Episode of Siroma 5

 


 ……………………。



 最後のグリムワール【ナイト オブ ヴァルプルギス】の世界に入ったシロマは、その光景を見て、言葉を失う。



「もうやめてぇ~」

「た、助けてよぉ~。」

「あたいが悪かった! もうやめてくれ!!」



 そこでシロマが見た光景は、今まで、シロマが倒してきたグリムワールの世界の魔女ーーそれら全てが十字架に張り付けにされ、火あぶりにあっていたのだ。



 そこは、町の広場。

 


「おら! 死ね! 魔女!」

「アンタ達のせいで、苦しんだんだからね!」

「俺達の痛みをしれぇぇぇ!」



 町の住民と思われる、多種族の者達は、そいつらに向かって叫びながら、魔女達に石を投げつけていた。

 燃やされている魔女達は、その投石を受ける度に、苦しそうな表情をし、懇願し続ける。

 そして、燃やされているはずなのに、なぜか、その体は燃え尽きることがない。

 つまり、死ぬことも消える事も許されず、火あぶりと投石の痛みを与えられ続けていたのだ。



「ひどい……どうして? 皆さんやめてください! もう彼女達は、浄化されています!!」



 シロマは民衆に向かって叫んだ。

 しかし、その言葉に振り向く者はいない……。

 火炙りになっている魔女達を除いて。

 魔女達はシロマの声を聞いて、一斉にシロマの方を見る。



「絶対に……絶対に復讐してやる! お前だけは許さない!」



 魔女達は、憎悪の目を民衆ではなく、シロマに向けて叫んだ。

 その目と声が、シロマの心をえぐる。



「違う! 私はそんな事の為に……。」


「何が違うんだい? 全部、お前がやったことじゃないさね。死ね! 死ね! 死んでしまえ! お前なんか消えろ! 消えてしまえ!」



 追い打ちをかけるように、呪いの言葉を吐く魔女達。

 シロマは、その言葉に耐えかねて、民衆に向かってやめるように説得し続ける。



「みんな! お願い! もうやめて! もう十分です!」



 そして民衆は、やっとその言葉を聞いてシロマに気付く。



「あんたがやり始めたことだろ? 俺達に文句言うなよ!」

「アタシはねぇ、家族をこいつらにみんな殺されたんだ。まだその復讐が終わってないわ!」

「ほら、君も一緒に石を投げて、魔女を浄化させてあげよう!」



 しかし、シロマの想いは届かない。



「違う……違う違う違う違う……こんなの違います! こんな事を、私は求めてません! やめないなら、強制的に……。」



 シロマが叫んだ瞬間、燃えている魔女達が不気味な声を上げ始めた。



「ぼぉぉぉえぇぇぇぇぼぉぉぉ!」



 10人の魔女は、その謎の言葉を叫ぶと同時に、暗黒の闇になって上空に舞い上がる。

 すると、10個の闇は、空中で融合した。



「この恨み……はらさでおくべきか~!!」



 呪いの声と闇が空一面に広がると、今度は、そこから何かが現れた。



 それは、胴体のない丸い物体。

 その物体には、10人の魔女の顔と、ぐにゃぐにゃした触手が生えている。

 まさに十面相の化け物……それが闇の空に浮かんでいた。



「しねぇ~! この世界ごと、全てきえされぇぇぇ!!」



 十面相の化け物は、その目から破壊光線を出すと、石を投げていた民衆や、周りの建物を次々と消し去っていく。

 破壊の光が町中に降り注ぎ、民衆は、為すすべなく消滅していった。

 阿鼻驚嘆となる町の光景。

 さっきまで魔女に対して石を投げていた連中も、破壊の光から逃げ惑い、叫んでいる。 



「た、たすけてぇぇぇ!」

「あんた、巫女だろ! 早くなんとかしてくれ!!」

「責任とりなさいよ!」



 そして、破壊光線から免れた民衆は、シロマのところに集まってくる。

 その民衆の口から出た言葉は、何とも自分勝手な言動。


 さっきまで楽しそうに、魔女達に石を投げていた者達。

 シロマは何度やめて欲しいと懇願したが、決して聞いてはくれなかった。

 それが危険になった途端、手のひらを返すように、自分に縋りついていく。



 シロマは、その民衆の姿を見て



 醜い……



と思った。



 それと同時に、自分のしてきたことが本当に正しかったのかわからなくなる。

 何が正しくて、何が間違っているのか……。

 頭の整理が追いつかない。



「私は……いえ、これはあなた達が……でも……。」



「いいから助けろよ! お前のせいだぞ!」

「そうよ! 私達、まだ死にたくないわ! お願い、早くあの化け物をやっつけて!」

「アンタは力を持ってるんだから守るべきだろ? 力ある者は弱い者も救って当然だ! さぁ早くしてくれ!」



 なかなか動こうとしないシロマを非難する民衆。

 シロマの頭は、完全に混乱した。

 しかしそれでも、目の前の破壊をそのままにするわけにはいかない。



 だから、動き出す!



