第23話 円卓会議❷

「ゲロゲロ、少しは自重しようね。でも、可愛いから許す!」



 そう言ってゲロゲロのもふもふをワシャワシャする俺だが、そもそもゲロゲロ以上のことをしているので、何か言えるはずもない。


 すると、イーゼが俺に質問する。



「そうでしたか。では北側と東側はサクセス様が壊滅させていたと思いますが、そういった敵はおりましたでしょうか?」



 そう質問されても、やはり俺には思い当たる魔物はいない。


 であれば、もしかしたらあのゴキブリラがそうだったのかな?


 でもあれ、見た目ヤバかったけど弱かったしな……



「うーん。ハッキリとは言えないんだけど、少し強いのがいたような……いないような……」



 そのはっきりしない発言に、いつの間にか祈りを終えていた副神官長が目を見開いて驚愕し、思わず言葉が漏れ出る。



「ま、まさかあれほどの魔物が強くなかったと……」


「何か知っていることがありまして?」


「はっ! 申し訳ございません! 使徒様であれば当然であるかと!」


「そうではありませんわ。何を知っているか教えてほしいのですのよ」


「はっ! まず北側には最強のゴーレムのヘルゴレムスが現れました。そしてギルドからの報告では、東側にはデスサイズマイラと呼ばれる凶悪な魔物の出現も聞いております」



 イーゼの冷たい視線を受けながら、焦った様子で答える副神官長。


 その姿はまるで女王様に報告する従者のようだった。


 これからはこいつの対応はイーゼに任せようかなっと考えつつも、今の言葉で俺は思い出す。


 デスサイズマイラはわからないけど、確かに副神官長を助ける時にちょっと強そうなゴーレムがいたことを。


 あのゴーレムが強い魔物というならば、あのゴキブリラもそうかもしれない。



「えっと、デスサイズマイラってさ、なんつうかガイコツの顔のゴキブリみたいなやつ?」


「はっ! その通りでございます」



 やっぱりそうだった。


 なるほど、どちらも一撃だったからわからなかったけど、あれが強敵ということなら、イーゼとシロマの仮説は正しいのかもしれない。



「サクセス様は強すぎますので、魔物の強さを測りかねていたようでございますね。ですが、これで確信しましたわ。凶悪化された魔物がこの町近辺に多かったのは、強化された魔物が常時送り込まれていたからですわ」



 どうやら自分の仮説に確信を持ったらしい。


 そもそもイーゼが仮説を話す時は、ほとんど正解なのだから俺も信じて疑わない。


 イーゼもシロマも超が付くほど優秀だからな。



「それですと、早めにそこを潰しに行った方がよさそうですね。明日にでも探しに行きますか?」



 シロマからそう提案された俺だが、もちろん異論はない。


 どこにあるかはわからないけど、ゲロゲロに乗って空から探せば結構早く見つかるだろう。



 しかし、俺が首を縦に振る前にマネアがそこに割って入る。



「いえ、その必要はありません。サクセス様は一日も早くオーブを探しに行ってもらいたいと思います。女神様の神託の通りであるならば、今は一秒でも惜しいです。ですから、そちらは私達に任せて頂きたいです」



 まさかマネアが反対するとは思わなかった。


 だが言っていることは理解できる。


 女神の力が強くなったとはいえ、いつまでビビアンの魔神化を抑えられるかはわからない状況。


 たった二、三日だからっと簡単に割り切れる話ではないのだ。


 その二、三日の為にビビアンを救えなかったとなれば、後悔しても後悔しきれないだろう。


 しかしそれでも、その前にこの町が落とされたら意味が無い訳で、実際にマネア達の強さがわからない以上、簡単に任せるとは言えない。



「話を聞いててわかると思うけど、リーチュンとイーゼが苦戦するような魔物がいるかもしれないんだぞ? 二人は天空職という超級職以上の職業だ。」



 暗になめんなよっと気持ちを込めて言う俺。


 リーチュン達だけで倒せたのならば、私達もとか思われるのは正直むかつく。


 とはいえ実際二人の強さを知らなければ、そう考えてしまうのも理解はできるがね。



 と俺が思うも、マネアはそもそも二人の強さを疑ってはいなかった。


 それどころか、人類を超越した力を持つ者として理解している。



「わかっています、サクセス様。ここにいらっしゃるサクセス様のお仲間の方々が全員規格外な力を持っていることは。しかし、その上で私達にお任せしていただきたいと具申しているのです。」


