第16話 ガーディアン

 この洞窟には、


 ドラキュリー


というコウモリのモンスターや、


 メダマムシ


 というデカい目をして浮いている気持ち悪い魔物が現れた。

 だが、どれも今の俺たちの敵ではない。 

 見た目こそ気持ち悪いが、特に強くはなかった。 


 その為、俺たちは、ガンガンと洞窟の奥まで進んで行くと、やがてドーム状の大きな広間に辿り着いた。 

 どうやら、ここがゴールらしい。 

 なぜならば、この先にもう道はないからだ。

 

 広間を見渡すと、中央に拳大の石が置かれた神秘的な台座が設置されている。 

 

 もしかして、あれが……。



「あれが魔法の玉か?」 



 俺は台座の上に置かれた玉を指してイーゲに聞いた。 



「はい旦那様、これがエルフに伝わる魔法の玉でございます。ですが、結界が張られていますので台座からは離れていて下さい。」 



 おい、誰が誰の旦那だって? 


と俺がつっ込む間もなく、イーゲはエルフ語で呪文を唱え始める。 


 すると



 バチバチッ! 



という激しい音が付近に鳴り響いた。 

 

 もし、俺があの玉を不用意に手で取ろうとしたら火傷じゃ済まなかっただろう。 

 やはりイーゲは使える。 

 シロマの言う通りパーティに加えて良かった。 



「どうぞ、お受け取りください我が君。」 



 しばらくして、台座からバチバチ音が消えると、イーゲはゆっくりと玉に手を伸ばし、それを取って俺に渡す。


 その石は、近くで見ると本当に綺麗な玉だった。


 しかし、落としたらヤバイ。

 戦士の俺が持つにはちょっと危険すぎる。


 よって、これはシロマに持ってもらう事にした。

 


「シロマ、俺は近接戦闘だから落とす可能性がある、持っててくれないか?」 


 俺がシロマにそれを渡すと、シロマは嬉しそうに玉を受け取り、それをうっとりした目で見つめている。 


「はい、それでは私が預かりますね。初めて見ましたけど、とても綺麗です。」 



 そんなシロマを面白く無さそうに見ているイーゲ。 

 すると、不躾にシロマから玉を奪い取った。 



「返しなさい! これはエルフの秘宝とも呼べる代物です。私が預かります!」


「あぁ……。」 



 シロマから漏れる残念そうな声。 

 いいじゃん、持たせてやれよ、ケチ! 


 まぁ、それはともかくとして、とりあえず目的は達成だ。



「よし、目的の物をゲットしたし戻るか!」 



 俺がそう言った瞬間、何もなかった洞窟の先が地鳴りのような音をたてて横に開いた。 



 ゴゴゴゴゴゴゴッ……!



「ガーディアンです! みなさん、直ぐにこの場から散開して下さい!」 


 イーゲが叫ぶ。 


 その声を聞いて全員がその場から退避すると、俺たちのいた場所に何かが高速で飛んできた。 



 ババババババッ…………! 



 飛んできたのは拳大の石弾。 

 その石弾は俺達がさっきまでいた台座付近を狙って飛んでくると、台座を完全に破壊する。 


 だが、イーゲの警告に反応した俺達は、間一髪で逃げることができ、それを食らわずに済んだ。 


 今のはなんだ!? 



「これは……ストーンシャワー! こんな魔法を使うモンスターなんてここには……。」 



 シロマがそう呟くと、そいつは奥からその姿を現す。 


 石の体をした比較的細身の魔物。

 大きさは人の2倍くらいだ。

 顔はトカゲのようで背中には石の翼をつけている。 



「サクセス様、こいつはガーディアンと呼ばれる40レベル位のボスモンスターです。私達では勝てません。逃げましょう! まさかこんなトラップがあるとは思いませんでした。」 



 イーゲがそう警告するも時既に遅く、リーチュンは既にそいつに襲いかかっていた。 



「バカ! 生半可な攻撃など通じないぞ!」 



 イーゲはそう叫びつつも、仕方ないと判断したのか呪文の詠唱に入る。



「とぉぉりゃああぁぁ!」 



 リーチュンはガーディアンに接近すると、その爪を思いっきり敵の体目掛けて振り抜く――が、弾き飛ばされてしまった。 



 ガンっ!! 



「いったぁ! あ!? 爪が折れちゃった! なによこいつ、硬すぎるわ!」 



「だから言ったじゃないか! いいから逃げろ。【フリーズコ】」 



 イーゲの魔法でガーディアンの足が凍る。


 どうやら、イーゲが詠唱していたのは氷魔法のようであった。

 しかし、それでもガーディアンの足が凍っただけで、ダメージは通っていない。 

 けどリーチュンがその場から逃げる隙はできた。 


 ナイス、イーゲ。 


 突然のエンカウントにもかかわらず、周りのメンバーの動きは早い。 


 そして俺だけが出遅れている。 これが経験の差か……。


 しかし、ここで思いもよらない事が起こった。


 なんと、せっかくイーゲが隙を作ってくれたにも関わらず、リーチュンは折れた爪で更にガーディアンに攻撃し始めたのである。



「何してるんだ! 早く逃げろリーチュン!」 


 

 イーゲが叫ぶも、リーチュンの耳には聞こえていない。 

 完全に戦闘に集中しているリーチュンは、ひたすら蹴りやパンチで応戦していた。


 だが、その攻撃に敵は全く動じていない。 


 攻撃力が低すぎたのだ。 

 いや、敵の防御力が高すぎると言った方が正しいか。 


 いずれにせよ、リーチュンの攻撃は、全くガーディアンに効いておらず、それどこか、カウンター攻撃で殴られたリーチュンは、壁まで吹き飛ばされて地面に大量の血を吐いていた。 



 ゲホッ! 

