第3話 謎の装備

 翌朝、俺達が出発前に食堂に集って朝食を食べていると、ボッサンが現れた。


「あぁ、気にせず食べててくれ。渡す物が用意できたから、旅の支度が終わったら城門前に来てほしい。そこに馬車も用意してある。邪魔したな。」


 それだけ言うと、ボッサンはすぐに出て行ってしまう。

 いつものワンパターンだと、謁見の間で褒美を貰うのだが、今回は違うようだ。

 というよりも、ボッサン自らが、わざわざそれを伝えにくるってところに、俺は少し感動した。


「あいつ……いい王になるな。」


「そうですわね。この国を立て直すのは大変だと思いますが、あの方なら大丈夫でしょう。」


 俺の呟きにイーゼが答える。

 ボッサンは今、王になる為に色々忙しいはずだ。

 それにも関わらず、墓の事しかり、今回の報酬の事しかり、全て素早く対応してくれている。

 やはり、ギルドマスターであった経験も生きているのか、とても手際が良かった。


 そして俺達は、急がなくていいとは言われたものの、あまりボッサンを待たせるのは悪いと思い、出来るだけ手短に支度を済ませて外にでる。


 城門の前に行くと、昨日見せてもらった立派な馬車と、宝箱が置かれていた。


「早かったな。そんなに急いで、忘れ物とか大丈夫か?」


「あぁ、大丈夫だ。それより、色々とありがとなボッサン。」


「何言ってやがんだよ。お礼を言うのは俺の方だ。色々巻き込んじまって悪かった。つまらない物とは言わねぇ、これを受け取ってくれ。」


 俺はボッサンの前にある宝箱を開ける。

 中には武器二つと防具が一つが入っていた。


「これは? なんか凄そうだな。」


「あぁ、これはこの国に伝わる伝説の武器と防具だ。手に取って確かめてみてくれ。」


【グリムダルトの鞭】レアリティ8

 攻撃力 40+魔法値

 スキル 魔力攻撃 ???


【時空の杖】 レアリティ5

 攻撃力 55

 スキル 時空 ???

 

【戦姫のチーパオ】 レアリティ9

 防御力 70

 スキル 闘気 ???


「え? なんだこれ、凄すぎて逆に全く分からん!!」


「どれどれ見せて! あぁ! この服可愛い! これアタイのね!」


「ちょっと! まぁいいですわ、私はこの鞭がいいですわね。」


「では、私は残りのって、またサクセスさんのがありません……。」


 うちの女性陣は、まるでバーゲンセールのカゴを漁るが如く、宝箱の中身を取り合った。


「あぁ、サクセスには直接渡したくてな。これは王家の秘宝とかじゃなくて、俺が長い間色々探してる時に見つかった物だ。受け取ってくれるか?」


 ボッサンはそういうと、俺に一つの腕輪を渡した。


「当たり前だ! 大事にさせてもらう。」


 俺は早速それを腕にはめて見る。


【絆の腕輪】レアリティ77

 防御力 5

 スキル 能力解放 集気


「おぉ!? 凄い、マジか!」


 俺は腕輪をはめた途端にスキルの効果を理解した。


 能力解放 

 仲間になった魔物の力を引き出す。


 集気

 仲間になった魔物の力の一部が自分に加わる


「え? なに!?」


 リーチュンが興奮した様子で近づいてきた。

 ちょっと近いよ、興奮するからやめとくれ!


「いや、ちょっと待ってくれ。試しに使ってみる。ゲロゲロ、おいで。」


 ゲロ?(何?)


「能力解放!!」


 俺はそう唱えて、ゲロゲロの頭に触れて見ると、ゲロゲロに異変が起こる。


 ゲ、ゲローー!?(何これ!)


 ゲロゲロの体がみるみる大きくなっていく。


「おぉ! スゲー!!」


 そしてゲロゲロは体長2メートルくらいのフロッグウルフに成長した。

 通常のフロッグウルフよりでかい。


 ゲロゲロ(キングフロッグウルフ)

 レベル 45

 攻撃力 280

 防御力 310


「エェーー! 何よこれ! ゲロゲロが可愛くなくなっちゃった!!」


 リーチュンは違う意味で驚いている。


 ゲロぉ!(僕、大人!)