「ならいいんだけどさ。いや、良くないか。何か作戦でもあるんですか?」



 一瞬納得しかけた俺だが、何一つ解決していない事に気付く。


 だけどそこまで言うなら、きっと何か考えがあるのだろう。



「はい。作戦と呼べる程のものではございませんが、そもそも今ならばゲートの場所に強い魔物はいないと思います。問題なのは、それを見つけることと、壊す手段。そして私の力ならばゲートを壊すことが可能です。見つけることに日数は必要でしょうが、ギルドとも協力すれば比較的早く見つかるはずです」


「なるほど、でも何で強い魔物がいないと思うんですか?」


「話を聞く限り、襲撃は魔物達がある程度揃った時点で起きたはずです。であれば大魔王と言えども、今回の損失は大きいはずですし、そんなにすぐには体勢を整えられるとは思いません。」



 俺の質問に対して、さも当然のように答えるマネア。


 その考えは間違っているとは思わないけど、それでも実力の知らない人に大事なことを任せるのは不安が残る。


 それにブライアンさんもあんな調子だし……。



「みんなどう思う?」



 自分だけでは判断がつかないため、俺は仲間達に聞いてみることにした。



「アタイは任せていいと思うよ。」


「わたくしもマネアさんの意見に同じですわ。今なら容易に壊せると思いますわ」


「私も同意見です。そもそも仮説ですし、ゲートがまだあるかもわかりません。そこに時間をかけるよりも、先に進んだ方がいいと思います。」



 予想外な事に、女性陣三人はみんなマネアの意見に賛成のようだ。



ーーしかし



「それがしは半分は賛成。半分は反対でござる」



 イモコは少し難しそうな顔をしながらそう答える。


 あまり否定的な意見を言う男ではないので、少しだけ俺は驚いた。


 故に、尋ねる。



「どういう意味だ? イモコ」

 


「失礼でござるが、そちらの方だけでは危険すぎるということでござる。確かに付近の魔物は一時的にいなくなり、ゲートがあったとしても壊すのは難しくないでござろう。しかし、この状況に大魔王が手を打たないとも考えにくいでござるよ」



 言われて俺は気づいた。


 確かに今の状況から、いい方向だけしか考えていなかったし、もしもの状況についての議論はなされていない。


 大局を見て指揮していた大将軍であるからこそ、安易な仮定で計画を立てることに危機感を感じていたようだ。



 と言っても、俺には大魔王が何を仕掛けるかなんかわかるはずもないが……



「確かにそうだな。じゃあ具体的には?」


「そうでござるな。それがしが大魔王ならば、ゲートの場所を隠す、もしくは移動するでござる。更に言えば、偶然見つかった時の為に、それなりに強い魔物をゲートキーパーとして配置するでござる。これぐらいなら、直ぐにでもできると思うでござるよ」



 俺はその考えに素直に感服した。


 そしてそれは俺だけではなく、俺の仲間やマネア達も同じようである。



「なるほど。となると、やはり俺達が探した方がいいってことでいいのかな?」



 俺がそう聞くと、イモコはきっぱりとそれを否定した。



「否! それがしが賛成といった半分は、師匠達がオーブを探しに行くことでござる。」


「ん? ちょっと意味がわからないんだけど」



 俺がイモコの言葉を理解できないでいるも、イモコは話を続ける。



「それがしがこの町に残るということでござる。そしてそちらにおられる御婦人方と共にゲートを探して壊すでござる」



 まさかイモコからそんな言葉がでるとは思わず、驚きを隠せない。


 てっきりイモコはずっと俺についてくるものだと思っていたから。



「本当にいいのかイモコ? 確かにイモコがいてくれるなら、俺は安心だけど……」


「本心では師匠について行きたいでござる。しかしながら、師匠に国を救ってもらった恩を思えば、それがしがすべきことは決まっているでござるよ。それに師匠達と一緒にいれば、それがしの出番はないでござる」



 前半と後半。


 最後に少しだけ冗談めかして言ったのは、俺に気を遣わせない為だろうか。


 実際どっちが本心かわからないけど、いずれにしても意思は固いみたいだし、それならば信じるしかない。



「わかったよ。マネアさんもそれでいいですか? イモコの強さは俺が保証します」


「はい。断る理由などございません。」



 マネアはそう言って頷く。


 俺は安心と同時に、ずっとそばにいてくれたイモコがいないのに少しだけ不安は残るけど、そんな事口にできるはずもない。



「ということだ。ちょっと寂しいけど、頼んだよイモコ。お前がこの町に残るならば、後顧の憂いがなくなるよ」


「御意。ありがたきお言葉! このイモコ。師匠の弟子として恥じないよう、全身全霊をもってこの町をお守りするでござる」 


「あぁ、任せた。後はカリーだけど……、とりあえずオーブを探しに行くのは明日からということで、今日は一度宿に戻ろうか。」



 こうして無事今後の方向性も決まったため、一同は会議室を後にして宿へと戻っていくのであった。


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