ、パーティメンバー及びサクセスが許可をしない限り1メートル以内に接近できない。(戦闘中は除く)



 なるほど、確かにこれならば今後の不安は無くなるな。 



「確かにそれなら安心かもしれない。だがまだ不安が残る。イーゲは天才だからな。もう一つ付け加えてくれ、できるか?」


「はい、後一つくらいなら……ただ、結構な血が必要になるとは思いますが……。」


「よし、じゃあ完全な女性になるまで俺を好きにはならないと加えてくれ!」 



 これなら、もう二度とおれにちょっかい出さなくなるだろう。 

 正直、さっきのだけじゃ頭のいいあいつの事だ、絶対抜け穴をかいくぐってくるはず。 


 だが、流石に性転換は無理だろ。

 あれ? 無理だよね? 



「できるかわかりませんが、それでは一応付け加えておきます。」


「イーゲ! それでいいか? ダメならここでお別れだ。」 



 イーゲは未だに絶望から戻ってこない、しかし手渡された紙を見て頷く。 



「わかりました、サクセス様と離れないで済むなら何でもします。」 



 そう言うと、イーゲは持っていた短剣で、思いっきり自分の腕を切った。 


 血が凄い……。 

 大丈夫だろうか? 


 イーゲの顔が物凄く青くなっている。

 だがそれよりも、もっとグロいものが俺の目に映った。 


 イーゲの持っている紙は、凄まじい勢いでイーゲの血を吸収していく。


 正直グロすぎる。 

 俺はあれをやられそうになったのかよ……。 


 そう思うと背筋が凍る思いだ。


 しばらくしてその紙は、血を大量に吸い尽くすと輝きだし、紙から出てきた黒いモヤがイーゲを包み込んだ。 



 バタっ!! 



 イーゲはそのまま意識を失って倒れる。 



「こわ! なにこれ! ホラーかよ! っつか、あいつ本当に大丈夫なのか?」 



 イーゲの出血は止まったが、意識が戻らない。 

 一応、俺も覚えたてのライトヒールを使ってみるが効果はなかった。 

 だがイーゲの胸に耳を当てると、心臓は動いているようだったので死んではいないはず。 


 とりあえず俺は、イーゲを馬車の中に運び入れて寝かせることにした。 



「シロマ、あいつ大丈夫かな?」 



 流石に心配になった俺は、シロマに尋ねる。 



「今回、大分呪いが強かったですからね、でも成功していましたので命は大丈夫かと思います。明日になれば目覚めるかと……。」 


「そうか……。」 



 大丈夫という割にはシロマの声は不安に満ちていた。 

 その声に俺も不安になってくる。 

 すると、リーチュンが俺の肩を叩いて言った。 



「サクセスが気にやむ事じゃないわ。今回はイーゲが悪い。アタイはサクセスの味方だよ。」 



 リーチュンの慰めが胸に染みる。 

 でも、今後はもう少しイーゲに優しくしようかな。

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