第24話 子孫繁栄

 会議が終わり、マーダ神殿を後にした俺達。


 イモコだけは先ほど話したゲート探索についてもう少しマネア達と話をすることになり、俺達とは分かれてマネア達が泊る宿へと向かった。


 それと神殿の外に出た時、なぜかそこには元気いっぱいな顔のブライアンさんが立っていたことに少し驚く。


 最後に見た時は完全に魂が抜けた状態だったはずなのに、これ如何に? 


 と疑問に思うも、マネアとミーニャが全く気にしていないので、特には触れないでおいた。


 もしかしたらターニャが慰めてくれたのかもしれないと考えなくもないが、普通に考えてそれは無理だろう。


 なんせ普通の人は女神様と会うことはおろか会話することも不可能なので、自分の力で立ち直ったと考えるのが妥当だ。


 まぁそんなわけで俺は一人で宿に戻る事になった訳なんだが、そうは問屋は卸さない。


 まだ寝るには時間があるし、夕食も食べていないということで、シロマ達も一度俺の泊まる宿に向かうと言い出したのである。


 実際俺としても、これからまた一緒に旅をするとはいえ、リーチュン達とは再会したばかりだし、色々話も聞きたいから全く問題はない。



「さて着いたぞ。とりあえず食堂に行って飯でも頼もうか」


「賛成! 今日はお昼抜きだったから、お腹ぺこぺこだよぉ~」



 お腹を擦りながらそう口にするリーチュンの顔は本当に我慢の限界といった様子である。


 だがそんな彼女を見て、シロマが呆れ顔を浮かべた。



「リーチュンは会議室でずっとフルーツを食べていたじゃありませんか。」



 シロマが口にしたとおり、俺も同じことを思っていた。


 リーチュンが言うように予想外な出来事の連続だったため、昼食をまともに食べることはできなかったのは事実である。


 しかし副神官長が気を利かせてくれたようで、会議が始まってすぐに神官達が飲み物や果物等を机の上にたくさん置いてくれたのだ。


 と言っても、会議をしている際中にムシャムシャと食べながら話す訳にもいかず、俺を含めてほとんどの者が出された果物等を口にはしていない。


 普通に食べていたのはリーチュンとゲロゲロくらいだ。


 リーチュンも最初は自重していたようだが、ゲロゲロが美味しそうに食べ続けているのを見て我慢できなくなったようで、二人(実際には一人と一匹)はまるで競い合うかの如く、卓上に置かれた食べ物を食べきったのである。 


 そんな訳だから、今さっき沢山食べていたはずのリーチュンがお腹ペコペコと口にすれば、シロマに限らず誰だって呆れた顔を見せるのは当然だった。


それでも



「あれはおやつでしょ? ご飯は食べてないよ?」



と真顔で答えるリーチュン。


 それに対し、口をポカンと開けて呆気に取られているシロマ。


 二人のそのやり取りが何だか懐かしくて、俺は思わず小さく笑ってしまった。


 

 そんな中、イーゼは俺の腕を抱えるように取って顔を近づかせると、



「サクセス様。あんなのは放っておいて、私達二人でどこか寛げる場所でゆっくり食事をしましょう。今日は肉汁たっぷりのソーセージを頬張りたい気分ですわ」



 と蠱惑的なことを口にする。


 そんな言葉を思春期真っ盛りな俺に向ければ、我慢できるはずもない。


 更には腕に当たる柔らかい感触とフッと優しく香るフレグランスな匂いが俺のリビドーを強く刺激したことで、俺の息子がおっきしちゃう。



「イ、イーゼ。その……胸が当たってるんだけど」


「ふふ、当てているのですわ。直接触ってもいいのですわよ?」



 さっきまでは飯を食べることで頭が一杯であったが、今の一瞬で俺の脳内はピンク色に満たされた。


 もはや息子は完全覚醒状態だ。


 だがそれでもなんとか俺の持ち得る少ない理性が総動員して、この高まる興奮を必死に抑え込む。


 シロマやリーチュンがいる前で暴走するわけにはいかない。


 

 なのに……それなのに、



「サクセス様は何を口にしたいですか?」



 等と艶っぽく耳打ちされれば、我慢できるはずもなかった。


 その為、大衆が集う宿屋の前にも関わらず



「お、おらは……あ、アワビがたべたいっぺな」



 と口に出てしまったのは許して欲しい。


 そんな俺を見てイーゼが妖しい笑みを浮かべるも、その後の展開を許さないシスターズによって阻まれるのは、もはやテンプレですらある。



「ちょっとイーゼ! サクセスをどこに連れていくつもりよ?」



 気付けば俺はいつの間にか宿の前から移動しており、裏手側に繋がる狭い路地に入ろうとしていた。



 あれ? いつのまに?



