第2話 新たなる旅立ち(後編)

「サクセス様、これなんてどうですか? 似合いますか?」


「お、おう。いいね、悔しいが凄くイイ……」


 現在俺は、カジノの景品交換所で、イーゼのファッションショーに付き合っていた。


 バニースーツはもちろん、秘書っぽいスーツ姿に、神秘のネグリジェという寝間着等……。

 どの服装もイーゼに似合い過ぎていた。

 今日、あんなことがあったばかりなのに、こんな事していていいのだろうか……。


「サクセス様。いいんですよ。辛い事があった時は、こうやって気を紛らわす事も大事です。だから、ちびうさちゃんの分も人生を一秒でも楽しみましょう。」


 イーゼは俺の微妙そうな顔から、考えている事を察したようだ。

 やっぱりイーゼには勝てないな。

 一秒でも大切にか……

 確かにその通りだな……。


「あぁ、そうだな。よし! じゃあもう全部買いだ! それで、他に必要そうな物はないか? それだけだとまだ大分コインが余るぞ。」


 俺とイーゼが選んだ服関係は、全部合わせても1000コインにも満たない。

 後3000コイン以上は残っていた。


「それでしたら二階の景品交換所に、冒険に使えるアイテムがあるみたいですので、そちらで選びましょうか?」


「おお、良いね。これからまた旅に出るからな。魔王との闘いに備えて、何か良い物がないか探すか。」


 早速俺達はバニースーツ等を交換すると、今度は二階の景品交換所に向かう。


「おお! 思った以上にレアアイテムが多いな。沢山欲しいぞ。」


 俺は目の前に広がるレアアイテムたちにテンションが上がった。


「ですが、どれも一点限りですね。とりあえず、この四つは交換しましょう。」


 イーゼは3000コインで交換できるアイテムを4つ選んだ。


【祈りの宝玉】

使うとパーティの精神力を回復する(複数回使用可能)

【マジカル風呂敷】

ブレス系の攻撃を防ぐことができる(壊れる事もある)

【世界樹の樹液】

瀕死の一撃であっても、一瞬で回復することができる。

【魔除けの札】

自分達の姿がモンスターから見えなくなる(時間制限有り)


「なるほど、どれも凄い効果だ。イーゼが選ぶなら間違いないだろう。ん? 今なんか隠さなかったか?」


「い、いえ。何も。それよりも早く交換しないと他の人に取られるかもしれません。ささ、早く行きましょう。」


 何故か挙動不審になって焦るイーゼ。

 だが俺にはしっかり見えていたぜ。

 イーゼは4つのアイテムを並べると同時に、小瓶を手の後ろに隠した。

 俺のステータスを舐めてもらっては困る。


「それで、その手の後ろにある奴を出してもらおうか? 必要なら交換するからさ。」


「わ、わかりましたわ。いずれ必ず必要になるかと……。」


 イーゼが目の前に出したのは、どぎついピンク色の液体が入った小瓶。

 俺は手に取って、それを確認する。


【性獣のエキス】

性欲を極限状態まで高める媚薬。EDであっても半日は全盛期に戻る。


 なんじゃこりゃぁぁ!!

 こいつ……これをこっそり入れる気だったな……。

 は! 

 いや……まてよ。


【悪魔】

 これがあれば、何かあっても薬のせいにできるぜぇ~。


【天使】

 まてまて! だめだってば……。

 大体、初めてがそんな薬とか悲しすぎます。


【悪魔】

 これだから夢見る童貞は……。

 そんなんだからいつまで経っても童貞なんだよ。


【天使】

 騙されてはなりません。

 初めてはやはり大切な物なんです。

 そんな物に頼らなくたってきっといつか……


【悪魔】

 そんな事いってたら、いつか他の男に取られるぜぇ~。


【天使】

 黙りなさい! 仲間を信じるのです!


 久しぶりに俺の脳内で天使と悪魔が争っている。

 なら、俺はその中間をとる!!


「イーゼ、それを貸してくれ……。」


「はい……。わかりました。そうですよね、他意はないんです。もしサクセス様が立たなくなった時の為に……。」


 おい!

 俺はEDの前にDTだっつうの!

 まぁいい。


「これは俺が持っておく。必要が出た時の為にな……。」


 すると、イーゼの顔がパァッと明るくなった。


「はい! 是非、お試しされる時は私を傍に!!」


「待て待て待て、まだ使うとは言ってないだろ。とりあえず交換しとくだけだ。変な気を起こすなよ?」


「はい! もちろんですわ! 嬉しいですわぁ!」


 とまぁ、こんなこんな事もありながらも、無事にレアアイテムの交換を済ませて、俺達はカジノを出た。


「あれ? いつの間にか日が落ち始めてるな。急いで残りの買い出しを済ませるぞ。」


 外に出ると、既に夕暮れになっており、しばらくしたらお店がしまってしまうため、焦る俺。

 そのためそこからは、急いで保存食を中心に食料品と回復アイテム等を購入しにいった。

 何とか無事に暗くなる前に、全ての買い物を済ませた俺達はそこからはゆっくりと城まで歩いて戻っていく。

 城に戻った頃には、辺りは既に暗くなっていたのだが、城門前でランプに照らされた立派な馬車が見えた。


「おぉ! これは良いところに。丁度、馬車の準備が済んだところですじゃ。」


 城門の前には、ランプをもった大臣イリムと兵士が立っており、俺達に気付いて声をかけて来た。


「今まで使っていた奴より大きいな。それに馬が二頭か……これなら荷物が沢山乗るな。」


「はいですじゃ。中には椅子や簡易的なベッドもありますので、休む事も可能となっていますじゃ。もう暗くてよく見えないじゃろうて、このランプをお使って中も覗いてみてくだされ。」


