第4話 ゲロゲロの秘密
「ここからだと、後五日だったか?」
「はい、この山岳を抜けたら森があります。そこを抜けると、もうマーダ神殿は見えてきますわ。」
「なるほどね……ところでなんで腕に抱きついてるのかな?」
「こんなに揺れるんですもの。サクセス様が御者から落ちないように支えているのですわ。」
イーゼは何食わぬ顔顔をしながら、平然とふざけた事を口にする。
現在俺たちは山岳地帯で馬車を走らせていた。
リーチュンとシロマは馬車の中で休憩中の為、俺が御者をしている。
ゲロゲロはいつもの定位置で、俺の横にちょこんと座っていた。
まぁ、番犬的な感じだな。
そして、何故かイーゼは俺の横にべったりとくっついている。
正直嫌というわけではないが、いつ後ろの二人が出てくるかわからないから、ヒヤヒヤものだ。
こいつは、中の二人になんと言って前に来たんだろうか……心配だ……。
「普通に考えて、手綱握ってる俺が落ちるわけないよね? というより、むしろそこにいるイーゼの方が危ないんじゃないか?」
「はっ!? 確かにそうですわ、それでは私もこのレバーを握らせてもらい……。」
「それはレバーじゃねぇ! どさくさに紛れてどこ握ろうとしてんだよ、この変態エルフは!」
パチーン!
「あん、イケズです……。」
「何がイケズだよ、油断も隙もねぇな。」
イーゼの手は、俺の下半身に一直線に向かってきたので、すかさずそれを手で弾く。
ただでさえ溜まってるのに、そんな事されたら媚薬が無くとも、本物のシフトレバーになっちまうところだった。
毎日美女に囲まれて冒険するのが夢だったけど、現実はこんなに辛いとはな……。
こういう時はゲロゲロを撫でるに限る!
ゲロォ~(ふにゃ~)
俺が足元にいるゲロゲロを撫でると、気持ちよさそうな声を出した。
本当にゲロゲロは可愛いなぁ。
ゲロゲロを見ていると癒されて、邪な気持ちが消えていくよ。
ん?
そういえば、ゲロゲロって雄なのか?
まぁ、成長した時にキングフロッグウルフになってたから雄だよな。
「なぁゲロゲロ、一応聞くけど、お前って雄か?」
ゲロォ?(オスって何?)
まぁ、ゲロゲロに分かるわけないか。
「ゲロゲロは雌ですわ。前に確認しましたわ。」
「雌かよ!? つか、なんでそんなもん確認してんだよ。」
「敵か味方か確認しただけですわ。他意はありませんわ。」
「お前……ゲロゲロは人じゃねぇんだぞ?」
「愛に性別も種族も関係ありません!!」
ゲロォ!(サクセス好きだよ!)
……。
俺の癒しを返してくれ!
まぁでも、ゲロゲロは可愛いから性別とかどうでもいいわな。
「よしよぉし、俺も好きだぞぉ。」
俺がまた頭を撫でると、ゲロゲロは嬉しそうに目をつぶった。
やっぱりゲロゲロは可愛いなぁ~。
でも雌だったかぁ……。
そうだなぁ、もしいつか変な雄を連れてきたら言ってやるか。
うちの娘はお前にはやらん!
っとな。
そんな事を考えながら、俺がゲロゲロを可愛がっていると、隣にいる変態がゲロゲロを睨みつけていた。
ヤベェ、こいつ目がマジだ……。
頼むからゲロゲロに嫉妬するのはやめてくれ!
「それはそうと、全然モンスターでないな。俺達が強いのもあるんだろうけど、全く見当たらないってのは少しおかしいな。」
俺たちがヒルダームを出てから、間も無く一日が経過する。
日も大分落ちてきた。
それなのに、一度もモンスターに襲われないどころか、スライム一匹見当たらない。
こんな事は今までに一度もなかった。
「そうですわね。多分、マーダ神殿に向けて一斉に移動しているのかもしれませんね。お陰で順調に進んでいますが……ちょっと心配ですわね。」
イーゼが不安そうな顔をする。
確かに今まさに、マーダ神殿は、モンスターの大群に襲われているかもしれない。
そう考えると、少し速度を上げた方がいいのだろうか?
「速度を上げるか?」
「いえ、急いで馬車が壊れても仕方ありませんので、今は、マーダ神殿にいる者達を信じましょう。それよりもせっかく邪魔なモンスターも女もいない事ですし……」
いや、いるよね?
さっきから君、随分睨んでいたよね?
すると突然イーゼは上着を脱ぎはじめる。
ちょ、おま!
いくらゲロゲロに嫉妬したからって、いったい何をする気だよ!?
「な、何するっぺよ!!」
「うふふ、いい事に決まってるますわぁ。ゲロゲロじゃなくて、私を見てもらいますわ。」
えっ?
えええっ!?
いや、まじで何しようとしてるの!?
こ、子供の前ですよ!
イーゼは上着をはだけると、俺の胸に指を這わせながらくっついてくる。
つつつつつっ……。
「はぅあ!」
いや、マジ、こ、ここで何する気だっぺ!?
「うふふ、サクセス様は動かなくていいですわよ。わたくしに身を任せて下さい。」
俺は突然のイーゼの行動にドキドキしてしまい、固まる。
しかし、その暴挙は直ぐに止められた。
「ちょっとアンタ! 何しようとしてんのよ! それはルール違反よ!」
「ちっ!」
馬車の中から、勢いよくリーチュンが出てきた。
ルール違反が何かわからないが、とりあえず舌打ちは怖いからやめてくれ、イーゼ。
「ほら、リーチュン。言ったじゃないですか、やっぱりですよ。だから私は反対だったのです。」
そしてシロマまで馬車の幌を開けて、ぷんぷんしながら顔を出してきた。
「アンタを信用したアタイが馬鹿だったわ! もう交代よ。次はアタイの番だからね!」
三人の会話に、俺は入れない。
何のことを言っているのかさっぱりだ。
「ちょっと言っている意味がわからないのだが。何の順番なんだよ。ってか、リーチュンの御者当番は明日だろ?」
「サクセスさんは知らなくていいことです。これは私達だけのルールですから。」
なんかシロマが怖い。
「そ、そうか。なら、無理には聞かないよ。」
一人、仲間外れにされた気分で少し悲しくなる俺。
「それよりも、間も無く日が落ちます。あそこにちょうど広い場所がありますから、今日はそこで野営をしませんか?」
イーゼが指し示す方向には、岩肌が剥き出しになっていて、野営をできるくらい広いスペースがあった。
ほんとこいつは、話変えるの上手いな。
絶妙なタイミングで、都合の悪い話を逸らしやがった。
だが、確かに暗くなってからでは遅いから、悪くはない提案だ。
「そうだな、じゃあそこで野営の準備をするか。」
あれ?
結局イーゼは、俺に何をしようとしていたんだろうか……。
色々有耶無耶なまま、俺たちは野営に入るのだった。
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