 リーチュンの声で正気に戻った俺だが、俺は聞き逃さなかったぞ。


 イーゼが小さく舌打ちしたことに。



「あら、わたくしは貴方たちがいつまでもそんなところで話しているから、先に食堂へとお連れしようとしていただけですわ」


「見え透いた嘘はやめて下さい。昨日話しましたよね? 守れないなら私も本気で怒りますよ?」



 珍しくシロマがガチギレしているが、今回のイーゼは引くことなく、むしろ煽り始めた。



「あら? 怒ったらどうするんですの?」



 余裕そうな表情でそう口にするイーゼだが……



「これは使いたくなかったのですが……これを使います」



 そう言って、シロマは小瓶を取り出すとイーゼに見せた。



「そ、それは……。」


「そうです。イーゼさんなら当然わかりますよね、これがなんであるか。私は本気です」



 俺とリーチュンにはそれが何なのかさっぱりわからなかったが、珍しくイーゼが顔を青褪めさせているので、かなりヤバイ物なのだろう。



「じょ、冗談にきまってますわ。シロマさん。わたくしは少し場を和ませようと思っただけで……」


「そうですか。では私も場を静める為にこれを使いますね」



 イーゼの下手な弁明は、シロマの怒りという炎に油を注いだだけであった。



 普段静かな女の子が本気で怒るとこんなに怖いものか



と、なぜか俺が震えあがっている。


 ちなみに息子は「じゃ、じゃあまたね!」と言って小さくなって隠れてしまった。


 そしてイーゼはシロマの本気を本能で感じ取り、その場で土下座をする。


 プライドの高いエルフが土下座をするというのは、本来ありえないのであるが、その位シロマがしようとしていたことがイーゼにとって致命的にまずいものだったのだろう。



 あれは一体なんなんだ?



「シロマさん。この通りですわ。本当にこれからは自重しますので許して下さい」



 その姿を見て、シロマはふぅっと小さく息を吐きだし小瓶をしまうと



「これが最後の警告ですからね。」



 といって怒りを収める。



 いやぁ~、マジでヒヤヒヤしたわ。


 イーゼが悪いとはいえ、やはり仲間同士が険悪になるのは耐えられない。


 とにもかくにも、何とかこの場が収まった事に俺は安堵する。



「あ、あの。それじゃあそろそろ中に入って飯にでも……」


「そ、そうね。ほら、シロマ。アタイもお腹ぺこぺこだし、早く食べにいこ!」



 俺とリーチュンがそう言ったことでなんとか不穏な空気が消え、ようやく宿の中へ入った俺達は、そのまま食堂に向かうと、少し早めの夕食を口にするのであった。


 

 ちなみに後日わかったことであるが、さっきシロマが取り出した小瓶の中身は



   【永久避妊薬】



 という、エルフの秘術によって作られたかなりやばいものらしい。


 これはエルフの国で大罪を犯した者に使われる劇毒らしいのだが、一部の者には重宝されるアイテムでもある。


 なぜならこれ以上子供を作らないようにしたい家庭にはかなり有益であるため、逆になんでエルフにとってそれがヤバイものなのか普通なら理解できないだろう。


 しかし話を聞いてわかったことであるが、エルフというのは長寿であるが子が中々授からない体質であり、かつ、より優秀な子供を産むことこそが存在意義という考えらしい。


 その為、エルフは長い歴史の中で両性へと体が進化し、相手が男でも女でも優秀な者の子を作ることができるようになったのだとか。


 それ故に、子孫を作れなくなるというのはエルフの存在意義そのものが消滅するに等しいことであるため、さっきのイーゼを見てもわかるが、あの小瓶を使われることは死ぬよりも辛い地獄を意味する。


 当然そんな貴重なアイテムであれば市場に出回るはずもなく、普通の方法で手に入れるのは不可能に近い訳だが、それをどうやってシロマが手に入れたのかは謎だ。


 またエルフという種族は子孫を残した後は、今のイーゼと同じように自由に性別を固定することが多いらしい。


 とはいえ今のイーゼのように、子孫を残す前に女性だけになるということは極めて稀らしく、それもあって俺に対する執着心が半端ないということにも繋がる。



 そして最後に、なぜ俺がこんなにエルフについて詳しく知ったかというと……



ーーーそれは次に訪れることになる場所が、まさかのイーゼの故郷である



  【エルフの国 ユートピア】



 だからであった……。

  

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