 そう言われて馬車の中を覗いてみると、外から見るよりも中は広くて豪勢だった。


「いいのか? こんないい馬車もらって?」


「当たり前ですじゃ。国の英雄様に渡すなら、国で一番の物に決まっておりますじゃ。ささ、荷物はワシらが運んでおきます故、城の裏にあるお墓に向かってくだされ。坊ちゃんとお連れの方はもう行っておりますじゃ。」


 どうやらリーチュン達は、既にちびうさ達のお墓にいるらしい。


 ゲロロン(花のいい匂い)


 ゲロゲロはその場で鼻をくんくんさせると歩きだす。

 リーチュン達が摘んできた花の匂いなのか、ゲロゲロはその匂いが気に入ったようだ。


「イーゼ、ゲロゲロに付いて行けば裏に行けそうだ。このままゲロゲロの後ろを歩いていこう。」


「はい、サクセス様。あん!」


 俺はここまでくるとイーゼの腕を振りほどく。

 俺的にも腕組みは悪くはなかったのだが、そのまま進む程アホではない。

 しばらく俺達は、ゲロゲロの後ろをついてお城をぐるっと回っていくと、闇の中で光に照らされた場所が見えてきた。


 更に近づいて行くと、その周りにいるリーチュンとシロマ、そしてボッサンを見つけた。

 ゲロゲロは匂いの元である、墓石の周りにたくさん供えられていた花を見つけると駆け出す。


「お、おい! ゲロゲロ待てって!」


 その声でリーチュン達が俺達に気付く。


「あ、サクセス! 遅かったじゃない! みんなお祈り済ませちゃったわよ。」


「悪い、ちょっと色々見てたら時間かかちゃって。じゃあ俺達もちびうさ達のお参りをするか。」


 そう言うと、俺とイーゼは墓石の前に座り、目を閉じた。


 ヌーウさん、マモル、そしてちびうさ。

 遅くなってすまない。

 いつかまた生まれ変わった時、平和な世界になっているように、俺は精一杯努力してみせるよ。

 そしたら、またどこかで会えたらいいな。

 天国から俺達を見守っててくれ。

 また来るよ!


 俺は心の中でマモルたちに誓いをたてると目を開く。


「挨拶は終わったか? 今日はもう遅いから、城の客室で朝までゆっくりしてくれ。それと明日、出発前に渡すものがあるから、勝手に出て行かないでくれよ?」


 俺がその言葉に気付くと、そこには汚い恰好ではなく、既に王様のような恰好をしたボッサンがいた。


「あぁ、色々助かる。ボッサンも……いや、もう王様か。王様も大変だと思いますが、一緒に世界を救いましょう。」


 俺はクセでタメ口で話し始めてしまったが、すぐに敬語に切り替える。


「やめてくれよ。俺はまだ正式には王になってねぇ。それに王になっても、サクセスには頭があがらねぇよ。まぁそういうことだから、今日はゆっくり休んでくれ。夜更かしはすんなよ。」


 ボッサンはそれだけ言うと、城に戻っていった。


「サクセス様、私のお祈りも終わりました。それでは城に戻りましょう。」


 …………。


 イーゼがそういった瞬間、お墓に添えられていた花が輝きだして、その花びらが空に舞い上がり始めた。


「え? これは……?」


 シロマも突然の状況に驚き、声を失う。

 風はほとんど吹いていないのに、青く光り輝く花びらが、一斉に空に舞い上がっていくのだ。

 星空の下で、幻想的な風景が広がる。


「綺麗……だな。そうか、マモルたちも応援してくれてるんだな。」


 俺は満天の星空に浮かび上がる花びらを見て、ふとそう思った。


「そうね。こんな悪戯をするのは、きっと、うさの仕業ね。いつもアタイを驚かすんだから……。」


 リーチュンは目に涙を浮かべて言った。


「125年生きてきましたが、こんなに素敵な夜空は初めてです……。」


 イーゼも感動している。


 しばらく俺達は時間を忘れたように、その幻想的な情景を見つめ続けていた。


「ありがとう、ちびうさ。俺はお前に出会えて、本当に……よかったよ。今ならそう思える。」


 悲しい事があった。

 辛いことがあった。

 そんな思いをするなら、出会わなければよかったとも思っていた。

 しかし、それは違う。

 出会いがあるからこそ、人はその思いを胸に生きていける。


 そして、いつかその思いを……

 誰かに繋いでいくことが、俺達が生きる意味なのかもしれない。


 こうして不思議な夜の出来事を終えた俺達は、城に戻ると翌朝までそれぞれの思いを胸に、眠るのだった。







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