第22話 円卓会議❶
会議室に入った俺達は円卓の前に置かれた椅子に座ると、まずは俺が女神から聞いた話を全員に伝える。
ーーすると
「それは素晴らしい! 流石は使徒様!」
新しい転職が可能になったことを伝えた段階で、副神官長は歓喜に身を震わせながら興奮気味にそう口にした。
だが話はそう単純ではない。
確かに超級職という更に上位の転職が可能になった。
これは人類として大きな進歩ではあるが、肝心の転職条件については残念ながらターニャから教えてもらえなかった。
神々のルールとかいうよくわからないものがあるらしく、人間自らがそこに到達する必要があって、条件を伝える事はタブーらしい。
といっても、そもそも女神と話せるのは俺だけなんでほぼ意味のない話ではあるが、他の世界では神託として神官に伝えたことがあったらしく、その時は、以後その職業に転職させることができなくなったそうな。
ちなみに俺の魔人については、そもそも俺がその条件を満たしていたから教えてくれただけのようなので、あれは例外みたい。
そんな訳で何が言いたいかというと、再度魔物の大軍勢が押し寄せてきた時までに、超級職に転職できるものがどれほどいるかという話である。
今回の戦いで、また多くの者が亡くなった。
つまり現状は何も改善されていないどころか、むしろ防衛力がかなり低下しているといえよう。
その事についても俺が続けて説明すると……
「何をおっしゃいますか。ここには使徒様率いる神の軍団がおられるではありませんか! 私共は何一つ心配しておりません」
やはりそうきたか。
普通に考えてそう思われるのは当然だと思っていたが……ここははっきりと告げた方がいいな。
「悪いがそれは無理だ。俺達にはやらなければならないことがある。」
俺がそう言うと、案の定副神官長は顔を急激に青褪めさせるのだが、予想外な事にそれを直ぐに受け入れた。
「なんと!! いえ、そうでございますな。使徒様が降臨されるということは、何か大きな使命があってのこと。しかしながら、よろしければそちらについてお伺いしてもよろしいでしょうか? 何かご助力ができればと……」
なるほど。
流石は信仰心の深い神官というわけか。
常に神に縋っている(すがっている)だけではないんだな、と少しだけ副神官長を見直す。
「色々あるが、まずは最後のオーブを手に入れる。その後、魔界にて勇者を救い、大魔王を倒す。これが俺の……いや俺達の使命なんだ」
俺がそう決意を込めて説明をすると、副神官長は言葉がでないほど感極まってしまったようで、そのまま感謝の祈りを始めてしまった。
こうなるから話が進まないんだよなぁ。
っと俺が思っていると、黙って聞いていたマネアが口を開く。
「サクセス様。まずは女神様からの神託を話していただきありがとうございます。そして今後のことについてなのですが、サクセス様は今おっしゃられたように最後のオーブを探しに向かう必要があると思います。」
その言葉にただ黙って「うん」と頷いていると、マネアはそのまま話を続けた。
それは正に俺が話し合おうとしていた内容である。
「その上でこの町の防衛面の話をしたいとは思うのですが、その前に今回の魔物の襲撃について何か気付いたことがないかお伺いしたく思います」
マネアがそう俺に尋ねるも、俺は今回の襲撃についてよくわかっていない。
魔物がいたから倒した、その位の認識しか俺にはなかったのだ。
その為俺が何も言えずにいると、代わりにイーゼが口を開く。
「少しよろしいでしょうか?」
「あぁ、何か気付いたことがあるなら誰でも発言してくれ。」
俺が少しホッとしながらそう言うと、イーゼは綺麗なお辞儀を見せ、言葉を続けた。
「ありがとうございます。ではまずは、今回の魔物の襲撃前にわたくしとリーチュンが向かった南側のことについてお話させていただきます。」
イーゼはそう話始めると、あの時二人に何があったかを説明する。
今回の襲撃で唯一魔物が押し寄せて来なかった方角である町の南側。
イーゼ達はその南側の森の奥に行っていたらしいのだが、そこにはメタルモンスターの巣と思われる場所があり、そこで核を壊して巣を崩壊させたらしい。