 戦闘力が上がるのは嬉しいが、可愛かったゲロゲロがいなくなって俺は少し悲しい……


「これ、どうやって戻すんだ? まぁいいや、じゃあ集気!」


 俺は、再度大きくなったゲロゲロの頭を触りながら唱えると、俺の体に力が漲ってきた。

 そして、ゲロゲロがしぼんで……


「うお! ステータスが全部100上がったぞ!? なんじゃこりゃ! スゲー!」


 ゲロォ~……(そんなぁ……)


 悲しそうな顔をするゲロゲロ。

 俺のテンションは上がるも、ゲロゲロは子供に戻ってションボリしてしまった。

 背伸びしたい年頃かな?


「あ、でもこれ……あぁ、まぁそうか。」


「どうされましたか? サクセス様。」


「いや、これ一度使うと一日は使えないっぽい。後、効果時間も一時間限定だ。」


 俺は能力を使った事で、その情報が脳内に入り込んできた。


「ねぇねぇ! アタイも着替えて来ていい?」


 ビュュュー!


「いいよ……ってもう、馬車に入ってるじゃねぇか!」


 リーチュンは聞いておきながら、返事を待つ事なく馬車に入り込んだ。


「では、私もこの杖を装備してみます。」


 シロマの取った杖には、時空という謎のスキルが備わっていた。

 なんか格好いい名前に、ちょっとワクワクしてくる。


「どうだ? シロマ?」


「はい、時空というスキルがありますが、使えませんね。内容も頭に入ってきません。」


 シロマの口調は淡々としているものの、顔は物凄く残念な表情をしている。

 俺のスキルを見て、かなり期待していたようだ。


「ま、まぁ。攻撃力高いし、それで良しとしておこう! な? それでイーゼは……?」


「女王様とお呼びなさい!!」


 バシィぃぃん!


 俺は突然イーゼに鞭で打たれた。


「イッタ! 馬鹿! いきなり何すんだよ!」


「すいません、つい一度やって見たくて……こういうのはサクセス様の好みではないですか?」


 恐ろしいほど似合っているが、俺はMではない!

 そういうのは間に合ってる。


「当たり前だ! 俺はノーマルなんだよ! いきなりそんな世界に行ってたまるか!」


 俺の言葉にイーゼは何故かションボリしている。

 逆に俺がそれに喜んだとして、何がいいんだよ。

 意味がわからない……。


「で、その武器のスキルはどうなんだ?」


「はい、多分使えるかと。魔法を込めると、属性付きの物理攻撃ができるみたいです。ですが……サクセス様の好みでないなら……。」


「いやいや! それ、武器だから! 俺を喜ばせるようなもんじゃないからね!」


 鞭を捨てようとするイーゼに、俺は叫んだ。

 一体この変態は何を期待していたんだ……

 変態の考えは俺にはわからない。


 すると、今度は馬車からリーチュンが飛んでくる。


「トゥっ! ジャジャーン! どう? 似合ってる?」


 リーチュンのチーパオは水色のチャイナ服だった。

 前よりも胸元が開いていて、太ももの露出が増えている。


 す、素晴らしい……

 グッジョブ!!


「お、おお! いいな、似合ってるよ!」


「でしょー! アタイも気に入ったよ! 胸も前より苦しくないし!」


 じー……。


 胸元を更に開いてくれるリーチュンに、俺の目は釘付けだ。


「いて!」


 突然俺の足に痛みが……

 見ると、横にいるシロマが俺の足をつねっていた。


 いやね、だって仕方ないっしょ?

 そこは寛大な心で……ってボッサン!

 テメェ、何見てんだコラ!


 鼻の下を伸ばしているボッサンを睨みつける。

 俺は自分に優しく、人に厳しいのだ!


「それで、そのスキルはどうなんですか?」


「んっとねー、なんかよくわかんないけど、気? とかいうのが見えるようになったかな? 後はわかんない!」


 シロマの質問にリーチュンはよくわからない答えをする。


 うーん、どうやらみんなの装備は凄そうだが、今のところ使えるのは、俺とイーゼだけのようだ。


「おう、いい物見せてもらったぜ! じゃあ俺からは以上だ! こっちも直ぐに準備して、兵をマーダ神殿に向けるぜ。それまで死ぬなよ、サクセス!」


「あぁ、ボッサンも元気でな! また会おうぜ! 墓は毎日綺麗にしとけよ! 後、人の仲間見て鼻の下を伸ばしてんじゃねぇぞ!」


「ガッハッハ! まぁそれくらい許せ、独り占めなんて良くねぇぞ。じゃあな! 無事に着くことを祈ってるぜ!」


 リーチュンを見て、嫌らしい顔をしていたボッサンは、最後にそういうと、俺たちの旅立ちを見送るのだった。



※チーパオとは中国語で、日本語にするとチャイナ服です。

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