第41話 二人の涙

「そうか……俺は3日も寝ていたのか。そりゃあ、心配するよな。ところでここは?」


「はい、でも体に異常はありませんでしたので、必ず戻ってくると信じてました。ここは、ルーズベルトの町で一番大きな宿屋です。ボウサム王が手配してくださいました。」



 シロマは、俺の胸の中でひとしきり泣き終えると大分落ち着きを取り戻した。

 どうやら俺は、相当シロマを不安にさせてしまったらしい。

 申し訳ない……。



「そっかぁ、良かった。みんな無事に戻ってこれたんだな。しかし、この部屋は随分豪華だなぁ。ボッサンの事だから、一番高いところを選んでくれたのかな? あ! そうだ! カリーは? イモコはどうしてる?」


「カリーさんとイモコさんも無事です。二人も同じ宿に泊まっています。サクセスさんの事を大分心配していたので、目覚めた事を伝えてきますね。でも、その前に……」



 シロマはなぜか俺の顔を見つめながらモジモジしている。

 


 ん~……可愛い。

 あ、そうだ。

 ちゃんと言ってなかったな。



「おかえりシロマ。今更になっちゃったけどね。」


「はい、ただいまです! ずっと……ずっと……寂しかったです! 会いたかったです! サクセスさん!」



 すると、突然シロマは俺の唇にその柔らかい小さな唇を合わせる。

 以前、初めてした時と同じ優しくも長いキスだった。



 まさかシロマがこんなに積極的になるとは……。

 これ、もう童貞の呪い解けたんじゃね?

 カリー達呼ぶ前に、俺……大人になってもいいんじゃね?



 シロマは目を閉じながらキスをして離れない。

 そして、目からは涙が零れ落ち、それが俺の顔を伝ってくる。



 シロマは震えていた。



 その震えは嬉しさからなのか……。

 多分、それもあると思うが、何となく違う気がする。

 きっとシロマはずっと無理をしてきたのだ。

 

 まだ話は聞いていないが、別世界の試練は相当厳しかったはず。

 それをなんとか乗り越えて、そして俺を助けにきた。


 この世界に戻ってから、どのくらいで俺のところに辿りついたのかはわからないが、久しぶりに再会したと思ったら、俺死ぬ寸前だったしな。


 何とか乗り切ったと思ったら、俺は三日も倒れてしまっていた。

 そりゃぁ、色々不安だったろうなぁ……

 


 俺は再び、シロマを強く抱きしめる。

 すると不思議な事に、さっきまでの火山が爆発するようなムラムラがおさまっていった。



「えへ。二回目ですね。サクセスさん。」



 シロマは俺の胸から顔を離し、可憐に微笑む。



「あぁ、そうだな。シロマが生きていてくれて本当に良かった。」


「はい、サクセスさんのお蔭です。」


「え? 俺はなんもしてないよ?」


「いいえ、サクセスさんに早く会いたくて、サクセスさんの隣に立ちたくて、その想いだけで私は強くなれました。本当にピンチになった時も、サクセスさんは私を……。」



 その時、何かが俺とシロマの間に割って入ってくる。



 ゲロゲロォォ!!(シロマ! ずるい! サクセス僕も!)



「あ、ゲロちゃん! ゲロちゃんよかったぁ!」



 シロマは二人の世界に乱入してきたゲロゲロに気付くと、抱き上げてその体に頬をこすり付けてモフモフする。



 ゲロゲロ(シロマ、元気!!)



「あぁ、そう言えば言ってなかったな。ゲロゲロは復活したんだ。しかも、前よりも強くなってね。」



「はい。カリーさんから話は聞いています。ゲロちゃんもサクセスさんが眠っている間、同じ様に眠っていたんです。でも、本当に良かったです。ゲロちゃんが生きて返ってくれて……本当に嬉しいです。」



 シロマはゲロゲロを離さない。




  バン!!