「そんな美味しい場所を!!」
とミーニャがツッコムも、イーゼはそれを聞き流してある仮説を立てた。
「つまりわたくしたちが崩壊させたモンスターの巣は、南側だけではなく、東西南北全てに存在していた可能性がございます」
その言葉に全員が目を丸くする。
あまりに突拍子もない話だし、もしそれが事実ならば、未だにこの町に危険が迫っているということだからだ。
「えっと、それは他にも三カ所メタルモンスターの巣が残ってるということ?」
俺は理解できる範囲でイーゼに質問してみたのだが、彼女は首を横に振った。
「いえ、多分それはないでしょう。たまたまわたくしたちが見つけた場所がメタルモンスターの巣であっただけで、他が同じだとは思えません」
その答えを聞いて、シロマが顔をハッとさせていた。
どうやら何かに気付いたらしい。
「つまりそれはモンスターの巣ではなく、モンスターを送り込むゲートがある場所ということでしょうか?」
「さすがシロマさんですわね。その通りですわ。わたくし達が戦ったコアとなる魔物……メタルヒューマンはとてつもなく強い存在でしたの。そしてメタルヒューマンはそこで力を蓄えていましたわ。多分ですが、南側はメタルヒューマン率いる魔物の集団がマーダ神殿へ向かう予定だったのかと思いますわ」
答え合わせに納得したのか、シロマが少し嬉しそうな表情を浮かべて頷くと、今度はリーチュンがそれについて口にした。
「確かにアレはやばかったわね! アタイの攻撃が全く効かなかったもん。」
「えぇ、アレは明らかに歪な存在ですわ。もしかしたらですが、あれの成長が完全に終わり次第、あの洞窟のどこかに存在したゲートから次々に魔物が現れ、町に向かった可能性がありますわ。」
なるほど、だから南側だけは魔物が押し寄せて来なかったんだな。
「んだけど、そのゲートってのは見つけることができなかったんだよね?」
俺がそう聞くと、イーゼは申し訳なさそうに俯く。
「はい、残念ながら」
「んー、でもさ。それが事実なら、他の方角にもそのメタルヒューマンと同じようにヤバイ魔物がいて、そいつらも町を襲っていたということになるんじゃないの? そんなやばいのいたかな?」
俺はあの時の戦いを思い出すも、それほど危険な魔物がいたようには思えない。
しいていうなら、あのゴキブリラの見た目が気持ち悪かったくらいだが……
俺がそんな事を考えていると、イモコには何か思い当たる魔物がいたらしく口にする。
「師匠。それがしが戦っていた西側に、一匹だけ異様に強い魔物がいたでござる。」
思いがけないイモコの言葉。
俺はそれに興味が沸いた。
「まじか!? どんなやつだ?」
「初めて見る魔物でござった故、名前はわからないでござるが、巨大なさそりのような魔物でござる。大きさは20メートルはあったかと……」
巨大なさそりと聞いても俺は驚かない。
だって、サムスピジャポンではそんなのうじゃうじゃいたからな。
「へぇ~。でも倒したってことだろ? 流石イモコだな」
俺がそう言うと、なぜかイモコは一瞬黙り込む。
何か言いづらいことでもあるのだろうか?
「いえ、それがしではないでござるよ。倒しがいがある魔物と出会えて興奮していたでござるが……」
そこでイモコの目は、俺が抱きかかえているゲロゲロに向いた。
まさか……
「ゲロゲロ殿が口から吐きだした大きな球体で、その魔物を含めて周囲にいた魔物を一掃してしまったでござる」
っ!?
なんと、まさかのホーリークラッシャー!?
「ゲロ(えっへん!)」
イモコの視線を感じて、何を言っているのか理解したのか、ゲロゲロは誇らしげに胸を張って鳴いた。
確かに今のステータスでゲロゲロがアレを使えば、まず生き残れる魔物はいないだろう。
アレは俺のディバインチャージ級の威力だ。
西側の地形がどうなっちゃったのか少しだけ不安が残るが、カリー達と再会した時のあの表情の意味がやっとわかる。
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