「私は……あなた達のような人を助けたいわけでも、作りたいわけでもありません! これだけは覚えておいてください!!」



 それだけ言って、シロマは空中に飛んだ。



 向かい合う化け物とシロマ。

 化け物の目は、空に浮かんだシロマを捉える。



「ぎぃぃだぁぁがぁぁ、ごぉぉどぉぉじぃでぇぇやるぅぅ!」



 化け物はシロマを目でとらえた瞬間、破壊光線を放つ。

--が、シロマは手に取った弓で、光の矢を放ち、それを迎撃した。



 バチィィィィィン!



 黒と白の光の線が正面からぶつかり合う。

 しかし、勝ったのは白の光だった。


 白い光の矢は、暗黒を消し去り、そのまま化け物を貫通する。



「ぎょぉぉあぁぁぁぁぁぁぁ!」



 苦しそうに叫ぶ十面相の化け物。

 シロマはそのまま追撃の矢を放ちながら、化け物に向けて告げる。



「もうやめてください! あなた達は天に還り、新たなる生を受け、もう一度やり直してください!」



「いだっぃぃ! いだぁぁぃぃぃぃ! ぎえだぐなぁぁい!」



 光の矢を受けた化け物は苦悶の声を叫び続け、体中に穴ができる。


 シロマが放っている光の矢。

 それは、次元ごと貫く、【ディメンションアロー】


 その矢は、全ての物質を貫通させて貫く矢。

 どんなに凶悪な化け物でも、次元そのものを貫かれては、耐えられることはできない。

 正に、最強の攻撃であった。



 次々と胴体に穴が開いていく十面相の化け物。

 その胴体全てが白色に染まった時、空の闇が晴れる。

 すると、化け物の存在そのものが、まるで最初から無かったかのように消えていた。



「ごめんなさい……。」



 闇が消えた空で、シロマの呟きだけが空しく響く。



 シロマは、化け物を倒した事で地上に降りようとする。

 しかし、降りるべき場所がそこにはなかった。


 そう、空から下を見た瞬間、そこには町も民衆も、何もかもが消えている。

 降りるべき場所を失ったシロマは、空中でそのまま周りを見渡すも、当然何もない。

 

 そこは、ただの


 青に染まる空の世界で、そこに存在するのは自分ただ一人だった。



 不思議に思うシロマ。


 この世界が、今までと同じグリム世界であれば、目の前に一枚の紙(理の欠片)が現れて、本の外に出られるはずであった。

 だが、一向に理の欠片も現れなければ、元の世界に強制送還されない。



「どういうことですか……? あれがこの世界の魔女ではなかったのですか!?」



「そうだよ、君はやり遂げたんだ。シロマ、おめでとう! 君のお蔭で、この世界の穢れは消滅したよ。」



 誰もいないと思って呟いたシロマであったが、突然、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

 その声に振り返ると、そこにいたのは、やはりラビッツである。



「どうして? ラビさんは、ここには来れないはずじゃ……。」


「僕は、そんな事は言ってないよ? サポートの役目が終わったと言っただけさ。」



 疑問に思ったシロマであったが、確かにラビッツは、ここにこれないとは言っていない。

 それが間違いない事を、シロマは記憶している。



「確かに……そうですね。でも、それでは、なぜここに来たのですか?」



 当然の疑問だった。

 なぜ今になってラビッツが現れたのか。

 シロマには理解できない。

 だが、相変わらずラビッツは軽い口調で告げる。



「それはね、君に、お願いをしにきたからさ。」


「お願い? どういうことでしょう?」



 その言葉に、シロマは首をかしげた。



「とりあえず、ここじゃあれだから、地面を作るね。ほら、地に足を付けて、とか言うでしょ? はい、どうぞ。椅子も用意したから、まずは座って話そうか。」



 ラビッツがそう告げた瞬間、突如、シロマの足元に地面が現れ、そして、テーブルと椅子も現れた。



「え? ラビさん、こんな事できたんですか?」



 シロマは、その光景に驚きながらも、素直に椅子に座るのだった。

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