 そして、俺達が久々の再会に喜んでいると、扉が勢いよく開いた。



「し、師匠! ししょーー!! 目が覚めたでござるか!!」



「サクセス! 体は大丈夫か!?」



 入ってきたのは、イモコとカリーだ。



「あぁ、二人とも迷惑をかけた。すまない。」



 俺は二人に頭を下げる。



「やめるでござる師匠!! 某達は師匠に救われたでござるよ。師匠が頭を下げる理由なんて、どこにもないでござる。」



「そうだぜ、サクセス。頭を下げるのは俺の方だ。すまなかった! 俺が不甲斐ないばかりに、お前ばかりに負担をかけさせてしまった。謝って済む話じゃないのはわかる。だけど、それよりも、なによりも、サクセスが無事で本当によかった……。」


 カリーは俺に頭を下げながら涙を零した。

 カリーが泣いている姿は初めて見る。

 彼も相当、心配していたようだ。



「ちょっ! カリー!? なんでお前が謝るんだよ。俺はカリーのお蔭であいつを倒せたんだ。イモコもカリーも本当にすげぇよ。」



「いいや、違う! 俺は後少しで一生後悔するところだった。なんであの時、俺は最後までお前と一緒に戦ってやれなかったんだ。俺は……俺は自分がゆるせねぇ!!」



「カリー……顔をあげてくれよ。カリーは頑張った。誰よりも頑張っていた。俺なんかよりよっぽどカリーの方が凄いと俺は思ってる。カリーが自分を許せないなら、俺が代わりにカリーを許すよ。だから、顔をあげてくれよ。」



「サ、サクセス……すまない。みっともないところを見せた。でも、俺はやはり自分を許さない。例え俺が死んだとしても、もう二度とお前を一人にはさせない。あの時……フェイルが死んだ時、俺は誓ったんだ。二度と仲間を一人にはさせないと……。」



 カリーはやっと顔をあげると、真剣な目をして言った。



 そうか、そういえば前に聞いたな。


 それでカリーは……。


 う~ん、カリーにもかなり迷惑かけちまったな。



「師匠! 本当に体は大丈夫でござるか?」



「あぁ、もう元気ビンビンだ。それより、あれからどうなったか話を聞かせてもらえないか。後、今更なんだが、ここにいる女性は俺の仲間のシロマだ。紹介が途中になっちまってすまない。」



「あぁ、知ってる。彼女とは俺も色々話したからな。再会できてよかったな、サクセス。」



 俺が二人にシロマを紹介すると、カリーは笑顔で言う。

 さっきまでの鬼気迫る顔からやっと普通のカリーに戻ってくれた。



「改めて、不束者ですがよろしくお願いします。サクセスさんの恋人のシロマです。」



 こ、恋人!?

 


 シロマはそう挨拶すると悪戯っぽい目で、俺を見る。



 そういえば、俺はカリーにシロマを取られるんじゃないかとずっと心配していた。

 それをわかってなのか、シロマは自分を恋人と言った。



 嬉しいじゃねぇか!



「ははっ! よかったなサクセス。恋人が戻ってきてよ。どうだ? まだ心配か?」



 今度はカリーがからかった目で俺を見る。



「ば、ばか。心配してねぇよ! シロマは俺の恋人だ! 誰にも渡さねぇぞ!」



「サクセスさん……。」



「心配すんな。誰も人の女に手なんかださねぇって。それよりも、サクセス。腹減ってねぇか? この宿はいつでも料理を作ってくれる。部屋に持ってきてもらえるから、とりあえず飯でもどうだ?」



 そう言われると、なんだかすごくお腹が空いて来た。



「いいね。あっ! そうだ! そういえば、戻ってきたら宴会するって約束してたな。よし、じゃあまずは、再会と討伐を祝して乾杯だ! 宴会すんぞ!!」



「師匠! 某が直ぐに飯の手配をするでござるよ。師匠たちはゆっくりしていているでござる。」



 相変わらずイモコは気が利く。

 本当に、いいのかな?

 俺なんかが師匠で……。



「ありがとうイモコ。色々終わったら一緒に訓練しような。」


「はいでござる!! それでは直ぐに行って参るでござるよ!!」



 俺の言葉にイモコは目を輝かせると、急いで部屋を飛び出していった。

 



 よし! まずは宴会じゃあああ!!

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