 はぁはぁはぁ……。 



「まずい! イーゲ、もう一度魔法を……って、大丈夫か? イーゲ!」 



 俺がリーチュンのピンチを見て、イーゲにもう一度魔法を頼もうとすると、突然イーゲは、その場に崩れ落ちる。



 どうやら敵は、リーチュンだけでなく、いつの間にかイーゲにも攻撃していたらしい。 


 全く気付かなかった。 


 敵は、イーゼの足元から土魔法を発動させると、鋭い土の槍がイーゲの足を貫いたのだ。 


 それを見たシロマは、すぐに二人を向けて回復呪文を唱え始める。 

 動いていないのは俺だけだ。


 敵は、次のターゲットとしてシロマを見ている。

 ここで、俺が動かないと全滅するかもしれない。


 それなのに……なんでだ? 

 なんで動かないんだ、俺の足は! 

 俺は強い! 俺なら倒せる! 

 だから……動け! 動けよぉぉぉ! 


 俺は必死に体を動かそうとするが、身がすくんでしまっていた。 

 俺にとって、初めて出会う強敵。 

 今回は、全てが突然過ぎて心が追いつかない。 

 いや、心ではない、体だ。 

 頭では動こうとするのに、それを体が拒否している。


 こんな大事な時に……何をやっているんだ俺は!

 行け! 行くんだよ! 

 俺が戦わなくて、誰が戦うんだ! 

 行けよ、おれぇぇぇぇ!



 その激しい思いが、なんとか体を奮い立たせ、ようやく動き始める。 



「うおおおおおおおおお!」 



 そして、腹から全力で声を出すと、まるで金縛りが解けたかのように体が言う事をきき始めた。 


 俺はガーディアンに向かって直線最短距離で走って接近する。



 バババババッ……! 



 目の前のガーディアンは、向かってくる俺に手をかざすと、高速で石弾を飛ばしてきた――が俺は止まらない。 


 今の攻撃で、顔から出血するが気にするものか。 

 こんなもん、我慢してりゃどうってことない! 

 俺の防御力を信じろ! 


 何度も何度も石弾を浴びる俺だが、それらの痛みを無視して進み、なんとか奴に接近した。 



「くだけろーー!」 



 ガツン!! 



 俺は叫び声と共に、敵の脳天目掛けて剣を振る――が避けられてしまった。 


 俺の攻撃は頭でなく右腕にヒットする。 



 ボロっ! 



 俺の渾身の一撃は、ガーディアンの右腕を粉砕した。 


 すると、ガーディアンは、残った左手の爪で俺を攻撃してくる。 



 ズバっ! 



 流石に攻撃直後のカウンターは避けられない。


 俺の胸に、大きな爪痕が残り、そこからもおびただしく血が流れ落ちる。 

 俺は、自分の事をかなり強いと思っていたのだが、実際にはステータスが均等であるため、総合能力ほどの力はなかった。

 

 もしも全ステータスが戦士用に振り分けられていれば、こんな奴は相手じゃなかっただろう。 

 だが、そんなタラレバを今更考えても仕方ない。 


 俺は……今の俺の力でこいつを倒す!! 


 敵の爪攻撃で激しいダメージを受けた俺だが、今度は、敵と同じ様にカウンターで、下段から斜め上段に向かって剣を振り上げる。 



 バギャッッ! 



 会心の一撃。



 大きい音をたてて、ガーディアンの胴体は斜めに分断された。

 そしてガーディアンの体はボロボロと崩れ落ちていき、ゆっくり塵となって消えていく……。


 その場に大きな魔石を残して……。 



「やったか……? やったぞ! やったぞぉぉぉ!」 



 俺は叫んだ。 


 そして気が付くとさっきまで感じていた激しい痛みが消え、体から傷跡も消える。 

 レベルアップだ。 


 一応冒険者カードを確認すると、なんとレベルが18になっている。 

 戦う前は13だから5レベルのアップ。 

 どうやら、ボスモンスターの経験値は美味しいようだ。 


 そして、 他のメンバーもレベルアップしたようで、傷が全快したリーチュンは、俺の胸目掛けて飛び込んできた。 



「サクセスーー! ありがとう! アンタやっぱり最高!」 



 この子のスキンシップは相変わらず俺の心臓に悪い……が悪くはない。 

 そして俺をトロンとした目で俺を見つめるイーゲ……。 


 だが、何も言ってこない。

 うん、スルーだな。 


 次にゲロゲロも俺に飛びついて顔をペロペロし始める。 


 戦闘に必死過ぎてゲロゲロの存在を忘れていたが、無事で良かった。 

 なんにせよ、こうして俺は、初めてボスモンスター級の魔物を討伐するのだった。

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