Episode of Siroma 6

「座りましたよ。それでは、ラビさんのお願いについて話していただけますか?」


「うんうん、やっぱりシロマはいい子だね。君は、本当に僕が思った通りの子だよ。」



 テーブルを挟んで、椅子に座ったまま向かい合う、シロマとラビッツ。

 

 周りには何もない。

 あるのは、一面に広がる青い空と地面。

 孤独とも言える、寂しい世界に、その二人だけが存在した。



「褒めてくれてありがとうございます。ですが、まずは、お願いについて聞かせてくださいませんか?」



 未だ疑問の晴れないシロマは、その答えを早急に知りたかった。

 


「まぁまぁ、そんな焦らなくても、ここには誰も来ないよ? まぁいいや、お願いっていうのはね……う~ん、その前に僕からいくつか聞きたいことがあるから、先にそれを聞いてからでもいいかな?」



 そして、中々本題に入らないラビッツ。

 少しじれったくもあったが、シロマはそれを肯定する。



「はい。では、どうぞ。」


「えっとね。シロマは、僕と一緒に色んな世界を周ったよね? そして、その世界で悪い事をする魔女を、全部、君が倒した。でもさ、残された人たちはどうなったと思う?」



 突然の意味不明な質問。


 それとお願いと、一体何が関係あると言うのであろうか?

 だが質問の答えについては、すぐに感づく。

 なぜならば、今さっきみた民衆は、自分がグリムワール世界で救った人達だったからだ。

 


 しかし、その答えとは逆の事を答える。



「わかりません……。ですが、きっと救われた人たちが、新しく幸せな世界を作っていったと思います。いえ、そう信じます。」


「それって、君の願望だよね? 僕はね、どうなったと思うかって、質問したつもりだよ?」



 シロマの答えに、その心を見透かすように言葉を返すラビッツ。



「…………。」



 見透かされてしまったシロマは、声が出ない。



「ふうーん。沈黙するって事は、自分でもわかっているんだよね。まぁいいや、じゃあ僕が代わりに、君が思った事を答えるね。そう、君が想像している通りなんだ。魔女を倒しても、結局、救った者達は、その魔女と同じ事を繰り返す。まぁ、元に戻っただけだよ。シロマも見たでしょ? 君が助けた人たちを。彼らを見て、シロマはどう思ったのかな?」



 いたずらっぽい顔をして、シロマに質問を続けるラビッツ。



「間違って……いると思いました。」


「どうして間違っているって思ったのかな? 君が憎悪の感情を向けられたから?」


「違います。浄化された事で、魔女達は新たな生をやり直すはずでした。やられたから、やりかえすというのは間違ってます。」



 少しづつ頭を整理しながら質問に答えるシロマ。

 しかし、ラビッツはその答えに納得しない。



「でもさ、やられた方はさ、自分でやり返す事なく、相手が勝手に、別の誰かに浄化されてしまったわけじゃない? それじゃあさ、やられっぱなしと同じだよね? 僕には、あの民衆の気持ちがわかるな。」



 うんうん、と同意するように首を縦に振るラビッツ。

 まるで、それが当然とでも言いたげだった。



「いえ、それでは相手と同じ悪です。」



 ここで初めて、シロマは悪という言葉を使った。

 他人を害する者は、シロマにとって、悪である。

 それを、10個の世界で見てきて、悪の定義として結論づけていた。



「ふぅーん。君が、何をもって悪と言っているか、僕にはわからないね。誰かを傷つけた人は悪であり、その悪に対してやり返すのも悪って事でいいのかな?」


「はい、私はそう思います。」



 ラビッツの言葉をシロマは肯定する。



「それじゃあさ、今回、シロマがその悪を倒したわけだけど、もしもシロマがいなかったら、民衆は、一方的にやられるしかないってことだよね? それってどうなのかなぁ? おかしいと思わない? もしかしたら、死んじゃうかもよ?」



 ラビッツはまだ、しつこくシロマに質問する。



「いえ、逃げるなり、なんなり、他に方法はあるはずです。時を待てば、悪はいつか倒されます。その後は、同じ過ちを繰り返さない為のルールを作ればいいと思います。」


「なるほどねぇ。まぁいいや、タラレバの話を続けてもしょうがないからね。じゃあ、僕の考えを言うね。穢れに塗れた諸悪の根源を倒してもね、人の欲がある限り、またどこかで穢れは生まれるんだ。そして、穢れは伝播する。そうして新たに大きな穢れが生まれるんだ。これが生きている者の本質だよ。」



 シロマに聞いておきながら、ラビッツはその答えを流して急に持論を展開する。

 その態度に、シロマは、少しだけムっとした。



「すいません、さっきから何の話をしているのですか? 本題からそれていませんか?」



「おっと、そうだったね。うん、じゃあ単刀直入に言うよ。シロマ、君さ、女神になってよ!」



 やっと本題を口にしたラビッツであるが、更に、シロマを困惑させる。

 議論も中途半端だし、突然女神等言ってみたり、何を話したいのかさっぱり理解できない。



「どういうことですか? さっきから、よくわからないのですが……。」


「あぁ、ごめんごめん。僕はせっかちだからね、つい、色々飛ばしちゃうんだ。えっとね、ようは、穢れはどんどん生まれてしまうから、それを僕がこの世界に送る。シロマには、それを消し続けてる女神になってほしいってことなんだ。これでわかってくれるかな?」



 その言葉で、やっとラビッツが何を言いたいか理解した。

 ようは、穢れを全て消すのは無理だから、生まれる度に、ここでそれを、自分に消し続けろという事だ。

 当然、そんな事は断るはずだった。

 記憶を無くす前であれば……。



 今のシロマにとって、自分の存在理由は、この世の穢れを浄化することに書き換わっている。

 この世界にいるのも、巫女としての使命を果たすためとしか、認識していない。

 故に……同意する。



「わかりました。私の使命は、この世界の穢れを全て消すことです。そのお願い、引き受け……。」



 だが、シロマが引き受けますっと言おうとした瞬間、ラビッツの首に掛かっている時計が光りだして、シロマの言葉を中断させる。


 後少しで……と思ったラビッツは、忌々しそうに、その光に対して憤怒の表情を見せるのであった……。

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