第42話 酔っ払い

「おう、サクセス! 酒が進んでねぇぞ! もっと飲めやぁ!」


「ちょっ! カリー! 飲み過ぎだよ。」


「いいんだよ! 俺は、今日はとことん飲むんだ! サクセスこそもっと飲めやぁ! 女がいるからって遠慮してんのか? おい?」



 宴会が始まると、カリーはまるでやけ酒をするかのように、アルコール度数の強い酒をグビグビと飲み始めた。

 ゆっくり飯でも食いながら、色々話そうと思ったが、カリーの一気飲みが止まらない。

 遂には、酒瓶片手に俺の肩に手を乗せて絡んでくる。


 完全によっぱらいのあれだ。

 カリーがこんな風になるなんて珍しい。


 まぁ、確かに俺は酒を全然飲んでないんだけどね。

 だって、今はとにかく酒より飯っしょ!

 目の前に広がる無数のオードブル。


 

 ビーフシチュー、焼き鳥、豚しゃぶ、海鮮カルパッチョ……そして寿司。



 俺の大好きな料理が勢ぞろいしており、とても酒を飲んでいる余裕はない。

 3日分の飯を体に補充するが如く、俺は全ての料理に手を付けて貪る。


 

 ガツガツガツガツッ……



「サクセスさん、急いで食べ過ぎです。無くなってもお替りはありますから、もう少しよく噛んで食べて下さい。喉につっかえますよ。」


「あぁ、分かってる……ん、んご……。」


「だから言ったじゃないですか。ゆっくり飲み込んで下さい。」



 早速喉を詰まらせた俺の背中を優しく摩るシロマ。



「おいおい、サクセス。いいなぁお前は女がいて。俺なんか……俺なんかよぉ~!!」



 それを見て、カリーは何故か叫びながら泣いている。



 ここまで来るとめんどくさいな。



 いや? 待てよ……。

 まさか、俺が酔っ払った時もこんな感じで絡んでいるのか!?


 他人を鏡にしてみると、自分の醜態が見えてくる。


 うわぁ……。

 まじで飲み過ぎに気をつけよ。



「カリーにもいい人見つかるさ。だってこんないい男なんだから!」



「ザグゼツゥ……俺……俺だって……彼女ほでぃぃ!!」



 やばい! カリーが壊れた!

 って、あいつ、ウィスキー2本も空けてるのかよ!!



「よしよし、きっとイモコがサムスピジャポンで紹介してくれるさ。なっ! イモコ! そうだろ?」



「と、当然でござるよ! 別嬪さんを紹介するでござるから……鼻水を某の服で拭かないで欲しいでござる!!」



 すまん、イモコ。

 後は任せた!!



「それで、シロマ。あっちの世界はどうだったんだ?」



 カリーをイモコに任せると、俺は早速シロマが経験したことを聞く。



 シロマが語った異世界は、俺の想像を遥かに超えた危険な場所だった。 


 正直、生きて返ってこれた事自体が奇跡に思える。


 俺なら、まず無理だろう。


 そんな世界に他の二人も行っている……。


 正直不安だ。



 そしてもう一つ驚いたことは、時間軸についてである。


 シロマは向こうの世界で2年過ごしていた。


 つまり、実際には俺よりも年上……。

 どうりで、なんだか色っぽいというか、大人っぽくなっているわけだ。



「本当は私……後2ヵ月遅くこっちの世界に戻る予定だったんです。」


「え? そういえば、なんで俺がヤバイ時にあそこに来れたんだ?」


「私の新しい職業名は【時空僧】です。時間と次元に干渉できます。そして時空神は、私が異世界に飛ばされてから4か月後の世界に送りました。」


「ふんふん……って、神? 時空神ってなんか凄そうだな。」


「はい、神に相応しい凄まじい力を感じました。それで、私は思ったのです。もしも、4ヵ月後の世界にサクセスさんがいなかったらどうしようと……。私の力でどこまでできるかわかりませんでしたが、もしも、サクセスさんがいない世界であったならば、それを変えられる時間と場所に戻れるように祈ったのです。」


「まさか……それで、あの時シロマは……?」


「はい、どうやってできたのか私自身にもわかりませんが、どうにか間に合いました。本当に奇跡です。それで後になってわかったのですが、私が戻ってきた時間は別れてから約2ヵ月後。つまり、自分の力で時間に干渉したということです。」


「ようは、本来シロマが戻る時代に俺はいない。だから、その区切りとなる、あの時あの場所にシロマが現れたと……。うわぁ……やっぱ俺、マジで死んでたんだな。そう考えると……怖いな。」



 やば、もしもシロマが来なかったら……。

 やっぱ、自分の力を過信しすぎたのが原因かな。


 今後はもっと慎重にいかなきゃだめだ。



「でも間に合いました。サクセスさんも私も生きています。今はそれで充分です。」


「そうだな。シロマ、本当にありがとう。俺の為に命を懸けて、異世界に行ってくれたんだよな? 俺はシロマを……いや、イーゼとリーチュンも含めて、俺の仲間達を誇りに思う。ありがとう。」


「はい、サクセスさんの隣に立ちたくて……もう足手まといは嫌です。ゲロちゃんが死んじゃった時、そしてサクセスさんが負けた時、私は自分が許せなかったのです。だから……本当に良かったです。」



 シロマは再び、目に涙を溜める。

 本当にこの子はいい子だ。

 俺にはもったいないくらい。



「あ……。やべ、大事な事を思い出した! そういえば2ヵ月過ぎてるんだよね? やっばぁ……。」


「どうしたんですか?」


「いやさ、旅に出るときマネア達と約束したんだよ。1ヵ月後に状況報告し合うって。もう2ヵ月過ぎてるし……。参ったなぁ、明日一度マーダ神殿に戻るかな。」


「それなら私も行きます。マネアさん達にはお世話になりましたし、ご挨拶をしたいです。」


「オッケー、じゃあ今日はゆっくり休んで、明日一緒に行こう。ところでシロマの部屋は?」


「ふふふ、ここです。サクセスさんと一緒のベッドです。」



 シロマはそう言うと、ベッドに腰をかける。



 な、な、な、なんですとーーー!!


 ええのか?

 ええのんか?


 こうしちゃおれん!

 早くカリーとイモコを部屋から追い出さねば!!



 ぐぅ~……すぴ~……ぐぅ~



 って、カリー寝てるやんけ……。

 

 ふと、イモコとカリー達の方に目を向けると、カリーはソファに横になって寝てしまっていた。


 そのカリーに毛布をかけるイモコ。

 

 すまなかった! イモコ!



「あれ? カリー寝ちゃった?」



「はい、さっきまで泣くわ怒るわ大変でござったが、突然プツンと倒れて、寝てしまいました。どうやら、カリー殿も大分溜まっていたようでござる。某も十分飲み食いしたので、ここいらでお暇しようと思うでござる。」



「イモコ、色々悪かったな。ありがとう、心から感謝する。それと、これからよろしくな。お前は俺の一番弟子だ。」



「おぉ! 師匠! 嬉しいでござるよ。某は、師匠の為にこれからも切磋琢磨するでござる。それでは、おやすみでござる。」



 イモコはそう言うと部屋を出て行った。

 あいつは、まじで良い奴だ。

 面倒見もいいし、どう考えても人間的に俺より上に見える。



「じゃあ、私も部屋に戻りますね。おやすみなさい。サクセスさん。」



 チュッ



 シロマは俺のホッペにキスすると、そう言って部屋を出て行った。



 あれ?

 あれれ?

 一緒の部屋じゃないんすか?

 どうすんだよ、この期待に溢れた息子を!

 

 

 これが、まさか……童貞の呪いの効果なのか!



 おのれ、トンズラめ! 絶対許さん!




 ゲロゲロぉぉ

(もうお腹いっぱい、食べれないよぉ~。)

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